Learn from foreign experiences in HLW management

《フランス》地層処分場の設置許可申請書の技術審査の第3段階の結果が公表

フランスの規制機関である原子力安全・放射線防護機関(ASNR)は、2025年7月8日付のプレスリリースにおいて、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が2023年1月にフランス政府に提出した地層処分場(Cigéo)の設置許可申請書に関して、技術審査の最終段階である第3段階の評価結果を公表した。今回公表したのは、Cigéoの閉鎖後の安全性の評価結果に関するものである。技術審査の評価結果は、ASNRの環境研究・専門知識部門(PSE-ENV)による意見書と専門報告書並びに廃棄物常設専門家グループ(GPD)の意見書として取りまとめられている。GPDは、Cigéoの閉鎖後の安全性に関するANDRAによる立証は、適切なアプローチに基づいており、設置許可申請の段階に必要な成熟度に達していると評価している一方、廃棄物中のセレンの溶解特性や母岩の水理学的特性に関する知識の拡充に向けた取組を継続する必要性があること等を指摘している。

■評価の課題と経緯

技術審査は、以下の3つの主な課題と横断的課題について行われており、課題1から始められ、前の課題の評価結果を踏まえて次の課題の審査が行われた。また、横断的課題の審査は課題1から3の審査と並行して行われた。課題1の審査結果は2024年6月10日に、課題2の審査結果は2025年1月16日に、それぞれ公表されている。

  • 課題1: Cigéoの安全評価に使用されている基礎データの評価
  • 課題2: 地上、地下施設の操業時の安全評価
  • 課題3: 閉鎖後の安全評価
  • 横断的課題: 課題1~3の検討を通じたパイロット産業フェーズでの安全性の立証の評価、廃棄物パッケージの回収可能性の操業時・閉鎖後の安全性への影響等

課題3の技術審査の経緯は以下の通りである。

  • Cigéoの設置許可申請当時の規制機関である原子力安全機関(ASN)は2023年6月7日付の書簡により、放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)に対し、ANDRAによる処分施設の設計規定、建設・操業規定の妥当性について、閉鎖後安全性に関する以下の観点からの専門的評価を依頼した。

        – 処分システムの長期的な変遷に関する通常変遷シナリオ及び代替変遷シナリオの定義に基づく閉鎖後安全への対策

        – 内部及び外部リスクに関する処分システムの性能評価

        – 各シナリオに関連する放射線学的及び化学的影響の評価

  • IRSNは上記の書簡に基づく評価を進めたが、ASNとIRSNは2025年1月1日に統合され、現在の規制機関であるASNRが設立された。ASNRの設立以降は、ASNR内の環境研究・専門知識部門(PSE-ENV)が評価作業を引き継ぎ、2025年6月6日に評価結果を意見書と報告書として取りまとめた。
  • ASNR内に設置された廃棄物常設専門家グループ(GPD)は、2025年5月13日付のASNRからの書簡での要請により、他の常設専門家グループのメンバー並びに環境研究・専門知識部門(PSE-ENV)の支援を受けて評価を進め、2025年6月25日と26日に開催された会合を経て、GPDとしての意見書を取りまとめた。
  • 環境研究・専門知識部門(PSE-ENV)並びに廃棄物常設専門家グループ(GPD)における評価では、設置許可申請書の記載事項とともに、技術審査の途中でANDRAから得られた追加情報や、2025年5月28日にANDRAがASNRに提示した約束事項が検討対象とされた。
  • 廃棄物常設専門家グループ(GPD)の意見書を受け、ASNRは、課題3の技術審査の結果を2025年7月8日付のプレスリリースにて公表した。

