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《スイス》NAGRAが地層処分場の地質学的候補エリアの地質に関する知見についての報告書をENSIに提出-NAGRAは現在有する知見により予備的安全評価が可能と判断-

スイスの連邦エネルギー庁(BFE)は、2010年11月25日付のプレスリリースにおいて、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)が、地質学的候補エリアに関して現在有する地質に関する知見についての充足度を取りまとめた報告書を連邦原子力安全検査局(ENSI)に提出したことを公表した。この報告書は、特別計画「地層処分場」の方針部分(以下「特別計画」という)に基づくサイト選定手続の第2段階で実施される予備的安全評価、及び安全性の観点からのサイトの比較のため、地質学的候補エリアに関する知見が十分であるか、第2段階においてボーリング調査等の追加調査1 が必要であるかを示したものとされている。NAGRAは結論として、現在有する知見及び第2段階で得られる知見により、全ての地質学的候補エリアに関する予備的安全評価とサイトの比較が可能であるとしている。

スイスでは、2008年4月に連邦政府によって策定された特別計画に基づいて、3段階からなるサイト選定手続が進められている。特別計画によれば、第1段階では地質学的候補エリアが選定され、第2段階で2カ所以上の候補サイトが選定され、第3段階において概要承認 が発給され、サイトが決定されることとなっている。特別計画は、サイト選定の第3段階において、必要に応じて弾性波探査やボーリング調査といった地球科学的調査を実施すべきことを規定する一方で、処分義務者に対して、第2段階で実施される予備的安全評価の実施のための追加調査の必要性をENSIとともに早期に検討するよう規定している。今回、NAGRAが公表した報告書は、この追加調査の必要性を検討したものである。なお、2008年10月にNAGRAが提案した高レベル放射性廃棄物処分場のための3カ所の地質学的候補エリアの母岩は、すべてがオパリナス粘土という堆積岩である

プレスリリースによれば、NAGRAは報告書において、スイスではこれまでに、弾性波探査や物理探査、ボーリング調査、露頭の調査、トンネルの掘削、地質学的マッピング、及び地下研究所から得られた膨大な情報が、地質学的候補エリア毎に既に存在することを指摘している。その上で、予備的安全評価とサイトの比較を行う上で、現在有している安全性、技術的実現可能性、母岩及び母岩周囲の岩盤の特性、水文地質学、放射性核種の移行、地球化学的条件、生物圏などに関する定量的情報が十分であるかを調査したとしている。

また、現在有する知見で予備的安全評価とサイトの比較の実施が可能かを検証するためにテスト計算を行った結果、NAGRAは、現在の知見と第2段階で得られる知見により、信頼できる定量的評価が可能であるという結論に達したとされている。第2段階で補完される知見は、地形、母岩、地下資源の賦存状況、水文地質学的状況、長期的な地質学的変遷、処分場の設計、ガスの発生と移行などに関する調査により得られるとされている。さらに、NAGRAは、第三者が地熱の調査等を目的として実施するボーリング調査に参画して情報を収集する他、高レベル放射性廃棄物の地質学的候補エリアにおける弾性波観測網の稠密化を計画しているとされている。

プレスリリースによると、今後、報告書はENSIと原子力安全委員会(KNS)により審査され2 、地質学的候補エリアの立地州にも提出され、意見聴取が実施された上で、2011年第1四半期にENSIによる審査結果が公表される。また、第2段階の進行中には、知見の状況を関係官庁が再検討し、それに基づいて、NAGRAが第3段階でのサイト選定のために、どの候補サイトにおいて原子力法上の許可が必要とされる地球科学的調査を実施するのかを確定すべきとしている。

なお、プレスリリースには、第2段階以降のスケジュールが次のように示されている。従来のスケジュールでは、2014/15年に第2段階が終了し、2018/19年には第3段階が終了するとされていた

  • 2011年秋から2015/16年(第2段階):低中レベル放射性廃棄物及び高レベル放射性廃棄物のそれぞれに少なくとも2つの処分場候補サイトを選定
  • 2015/16年から2019/20年(第3段階):NAGRAが候補サイトに関する詳細な調査等を実施した上で、概要承認申請を提出

