スイスの環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)及び連邦エネルギー庁(BFE)は、2008年11月6日付のプレスリリースにおいて、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)が提案している地層処分場の建設に適した地質学的候補エリアを公表した。公表された地質学的候補エリアは、低中レベル放射性廃棄物(LILW)及び高レベル放射性廃棄物(HLW)に対してそれぞれ6エリア及び3エリアで、NAGRAが2008年10月末にBFEへ提出していた報告書において示されていたものである。今後、約10年間にわたる3段階の選定手続きによって、詳細な検討が行われて処分場サイトが絞り込まれる予定となっている。
スイスでは、放射性廃棄物の処分場サイトを透明性の高い参加型手続によって評価・選定するため、サイト選定基準や手続を特別計画「地層処分場」(以下「特別計画」という)の方針部分(詳細は こちら)に規定することとしている。この特別計画は2008年4月に連邦評議会によって承認されていた 。特別計画では、3段階の手続でサイト選定を行うこととなっており、第1段階は、廃棄物処分義務者(実際には放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA))が特別計画に示されている安全及び技術的な実現可能性に関する基準に従い選定した地質学的候補エリアを提案することで開始される。NAGRAでは、2008年中に地質学的候補エリアを提案するために準備を進めていた 。
今回、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)によって提案された地質学的候補エリアは以下の通りである。ただし、地質学的候補エリアの提案は、サイトの決定を意味するものでなく、今後の検討のための基礎となるものであるとされている。なお、高レベル放射性廃棄物(HLW)の地質学的候補エリアでは、全ての種類の放射性廃棄物を同一サイトに処分することも検討されることとなっている。
放射性廃棄物 | 地質学的候補エリア | 面積 | 岩種 |
---|---|---|---|
高レベル放射性 廃棄物(HLW) |
チュルヒャー・ヴァインラント (チューリッヒ州・トゥールガウ州) |
約50km2 | オパリナス粘土 |
北部レゲレン (チューリッヒ州・アールガウ州) |
約65km2 | オパリナス粘土 | |
ベツベルク (アールガウ州) |
約27km2 | オパリナス粘土 | |
低中レベル放射性 廃棄物(LILW) |
ジュートランデン (シャフハウゼン州) |
約24km2 | オパリナス粘土 |
チュルヒャー・ヴァインラント (チューリッヒ州・トゥールガウ州) |
約50km2 | オパリナス粘土 | |
北部レゲレン (チューリッヒ州・アールガウ州) |
約65km2 | オパリナス粘土 | |
ベツベルク (アールガウ州) |
約60km2 | オパリナス粘土 | |
ジュラ・ジュートフス (ゾロトゥルン州・アールガウ州) |
約65km2 | 西部:オパリナス粘土 東部:泥灰岩(マール) |
|
ヴェレンベルク1) (ニドヴァルデン州・オプヴァルデン州) |
約6km2 | 泥灰岩 (マール) |
【注1】
ヴェレンベルグでは、1994年に低中レベル放射性廃棄物処分場が計画されたが、1995年及び2002年に2度の州民投票が実施された。2度とも否決されたため計画は断念された。
プレスリリースによれば、地質学的候補エリアの住民を対象とする説明会が2008年11月18日から12月17日にかけて順次開催される。説明会では、州政府の代表、連邦エネルギー庁(BFE)、原子力施設安全本部(HSK)、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)が説明を行い、住民からの質問に答えるとされている。また、今後、連邦政府は州と協力して、関係自治体及び地域住民がサイト選定手続に参加できるよう準備を進め、自治体や住民の利益や要望が考慮されるように進めていくことが示されている。
また同プレスリリースによれば、NAGRAは、原子力法によって提出が義務付けられている放射性廃棄物管理プログラムも地質学的候補エリアに関する報告書と同時にBFEに提出している。
【出典】
- 環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)、2008年11月6日付プレスリリース
http://www.uvek.admin.ch/dokumentation/00474/00492/index.html?lang=de&msg-id=22594 - 連邦エネルギー庁(BFE)、2008年11月6日付プレスリリース
http://www.bfe.admin.ch/energie/00588/00589/00644/index.html?lang=de&msg-id=22594 - 放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)ウェブサイト http://www.nagra.ch/
- 特別計画「地層処分場」方針部分(2008年4月2日)
http://www.news-service.admin.ch/NSBSubscriber/message/attachments/11679.pdf〔約5MB〕
【2008年11月21日追記】
