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このWebサイトでは、諸外国における高レベル放射性廃棄物の最終処分や地層処分の計画の動きに注目し、 "海外情報ニュースフラッシュ"として 最新の正確な情報を迅速に提供しています。 ニュースフラッシュを発行した後も、記事トピックをフォローしています。必要に応じて、情報の"追記"を行っています。


米国エネルギー省(DOE)は、2023年4月25日に、2017年1月発行の「使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の集中貯蔵・処分施設のための同意に基づくサイト選定プロセス案」(以下「サイト選定プロセス案」という。) を更新した。新たなサイト選定プロセス文書は「連邦使用済燃料集中中間貯蔵施設のための同意に基づくサイト選定プロセス」と改題された。米国では、1950年代から始まった商業原子力発電にともなって90,000トンを超える使用済燃料が発生しており、原子力発電所のプールや乾式貯蔵キャスクによって貯蔵されている。この他に、海軍の原子力艦船や研究開発から約2,400トンの使用済燃料がある。DOEは、これら70カ所以上に分散して貯蔵されている使用済燃料の対策に注力する方針を鮮明にした。

今回の新たなサイト選定プロセス文書では、公衆の安全、環境の保護に向けた取組などの方向性の説明に重点が置かれている。DOEは、サイト選定プロセス文書の更新を紹介するニュース記事において、「同意に基づくサイト選定」は、コミュニティを中心に置いたアプローチであり、バイデン大統領による環境正義(environmental justice)の目標に沿って1 、不利な立場にあり重圧の押しかかるコミュニティへの健康と安全への影響を軽減するのに役立つとの考え方を示している。

■サイト選定プロセス文書更新の背景

今回のサイト選定のプロセス文書の更新に先立ってDOEは、連邦政府による使用済燃料の中間貯蔵に係るサイト選定のための同意に基づくサイト選定計画に関して、2021年12月1日に情報依頼書(RFI、Request For Information)を官連邦報において告示し、コメントや意見を広く募集していた。その後、DOEは2022年9月に、RFIに対して寄せられた225件のコメントの他、2017年1月のサイト選定プロセス案に対するコメントも集約して報告書「同意に基づくサイト選定―情報依頼(RFI)コメントの要約・分析」を取りまとめていた

更新されたサイト選定プロセス文書を掲載したページでは、①使用済燃料のための1つ、または、複数の連邦集中中間貯蔵施設を立地すること、②DOEの2017年1月のサイト選定プロセス案に基づいて新たなサイト選定プロセス文書が作成されていること、③サイト選定プロセスは、地域社会、先住民族、州、地方自治体、ステークホルダーからの情報により、引き続き更新されることが記されている。

DOEは、サイト選定プロセス文書に対する4つの重要な更新ポイントを次のように説明している。

  1. 現在は、連邦の集中中間貯蔵施設に焦点がある。
    新しいサイト選定のプロセス:DOEは、近い将来の行動として、商業用使用済燃料のための1つ、または、複数の連邦集中中間貯蔵施設の立地に焦点を当てる。
    従来のサイト選定のプロセス:高レベル放射性廃棄物の中間貯蔵施設に加えて、地層処分施設に対して、同意に基づくサイト選定プロセスを同時に適用することを想定していた。
    説明:中間貯蔵に焦点を当てることは、全米の原子炉サイトからの使用済燃料の取り出しを可能にし、地元での新しい雇用機会を促進するという連邦議会の指示に従っている。
    DOEは、この同意に基づくサイト選定アプローチから学んだ教訓を、集中中間貯蔵容量、処分場、並びに、使用済燃料・高レベル放射性廃棄物の輸送に必要なインフラ整備のための将来のサイト選定に適用する。
    また、DOEは、処分オプションのための研究開発を引き続きサポートする。
  2. 公平と環境正義の一層の重視
    新しいサイト選定のプロセス:十分な行政サービスを受けていない脆弱なコミュニティが標的になることを防止するため、すべてのコミュニティの公平な取扱と有意義な関与(involvement)を確保するため、追加的な手順が取られた。
    従来のサイト選定のプロセス:プロセスの各段階において、公平と環境正義に関する考慮事項がほとんど組み込まれていなかった。
    説明:2017年1月のサイト選定プロセス案には、公平と環境正義に関連する基準が含まれてはいたが、DOEは最近の一般からのコメントに対応して、これらの側面を強化した。
    また、使用済燃料の管理など、長期間にわたって発生する活動について、世代間の公平を考慮することの重要性を強調した。
  3. サイト固有の評価基準の策定において、ホストとなるコミュニティの役割を高めた
    新しいサイト選定のプロセス:関心のあるコミュニティは、施設の立地がコミュニティの目標と関心に合致することを確実にするため、プロセスの早い段階で追加のサイト固有の基準の作成に関与する機会を持つことを可能にした。
    従来のサイト選定のプロセス:DOEは最初に、サイト選定に関する考慮事項とスクリーニング基準を作成することとしていた。
    説明:ここでの考え方は、より優れたコミュニティ主導のプロセスへの包括的なアプローチに基づいている。個々のコミュニティは、施設の立地を決定する前に、地域の経済発展、労働市場、輸送、公共の安全インフラなどへの影響を評価できるようにした。
  4. コミュニティ参加をサポートするための資金提供の機会の拡大検討
    新しいサイト選定のプロセス:サイト選定プロセス文書では、重要な活動におけるコミュニティの関与と協力をサポートするため、実施段階を含め、サイト選定プロセスの各段階における資金提供の機会とその他の資源の使用について概説している。
    従来のサイト選定のプロセス:資源は、プロセスの1つのフェーズで可能な資金提供の機会に限定されていた。
    説明:追加の資金提供の機会は、プロセス全体を通じてコミュニティの関与とコラボレーションをサポートすることを目的としており、連邦政府の年間予算と歳出(Annual Budget and appropriations)の対象となる。
    本資金提供は、使用済燃料の受け入れを約束(commitment)するものではない。

また、DOEは、同意に基づくサイト選定プロセスは、コミュニティの要求などに対応できるよう、柔軟で適応性があることに触れた上で、次のステップとして、現在の資金提供の機会(上記ポイント4)、今後も継続していく情報提供やその他の活動を通じて、公衆との対話/関与のための機会を引き続き提供していくことを明らかにしている。

【出典】

 

【2023年5月10日追記】

米国では、エネルギー省(DOE)により、使用済燃料の集中中間貯蔵施設のための同意に基づくサイト選定プロセスが進められている一方で、テキサス州及びニューメキシコ州で民間による集中中間貯蔵施設の計画が進められている。ただし、両州での計画については、貯蔵等を禁止する州法が成立しており、実際の建設等は難しい状況となっている。

テキサス州アンドリュース郡で中間貯蔵パートナーズ(ISP)社が計画している使用済燃料等の集中中間貯蔵施設の建設・操業2 については、すでに、原子力規制委員会(NRC)が建設・操業に係る許認可を2021年9月13日に発給している。これを受けてテキサス州は、NRCが発給した許認可の取り消しを求める訴訟を2021年9月23日に起こしている

今般、NRCは、ニューメキシコ州リー郡のサイトでホルテック・インターナショナル社(以下「ホルテック社」という。)が計画している使用済燃料等の集中中間貯蔵施設について、建設・操業に係る許認可を2023年5月9日に発給した3 。NRCは、ホルテック社の許認可申請書の審査に基づいて、許認可で承認される活動は公衆の健康と安全を脅かすことなく実施できること、これらの活動はNRC規則(10 CFR Part 72)を遵守して実施されることについて、2023年5月9日付けのホルテック社宛の許認可書送付書簡において、合理的な保証があるなどと判断したことが示されている。

ただし、テキサス州の場合と同様に、ニューメキシコ州でも貯蔵等に関する州法(SB53)が成立していることにより、集中中間貯蔵施設の建設・操業については、実際には行えないことが見込まれる。

【出典】


  1. バイデン大統領は、2023年4月21日に、全ての国民のための環境正義の実現へ向けて各政府機関に取り組むよう指示する大統領令に署名した。 []
  2. ISP社は、テキサス州アンドリュースにおいて、プロジェクトの第1段階として5,000トン、最終的には全8段階で最大40,000トンの使用済燃料等の貯蔵を行う計画である。 []
  3. ホルテック社は、ニューメキシコ州リー郡において、プロジェクトの第1段階として約8,680トン、最終的には全20段階で約10万トンの使用済燃料等の貯蔵を行う計画である。 []
第7パネルに定置された最後の廃棄物容器

第7パネルに定置された最後の廃棄物容器

米国のエネルギー省(DOE)の環境管理局(EM)及びカールスバッド・フィールド事務所(CBFO)は、2022年10月25日に、軍事起源のTRU廃棄物の地層処分場である廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)について、地下処分施設の第7パネルでの廃棄物定置活動が2022年10月20日に完了したことにより、重要なマイルストーンを達成したことを公表した。第7パネルについては、2013年7月にニューメキシコ州環境省(NMED)からTRU廃棄物処分のための使用の承認を受け、廃棄物定置が開始された。その後、2014年2月に発生した火災事故及び放射線事象によって操業を一時停止し、復旧活動の結果、2017年1月から操業が再開されていた。なお、DOEは、2021年11月時点で、第7パネルは2022年7月に一杯となる見込みを示していた。今後は、第7パネルは閉鎖され、2022年8月にNMEDから使用が承認された第8パネルでの廃棄物定置活動が行われることとなる。

第7パネルでの定置状況(2022年6月16日時点)

第7パネルでの定置状況(2022年6月16日時点)

WIPPの2014年2月の放射線事象は、放射性物質の外部への漏洩を伴って第7パネルで発生した。放射性物質漏洩の原因は、第7パネル第7処分室に定置されたロスアラモス国立研究所(LANL)から搬入された1本の廃棄物ドラムと確認され、2015年5月には第7パネル第7処分室は早期閉鎖された。2014年の放射線事象によってWIPPの地下処分施設の一部は放射性物質で汚染され、除染作業や一部区域の早期閉鎖が行われたものの、第7パネルでは防護服、防護マスク等を使用した定置活動が行われてきた。第7パネルでの定置完了により、放射性物質による汚染のない環境での作業に復帰することになり、今後の第8パネルでの活動では防護服等は不要になる。