■課題3「閉鎖後の安全評価」の評価結果

課題3「閉鎖後の安全評価」に関する廃棄物常設専門家グループ(GPD)の主な評価結果は以下の通りである。

閉鎖後安全に関するアプローチ

  • ANDRAによるCigéo閉鎖後の安全評価では、処分場の変遷に伴うリスクと不確実性の分析を行い、その後、処分場の閉じ込め能力の評価を行い、処分場の複数の変遷シナリオ(表1参照)を通じてこれらのリスクと不確実性を評価している。防護目標の遵守は、これらのシナリオで推定される健康及び環境への影響に基づいて検証されている。廃棄物常設専門家グループ(GPD)は、この安全アプローチは、ANDRAが2016年に提出した安全オプション書類に示した内容並びにASNによる地層処分に関する安全指針や国際慣行と整合的であると判断している。
  • 「代替変遷シナリオ」及び「What-ifシナリオ」(表1参照)について、廃棄物常設専門家グループ(GPD)は、ANDRAが2016年に提出した安全オプション書類で示したシナリオに加え、処分場の母岩に検出されていない不連続面があった場合の影響を検討していることや、操業期間中に処分坑道が崩落した場合の長期安全への影響を検討していることについて、満足できるものと評価している。

表1:ANDRAによる処分場の変遷シナリオの種類と放射線防護目標

規制機関による安全指針における安全解析対象

ANDRAによる処分場の変遷シナリオ

ANDRAによる放射線防護目標

レファレンス状態

通常変遷シナリオ

処分施設と地質環境の予見可能な変遷に対応し、すべての安全機能が満たされるシナリオ。

Cigéo処分場の閉鎖後10,000年までの線量拘束値を0.25mSv/年とする。この期間経過後は、同値を基準値として維持する。

変動状態

代替変遷シナリオ

不確実ではあるが、もっともらしい事象を想定し、性能の劣化や安全機能の一部喪失につながる可能性のある、地層処分場施設の構成要素の不具合の影響を評価することを目的とするシナリオ。

その影響が、確定的影響をもたらす可能性のあるレベルよりもはるかに低いレベルにとどまることを確認する。

What-ifシナリオ

処分システムのロバスト性をテストするために、極めて発生可能性が低い事象を想定したシナリオ。

その影響が、確定的影響をもたらす可能性のあるレベルよりも低いレベルにとどまることを確認する。

意図的でない人間侵入シナリオ

地層処分施設に関する記録の喪失後に掘削されたボーリングによる地層処分施設への侵入等に関する様式化されたシナリオ。

通常変遷シナリオの結果

図1 地層処分場(Cigéo)の模式図(ANDRAの設置許可申請書を元に原環センターにて加筆)

  • 「通常変遷シナリオ」の場合、被ばく線量が最大となる状態でも、防護目標(表1参照)を下回っているか、同程度にとどまっている。また、ANDRAは、「通常変遷シナリオ」において、放射性核種の母岩中の拡散による生物圏への移行が、処分場の立坑や斜坑(図1参照)を通じた生物圏への移行よりも卓越していると結論付けている。廃棄物常設専門家グループ(GPD)は、ANDRAによる計算結果は、環境研究・専門知識部門(PSE-ENV)により別途行われたモデル化によって裏付けられており、通常の状況における処分場の良好な閉じ込め能力を示すものと評価している。
  • 「通常変遷シナリオ」において、母岩中を移行して生物圏での被ばくに寄与する主な放射性核種は、長寿命で溶解性と移動性の高い放射性核種であるI-129、Cl-36であるが、化学種によりSe-79がこれに含まれる。ANDRAはSe-79を多く含む長寿命中レベル放射性廃棄物中のSe-79の化学種を、保守的に、全て最も移動性の高いSe(VI)と設定している。これに関連し、廃棄物常設専門家グループ(GPD)は、防護目標に対する裕度を確保するため、セレンの移動性と母岩の水理学的特性に関する知識の拡充に向けた取組を継続する必要性を指摘している。