地層処分場の地質学的候補エリアが含まれる7つの州は、連邦エネルギー庁(BFE)による2008年11月6日の処分場の地質学的候補エリアの公表を受けて、同日付でプレスリリースを発表した。これらのプレスリリースでは、トゥールガウ州以外の6つの州政府は、地質学的候補エリアに選定されたことに対する否定的な見解を示している。このうち、高レベル放射性廃棄物(HLW)処分場の地質学的候補エリアを含むチューリッヒ州は、同州が空港や金融など、スイス全体の中で占める特別な負担が多いとして、提案を拒否するとしている。また、同じくHLW処分場の地質学的候補エリアを含むアールガウ州は、すでに州内に2つの原子力発電所と1つの中間貯蔵施設があることから、原子力分野における全ての義務を負うことはできないとしている。一方、トゥールガウ州は、今後のサイト選定手続に対して積極的な協力を行うとしている。
- チューリッヒ州政府、2008年11月6日付プレスリリース
http://www.sk.zh.ch/internet/sk/de/mm/2008/285.html - アールガウ州政府、2008年11月6日付プレスリリース
http://www.ag.ch/medienmitteilung/de/pub/medienmitteilungen.php?controller=Mitteilung&MitteilungsId=4720&navId=Medienmitteilungen - シャフハウゼン州政府、2008年11月6日付プレスリリース
http://www.sh.ch/News.316.0.html?&tx_ttnews[pointer]=1&tx_ttnews[tt_news]=259&tx_ttnews[backPid]=1&cHash=e68373468b - ゾロトゥルン州政府、2008年11月6日付プレスリリース
http://www.so.ch/fileadmin/internet/sk/sksek/pdf/medienmitteilungen/2008/november/pmSachplanTiefenlager.pdf - ニドヴァルデン州政府、2008年11月6日付プレスリリース
http://www.nw.ch/dl.php/de/4912de8b961dc/11-06_tiefenlager.pdf - オプヴァルデン州政府、2008年11月6日付プレスリリース
http://www.ow.ch/dl.php/de/4912dbff969d1/08_87_Ablehnung_Tiefenlager_Wellenberg.pdf - トゥールガウ州政府、2008年11月6日付プレスリリース
http://www.tg.ch/xml_1/internet/de/file/modul/news/html.cfm?config=4608F97F-E7F2-64D4-A05B83C3558022BB&did=1&lid=1&lg=DE&userLG=DE&newsID=11368&archiv=1
【2009年5月7日追記】
連邦エネルギー庁(BFE)は、2009年5月1日付のプレスリリースにおいて、環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)が、サイト選定手続の実施において独立した立場で同省を支援する処分場諮問委員会を設置し、委員長を含む6名の委員を任命したことを公表した。本委員会は、特別計画「地層処分場」でUVEKが設置することになっていたものであり、その任務として以下が示されている。
- サイト選定手続において紛争・リスクを早期に把握し、解決策を立案するための支援を行う。
- 国家的観点から立場、見解、意見を評価し、UVEKへの勧告を行う。
- サイト選定手続において独立した見解を示すとともに、UVEKに助言を行う。
- ステークホルダー間の対話を推進し、連邦の広報活動を支援する。
【追記出典】
- 連邦エネルギー庁(BFE)、2009年5月1日付プレスリリース
http://www.bfe.admin.ch/energie/00588/00589/00644/index.html?lang=de&msg-id=26683 - 特別計画「地層処分場」方針部分(2008年4月2日)
http://www.news-service.admin.ch/NSBSubscriber/message/attachments/11679.pdf〔約5MB〕
【2009年6月22日追記】
連邦原子力安全検査局(ENSI)は、2009年6月19日付のプレスリリースにおいて、特別計画「地層処分場」の枠組みの中で設置された安全技術フォーラムが、2009年6月18日に最初の会合を開いたことを公表した。同フォーラムは、連邦エネルギー庁(BFE)、ENSI、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)、州などの専門家やサイト地域の代表から構成されるもので、安全性と地質についての住民や地質学的候補エリアの自治体等からの質問を検討し、回答するものである。同フォーラムは年4回開催され、寄せられた質問とその回答は公開されることとなっている。
【追記出典】
- 連邦原子力安全検査局(ENSI)、2009年6月19日付プレスリリース
http://www.ensi.ch/index.php?id=165&tx_ttnews[tt_news]=228&tx_ttnews[backPid]=1&cHash=8692ad610b - 安全技術フォーラム・ウェブサイト
http://www.bfe.admin.ch/radioaktiveabfaelle/01277/01309/01327/02622/index.html?lang=en
(post by 原環センター , last modified: 2023-10-10 )