第8パネル

第8パネル

WIPPの地下処分施設は8つの処分パネルで構成されており、各処分パネルは、幅が33フィート(約10m)、高さが13フィート(約4m)、長さが300フィート(約91m)の7つの処分室で構成されている。各処分パネルにおける廃棄物の定置は、一番奥の第7処分室から開始され、一番手前の第1処分室での定置が完了すると処分パネルは完全に閉鎖される。なお、WIPPでは、処分区域の一部閉鎖等を受けて、代替処分パネルの建設が計画されている

今回定置が完了し、今後閉鎖される第7パネルでは、第1処分室には2,600を超える廃棄物容器が定置されており、第7パネル全体では20,056本の廃棄物容器が定置された。廃棄物容器の多くは55ガロン(約200リットル)ドラムであるが、第1処分室では11,000ポンド(約5トン)の4つの大型廃棄物容器も定置されている。WIPPでは、1999年3月からTRU廃棄物の受入れ、定置が行われており、第7パネルでの廃棄物定置が完了した時点での廃棄物の総処分量は、ネットベース(LWA総量)で約7.2万m3となっている1 。パネル別の処分量を見ると、一部の処分室が未使用のまま閉鎖された第7パネルでの処分量が最も少なくなっている。

定置廃棄物* 第1パネル 第2パネル 第3パネル 第4パネル 第5パネル 第6パネル 第7パネル 合計
閉鎖 閉鎖 閉鎖 閉鎖 閉鎖 閉鎖 定置完了
55ガロンD/M 38,139 23,865 8,394 12,858 21,255 12,317 15,544 132,372
標準廃棄物容器 1,239 3,176 1,730 1,405 2,200 3,033 904 13,687
10-D/M O/P 35 1,451 2,227 1,048 788 459 993 7,001
85ガロンD/M 2 0 0 3 0 0 0 5
100ガロンD/M 0 1,278 5,409 11,050 9,951 6,546 2,531 36,765
標準大型容器2S 0 0 0 0 0 220 19 239
蓋取外し可能72-B容器 0 0 0 198 246 239 18 701
蓋固定72-B容器 0 0 0 0 18 0 0 18
遮蔽容器 0 0 0 0 0 9 47 56
 
TMW CH容器(m3 10,497 17,998 17,092 14,258 15,927 14,467 10,534 100,773
TMW RH容器(m3 0 0 0 176 235 215 26 652
TMW 総量 (m3) 10,497 17,998 17,092 14,434 16,162 14,682 10,560 101,424
 
LWA CH容器(m3 7,563 13,103 9,863 10,420 12,113 11,428 7,210 71,699
LWA RH容器(m3 0 0 0 84 153 113 11 362
LWA総量 (m3) 7,563 13,103 9,863 10,504 12,266 11,541 7,221 72,060
*容器タイプ別に示された数字は、容器数 D/M:ドラム、O/P:オーバーパック、CH:直接ハンドリングが可能(Contact Handled)、RH:遠隔ハンドリングが必要(Remote Handled)、TMW:TRU混合廃棄物(TRU Mixed Waste)、LWA:1992年WIPP土地収用法に規定の処分量に対応する廃棄物量

【出典】


  1. WIPPにおけるTRU廃棄物の処分量は、1992年WIPP土地収用法で620万立方フィート(約17.6万m3)と規定されている。WIPPにおける処分量については、従来は最も外側の廃棄物コンテナの容量(表中のTMW総量)で計算されていたが、2018年12月にニューメキシコ州環境省(NMED)によって承認された許可変更により、1992年WIPP土地収用法上の処分量は、廃棄物コンテナに収納されている最も内側の廃棄物容器(例えば、55ガロンドラム)の容量(表中のLWA総量)で計算されることとなった。 []

米国の環境保護庁(EPA)は2022年5月3日に、超ウラン核種を含む放射性廃棄物(TRU廃棄物)の地層処分場である廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)について、適合性再認定の決定を行ったことを連邦官報で告示した。WIPPでは、1999年3月26日から軍事起源のTRU廃棄物の地層処分をエネルギー省(DOE)が実施しているが、1992年WIPP土地収用法において、処分開始以降の5年毎に、廃止措置段階が終了するまで、連邦規則(CFR)の要件に適合していることの再認定を受けることが要求されている。前回の3度目は、2014年3月26日に適合性再認定申請書をDOEがEPAに提出し、2017年7月13日に適合性再認定の決定をEPAが公表し、2017年7月19日付の連邦官報で告示された。今回は4度目の適合性再認定になり、DOEは2019年3月26日に適合性再認定申請書をEPAに提出していた

連邦官報に掲載された適合性再認定の決定文書では、EPAによる適合性再認定の決定は、DOEが提出した情報の詳細な審査、独自の技術的な解析、パブリックコメントに基づいて行われたことが示されている。本決定は、EPAのTRU廃棄物等処分の環境放射線防護基準に係る連邦規則(40 CFR Part 191)及びWIPPの適合性認定の基準に係る連邦規則(40 CFR Part 194)の要件について、引き続き満足されていることをEPAが確認したものと説明している。また、EPAは、次回の適合性再認定の申請に向けて、DOEの技術的解析や説明根拠には改善の余地がある領域が確認されたことも付記している。WIPPの適合性再認定の決定は、EPAがDOEの申請書の完全性を確認して決定してから6カ月以内に行うものと規定されている。EPAは、2021年11月17日付の書簡で、申請書の完全性を確認したことをDOEに通知していた

なお、WIPPについては、2014年2月に発生した火災事故及び放射線事象を受けて一時操業が停止されていたが、2017年1月には操業が再開された 。WIPPでは、2014年2月の事故・事象を受けた設備更新も進められており、DOEは、2023会計年度1 について、以下のとおり予算要求を行っており、総額で462,822千ドル(約532億円、1ドル=115円で換算)の予算要求額となっている。

項目 予算要求額 (千ドル) 活動内容
廃棄物処分施設:WIPPの操業 363,283 廃棄物の定置や坑道の維持・整備等を含むWIPPの操業
(以上の内、建設関連) (84,073) 「安全上重要な閉じ込め換気システム(SSCVS)」の建設(59,073)、換気立坑の建設(25,000)
特性評価プロジェクト(中央) 26,245 DOE各サイトからWIPPへのTRU廃棄物搬出に向けた特性評価プロジェクト(Central Characterization Project)
重要インフラの維持・補修 21,250 空調設備交換などインフラ再整備プロジェクト、鉱山近代化等
輸送:WIPP 45,238 輸送ペースの増加(~週17回)、新型輸送容器調達等
    WIPP小計 456,016  
保障措置・セキュリティ 6,806 WIPP施設のセキュリティ及びサイバーセキュリティ確保等
     合 計 462,822  

WIPPでの操業状況については、2022年4月19日付のDOE環境管理局(EM)のニュース記事において、地下処分施設の第7パネルのうちの第1処分室での廃棄物定置が開始され、第7パネルでの処分完了というマイルストーンに一歩近づいたことが伝えられている。第7パネルでの処分完了は、晩夏から初秋に掛けてと見込まれており、その後は第7パネルが密封され、第8パネルでの廃棄物定置が開始されることになる。第8パネルの掘削は2021年に完了しており、供用開始に向けて電気設備等の整備が行われている。

なお、WIPPにおける余剰プルトニウム2 の処分に関して、廃棄物の輸送や、1992年WIPP土地収用法で規定された処分容量の超過などを懸念して、WIPPの拡張を止めるための行動を起こすことをニューメキシコ州知事に求めるニューメキシコ州民による請願書が2022年3月に提出されている。ニューメキシコ州知事がエネルギー長官に宛てた2022年4月8日付の書簡において、ニューメキシコ州民による請願書は、WIPPにおける廃棄物処分・輸送や長期計画について、DOEが透明性を確保した有意義な公衆との関与を行っていないことへの不満を反映したものであると指摘している。ニューメキシコ州知事は、請願書で示された懸念を重大に受け止めているとして、ニューメキシコ州民が提起した問題に対応する行動をDOEが取ることを要求している。余剰プルトニウムの処分についてDOEは、2020年12月に、余剰プルトニウムを希釈してWIPPにおいて処分する案についての環境影響評価の実施を連邦官報で告示しているが、環境影響評価書(EIS)の案等は公表されていない。DOEは、WIPPについて、2014年2月の放射線事象で汚染された処分エリアの代替処分パネル(第11パネル及び第12パネル)の建設を提案している他、さらに処分パネルを増設する構想も示している

【出典】


  1. 米国における会計年度は、前年の10月1日から当年9月30日までの1年間となっており、今回対象となっている2023会計年度の予算は2022年10月1日からの1年間に対するものである。 []
  2. 冷戦の終結によって発生した兵器級余剰プルトニウムのうち、MOX燃料として利用する予定であった34トンの余剰プルトニウムについて、MOX燃料利用計画が中止されたことから、余剰プルトニウムを希釈した上で、廃棄物として処分することが検討されている。 []

米国の放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB)は、2022年1月6日に、2020年12月に開催されたNWTRB秋期会合(以下「2020年秋期会合」という。)における議論等を踏まえて、エネルギー省(DOE)に対する勧告・所見を示した書簡を公表した。2020年秋季会合は、DOE原子力局(NE)の「サイト固有ではない処分研究プログラム(non-site-specific disposal research program)」についての情報を審査するため、2020年12月2日~3日に開催されたものである。NWTRBは、1987年放射性廃棄物政策修正法に基づいて、エネルギー長官が行った高レベル放射性廃棄物処分に係る活動の技術的及び科学的有効性を評価するため、行政府に設置された独立の評価機関である。