参考:特別計画が規定するサイトの安全性に関する段階毎の評価

特別計画の付属書Ⅲでは、3段階で進められるサイト選定の段階毎の安全性に関する評価の目的や内容、及び進め方が示されている。また、第2段階で行われる予備的安全評価及びサイトの比較の詳細について、ENSIは2010年4月に、「予備的安全評価と安全性の比較に係る要件」を策定している。以下、これらの文書により、スイスの地層処分場のサイト選定における段階毎の安全性に関する評価について示す。

第1段階 安全性に関するジェネリックな検討

安全性に関するジェネリックな検討は、処分すべき放射性廃棄物のインベントリから天然バリアの定量的要件と基準を導出し、下の表に示すサイトの評価基準をできるだけ定量化することを目的としている。定量化においては、指針ENSI-G03「地層処分場の設計原則とセーフティケースに関する要件」が定める防護基準である0.1mSv/年が適用される。特別計画によれば、この安全性に関するジェネリックな検討は、地層処分場のセーフティケースそのものではないとされている。

特別計画が規定する安全性と技術的実現可能性に関するサイトの評価基準
基準グループ 基準
1.母岩ないし有効な閉じ込めエリアの特性 1.1 サイト規模
1.2 水力学的バリア機能
1.3 地球化学的条件
1.4 放出経路
2.長期安定性 2.1 サイト・岩盤特性の安定性
2.2 侵食
2.3 処分場による影響
2.4 地下資源の利用による影響
3.地質学的知見の信頼性 3.1 岩盤の特性の評価可能性
3.2 空間的(spatial)な条件の調査可能性
3.3 長期的変化の予測可能性
4.建設上の適性 4.1 岩盤力学的特性と条件
4.2 地下坑道の掘削と排水

なお、NAGRAは、安全性に関するジェネリックな評価の結果を技術報告書08-03「低中レベル放射性廃棄物処分場及び高レベル放射性廃棄物処分場の地質学的候補エリアの提案 要件、手続及び成果」(2008年10月)において取りまとめており、ENSIはそれに対する評価を「地質学的候補エリアの提案に対する安全性の評価報告書」(2010年1月)として公表している

第2段階-1 予備的安全評価

予備的安全評価は、放射性廃棄物の閉じ込めにおける個々のバリアの性能及びその挙動の解明と、第1段階で選定されたそれぞれの地質学的候補エリアにおける線量の評価値が、防護基準である0.1mSv/年以下にあることを立証することを目的とする。予備的安全評価の結果は、サイトの安全工学的な比較に用いられるとともに、それにより、概要承認の申請時に必要とされるデータを収集するために第3段階においてどのような調査が必要となるかが明らかになるとされている。

第2段階-2 サイトの比較

サイトの比較は、予備的安全評価の結果に基づき、安全性に関する観点から明らかに他より適性が劣ると評価されるサイトを提案しないようにし、また基礎的なデータに内在する不確実性のみに起因する線量の相違を理由としてサイトを除外しないようにすることを目的としている。サイトの比較は、レファレンスケースによる評価結果、パラメータ変動時の評価結果及び安全性と技術的な実現可能性に関する諸基準の定性的評価に基づき行われる。

第3段階 概要承認手続のための安全評価

これは、原子力法及び原子力令の規定に従って、概要承認段階において要求される安全性に関する立証を行うものである。原子力法、原子力令及びENSI-G03の要件の遵守が求められており、またサイトの予備的安全評価は、この段階に対応して詳細化し、包括的なシナリオ解析とリスク解析によって補完すべきとされている。

【出典】

  1. 原子力法は、地層処分場に関する情報収集を目的として実施される、ボーリング調査や地下研究所による地球科学的調査には、環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)の許可が必要であることを規定している。 []
  2. ENSIが2010年4月に策定した「予備的安全評価と安全工学的側面の比較に係わる要件」は、今回NAGRAが作成した報告書を、ENSIが審査し、追加的な調査の必要性について判断を行うべきことを規定している。 []

(post by y-nishimura , last modified: 2023-10-11 )