米国の軍事起源のTRU廃棄物の地層処分場である廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)について、ニューメキシコ州環境省(NMED)は2023年8月15日に、資源保全・回収法(RCRA)に基づく許可1 の最終更新案(以下「許可更新案」という。)を公表した。WIPPで処分されるTRU廃棄物は、そのほとんどがRCRAが定める有害廃棄物に該当する放射性廃棄物(混合廃棄物)でもある。このため、WIPPを操業するエネルギー省(DOE)は、RCRAの下での規制権限を有するNMEDから10年ごとの許可更新を受ける必要がある。
WIPPは1999年に操業を開始した後、2010年にRCRAに基づく1回目の許可更新が行われている。今回の2回目の許可更新にあたり、NMEDはDOEに対して、WIPP計画策定における公衆参加プロセスの強化を求めるとともに、WIPPで最終処分を行う全米のレガシー廃棄物(legacy waste)の完全で透明性のあるインベントリを作成する必要性を強調している。
■WIPPに対するNMEDによる許可の更新
DOEは当初2020年3月にRCRAに基づく2回目の許可更新の申請書を提出していたが、その後、DOEは代替処分パネル(第11パネル及び第12パネル)の建設 を2021年7月にNMEDへ申請した。この代替処分パネルは、2014年2月の放射線事象 後に未使用のまま閉鎖された処分パネルの代替として新たに建設されるものである。NMEDは代替処分パネル建設に係る審査も10年ごとの許可更新手続の中で行うことを決定した。この決定を受けてDOEは、2022年3月に許可更新申請書の改定版を提出した。
NMEDは2022年12月20日に、許可更新案の草案を公表し、60日間の予定でパブリックコメントの募集を開始した。NMEDの許可更新案の草案には、代替処分パネルの追加などのDOEが提案した変更を承認する一方で、WIPPにおける処分容量増加への懸念やニューメキシコ州以外でも処分の取組を行うことの要求など、WIPPを巡る情勢が後述のように変化する中で、州や地元のステークホルダーとの関係の維持・強化のための独自の提案も織り込まれていた。
NMEDは2023年8月15日付プレスリリースにおいて、今回NMEDが公表した許可更新案は、NMEDとDOE、及びNMEDが許可手続参加を求めていたステークホルダー2 の間で2023年6月に締結された合意に基づくものであることを示している。NMEDは、許可更新に係る合意の成立を伝えた2023年6月27日付のプレスリリースにおいて、合意の主要なポイントを以下のように示している。
- WIPPにおける処分においては、ロスアラモス国立研究所(LANL)のものを含め、レガシー廃棄物の核兵器開発サイトからのクリーンアップ及び処分を優先する。
- ステークホルダーの声に対応する新たな報告書を通して、WIPPで最終処分を行う全米のレガシー廃棄物の完全で透明性のあるインベントリが必要である。
- 人間の健康や環境への脅威が確認された場合には、WIPPへの廃棄物輸送の停止を可能とする。
- 本許可更新で承認される2つの代替処分パネルに加えて、さらに新たな処分パネルを要求する際には、施設の最終面積を示すことが必要である。
- 仮に連邦議会がWIPPにおける処分容量や受入可能な廃棄物種類をレガシー廃棄物以外に拡張した場合には、許可の撤回と再発給のための手続を開始する。
- ニューメキシコ州以外の州におけるTRU廃棄物処分場3 の立地の進展について、新たな年次報告書による報告をDOEに義務付ける。
- WIPPの安全確保のため、施設周辺における石油・天然ガス生産や塩水処分の活動に係る監視を行う。
- 新たに強化した取組として、年3回のパブリックフォーラムの開催、コミュニティ・リレーションズ計画の更新に加えて、許可更新が複雑な変更を伴う際には、申請書提出前のミーティングの開催を義務化するなどにより、公衆参加プロセスを強化する。
- クリーンアップとWIPPでの処分を待つ全ての廃棄物残量の正確なインベントリを添付した許可更新申請書が適時に提出されない限り、10年の許可期限及び1992年WIPP土地収用法の処分容量制限に基づいてWIPPの閉鎖が決定される。
WIPPは、米国の過去の国防活動から発生したTRU廃棄物の処分のために設置された地層処分場であり、WIPPにおけるTRU廃棄物の処分量は、1992年WIPP土地収用法で620万立方フィート(約17.6万m3)と規定されている。WIPPでは、全米各地のDOEサイトからTRU廃棄物を受け入れてきているが、DOEは、クラスCを超える(GTCC)低レベル放射性廃棄物(GTCC廃棄物)の処分 や、余剰プルトニウムの希釈処分の推奨オプションとしてWIPPでの処分を挙げるなど、これまでとは異なる廃棄物処分の検討も行っており、ニューメキシコ州からは一部懸念も示されていた 。