DOEのサイト固有ではない処分研究開発プログラムは、以下を目標として行われており、結晶質岩、岩塩及び粘土質岩における処分概念及び処分オプションが検討されている。

  • 米国における複数の実現可能な処分オプションに確かな技術的基盤を提供する
  • 一般的な処分概念のロバスト性について信頼性を高める
  • 処分概念の実現を支援するために必要な科学的・技術的ツールを開発する

2020年秋季会合は、岩塩での処分に関する2014年の会合でのレビュー及び勧告、地下研究所に関する2019年の会合、多目的キャニスタに関する2020年夏季会合などの情報を踏まえて開催された。また、2020年秋季会合では、DOE原子力局(NE)、サンディア国立研究所等の研究者からの報告のほか、欧州諸国が放射性廃棄物管理計画を支援するために取り組んでいる「放射性廃棄物の地層処分の実施に関する技術プラットフォーム」(IGD-TP)と英国の放射性廃棄物管理会社(RWM社)から処分研究戦略についての報告も行われた。

今回公表されたNWTRBの書簡では、NWTRBによる2020年秋期会合での気付き事項(findings)及びDOEへの勧告が以下のように示されている。

2020年秋期会合での気付き事項

  • 放射性廃棄物管理・処分プログラムの早期ステージにある国では、受容可能な早期ステージでの研究開発プログラムの確実な実施において課題が認識されている。処分場を成功裏に実現するためには、実施主体・規制者・社会の三者の役割を明確に規定した法的枠組みが必要である。サイト選定及び処分場プログラムの実施の手続きは、これら三者から容認されなければならない。成功には長期的で政治的な責任が必要である。
  • 一般的に、処分場実現の主要な課題は、技術的な問題が一番ということではなく、技術的研究の実施に際しては技術的目的のみでなく社会的な観点も考慮に入れる必要があるなど、社会的な懸念や課題に完全に対応しなければならないことが他国では確信されている。
  • 他国では、結晶質岩、岩塩、粘土質岩における母岩固有の処分場設計による処分場開発を検討している。DOEは、これら諸国と協力し、研究開発プログラムを進展させるため、これらのプログラムの情報・経験を考慮に入れている。
  • DOEは、処分オプションがなぜ安全と考えられるものかを明確に伝える必要性など、他国やIGD-TPグループのような組織で得られた教訓を活かすことにより、成功の機会を増やす可能性がある。
  • 総合的に見て、DOEは、技術的基盤及び複数の処分オプションの評価の支援ツールの開発において、良好な進展を見せている。定期的なプログラムの策定、研究開発活動の優先順位付け、自身のプログラム要素と他国との統合が行われている。DOEは、HotBENT(スイスのグリムゼルテストサイト(GTS)でのベントナイト熱変質試験)での経験を通して、知識マネジメントプログラムの開発を主導してきており、結晶質岩及び粘土質岩における高温の人工バリアシステム(EBS)での熱-水-応力-化学連成挙動の理解を深めてきた。DOEは、性能評価での計算において、計算時間を低減して、性能や不確実性についてよりロバストで詳細な解析を可能にした先進的な数学的手法を採用している。
  • DOEは、以下の取組によってプログラムを前進させることが可能である;
    • ステークホルダーとの関与を促進し、ステークホルダーに対して一貫して明確に様々な処分オプションの説明を行い、それぞれの処分オプションの人工バリアと地質環境の安全機能をより適切に定義
    • 優先度の設定方法、及びGDSA(地層処分安全評価)枠組みのさらなる構築による改善
    • DOE使用済燃料(金属ウラン)1 の瞬時溶解で生じるプロセスへの対応
    • 岩塩層で想定される粘土の層の影響への対応
    • 長期にわたる高温下でのベントナイト及び粘土質岩の挙動の理解に資するナチュラルアナログ情報の活用

NWTRBによるDOEへの勧告

  • 勧告1
    NWTRBは、DOEが研究開発の優先度設定時のファクターの一つとして、十分に開発された技術成熟度評価手法(technology maturity scoring method)を採用することを勧告する。
  • 勧告2
    NWTRBは、DOEが可能性がある処分概念(例えば、粘土質岩における処分)ごとに、処分場の新たな技術的なサイト選定指針の必要性及び範囲を評価することを勧告する。
  • 勧告3
    NWTRBは、DOEが処分オプション対するモデルを構築する際には、モデルのパラメータを設定するために必要な実験データがどのように取得されるかについて、より焦点を当てることを勧告する。
  • 勧告4
    DOE/NEは処分場で廃棄物パッケージが破損した場合に、直ちにすべてのDOE使用済燃料(金属ウラン)が瞬時溶解するとしてモデル化しているため、NWTRBは、金属ウランの溶解による水素ガス発生など、DOE使用済燃料の瞬時溶解により処分場内で生じるすべてのプロセスをGDSA(地層処分安全評価)枠組みに含めるか、もしくは、そうしたプロセスが人工バリア及び全体的なシステム性能にマイナスの影響を及ぼさないことを実証する技術的基盤を提供することを勧告する。
  • 勧告5
    DOEは、岩塩ドーム及び脆性の粘土質岩について、レファレンスケースを開発したり、処分オプションを支援するための研究開発を同定したりする必要があるかを評価しなくてはならず、仮に不要と判断した場合は、その判断の根拠を提供すること。
  • 勧告6
    NWTRBは、DOEの試験・モデルは、岩塩構造における粘土の層の影響、及びその岩塩処分場の性能への影響に対応できるようにすることを勧告する。
  • 勧告7
    NWTRBは、DOEが、戦略的計画の立案においてナチュラルアナログを考慮するとともに、実験室や地下研究所で試験可能な期間よりも長く高温下に置かれたベントナイト及び粘土質岩について、その経年劣化の影響評価に活用し得るナチュラルアナログが存在するのか判断することを勧告する。
  • 勧告8
    NWTRBは、DOEが「放射性廃棄物の地層処分の実施に関する技術プラットフォーム」(IGD-TP)のメンバーとなり、主に社会的情報の共有、コミュニケーション及び国民の信頼・信認の獲得方法などについて、処分場プログラムが概念評価より先の段階にある諸外国から教訓を得ることに重点を置くことを勧告する。
  • 勧告9
    NWTRBは、DOEが処分オプション、及びその処分オプションにおけるバリア、バリアの機能及びそれを支える技術的基盤、処分研究開発プログラムの統合的において、明確で効果的なコミュニケーションを行うことを勧告する。DOEは、ステークホルダーからの意見を踏まえ、処分オプションを支持する主張や議論、証拠を口頭や図形で一貫性を持って伝えるコミュニケーションアプローチを用いなければならない。これには、処分の前に必要となる再パッケージや貯蔵等の管理活動も含めなくてはならない。

【出典】


  1. 金属ウランの使用済燃料は、溶存酸素が欠乏している地下水中で急速に反応して水素が発生し、バリアに影響を与えることが想定される。溶存酸素が欠乏している地下水は、処分場の深さの結晶質岩に存在するため、DOEは、廃棄物パッケージが破損して水が浸入すると、廃棄物が瞬時溶解(instantaneous dissolution)することを想定してモデル化している。 []

米国のエネルギー省(DOE)は、2021年11月30日付けのニュース記事において、連邦政府による使用済燃料の中間貯蔵サイトの選定のための「同意に基づくサイト選定計画(Consent-Based Siting Program)」を再始動するとし、最初の手続きとして情報要求(RFI、Request For Information)を発行したことを公表した。また、DOEの「同意に基づくサイト選定」のページでは、RFIにおいて、2017年1月の「使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の集中貯蔵・処分施設のための同意に基づくサイト選定プロセス案」(以下「サイト選定プロセス案」という。)に対するコメントを求めるほか、「意味のある参加への障害の排除」、「廃棄物管理システムの一部としての中間貯蔵」の分野に対する意見等を求めることが示されている。

DOEのRFIは、2022年3月4日までの期限で、連邦政府による中間貯蔵施設(以下「連邦中間貯蔵施設」という。)について意見を求めるものであり、2021年12月1日付けの連邦官報で告示された(以下「RFI告示」という。)。DOEは、RFIで得られた情報は、DOEによる連邦中間貯蔵施設の同意に基づくサイト選定プロセス及び統合的放射性廃棄物管理システム、資金確保の可能性のための戦略構築の構築において、公平な形で使用する意向である。

DOEはニュース記事において、2021会計年度包括歳出法(Public Law No.116-260)で中間貯蔵のための歳出予算が計上されたこと、及び中間貯蔵を進展させるよう指示を受けたことを示した。同意に基づくサイト選定プロセスについては、オバマ民主党政権で設置された「米国の原子力の将来に関するブルーリボン委員会」の最終報告書・勧告 などを反映して検討が進められ、2017年1月には「サイト選定プロセス案」も公表されていたが、トランプ共和党政権で中止された

DOEは、RFI告示において、特に意見を求める分野及び意見項目を以下のように示している。

分野1:同意に基づくサイト選定プロセス

  1. DOEは、同意に基づくサイト選定プロセスにおいて、社会的公平と環境正義をどのように考慮すべきか。
  2. 連邦中間貯蔵施設の立地受入れの同意を判断する際に、先住民族、州及び地方政府等はどのような役割を果たすべきか。
  3. 連邦中間貯蔵施設のサイトを選定しようとして取り組むDOEとの関与を考慮する際、どのような便益や機会が地方・州・先住民族政府を後押しするものとなるか。
  4. 同意に基づくサイト選定プロセスによる連邦中間貯蔵施設の立地が成功するために障害となるものは何か、また、それはどのように対応できるか。
  5. 連邦中間貯蔵施設における貯蔵期間に持続するような合理的な期待及び計画を確立するため、DOEは地域コミュニティとどのように協働すべきか。
  6. サイト選定での同意に基づくアプローチの構築のため、どのような組織やコミュニティとの連携を考慮すべきか。
  7. サイト選定プロセス案で提起された課題を含め、DOEが同意に基づくサイト選定プロセスを実施する上で、他にどのような課題を考慮すべきか。