「代替変遷シナリオ」、「What-ifシナリオ」及び「意図的でない人間侵入シナリオ」の結果

  • 廃棄物常設専門家グループ(GPD)は、ANDRAによる放射線による健康影響の評価手法並びに関連する定性的な防護目標(表1参照)は、規制機関による現行の指針と全体的に整合していると指摘している。
  • 「代替変遷シナリオ」、「What-ifシナリオ」に関して、坑道のプラグの破損や高レベル放射性廃棄物処分容器の早期破損、あるいは操業中に処分坑道が崩壊した場合のシナリオでは、「通常変遷シナリオ」と同程度の被ばく影響が生じる。廃棄物常設専門家グループ(GPD)は、これらのシナリオが、処分システム全体の閉じ込め性能に影響を及ぼさないことを指摘している。
  • 検知できなかった断層が長寿命中レベル放射性廃棄物の処分坑道を横切っており、地上への短絡的な水みちが生じたと仮定する「What-ifシナリオ」では、被ばく影響は数10mSv/年程度となっている。この結果について、廃棄物常設専門家グループ(GPD)は、採用したシナリオの発生確率が非常に低く、評価の前提となる仮定が厳しいことを指摘するとともに、処分システムのロバスト性を疑問視するものではないと指摘している。

■廃棄物常設専門家グループ(GPD)による評価の結論

廃棄物常設専門家グループ(GPD)は、これまでに評価を行った「課題1:Cigéoの安全評価に使用されている基礎データの評価」と「課題2:地上、地下施設の操業時の安全評価」並びに今回評価を行った「課題3:閉鎖後の安全評価」の全体を通じ、以下のような結論を示している。

  • ANDRAが地層処分システムの構成要素とその長期的な変遷、及び廃棄物パッケージのインベントリについて得た知識は、処分施設の安全性の立証のための強固な基盤となるものと判断した。
  • ANDRAによる操業リスク及び処分孔・処分坑道内の廃棄物パッケージの回収可能性に関する立証は、大きな進展を遂げている。
  • ANDRAによる地層処分場の閉鎖後安全性の立証は、処分システムの優れた閉じ込め能力と、長期的な変遷に伴うリスクや不確実性に対するロバストな挙動を反映している。
  • 廃棄物受入基準(WAC)の草案は、廃棄物パッケージに関する知識、処分場の設計の基礎並びに操業中及び閉鎖後の安全評価の仮定や結果と整合的な要件を反映したものであると考えている。
  • 地層処分場の操業中及び閉鎖後の安全性の立証は、設置許可申請の段階では全体として必要な成熟度に達しており、今後は、さらに完成度を高め、強化していく必要がある。
  • 地層処分場は、設置許可の発給後、約30年間のパイロット産業フェーズにおいて、処分施設の周辺地質環境や実際の操業を反映した条件下での調査や試験により、その安全性を立証することとなっている。廃棄物常設専門家グループ(GPD)は、設置許可申請書の審査において指摘した主要な点が、パイロット産業フェーズ中に予定されている評価会議で検討されることを希望する。
  • 高レベル放射性廃棄物の処分区画の北側で検出された深部構造に関する知識、処分場地下施設の設計変更につながる可能性のある施設の区画化や火災時の対応措置の変更などの追加情報、長寿命中レベル放射性廃棄物の処分坑道の閉鎖並びに高レベル放射性廃棄物の処分孔での操業に関する操業安全性の立証、ならびに処分施設のモニタリングに関する規定については、関連する構造物の掘削前に評価を行う必要がある。
  • 閉鎖後長期の放射性核種の閉じ込めに関する重要な構成要素である坑道プラグ等については、パイロット産業フェーズ中の評価会議に向けて、追加情報が必要である。また、アスファルト固化体については、その処分条件の検討を継続する必要がある。

■設置許可発給までの今後の流れ

今回の廃棄物常設専門家グループ(GPD)の意見書を受けASNRは、設置許可申請書の技術審査結果について、2025年11月に最終的な見解を公表する予定である。

その後、国家評価委員会(CNE)や議会科学技術選択評価委員会(HCTISN)等からの見解が示された後、パブリックコンサルテーションが行われる。さらに、その後、各機関の見解並びにパブリックコンサルテーションにおける意見を基に、国務院(コンセイユ・デタ)における審議を経て、政府が設置許可を政令(デクレ)として発給する予定である。

【出典】

(post by eto.jiro , last modified: 2025-07-24 )