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以前のリビジョンの文書です
英国における高レベル放射性廃棄物処分
[3] 根拠に基づく情報提供の照会とは?
英国などでは、政策の検討プロセスのなかに、Call for Evidence が取り入れられており、有用なデータを広く収集できるしくみを整えています。寄せられた情報を基にして、より質の高い頑健な政策を立案できると考えられています。
2013年1月にカンブリア州西部の自治体がサイト選定プロセスから撤退するとの決定を受けて、2013年5月に英国政府は現行のサイト選定プロセスを見直すべく、「根拠に基づく情報提供の照会」(Call for Evidence[3]. 以下「情報提供の照会」という。)を行いました。情報提供の照会は、これまでのサイト選定プロセスに関する経験から教訓を見出すため、特にサイト選定プロセスに参画した者、関心を持って観察してきた者から見解を収集するねらいです。
英国政府は、サイト選定プロセスについての改善点、自治体の自発的な参加を促すための手段について、以下のような質問を用意しました。
情報提供の照会は約1カ月行われ、その結果、個人から99通、カンブリア州、カンブリア州アラデール市及びコープランド市などの自治体や企業などから86通の回答が得られました。
これらの回答に基づいて、英国政府は2013年9月に協議文書『地層処分施設のためのサイト選定プロセスのレビュー』を公表しました。この文書は、公衆協議(約3カ月間)の目的で用意されたものであり、地層処分の政策に関する背景情報、2008 年の白書に基づく現行のサイト選定プロセスの変更・改善案を説明し、これらの提案に関する具体的な質問を提示する形で公衆からの見解を求めました。この協議文書のなかで英国政府は、地元の自発性及びパートナーシップに基づくアプローチは現行プロセスと同様に維持しつつ、自治体が十分に準備を整える前に、何らかの約束をせまられる状況に追い込まれないように配慮したいとの考えを示しました
公開協議では、個人及び地方自治体、関係機関などから719 件の見解が寄せられました。
英国政府は、公開協議で寄せたられた意見などを踏まえ、2014年7月に高レベル放射性廃棄物等の地層処分施設の設置に向けた新たなサイト選定プロセス等を示した白書『地層処分-高レベル放射性廃棄物等の長期管理に向けた枠組み』を公表しました。2014年7月の白書で英国政府が示した新たなサイト選定プロセスでは、サイト選定に関する活動の期間を大きく二つに分けています。
2014年~2016年の約2年間は、英国政府及び実施主体の「初期活動」と位置づけており、この期間では自治体に対し、地質、社会・経済的影響、自治体への投資等の地層処分施設に関連する情報の提供を行うことにしています。自治体が①地層処分に関する技術的事項、②実施主体と自治体との協働事項の両方に関して明確かつ証拠に基づいた情報を得ることにより、より安心してサイト選定プロセスに参加できるようになると考えられています。初期活動の期間では、以下の3 つの作業が実施されます。
なお、英国全土を対象とした地質学的スクリーニングは、今後自治体が地層処分施設の設置について検討する際に、必要な地質情報に容易にアクセスできるようにすることを目的として実施されるものです。地層処分施設の設置に「適格」または「不適格」なエリアの判定や絞り込みに使用するものではないと位置づけられています。
2016年以降の15~20年間では、関心表明した自治体と実施主体との正式な協議として、初期活動での成果に基づき、実施主体と自治体の間で地質調査の実施などに関する正式な協議に入ることになっています。サイト選定プロセスからの撤退権については、自治体が地層処分施設の設置についての住民の支持を調査・確認するまでは、いつでも撤退できるとしています。
地元に対する経済インセンティブとして、サイト選定プロセスに参加する自治体には、経済サポートとして年間100万ポンド(1億7,400万円)まで、さらにボーリング調査等が実施される自治体には年間250万ポンド(4億3,500万円)までの投資を行うとしています。
2014年白書に基づくサイト選定プロセスに沿って、英国政府と実施主体は「初期活動」として、地質学的スクリーニングに対する英国市民の認知度を高めることを目的とした技術イベントを英国主要都市で開催する計画です。また、技術イベントを通じて、地質学的スクリーニングの実施要領書の策定に向けた意見収集を図っています。
最初の技術イベントが2014年9月30日にロンドンで開催されました。今後、ブリストル、バーミンガム、マンチェスター、リーズ、ニューキャッスルでも技術イベントが開催される予定です。
英国政府は2008年6月に白書『放射性廃棄物の安全な管理-地層処分の実施に向けた枠組み』を公表し、地層処分場のサイト選定の進め方や初期スクリーニング基準(第2段階で使用)を明確化して、サイト選定を開始しました。英国のサイト選定プロセスは、地元の“主体的参加”と“地域とのパートナーシップ”を重視した公募方式です。サイト選定作業は、処分実施主体ではなく、英国政府が直接実施することになっており、エネルギー・気候変動省(DECC)が担当です。