分野2:意味のある参加への障害の排除

  1. 同意に基づくサイト選定プロセスにおいて、意味のある参加を妨げる障害は何か、また、それはどう緩和、排除できるか。
  2. 潜在的に関心を持つコミュニティが、同意に基づくサイト選定に係る情報共有、専門家の支援及び意味のある参加の適切な機会を確保するために、必要とする資源は何か。
  3. 潜在的に関心を持つコミュニティとの相互学習及び協働の機会は、どのようにDOEは最大化することができるか。
  4. 連邦中間貯蔵施設の同意に基づくサイト選定において、どのようにDOEは地方・州・先住民族政府と効果的に関わることができるか。
  5. 連邦中間貯蔵施設の同意に基づくサイト選定において、コミュニティや諸政府、他のステークホルダーがDOEと関わるために必要とする情報は何か。

分野3:廃棄物管理システムの一部としての中間貯蔵

  1. 米国の廃棄物管理システムを構築する上で、どのようにDOEは社会的公平や環境正義の考慮を確実に行えるか。
  2. 廃棄物管理システムにおける複数施設の併設、あるいは製造施設や研究開発基盤、またはクリーンエネルギー施設と廃棄物管理施設の併設は、どのような便益や欠点があり得るか。
  3. 中間貯蔵施設の開発は、処分場開発の進展とどの程度関連すべきか。
  4. 廃棄物管理システムを構築する際、DOEは、他にどのような問題を考慮すべきか。

RFI告示の中でDOEは、使用済燃料が最終処分場に移送できるようになるまで中間貯蔵施設の操業が必要と想定していること、また、中間貯蔵の期間は、施設の立地、許認可及び建設などの重要なステップの完了時期に懸かっているとの見解を示している。なお、DOEが2017年に策定したサイト選定プロセス案は、集中貯蔵と処分場の立地を対象としたものであり、具体的なサイト選定の段階も示されていたが、今回のRFI告示では、同意に基づくサイト選定プロセスの対象は連邦中間貯蔵施設とされ、処分場のサイト選定についての具体的な言及はない。

なお、DOEが同意に基づくサイト選定プログラムの再始動を公表したことに対して、ネバダ州選出の上院議員2名は、DOEの取組を賞賛する声明を発出している。マスト上院議員のプレスリリースでは、現政権はネバダ州選出の上院議員2名の要求に応える形で、ユッカマウンテンにおける廃棄物処分は行わないことを確約しており、今回のDOEの公表はそれを再確認するものであるなどと述べている。また、エネルギー自治体連合(ECA)は、RFIの詳細は吟味中とした上で、DOEの国防関連廃棄物に関する言及がないこと、処分場に係る計画が無いまま中間貯蔵を進めようとしていること、民間での中間貯蔵施設の開発が進む中で連邦中間貯蔵施設のみを考慮しているように見えることなどについての懸念を示している。

【出典】

 

【2022年9月20日追記】

米国のエネルギー省(DOE)は、2022年9月15日に、連邦政府による使用済燃料の中間貯蔵サイト選定のための同意に基づくサイト選定計画に関して、2021年12月1日に連邦官報で発行された情報要求(RFI、Request For Information)に対して寄せられたコメントなどをまとめた報告書「同意に基づくサイト選定―情報要求(RFI)コメントの要約・分析」(以下「要約・分析報告書」という。)を公表した。同意に基づくサイト選定計画に係るRFIに対しては、先住民族や州・地方政府、NGOや学界、産業界、その他のステークホルダーなどから、225件のコメントが提出されていた。今回公表された要約・分析報告書では、今回寄せられたコメントとともに、2017年1月発行の「使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の集中貯蔵・処分施設のための同意に基づくサイト選定プロセス案」(以下「サイト選定プロセス案」という。)に対するコメントについても、併せて要約・分析を行っている。

要約・分析報告書の公表について伝えるDOE原子力局(NE)の2022年9月15日付のホームページでは、「関係の構築」として、DOEがコミュニティやステークホルダーと信頼関係を構築するための意味ある取組をしてこなかったとのコメント、使用済燃料管理を主導する新たな独立組織の創設が必要とするコメントがあったことなどが紹介されている。その他、同意に基づくサイト選定プロセスの成功を応援する意見と懐疑的な意見が示されたこと、集中中間貯蔵施設の開発に反対するコメントも見られたこと、原子力発電に反対する見解を示すコメントもあったことなどが紹介されている。

以上のようなコメントの分析を踏まえてDOEは、信頼関係を構築し、維持する上で、同意に基づくサイト選定プロセスの成功に向けた指針となる優先項目として以下の6点を挙げ、これらの優先項目に対するDOEの今後の取組を示した。

  1. DOEが開発している統合的廃棄物管理システムの潜在的な便益を最大化できる方法で、集中中間貯蔵施設の実現に向けた連邦議会による指示を実施する。
  2. 内部的にも外部的にも変化することにより、DOEへの信頼欠如に対応する。内部的には約束事項のフォローを改善し、過去の過ちを正直に認めること、また、外部的には包括的でコミュニティ主導、段階的で柔軟な同意に基づくサイト選定プロセスを開始する。
  3. 同意に基づくサイト選定プロセスは、公正であることを確保する。手続的公正さは、プロセスの全段階で、コミュニティや関連地方政府等と積極的、公平に関わることであり、コミュニティ等が全面的に参加して十分な情報を得た上で決定できるようにするために必要な資金やデータの提供を含む。
  4. サイト選定のプロセスだけでなく、選定結果の公正性にも焦点を当てる。公平及び環境正義(environmental justice)上の考慮を重視し、同意の定義をコミュニティと協働で進め、コミュニティのニーズ等を常に認識する。自発的、公平で同意に基づくサイト選定プロセスへの参加という利点は、立地を選択しないとの結論に至った場合にも継続するものとする。
  5. 先住民族や州等との緊密な協力の下に、輸送問題や関連地域の懸念に対応する、使用済燃料の安全な輸送のための計画策定を継続する
  6. 使用済燃料管理の様々な施設のサイト候補地の適合性評価においては、安全性、セキュリティ、その他関連の基準を厳格に適用する。サイト選定プロセスは、一連の評価段階を含む段階的なものであるべきであり、独自の独立的な評価の実施を希望するコミュニティの支援も確約する。

今後についてDOEは、RFIに寄せられたコメントを評価していくが、すべての関連コミュニティやステークホルダーの考えは反映できないとして、特に先住民族や原子力発電所近傍のコミュニティ、低所得層やマイノリティなどの反映が不十分なグループの声も、同意に基づくサイト選定プロセスに係る今後のDOEの政策や意思決定の中で考慮するように、支援活動及び関与(outreach and engagement)の取組などを継続する計画を示している。DOEは、そこで得られた意見も織り込んだ上で「サイト選定プロセス案」を更新すること、学びの支援及び同意に基づくサイト選定を実践するコミュニティの構築を支援する資金提供公募(FOA)を行う計画も示している。

なお、要約・分析報告書では、ユッカマウンテン計画に関するコメントも一部紹介されており、ユッカマウンテンサイトなど以前のサイト選定の取組に関連した不信、ユッカマウンテン処分場の建設に係る許認可審査を完結すべきとの提言、ユッカマウンテンは今でも唯一の処分場オプションなのかとの連邦議会への問いかけなどのコメントがあったことが示されている。

 

【出典】

 

【2022年9月22日追記】

米国のエネルギー省(DOE)は、2022年9月20日付のニュース記事において、連邦政府による使用済燃料の中間貯蔵施設のための同意に基づくサイト選定に関して、同意に基づくサイト選定、使用済燃料管理、及び中間貯蔵施設のサイト選定時の考慮事項について、さらなる学びに関心があるコミュニティに対する資金提供公募(FOA)を行うことを公表した。DOEは、2022年9月15日に同意に基づくサイト選定計画に対するコメントの要約・分析報告書を公表した際に、先住民族など意見反映が不十分なグループの声を聞く取組を継続すること、学びの支援及び同意に基づくサイト選定を実践するコミュニティの構築を支援する資金提供公募(FOA)を行うことを表明していた。

今回発行された資金提供公募(FOA)では、6~8の団体が選定され、1団体当り1,000~2,000千ドル(約1億1,500~2億3,000万円、1ドル=115円で換算)、総額で最大16,000千ドル(約18億4,000万円)が、2023年3月から18~24カ月の期間にわたって提供される予定である。選定された団体は、コミュニティ内での相互学習を進め、情報への容易なアクセス環境を提供し、開かれた議論を促進する。本資金提供公募(FOA)の資金で支援される活動としては、以下の3領域が示されている。

  • 使用済燃料管理に関する、包括的で有意義なコミュニティ・ステークホルダーの関与プロセスを組織化し、主導し、維持する。
  • 集中中間貯蔵施設のための同意に基づくサイト選定プロセスに対して、コミュニティ主導のフィードバックや効果的な協働(collaboration)を促進し、実現可能とするような公共価値(public value)、関心事項及び目標を同定する。
  • 使用済燃料に関連するトピックについて、ステークホルダーやコミュニティ、専門家の間の相互学習を支援するような成果及び戦略を開発し、実践し、報告する。

今回のDOEの資金提供公募(FOA)では、使用済燃料管理やサイト選定に関心がある地域コミュニティ等に呼びかけが行われているが、実際のサイト選定が開始される前段階での取組であり、ステークホルダー関与の取組などの成功例や課題、使用済燃料管理の諸手法の障壁・利点に係るステークホルダーの認識、コミュニティ・ステークホルダーと効果的に協働するための必要要件、その他DOEがステークホルダーに貢献できることなど、サイト選定活動の取組手法などについて報告を求めるものとなっている。また、選定された団体は、DOEが主催する四半期レビューへの参加が求められている。

