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《フランス》放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が地層処分場(Cigéo)の設置許可申請書を政府に提出

地層処分場(Cigéo)の原子力基本施設(INB)としての区域(ANDRAの設置許可申請書類を元に原環センターにて加筆)

地層処分場(Cigéo)の原子力基本施設(INB)としての区域(ANDRAの設置許可申請書類を元に原環センターにて加筆)

フランスの放射性廃棄物管理機関(ANDRA)は、2023年1月17日付のプレスリリースにおいて、地層処分場(Cigéo)の設置許可申請書を政府に提出したことを公表した。また、プレスリリースと併せて、申請書として提出した文書もウェブサイト上で公表した(下記コラムを参照)。この後、原子力安全機関(ASN)による安全審査が進められるとともに、法定の公開ヒアリングが開催される予定である。最終的には、政府の諮問機関であり、行政最高裁判所でもある国務院(Conseil d’État)による審議を経て、設置許可がデクレ(政令)により与えられる。本デクレは、地層処分施設の原子力基本施設(INB)としての性質と区域、並びに公衆の安全・健康や自然・環境を保護する上で必須の要素を定めるものである。また、本デクレには、ASNから送付される技術的要求事項も含まれることとなる。

設置許可申請までの主な経緯

フランスでは、1991年に制定された放射性廃棄物管理研究法により、高レベル及び長寿命中レベル放射性廃棄物の管理方針の決定のため、地層処分、長寿命核種の分離・変換、長期地上貯蔵の3つの分野に関する15年にわたる研究を行い、その研究成果を踏まえて最善な管理方策を定める新たな法律を制定することとされていた。その後、2006年に高レベル・長寿命放射性廃棄物を含む放射性廃棄物全般の管理に関する放射性廃棄物等管理計画法が制定され、これらの廃棄物について、「可逆性のある地層処分」を行うことを基本とし、研究成果を考慮した上で、地層処分場の設置許可申請の提出の目標を2015年、操業開始の目標を2025年とすることが規定された 。

Cigéoのサイト選定に関しては、放射性廃棄物管理研究法では、地層処分の研究に当たって地下研究所を設置することが定められていた。これを受け、政府は議会科学技術選択評価委員会のバタイユ議員を調停官に任命し、地下研究所の建設地域を選定することとした。バタイユ議員率いる調停団は、1993年に地下研究所候補地の公募を行い、約30件の応募地域に対する、地質学的特性評価や地元との協議を経て、4県を提案した。その後、ANDRAによる予備的な地質調査を経て、ムーズ、オート=マルヌ両県の県境近傍のビュールにおいて、粘土層を対象とした地下研究所の建設が1999年に決定され、2000年から建設が開始された。ANDRAは建設作業と並行して地下での調査研究を実施した 。ANDRAは、2007年にはビュール地下研究所周辺の250km2の区域における新たな地質調査を開始し 、2009年には地層処分場の地下施設の展開のために詳細な調査を行う30km2の区域を政府に提案し、2010年に政府の了承を得た。

その後ANDRAは、Cigéoの建設のために設置許可とは別に必要となるものとして、プロジェクトの公益性と正当性を認める公益宣言(DUP)の発出の申請を2020年8月にエコロジー移行省に行っており、フランス政府は2022年7月7日にDUPを発出した

《資料》

放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が申請書として提出した文書の一覧

  • 文書00:非技術的なプレゼンテーション
  • 文書01:操業者(ANDRA)の識別情報
  • 文書02:施設の概要
  • 文書03:施設位置を示す縮尺25,000分の1の地図
  • 文書04:建設計画地周辺を示す縮尺10,000分の1の配置図
  • 文書05:施設の詳細図面(縮尺2,500分の1)
  • 文書06:影響調査(近日公表予定)
  • 文書07:安全報告書暫定版(近日公表予定)
  • 文書08:リスクマネジメントの検討
  • 文書09:操業者の技術力
  • 文書10:操業者の財務能力
  • 文書11:土地所有権の正当な理由
  • 文書12:地役権及び保護・専用権申請書
  • 文書13:廃止措置・閉鎖・モニタリング計画
  • 文書14:公衆参加の概要
  • 文書15:温室効果ガス排出量
  • 文書16:操業基本計画
  • 文書17:法的情報及び管理的情報
  • 文書18:プロジェクトに対して提出されたコメント
  • 文書19:廃棄物パッケージ受入仕様書暫定版
  • 文書20:Cigéo処分施設開発計画
  • 文書21:読解ガイド
  • 文書22:用語集及び略語集

【出典】

 

【2023年6月27日追記】

フランスの原子力安全機関(ASN)は、2023年6月22日付のプレスリリースにおいて、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が2023年1月に提出した地層処分場(Cigéo)の設置許可申請書に関して、本格的な技術審査を開始することを公表した。ASNは、規則で要求されているすべての書類が設置許可申請書に含まれており、審査手続きの中心となる分析と専門家による審査を開始するために必要な情報が含まれていると判断した。ASNによれば、Cigéoは前例がない施設であるため、特別な手続きで審査が行われることとなり、技術審査とその他の評価・協議等が行われる。

■技術審査

ASNは、技術支援機関である放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)に対して、地層処分場(Cigéo)の設置許可申請書に関して、以下の課題を専門的観点から検討するよう依頼している(課題1から3の詳細は、下の囲み内を参照のこと)。

  • 課題1: Cigéoの安全評価に使用されている基礎データの評価
  • 課題2: 地上、地下施設の操業時の安全評価
  • 課題3: 閉鎖後の安全評価
  • 横断的課題: 課題1~3の検討を通じたパイロット操業段階での安全実証の評価、廃棄物パッケージの回収可能性の操業時、閉鎖後の安全性への影響等