■今後の予定
NMEDは2023年8月15日付プレスリリースにおいて、許可更新案に関するパブリックミーティングを2023年9月22日に開催するなど意見募集を行うとともに、2023年10月に最終の許可更新を行うとの方針を示している。なお、合意当初の2023年6月27日付プレスリリースでは、寄せられた意見のすべてに回答するが、合意内容の観点で許可更新案を変更することはないとの考えを示している。
【出典】
- ニューメキシコ州環境省(NMED)プレスリリース、「NMEDはWIPPの10年許可更新手続のための最終許可案と公告を発行」(2023年8月15日)
https://www.env.nm.gov/hazardous-waste/wp-content/uploads/sites/10/2023/08/WIPP-230822.pdf - ニューメキシコ州環境省(NMED)、「許可更新草案から許可更新案への変更点一覧表」(2023年8月15日)
https://www.env.nm.gov/hazardous-waste/wp-content/uploads/sites/10/2023/08/2023-08-15-HWB-WIPP-Table-of-Changes-From-Draft-Permit-to-Proposed-Final-Permit-EngSpan-Final.pdf - ニューメキシコ州環境省(NMED)、廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)のページ(2023年8月28日時点では掲載リンクの多くがアクセス不能となっている)
https://www.env.nm.gov/hazardous-waste/wipp/ - ニューメキシコ州環境省(NMED)プレスリリース、「NMEDはWIPPの許可更新に係る和解合意書を協議」(2023年6月27日)
https://www.env.nm.gov/wp-content/uploads/2023/06/2023-06-27-COMMS-NMED-negotiates-settlement-agreement-for-Waste-Isolation-Pilot-Plant-renewal-permit-Final.pdf - ニューメキシコ州環境省(NMED)、「ヒアリング及びヒアリング主宰官任命の撤回」(2023年6月27日、添付資料として和解合意書掲載)
https://www.env.nm.gov/hazardous-waste/wp-content/uploads/sites/10/2023/06/WIPP-2023-06-26-HWB-WIPP-Hearing-and-Hearing-Officer-Rescindment-Order-and-Settlement-AttachmentSigned.pdf - ニューメキシコ州環境省(NMED)、「WIPPの有害廃棄物施設許可の許可更新草案に係るパブリックコメント期間及びヒアリング開催要求機会の告示」(2022年12月20日)
https://www.env.nm.gov/public-notices/wp-content/uploads/sites/32/2022/12/2022-12-20-HWB-WIPP-Renewal-Draft-Permit-Public-Notice-English-Spanish-Final.pdf
- WIPPについては、1992年WIPP土地収用法により、連邦環境保護庁(EPA)の定める連邦規則(CFR)への適合を条件に処分場の操業が認められており、5年ごとに適合性再認定が行われている。直近では2022年にEPAによる4度目の適合性再認定を受けている 。一方、WIPPで処分されるTRU廃棄物のほとんどは化学的有害性も有する混合廃棄物であることから、連邦資源保全・回収法(RCRA)による規制も受ける。RCRAの下での許可は、EPAから権限を委譲されたニューメキシコ州環境省(NMED)が発給している。 [↩]
- 許可更新案の草案に対するコメント募集では、許可更新について裁判形式の裁決手続による公式のヒアリングを行うよう求める意見が複数者から提出された。これらの意見を受けて、NMEDは2022年4月にヒアリングの実施を決定していた。その後、NMEDとDOEの他、ヒアリングの開催及び参加の申立人(環境NGO、地元カールスバッド市など9者)の間で協議が行われ、2023年6月に合意文書の公表に至ったことを受けて、裁決手続きによる公式のヒアリング実施の申立ては取り下げられた。 [↩]
- 2023年6月27日付のプレスリリースでは、「TRU廃棄物処分場」の部分は「地層処分場(geologic repository)」と書かれていたが、将来における柔軟性確保のため、2023年8月に公表された許可更新案では「地層」の文字が削除されている。 [↩]