なお、DOEは、本資金提供公募(FOA)は集中中間貯蔵施設を立地するサイトを募集するものではないことを明示している。その上でDOEは、同意に基づくサイト選定プロセスについて、関心あるステークホルダーとコミュニティの間における関与や開かれた対話、理解力の構築を奨励したいとの考えを示している。DOEは、本資金提供公募(FOA)について、ウェブを活用したセミナーも開催する予定であり、関心ある組織、個人に参加を呼びかけている。

【出典】

米国のエネルギー省(DOE)のカールスバッド・フィールド事務所(CBFO)は2021年11月22日及び23日に、軍事起源のTRU廃棄物の地層処分場である廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)について、2021年11月11日に累計で13,000回のTRU廃棄物の輸送・受入れが実施されたこと、進行中のプロジェクトの最新状況などをステークホルダー向けに説明するタウンホール・ミーティングを2021年11月18日に開催したこと、そのタウンホール・ミーティングで使用した資料及びビデオを公表した。ステークホルダー向けの説明資料(以下「スライド資料」という。)では、WIPPにおける処分の進捗状況、処分パネル等の掘削状況及び見通し、換気施設や新たな立坑の建設状況などについて、最新の状況が示されている。

WIPPでは、2014年2月に発生した火災事故及び放射線事象を受けて、換気システムの整備を含む復旧計画が策定され、設備の更新が進められる一方で、処分エリアの一部が閉鎖され、代替処分パネルの建設が計画されている。なお、WIPPの操業は2017年1月に再開された。

WIPPに向かうTRU廃棄物輸送トラック

WIPPにおけるTRU廃棄物の受入れが13,000回のマイルストーンを達成したことについては、エネルギー省(DOE)環境管理局(EM)の2021年11月23日付けのニュース記事でも伝えられている。WIPPで初めて廃棄物の受入れを行ったのは1999年3月26日であり、2011年には「直接ハンドリングが可能なTRU廃棄物」(CH廃棄物)の受入れが10,000回に達していた。また、2007年には「遠隔ハンドリングが必要なTRU廃棄物」(RH廃棄物)の最初の受入れが行われている。なお、受入れた13,000回のTRU廃棄物のうち、ほとんどがCH廃棄物であり、RH廃棄物は755回となっている。

第7パネルでの定置状況

第8パネルの状況

掘削の進展

タウンホール・ミーティングで使用されたスライド資料では、廃棄物の定置状況について、現在、廃棄物の定置が行われている第7パネル第2処分室は2022年1月6日に一杯となり、第7パネル全体も2022年7月26日に一杯となることが示されている。次に廃棄物が定置される第8パネルは、2021年9月29日に掘削が完了しており、2022年4月末にはニューメキシコ州環境省(NMED)から許可を取得して、廃棄物定置の準備が整う見通しが示されている。また、代替処分パネルの建設が予定されている西側エリアに向けて、アクセス坑道の一部の掘削が2021年9月26日に開始されたほか、代替処分パネルでの定置のためのアクセス坑道の拡張などの整備も開始されたことが示されている。

安全上重要な閉込め換気システム(SSCVS)

換気立坑

また、スライド資料では、換気システムの更新についても、工事の進捗を伝える写真を含めて詳細な状況が示されている。WIPPでは現在、換気量は毎分14万6,000ft3(約4,130m3)に限られていて操業が制約されている。地下での掘削作業、ロックボルト打設、定置などの活動を同時に行うことを可能とするための解決策として、フィルター付で毎分54万ft3(約15,300m3)の換気能力を実現する「安全上重要な閉込め換気システム(SSCVS、Safety Significant Confinement Ventilation System)の建設が行われている。SSCVSの完成は2025年と見込まれており、当面の対応策として、定置活動以外の時間帯に従来のフィルター無しの換気ファン(700-C)を再稼働させることとなっている。また、WIPPでは、SSCVSの負荷を軽減するため、新たな換気立坑の建設も進められている。

操業能力増加に伴う廃棄物受入れ予想

10年想定

さらに、スライド資料では、これらの設備更新によって見込まれるWIPPの操業能力増加の年度別の見通しのグラフのほか、ニューメキシコ州や環境保護庁(EPA)の許認可取得や設備更新の見通しとともに、今後の処分パネルごとの操業見通しなどを図示した「10年想定(10 Year Projection)」も示されている。この「10年想定」スライドでは、詳細な説明は示されていないものの、現在計画されている代替処分パネル(第11パネル及び第12パネル)での定置に続いて第13パネル及び第14パネルの建設を行う想定が示されており、2022年にはこれらの追加される処分パネルの補足環境影響評価を開始する見通しが示されている。

【出典】

電動の連続掘削機による掘削

電動の連続掘削機による掘削

米国のエネルギー省(DOE)環境管理局(EM)は、2021年10月12日付けのニュースリリースにおいて、軍事起源のTRU廃棄物の地層処分場である廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)において、地下処分施設で計画が進められている既存の8つの処分パネルのうち、最後となる第8パネルの掘削が完了したことを公表した。第8パネルの掘削は、2013年遅くに開始されたが、WIPPで2014年2月に発生した火災事故及び放射線事象により地下処分施設の掘削活動は中断され、その後、第8パネルの掘削活動は2018年1月15日に再開された

また、本ニュースリリースでは、第8パネルでは引き続き、電力、鉱山電話、壁面保護の金網(chain link)、空気モニタ等の設置作業が行われるが、現在廃棄物の定置が行われている第7パネルが一杯になる予定の2022年4月には、第8パネルでの廃棄物定置のための準備が整うことが示されている。第8パネルの各処分室は、幅が33フィート(約10m)、高さが15~16フィート(約4.6~4.9m)、長さが300フィート(約91m)となっている。なお、WIPPの各パネルは、7つの処分室で構成されている。

第8パネルへと進む岩塩運搬トラック

第8パネルへと進む岩塩運搬トラック

さらに、本ニュースリリースによれば、第8パネルの掘削活動では電動の連続掘削機が使用され、第8パネルのすべての処分室の掘削完了により、ニミッツ級空母の1.5倍に当たる157,000t以上の岩塩が掘削された。岩塩の掘削ずり(岩石片)は、岩塩運搬トラックでホッパーまで運ばれ、ホイストで5tずつ地上に搬出される。岩塩の掘削ずりの一部は、地下処分施設の閉鎖などで使用される。第8パネルの掘削活動が完了したことにより、連続掘削機は今後、既存の処分エリアから西側に向かって、建設中の立坑につながる坑道の掘削に使用されることとなる。

WIPPの地下施設と第7・第8パネル(2021年6月15日時点)

WIPPの地下施設と第7・第8パネル(2021年6月15日時点)

なお、WIPPでは、既存の8つの処分パネルの西側の離れた位置に2つの代替処分パネルを建設する計画が進められており、今後、代替処分パネルへのアクセス坑道の掘削も予定されている。

【出典】

米国の政府説明責任院(GAO)は、2021年9月23日に、米国における民間の使用済燃料について、行き詰まりを打開して永久的な処分方策を構築するためには連邦議会の行動が必要とする報告書(以下「GAO報告書」という。)を公表した。GAO報告書は、エネルギー省(DOE)及び他の機関の文書をレビューするとともに、20名の専門家及び25名のステークホルダーにインタビューし、使用済燃料処分の解決策を構築するために必要であると専門家が指摘した行動について検証している。その結論としてGAO報告書では、連邦議会に対し、(1)1982年放射性廃棄物政策法(NWPA)を改正して、DOEによる同意に基づくサイト選定プロセスの実施を可能とすること、(2)放射性廃棄物基金を再構成して信頼できる十分な資金を確保することが必要と指摘している。

GAO報告書は、使用済燃料管理政策の立案及び歳出法案の制定に係る権限を有する者として、連邦議会上下院の歳出委員会エネルギー・水資源開発小委員会の委員長、その他の関連委員会の委員長に宛てた書簡の形式が採られている。最初にGAO報告書では、民間使用済燃料の現状、使用済燃料に係る法制度及びプログラムの歴史、民間使用済燃料に係る連邦政府の債務、民間使用済燃料の管理に係る主要な報告書についての背景情報を整理した上で、GAOがインタビューした専門家が必要と指摘した連邦議会の行動が検証され、最後に結論及び勧告が示されている。

使用済燃料貯蔵に係る連邦政府債務の推定及び予測のグラフ

民間使用済燃料の貯蔵に係るエネルギー省(DOE)債務の推定及び予測

GAO報告書では、行き詰まりが続くことにより、環境・健康・セキュリティ上のリスクや気候変動対策、税負担に与える影響について、専門家が特に懸念を示していることが示されており、その例として、連邦政府の債務が増加し続けることを示す図が掲載されている。また、GAO報告書では、永久的な処分場を開発しないことに伴うリスクに加えて、民間使用済燃料を管理する責任を果たせないことにより、連邦政府が直面する債務が数百億ドルに上ることを鑑みて評価を行ったものであると説明している。

GAOは、米国では民間使用済燃料の管理がそれぞれ個別の(ad hoc)システムで行われており、例えば、貯蔵に用いられる技術が多様であると最終処分に影響を与えるなど、将来の処分に係る意思決定及び費用に影響を及ぼすことを指摘している。さらに、GAO報告書では、ほとんど全ての専門家が、民間使用済燃料の解決策の構築とプログラム費用を削減するためには統合的な戦略が不可欠との見解を示しており、エネルギー省(DOE)は連邦議会の行動なしには、そうした戦略を十分に構築・実行することはできないことを指摘している。

■同意に基づくサイト選定プセスの検証

GAO報告書では、同意に基づくサイト選定プロセスについても検証している。米国では、エネルギー省(DOE)が2015年に公衆との関わりの取組みを開始し、同意に基づくサイト選定プロセス案を検討した。このプロセス案は最終化されていないが、DOEが検討した同意に基づくサイト選定プロセス案には、GAOがインタビューした専門家のほとんど全てが重要であると合意する、効果的なサイト選定プロセスに必要な要素が含まれていることが、下表のように示されている。また、連邦議会が1982年放射性廃棄物政策法(NWPA)を改正し、ユッカマウンテンに代わる、または追加の貯蔵/処分オプションを認めた場合は、DOEのサイト選定プロセス案の最終化が、集中中間貯蔵施設/永久的な処分施設の同意に基づくプロセスの実施を支援するものになり得ると指摘している。