ASNは、課題1についての検討結果を2024年3月31日までに提出するようIRSNに求めており、その他の課題については、後日、提出期限を指定する予定である。また、ASNは、その内部に設置している廃棄物常設専門家グループ(GPD)及び研究所・プラント常設専門家グループ(CPU)においても同様なテーマで検討する予定であり、これらの常設専門家グループにおける設置許可申請書の分析をサポートするようIRSNに要請している。

■その他の評価・協議等

通常の原子力基本施設(INB)の設置許可の審査において実施されるASN及びIRSNによる技術審査と並行して、地層処分場(Cigéo)の設置許可申請に関しては、国家評価委員会(CNE)が申請書に対する意見書を作成し、フランス議会(国会)に提出することになっている。CNEは、放射性廃棄物等の管理に関する取組や調査研究等の進捗状況について毎年評価を行っている組織であり、設置許可申請書の科学的内容に関して、最新の技術に関する知識に基づいて意見書を作成することとなっている。

また、ASNは技術審査の期間中に、2022年~2026年を対象とした第5版放射性物質及び放射性廃棄物に関する国家計画(PNGMDR)に基づいて、原子力安全情報と透明性に関する高等委員会(HCTISN)の支援の下で、コンサルテーションや情報提供を行う意向である。HCTISNは、フランス議会、行政当局、ASN、IRSN、原子力施設運営者、原子力基本施設(INB)に伴う地域情報委員会(CLI)の代表者等から構成されており、原子力に関する情報を共有し、議論と意見表明を行っている。

さらに、ASN及びIRSNによる技術審査が完了した後、環境当局(EA)、地域情報委員会(CLI)、地方水委員会、関係地方自治体、及び欧州委員会の関係機関との協議が実施され、その後に公開ヒアリングが実施される。

技術審査と評価・協議が完了し、Cigéoの建設プロジェクトに対して肯定的な結論が得られた場合には、施設の設置を許可するデクレ(政令)が制定されることになっている。

なお、ASNは技術審査の完了や設置許可デクレの制定時期の見込みを示していないが、Cigéoの設置許可を申請した放射性廃棄物管理機関(ANDRA)は、2023年1月の設置許可申請時のプレスキットにおいて、設置許可デクレの制定を前提として2027年頃にCigéoの建設が可能となる見込みを示している。

《資料》

ASNがIRSNに専門的観点からの検討を要請した評価課題1~3の詳細

1. Cigéoの安全評価に使用されている基礎データの評価

1.1. 安全評価に関するサイトの知識

  • 初期状態、気象学的・地質学的特性、水文学、関連する人間活動を含む地表環境
  • 潜在的な天然資源(特に、地熱エネルギー)を含む地質学的状況
  • 水文地質学:帯水層の概念モデルと水文地質学モデル
  • サイトの変遷、特に、気候と地質力学の観点からの変遷と、それが水文質学に及ぼす影響
  • 母岩の特性

1.2. 処分場の構成要素とその変遷

  • 処分システムのライフフェイズを通じての熱-水-応力及び水理-ガスの過渡変化、Cigéoの建設及び操業による擾乱、並びに構成要素と母岩との相互作用に関連する母岩の化学的特性
  • パッケージの挙動と放出モデル
  • 材料(鋼鉄、コンクリート、粘土材料)の変遷
  • これらの異なる(材料や母岩)環境における放射性核種と有害化学物質の挙動

1.3. 廃棄物パッケージの基準インベントリ及び予備インベントリとその特性

  • インベントリの作成プロセス
  • 廃棄物パッケージの特性、特に放射線学的、化学的、熱的特性及び安全評価に使用される関連不確実性の妥当性
  • パッケージの保管記録

2. 地上、地下施設の操業時の安全評価

2.1. 安全アプローチ

  • 安全目標
  • 保護に重要な活動と要素(AIPとEIP)及びEIPの適格性
  • 柔軟性を実現するための原則
  • パッケージ管理の原則
  • 偶発シナリオと事故シナリオの特定と分類
  • 操業区域の定義
  • 施設閉鎖戦略
  • 閉鎖後のモニタリング戦略
  • 設計段階から実施段階への移行のための組織原則

2.2. 安全評価

  • 原子力由来の内部リスク(作業員の被ばく、臨界、放射性物質の放出)
  • 内部ハザード(火災、爆発、取扱、内部浸水、補助動力装置の喪失、同時活動に伴うリスク)
  • 外部ハザード(地震、気象ハザード、航空機墜落、産業活動の影響、外部洪水など)

2.3. 健康・環境影響評価

  • 人体及び環境に対する放射線及び化学的影響の評価方法
  • さまざまな状況及び連続的な運用段階における評価結果

3. 閉鎖後の安全評価

3.1. 閉鎖後の安全アプローチ

  • 通常及び変動した変遷の状況に対するシナリオの選択
  • 気候変動を考慮した生物圏の選択

3.2. 処分場の閉鎖後の安全評価

  • 地下施設の内部及び外部リスクの分析(臨界、地震など)
  • 閉じ込め能力を評価するための処分システムのモデル化(表現される現象の妥当性、使用される仮定とパラメータ、考慮される不確実性など)
  • 関連する感度研究

3.3. 健康と環境への影響

  • 人体及び環境への放射線及び化学的影響を評価するために使用された方法論
  • 研究されたシナリオに対するこれらの評価結果

 

【出典】

(post by eto.jiro , last modified: 2023-11-16 )