サイト選定は、右に示す6段階で進められますが、大きく前半(第1~3段階)と後半(第4~6段階)にわかれています。
○第1~第3段階:
○第4~第6段階:
このサイト選定プロセスでは、地下での調査及び建設が始まるまで(第5段階の終了まで)は、自治体が選定プロセスからの撤退権を行使できることを政府が保証しているのが特徴です。政府は各段階の終了期限は明確にしていません。逆に、これらの段階は関心表明を行った自治体がたどる段階を示した形となっており、選定を進める側のステップではないことも特徴です。
政府は、2008年6月に白書を公表するとともに、サイト選定の第1段階として政府との協議の開始を希望する、将来処分場を受け入れる可能性のある自治体の募集を開始しました。これに対して、2008年7月には、ドリッグ低レベル放射性廃棄物処分場やセラフィールド酸化物燃料再処理工場(THORP)など多くの原子力施設が立地しているカンブリア州のコープランド市が、地層処分場選定に関する政府との協議への関心表明を提出しました。また、2008年12月にはカンブリア州が、さらに2009年2月には同州のアラデール市が関心表明を行いました。
カンブリア州西部の自治体について、2010年6月からはサイト選定プロセスの第2段階である初期スクリーニングが英国地質調査所(BGS)によって行われました。調査結果は、同年10月に公表されました。
初期スクリーニングは、地層処分場の地下施設の設置場所を特定することが目的ではなく、所定の除外基準(白書で事前に公表していた基準)に基づいて、明らかに不適格な区域を事前に明らかにすることであり、以降の段階での不要な作業を避けることが狙いです。
BGSは、調査対象をアラデール市とコープランド市の全域、及び沖合5kmまでとし、既存の文献情報をもとに、深度200~1,000mの範囲の地下条件と所定の除外基準を比較して除外区域を評価しました。除外された区域は右図のようになっています。
[4]西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップは、パンフレットの配布やワークショップを開催して、地元住民の処分プロジェクトに関する知識・理解力の強化を図りました。約3年間にわたって世論調査や公衆やステークホルダーからの意見を求めるために公衆協議を行い、それらを反映した最終報告書を取りまとめました。このパートナーシップの活動については、chap6で紹介しています。
カンブリア州西部のケースでは、サイト選定プロセスの第3段階において、第4段階へ進むかどうかを検討しました。
3つの自治体(1州2市)は、各自治体がサイト選定プロセスへの参加是非を判断する際の助言組織として、2009年に「西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップ」を発足させました。この組織は、地元住民の参画を得て関与プログラムを進め、3つの自治体に対する自身の意見及び勧告・助言をまとめた最終報告書を2012年8月に取りまとめました[4]。
3つの自治体は、この最終報告書などを参考にして、第4段階に進むかどうかの決定を行うため、2013年1月30日にカンブリア州議会、コープランド市議会、アラデール市議会で各々が議会投票を行いました。議会投票の結果は、コープランド市議会が賛成多数(賛成6、反対1)で第4段階に進むことを決議し、アラデール市議会も賛成多数(賛成5、反対2)でしたが、カンブリア州議会は反対多数(賛成3、反対7)となりました。第4段階に進むためには2市1州の合意が必要との覚書を締結していたため、サイト選定プロセスから撤退することとなりました。
カンブリア州議会は、サイト選定プロセスの第4段階に進むことに反対した理由として、カンブリア州西部の地質学的な適性に対する懸念やサイト選定プロセスにおける撤退権が法律によって担保されていないことを挙げています。また、3つの自治体のサイト選定プロセスからの撤退を受けて、サイト選定を管轄するエネルギー・気候変動省(DECC)の大臣は、以下のような声明を公表しました。
白書『地層処分の実施の枠組み』(2008年6月)
白書「放射性廃棄物の安全な管理-地層処分の実施に向けた枠組み」において政府は、高レベル放射性廃棄物等の地層処分施設を受け入れる地域社会は国家にとって不可欠な使命を自発的に引受けることになるとの認識を明示しています。処分場の立地地域の社会・経済的福利の発展に調和した振興方策を検討する必要性を認識する一方で、地層処分事業は処分場全体が最終的に閉鎖されるまで少なくとも100年かかり、地層処分施設の操業は数世代にわたる問題であることから、地域振興の問題も数世代にわたる要素を持っているとの認識です。
政府は、地域の短期的及び長期的なニーズは、施設を受け入れる地域社会ごとに異なる可能性があるので早まった判断を避け、地元地域、政府及び原子力廃止措置機関(NDA)などの協議により検討していく姿勢をとっています。
地層処分施設を受け入れることで地域社会が恩恵を受ける形の投資分野として、以下を例示しています。