効果的なサイト選定プロセスの要素

効果的なサイト選定プロセスの要素

専門家

カナダ

フィンランド

スウェーデン

WIPP

DOE案

早期の関与・働きかけ

先住民族政府・州の重要な役割

N/A

N/A

×

段階的で柔軟なアプローチ

×

自発性及び撤退権

十分な情報を得た上での同意(インフォームドコンセント)

地域に合った(tailored)便益

凡例:✓;効果的なサイト選定プロセスの要素が含まれている、×;要素が含まれていない、N/A;該当せず、
専門家;GAO報告書でインタビューした専門家、WIPP;廃棄物隔離パイロットプラント、DOE案;DOEの同意に基づくサイト選定プロセス案(2017年)
出所)GAO報告書より作成

■GAOによる勧告

GAO報告書の結論において、米国では、過去10年間にエネルギー省(DOE)には民間使用済燃料管理のプログラムがない状態が続いたことを指摘した上で、使用済燃料管理の全ての側面について専門家間で合意が得られているわけではないが、いくつかの提案は時を経ても一貫しており、そのほとんどが連邦議会の行動に掛かっているとして、以下の4つの検討事項を勧告している。

  1. 民間使用済燃料の集中中間貯蔵施設及び永久的な処分場のサイト選定、開発、建設に係る新しい同意に基づくサイト選定プロセスを認めるように1982年放射性廃棄物政策法の改正を検討すべきである。
  2. 使用済燃料処分プログラムを運営するため、政治から切り離され、リーダーシップの継続性を確保できる独立機関のようなメカニズムの創設を検討すべきである。
  3. 放射性廃棄物基金について、永久的な処分場の開発・建設・操業のために使用される基金からの支出が、民間使用済燃料プログラムのライフサイクルコストに基づいたものとなるように再構成を検討すべきである。
  4. 使用済燃料の輸送、中間貯蔵及び永久的な処分の計画を含む、統合的な廃棄物管理戦略(integrated waste management strategy)を、1982年放射性廃棄物政策法の改正と一貫する形で構築し、実施するようエネルギー省(DOE)に指示することを検討すべきである。

さらに、GAO報告書では、エネルギー省(DOE)に対して、公衆との関わりの取組みを継続して、同意に基づくサイト選定プロセス案の最終化を行うべきとの勧告も示されている。GAOは、連邦議会の行動がなくても、DOEは将来の連邦議会の決定に資する基盤作りのための行動を起こすことは可能であり、特に、公衆と関わりにおいて、信頼を醸成するためにできることはあると指摘している。GAOがインタビューした専門家のほとんどが、公衆は使用済燃料管理に関してはDOEを信頼しておらず、信頼を回復するためには、他国や廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)の立地で得られた教訓など、公衆との関わりを促進して信頼を醸成するための良好事例を確認することを勧告している。これに対してDOEは、GAOの勧告に同意すること、DOEは同意に基づくサイト選定活動を再開しており、2022年早期には「同意に基づくサイト選定プロセス案」の改定を行う予定であることを回答している。

GAO報告書は、2020年5月から2021年9月にかけて、一般に認められた政府監査基準(Generally Accepted Government Audit Standards:GAGAS)に従って実施された業績監査について報告するものであり、GAOの権限1 の下で実施された。GAOは、GAO報告書の策定に当り、レビューした文献の著者や「米国の原子力の将来に関するブルーリボン委員会」の参加者を含む141名の専門家と126のステークホルダーをリスト化したうえで、最終的に20名の専門家と25名のステークホルダーを選定してインタビューを行った。ステークホルダーは、種々の組織から賛成・反対の意見を収集するように選定しており、インタビューの対象には地層処分場のサイト選定・開発で先行するカナダ、フィンランド、スウェーデンの担当も含まれている。GAO報告書の添付資料では、インタビュー対象者の選定方法、実際にインタビューを実施した20名の専門家の名前、米国における使用済燃料管理関連の重要決定の経緯などが示されている。

【出典】

  • 政府説明責任院(GAO)報告書、「民間使用済燃料:行き詰まりを打開して永久的な処分の解決策を構築するためには連邦議会の行動が必要」(2021年9月23日)
    https://www.gao.gov/products/gao-21-603

  1. 正確には政府説明責任院(GAO)の院長となる監査総監(Comptroller General)の権限 []

米国テキサス州議会は、テキサス州内において使用済燃料を含む高レベル放射性廃棄物の処分または貯蔵を禁止する法案を2021年9月2日に可決し、2021年9月9日に州知事の署名を得てテキサス州法(H.B.7、以下「処分・貯蔵禁止法」という。)として成立した。テキサス州では、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社がテキサス州アンドリュース郡で使用済燃料等の集中中間貯蔵施設の建設・操業を計画しており、原子力規制委員会(NRC)で許認可審査が行われている。NRCは、ISP社の集中中間貯蔵施設の許認可審査について、2021年7月29日に最終環境影響評価書(FEIS)を公表しており、2021年9月末までに許認可に係る決定を行う予定としている 。NRCによる許認可については、NRCの環境影響評価に係る連邦規則(10 CFR Part 51)において、NRCが環境保護庁(EPA)にFEISを提出し、EPAが連邦官報においてFEISの受領を告示してから30日間は許認可の発給に係る決定を行うことはできないものと規定されており、このため、EPAがFEIS受領を連邦官報で告示した2021年8月13日から30日経過後にNRCは許認可の発給が可能となる。ただし、今回の処分・貯蔵禁止法(H.B.7)の成立により、NRCが中間貯蔵施設の建設・操業に係る許認可を発給した場合においても、州による環境関連の許可が得られなくなることから、実際の集中中間貯蔵施設の建設・操業は行えないこととなる。

今回成立した処分・貯蔵禁止法(H.B.7)は、テキサス州健康・安全法典(Health and Safety Code)第401章「放射性物質及び他の放射線源」に条文を追加して修正するものであり、以下のような内容の規定が置かれている1

第1条
1982年放射性廃棄物政策法(1987年修正)(NWPA)第2条で定義される「高レベル放射性廃棄物」と「使用済燃料」を含むものとして、健康・安全法典で「高レベル放射性廃棄物」を定義。

第2条
テキサス州環境品質委員会(TCEQ)は、運転中または過去に運転していた発電用原子炉及び研究炉に対するものを除き、NRCから高レベル放射性廃棄物の貯蔵に係る許認可発給を受けた施設の建設または操業について、連邦水質浄化法(CWA:Clean Water Act)の下での一般建設許可の発給または汚水関連の計画承認や許可発給を行ってはならない。

第3条
運転中または過去に運転していた発電用原子炉及び研究炉における貯蔵を除き、州間協定(コンパクト)に基づく放射性廃棄物処分施設の許認可保有者を含め、何人もテキサス州内において高レベル放射性廃棄物を処分または貯蔵してはならない。

第4条
第2条の規定は、本法施行後に提出される許可または許可変更の申請書に対してのみ適用される。

第6条
本法は、両院議員の3分の2以上の投票を得た場合には即時に発効する。それ以外の場合には、2021年12月5日に発効する。

処分・貯蔵禁止法(H.B.7)は、テキサス州議会上院では2021年9月1日に31対0(ゼロ)、下院では2021年9月2日に119対3の賛成多数で可決されたことから、2021年9月9日のテキサス州知事の署名により即時に有効となっている。

処分・貯蔵禁止法案は、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社が集中中間貯蔵施設の建設を計画しているアンドリュース郡を選挙区に持つランドグラフ・テキサス州下院議員によって提出された。ランドグラフ議員は、2021年9月3日付けのプレスリリースにおいて、特別会期で処分・貯蔵禁止法案を審議対象に指定した州知事に謝意を示した上で、低レベル放射性廃棄物施設は支持するものの、放射能がより強い高レベル放射性廃棄物の貯蔵への拡張には反対するというアンドリュース郡住民の意思を代表することが同議員の責務であることなどを表明している。テキサス州知事は、ISP社の集中中間貯蔵施設に係る環境影響評価のコメント募集において、施設の建設・操業に反対することを表明していた

アンドリュース郡理事会(commissioners court)では、NRCがアンドリュース郡及びテキサス州住民の意思を尊重し、同郡における集中中間貯蔵施設の許認可手続きを直ちに中止すること、アンドリュース郡判事及び理事会は使用済燃料等の集中中間貯蔵の立地を拒否することなどを、2021年7月30日に決議していた。アンドリュース郡の決議に対してNRCは、2021年8月27日付けの書簡において、決議書の送付に謝意を示した上で、ISP社の集中中間貯蔵施設がNRC規制要件に適合するかを判断する安全性評価報告(SER)を発行する予定であり、2021年9月に許認可発給に係る決定を行うことを伝えている。なお、アンドリュース郡理事会は、現在の州知事が就任した同日の2015年1月20日に、ウェイスト・コントロール・スペシャリスト(WCS)社が低レベル放射性廃棄物のWCS処分場に隣接して使用済燃料の集中中間貯蔵施設を建設する計画について、支持する決議を行っていた。また、WCS社は、地元の支持が得られることを前提として、NRCに建設・操業の許認可申請を行うことを表明していた。

米国における民間事業者による使用済燃料の集中中間貯蔵施設の建設に向けた事例としては、過去に民間燃料貯蔵(PFS)社によるユタ州スカルバレーにおける中間貯蔵施設の例がある。このPFS社によるスカルバレー中間貯蔵施設プロジェクトは、2006年2月にNRCの建設・操業に係る許認可を取得したが、ユタ州等による反対のなか、土地貸借契約や国有地での輸送について連邦内務省(DOI)の承認が得られなかったことなどから、NRCに建設許可の終了を要求するなど、計画は進まなかった。なお、PFS社によるスカルバレー中間貯蔵施設は、民間の原子力発電事業者が共同で中間貯蔵を行うものであったが、ISP社の集中中間貯蔵施設では、エネルギー省(DOE)が所有権を取得した使用済燃料を貯蔵することが想定されている。

中間貯蔵パートナーズ(ISP)社の集中中間貯蔵施設は、テキサス州アンドリュース郡のウェイスト・コントロール・スペシャリスト(WCS)社の自社所有サイトにおいて、WCSテキサス低レベル放射性廃棄物処分場に隣接する区画で建設を計画しているものである。WCS社は、2016年4月28日に、使用済燃料等の集中中間貯蔵施設の建設・操業に係る許認可申請書をNRCに提出していたが、WCS社の売却の動きなどもあり、WCS社とOrano USA社との合弁会社として設立されたISP社が、2018年6月8日に、集中中間貯蔵施設の許認可審査の再開をNRCに申請していた。WCS社サイトについては、エネルギー省(DOE)が環境影響評価を実施するなど、クラスCを超える(GTCC)低レベル放射性廃棄物(以下「GTCC廃棄物」という。)の処分に関する検討も行われており、NRCによるGTCC廃棄物処分の規制に係る検討が続けられている。なお、GTCC廃棄物は、今回成立した処分・貯蔵禁止法(H.B.7)の対象には含まれていない。

【出典】

 

【2021年9月16日追記】

米国の原子力規制委員会(NRC)は、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社がテキサス州アンドリュース郡で計画している使用済燃料等の集中中間貯蔵施設について、建設・操業に係る許認可を2021年9月13日に発給した。NRCは、ISP社の許認可申請書の審査に基づいて、許認可で承認される活動は公衆の健康と安全を脅かすことなく実施できること、これらの活動はNRC規則(10 CFR Part 72)を遵守して実施されることについて、2021年9月13日付けのISP社宛の許認可書送付書簡において、合理的な保証があるなどと判断したことが示されている。ただし、テキサス州法の処分・貯蔵禁止法(H.B.7)が成立していることなどにより、州による環境関連の許可が得られず、集中中間貯蔵施設の建設・操業については、実際には行えないことが見込まれる。

今回NRCが発給した許認可は、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社に対し、最大5,000トンの使用済燃料と231.3トンのクラスCを超える(GTCC)低レベル放射性廃棄物(以下「GTCC廃棄物」という。)を、40年間にわたって受領、保有、移転及び貯蔵することを許可するものである。ISP社は、その後の7段階で施設を拡張し、最大で40,000トンの使用済燃料を貯蔵する計画を示しているが、施設を拡張するごとにNRCによる安全審査と環境審査を受けて許認可変更を行うことが必要となる。

2021年9月13日付けのNRCのニュースリリースでは、許認可審査においては安全性とセキュリティの技術的審査、環境影響審査、及びNRCの原子力安全・許認可委員会(ASLB)による裁決手続が実施されており、環境審査では多数の一般公衆からの意見も評価したこと、裁決手続では地域や全国組織の申立人から提起された争点の解決が行われたことが示されている。NRCのウェブサイトでは、今回の許認可発給に係る以下の文書が公表されている。

  • 許認可書(物質許認可、SNM-2515)
  • 許認可書の前文(Preamble)
  • 許認可送付書簡
  • 公開版の最終安全性評価報告書(FSER)
  • 技術仕様書(Technical Specifications)
  • 意思決定記録(ROD)2

許認可書(SNM-2515)本体では、初期貯蔵容量の集中中間貯蔵施設を建設するのに十分な資金が確保されるまで建設を開始してはならないこと、顧客が使用済燃料等の所有権を保持することなどを顧客との契約で規定すること、操業に必要な資金をエネルギー省(DOE)または他の使用済燃料所有者が責任を持つことを規定した契約を操業前に締結することなど、許認可条件が規定されている。また、NRCの連邦規則への適合に必要とされる技術仕様書も許認可の一部とされている。

NRCのニュースリリースでは、今回の許認可は、使用済燃料の集中中間貯蔵施設に対する2件目のものであり、最初の許認可は民間燃料貯蔵(Private Fuel Storage)社に2006年に発給されたものの、建設されなかったことも記載されている。また、NRCはニューメキシコ州リー郡における同様の施設に係るホルテック・インターナショナル社の許認可申請書の審査を行っており、2022年1月に許認可に係る決定を行う見込みも記載している。

中間貯蔵パートナーズ(ISP)社の集中中間貯蔵施設の建設・操業に係る許認可申請については、原子力安全・許認可委員会(ASLB)が主宰する裁判形式の裁決手続によるヒアリングの開催を要求して、シエラクラブ等の環境団体や地域の石油・ガス生産者/鉱業権者が争点を提出していた。ASLBが当初に1件のみ有効と認めた争点も、その後にISP社が指摘された欠陥を修正したことから無効とされ、すべての争点が否認された。ASLBに争点を否認された参加申立人らは、NRCの委員会に対する不服申立ても否認されたことから、訴訟を提起している。

なお、テキサス州のアボット知事は、個人のSNSアカウントにおける2021年9月14日の投稿において、西部テキサスの油田地帯における高レベル放射性廃棄物の廃棄(dump)について、それを阻止するための法律に署名したこと、テキサス州は米国の高レベル放射性廃棄物の廃棄場所(dumping ground)にはならないことを表明している。

【出典】

 

【2021年9月27日追記】

米国のテキサス州は2021年9月23日に、原子力規制委員会(NRC)が中間貯蔵パートナーズ(ISP)社に対して2021年9月13日に発給した使用済燃料等の集中中間貯蔵施設の建設・操業に係る許認可について、取り消しを求める訴状を第5巡回区連邦控訴裁判所に提出した。

テキサス州3 によるNRCへの訴状では、NRCが許認可を発給した命令(order)は不法(unlawful)であると認定して無効にすること、及び発給された許認可を取り消すことを求めているが、その理由など詳細は示されていない。なお、1954年原子力法第189条「公聴会及び司法審査」では、裁判形式の裁決手続による公聴会の対象となるNRCの委員会決定について、訴訟の対象となることを規定しており、テキサス州は連邦控訴裁判所規則の規則15に従って訴状を提出している。

【出典】


  1. 実際の処分・貯蔵禁止法(H.B.7)では、対象となる条項は健康・安全法典の条文番号で参照されるなどしているが、細部の省略も含めて概要の記述としている。
    なお、第5条では可分条項(規定の一部が無効とされても他の条項の有効性には影響がないとする規定)が置かれている。 []
  2. 意思決定記録(ROD:Record of Decision):米国では連邦政府機関が環境に影響を及ぼす可能性がある措置を実施する際には環境影響評価の実施が1969年国家環境政策法(NEPA)により規定されている。この場合、その最終的な決定内容については、検討した代替案や影響緩和策を含めて「意思決定記録」として連邦官報で告示することが必要とされている。 []
  3. 本訴訟の原告は、厳密にはテキサス州、テキサス州知事、テキサス州環境品質委員会(TCEQ)の3者となっているが、まとめて「テキサス州」と表記している。 []

米国の連邦議会下院の歳出委員会は、2021年7月16日に開催した法案策定会合において、放射性廃棄物処分関連の2022会計年度1 の「エネルギー・水資源開発歳出法案」(H.R.4549、以下「歳出法案」という。)を承認し、2021年7月20日に下院本会議に提出した。提出された歳出法案は、7分野の歳出法案が束ねられて包括歳出法案(H.R.4502)とされ、2021年7月29日に下院本会議で可決された。今後は、連邦議会上院での歳出法案の審議に移ることとなる。ユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可審査手続きの再開等のための予算については、エネルギー省(DOE)や原子力規制委員会(NRC)の2022会計年度の予算要求資料でも要求されていなかったが、今回提出された歳出法案においても計上されていない。なお、下院歳出委員会エネルギー・水資源小委員会のメンバーであるネバダ州選出のリー下院議員(民主党)からは、ユッカマウンテン計画のための予算の計上を阻止し、同意に基づく解決策をエネルギー長官に指示する規定を盛り込むために取り組んだことなどを伝えるプレスリリースが発出されている。

■放射性廃棄物処分関連の予算項目

今回提出された歳出法案では、「放射性廃棄物処分(Nuclear Waste Disposal)プログラム」として27,500千ドル(約28億8,750万円、1ドル=105円で換算)が計上されている。放射性廃棄物処分プログラムの予算は、中間貯蔵に係る活動を含め、1982年放射性廃棄物政策法の目的を遂行するための放射性廃棄物処分に係る活動に必要とされる予算とされており、このうち7,500千ドル(7億8,750万円)は放射性廃棄物基金(NWF)から支出されるものとされている。DOEの研究開発プログラムについては、歳出法案では「原子力(Nuclear Energy)」全体の予算として1,675,000千ドル(約1,758億円)が示されているのみとなっており、使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物(以下「高レベル放射性廃棄物」という。)の管理・処分に係るプログラムの内訳は示されていない。

歳出法案に付随する下院歳出委員会報告書(H.Rept.117-98、以下「委員会報告書」という。)においては、「放射性廃棄物処分プログラム」の27,500千ドル(28億8,750万円)のうちの20,000千ドル(21億円)は使用済燃料の中間貯蔵のための予算とされ、放射性廃棄物基金から支出する7,500千ドル(7億8,750万ドル)については放射性廃棄物基金の監督活動に係る予算とされている。なお、DOEの予算要求では、「放射性廃棄物処分プログラム」の予算は放射性廃棄物基金の監督活動に係るものとして7,500千ドルのみが計上され、中間貯蔵については、燃料サイクル研究開発(R&D)プログラムの「統合廃棄物管理システム(IWMS、Integrated Waste Management System)」の一部として20,000千ドルが要求されていた。

また、DOEの予算要求では、中間貯蔵プログラムの開発・実施をサポートするための予算が研究開発プログラムの一部として計上とされていたのに対し、委員会報告書では、研究開発プログラムではなく、エネルギー長官の現行の権限内で連邦中間貯蔵施設のサイト選定に向けた活動を実施すること、その実施に際しては同意に基づくアプローチを用いることが指示されている。さらに、委員会報告書では、1982年放射性廃棄物政策法においては、同法の制限2 の前段階で様々な活動が可能であることなどを指摘している。

DOEの高レベル放射性廃棄物処分関連の研究開発に係る予算について、委員会報告書では、燃料サイクル研究開発(R&D)プログラムの下で、「使用済燃料処分等研究開発」の一般的な研究開発活動を継続するための予算として62,500千ドル(65億6,250万円)が計上されているほか、「統合廃棄物管理システム(IWMS、Integrated Waste Management System)」の予算として18,000千ドル(18億9,000万円)が計上されている。使用済燃料処分等研究開発について、委員会報告書では、予算額のうち5,000千ドル(5億2,500万円)は先進燃料の短期的な課題に対応することを指示するとともに、統合廃棄物管理システム(IWMS)については、地域輸送の再開に係る評価や調整の取組み、廃止措置済みの原子力発電所等での準備活動の継続が指示されている。

米国で超ウラン核種を含む放射性廃棄物(TRU廃棄物)の地層処分場として操業中の廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)について、委員会報告書では、DOEの予算要求額と同額の430,424千ドル(451億9,452万円)が計上されている3 。また、委員会報告書では、2021会計年度の歳出法で指示したインフラ改善計画の説明4 が未了のため、歳出法案成立後15日以内に連邦議会に報告するようDOEに指示している。

その他の機関について、歳出法案及び委員会報告書では、原子力規制委員会(NRC)の予算については、「核物質・廃棄物安全」の予算項目についてNRC要求と同額の予算が計上されているが、集中中間貯蔵施設に関するものなどの内訳は示されていない。なお、NRC予算では、ユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可申請書の審査活動等のための予算は計上されていない。また、放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB)については、要求額と同額の3,800千ドル(3億9,900万円)の予算が計上されている。

2022会計年度の歳出法案及び委員会報告書の情報をまとめると、放射性廃棄物処分関連の予算は、下表のような構成となっている。

 

予算項目 プログラム サブプログラム
(サブプログラムがない場合は括弧内に概要説明)
2022会計年度歳出予算(単位:千ドル) 財源
DOE 原子力(Nuclear Energy)
[歳出法案には、全体の予算額として1,675,000千ドルが記載されているのみ]
燃料サイクル研究開発
(Fuel Cycle Research and Development)
[委員会報告書に、本プログラムの下でのサブプログラムの予算額が記載されている]
使用済燃料処分等研究開発(Used Nuclear Fuel Disposition R&D) 62,500 一般
統合廃棄物管理システム(IWMS)
(Integrated Waste Management System)
18,000
放射性廃棄物処分
(Nuclear Waste Disposal)
放射性廃棄物処分(Nuclear Waste Disposal) (中間貯蔵を含め、1982年放射性廃棄物政策法の目的遂行。なお、DOEの予算要求では、中間貯蔵に係る20,000千ドルの予算は統合廃棄物管理システム(IWMS)に含まれていた) 27,500
※うち20,000は中間貯蔵、7,500はNWF監督等
20,000は一般、7,500はNWF
国防環境クリーンアップ
(Defense Environmental Cleanup)
廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP) WIPP操業ほか
(換気システム等の設備更新を含む)
430,424 一般
独立機関 原子力規制委員会(NRC) 高レベル放射性廃棄物処分 (高レベル放射性廃棄物処分場の許認可審査) 0 NWF
放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB) 活動費 (DOE研究開発活動の評価等) 3,800 NWF
NWF:放射性廃棄物基金

【出典】

 

【2021年10月22日追記】

米国の連邦議会は2021年9月30日に、2022会計年度(2021年10月1日~2022年9月30日)のうち、2021年10月1日~2021年12月3日を対象とした継続歳出法案(H.R.5305)を可決した。可決された継続歳出法案は同日に、大統領の署名を得て法律(Public Law No.117-43)として成立した。継続歳出法案の審議過程については、2021年9月21日に連邦議会下院本会議で可決された後、上院で修正が加えられたため、最終的に2021年9月30日に、上院本会議では65対35で、下院本会議では254対175で、それぞれ賛成多数で可決された。継続歳出法の成立により、米国での予算の空白が当面は回避されたことになる。

今回成立した継続歳出法(Public Law No.117-43)は、2021年12月3日までの期間について、前年度に当たる2021会計年度包括歳出法(H.R.133、Public Law No.116-260)で規定された予算と同じレベルでの歳出を認めるものである。継続歳出法による予算は、原則として前年度予算と同率で比例配分されるが、特段の規定がない限り、前年度に未計上の事業・プログラム等の実施は認められないことになっている。なお、2022会計年度の継続歳出法(Public Law No.117-43)では、ユッカマウンテン処分場関連、廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)関連、中間貯蔵施設関連を含め、放射性廃棄物の貯蔵・処分に関する特段の規定はない。

一方、放射性廃棄物処分関連の2022会計年度の歳出法案については、連邦議会下院で2021年7月29日に、「2022会計年度エネルギー水資源開発歳出法案」(H.R. 4549)を含む包括歳出法案(H.R.4502)が可決されている。また、上院では、上院歳出委員会が2021年8月4日に「2022会計年度エネルギー・水資源開発歳出法案」(S.2605)を承認して上院本会議に提出したが、これまで上院での実質的な審議は行われていない。なお、上院版の歳出法案(S.2605)及び付随する上院歳出委員会報告書(S.Rept.117-36)では、下院版歳出法案(H.R.4549)と同額の放射性廃棄物処分関連予算が計上されている(2021年8月2日の記事での予算の表を参照)。

また、2022会計年度の上院版歳出法案(S.2605)においては、前年度までの上院版歳出法案と同様に、連邦中間貯蔵施設のパイロットプログラムの実施等をエネルギー長官に命じる規定が置かれている。しかし、上院版歳出法案(S.2605)に付随する上院歳出委員会報告書(S.Rept.117-36)では、下院版歳出法案(H.R.4502)付随の下院歳出委員会報告書(H.Rept.117-98)での連邦中間貯蔵施設のサイト選定に向けた活動に係るエネルギー長官への指示や、研究開発予算に関連した指示は示されていない。

【出典】

 

【2022年6月23日追記】

米国の連邦議会資料室は2022年6月に、「2022会計年度5 包括歳出法」(Public Law No.117-103、以下「包括歳出法」という。)の公式ファイルを連邦議会資料室ウェブサイトで公表した。2022会計年度の歳出予算については、2022年3月10日に、2022会計年度のエネルギー・水資源開発分野を含む包括歳出法案(H.R.2471)が可決され、2022年3月15日に大統領の署名を得て法律として成立していたが、これまで、最終的な包括歳出法のファイルは公表されていなかった。なお、包括歳出法では、ユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可手続きの再開等のための予算は計上されていない。

包括歳出法及び付随する説明文書(Explanatory Statement、以下「付随説明文書」という。)で規定された放射性廃棄物処分関連の予算は、以下に示す2つのプログラムで予算額が変更になっている。

  • 使用済燃料処分等研究開発(Used Nuclear Fuel Disposition R&D):50,000千ドル(57億5,000万円、1ドル=115円で換算)
    ※2022会計年度の歳出法案及び歳出委員会報告書での62,500千ドル(71億8,750万円)から減額
  • 廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP):443,424千ドル(約509億9,380万円)
    ※2022会計年度の歳出法案及び歳出委員会報告書での430,424千ドル(約494億9,880万円)から増額

包括歳出法の付随説明文書では、高レベル放射性廃棄物管理に係るものとして、以下のような指示が示されている。

  • 使用済燃料処分等研究開発(Used Nuclear Fuel Disposition R&D)
    うち5,000千ドル(5,750万円)は、TRISO燃料や金属燃料を用いる先進炉から発生する使用済燃料に対応するための、先進炉使用済燃料処分の予算とすること。
  • 統合放射性廃棄物管理システム(IWMS)
    DOEは、使用済燃料が残置された廃止措置された原子炉サイトにおけるサイト準備活動を継続するとともに、地域輸送の再開について評価し、輸送に関する調整の取組みを実施すること。

 

【出典】


  1. 米国における会計年度は、前年の10月1日から当年9月30日までの1年間となっており、今回対象となっている2022会計年度の予算は2021年10月1日からの1年間に対するものである。 []
  2. 1982年放射性廃棄物政策法(1987年修正)では、原子力規制委員会(NRC)が処分場の建設認可を発給するまでは監視付き回収可能貯蔵(MRS)施設(集中中間貯蔵施設)の建設を禁じるなど、中間貯蔵施設の開発について処分場開発の進展と関連付けた制限規定が置かれている。 []
  3. 廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)については、DOE予算要求書では保障措置・セキュリティ予算の一部として別途6,806千ドル(約7億1,460万円)が要求されており、総額は437,230千ドル(約459億920万円)とされているが、歳出法案及び委員会報告書では保障措置・セキュリティ予算の内訳が明示されていないため、保障措置・セキュリティ予算を除くWIPP関連の歳出予算額を示している。 []
  4. 2020年12月27日に成立した2021会計年度包括歳出法(H.R.133、Public Law No.116-260として成立)では、付随する説明文書において、WIPP関連の道路使用やインフラ改善に係る将来の資金需要について、法の成立後90日以内に上下両院の歳出委員会に報告書を提出することを指示していた。 []
  5. 米国における会計年度は、前年の10月1日から当年9月30日までの1年間となっており、今回対象となっている2022会計年度の予算は2021年10月1日からの1年間に対するものである。 []