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米国の軍事起源のTRU廃棄物の地層処分場である廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)について、ニューメキシコ州環境省(NMED)は2023年8月15日に、資源保全・回収法(RCRA)に基づく許可1 の最終更新案(以下「許可更新案」という。)を公表した。WIPPで処分されるTRU廃棄物は、そのほとんどがRCRAが定める有害廃棄物に該当する放射性廃棄物(混合廃棄物)でもある。このため、WIPPを操業するエネルギー省(DOE)は、RCRAの下での規制権限を有するNMEDから10年ごとの許可更新を受ける必要がある。

WIPPは1999年に操業を開始した後、2010年にRCRAに基づく1回目の許可更新が行われている。今回の2回目の許可更新にあたり、NMEDはDOEに対して、WIPP計画策定における公衆参加プロセスの強化を求めるとともに、WIPPで最終処分を行う全米のレガシー廃棄物(legacy waste)の完全で透明性のあるインベントリを作成する必要性を強調している。

■WIPPに対するNMEDによる許可の更新

DOEは当初2020年3月にRCRAに基づく2回目の許可更新の申請書を提出していたが、その後、DOEは代替処分パネル(第11パネル及び第12パネル)の建設を2021年7月にNMEDへ申請した。この代替処分パネルは、2014年2月の放射線事象後に未使用のまま閉鎖された処分パネルの代替として新たに建設されるものである。NMEDは代替処分パネル建設に係る審査も10年ごとの許可更新手続の中で行うことを決定した。この決定を受けてDOEは、2022年3月に許可更新申請書の改定版を提出した。

NMEDは2022年12月20日に、許可更新案の草案を公表し、60日間の予定でパブリックコメントの募集を開始した。NMEDの許可更新案の草案には、代替処分パネルの追加などのDOEが提案した変更を承認する一方で、WIPPにおける処分容量増加への懸念やニューメキシコ州以外でも処分の取組を行うことの要求など、WIPPを巡る情勢が後述のように変化する中で、州や地元のステークホルダーとの関係の維持・強化のための独自の提案も織り込まれていた。

NMEDは2023年8月15日付プレスリリースにおいて、今回NMEDが公表した許可更新案は、NMEDとDOE、及びNMEDが許可手続参加を求めていたステークホルダー2 の間で2023年6月に締結された合意に基づくものであることを示している。NMEDは、許可更新に係る合意の成立を伝えた2023年6月27日付のプレスリリースにおいて、合意の主要なポイントを以下のように示している。

  1. WIPPにおける処分においては、ロスアラモス国立研究所(LANL)のものを含め、レガシー廃棄物の核兵器開発サイトからのクリーンアップ及び処分を優先する。
  2. ステークホルダーの声に対応する新たな報告書を通して、WIPPで最終処分を行う全米のレガシー廃棄物の完全で透明性のあるインベントリが必要である。
  3. 人間の健康や環境への脅威が確認された場合には、WIPPへの廃棄物輸送の停止を可能とする。
  4. 本許可更新で承認される2つの代替処分パネルに加えて、さらに新たな処分パネルを要求する際には、施設の最終面積を示すことが必要である。
  5. 仮に連邦議会がWIPPにおける処分容量や受入可能な廃棄物種類をレガシー廃棄物以外に拡張した場合には、許可の撤回と再発給のための手続を開始する。
  6. ニューメキシコ州以外の州におけるTRU廃棄物処分場3 の立地の進展について、新たな年次報告書による報告をDOEに義務付ける。
  7. WIPPの安全確保のため、施設周辺における石油・天然ガス生産や塩水処分の活動に係る監視を行う。
  8. 新たに強化した取組として、年3回のパブリックフォーラムの開催、コミュニティ・リレーションズ計画の更新に加えて、許可更新が複雑な変更を伴う際には、申請書提出前のミーティングの開催を義務化するなどにより、公衆参加プロセスを強化する。
  9. クリーンアップとWIPPでの処分を待つ全ての廃棄物残量の正確なインベントリを添付した許可更新申請書が適時に提出されない限り、10年の許可期限及び1992年WIPP土地収用法の処分容量制限に基づいてWIPPの閉鎖が決定される。

WIPPは、米国の過去の国防活動から発生したTRU廃棄物の処分のために設置された地層処分場であり、WIPPにおけるTRU廃棄物の処分量は、1992年WIPP土地収用法で620万立方フィート(約17.6万m3)と規定されている。WIPPでは、全米各地のDOEサイトからTRU廃棄物を受け入れてきているが、DOEは、クラスCを超える(GTCC)低レベル放射性廃棄物(GTCC廃棄物)の処分や、余剰プルトニウムの希釈処分の推奨オプションとしてWIPPでの処分を挙げるなど、これまでとは異なる廃棄物処分の検討も行っており、ニューメキシコ州からは一部懸念も示されていた

■今後の予定

NMEDは2023年8月15日付プレスリリースにおいて、許可更新案に関するパブリックミーティングを2023年9月22日に開催するなど意見募集を行うとともに、2023年10月に最終の許可更新を行うとの方針を示している。なお、合意当初の2023年6月27日付プレスリリースでは、寄せられた意見のすべてに回答するが、合意内容の観点で許可更新案を変更することはないとの考えを示している。

【出典】


  1. WIPPについては、1992年WIPP土地収用法により、連邦環境保護庁(EPA)の定める連邦規則(CFR)への適合を条件に処分場の操業が認められており、5年ごとに適合性再認定が行われている。直近では2022年にEPAによる4度目の適合性再認定を受けている。一方、WIPPで処分されるTRU廃棄物のほとんどは化学的有害性も有する混合廃棄物であることから、連邦資源保全・回収法(RCRA)による規制も受ける。RCRAの下での許可は、EPAから権限を委譲されたニューメキシコ州環境省(NMED)が発給している。 []
  2. 許可更新案の草案に対するコメント募集では、許可更新について裁判形式の裁決手続による公式のヒアリングを行うよう求める意見が複数者から提出された。これらの意見を受けて、NMEDは2022年4月にヒアリングの実施を決定していた。その後、NMEDとDOEの他、ヒアリングの開催及び参加の申立人(環境NGO、地元カールスバッド市など9者)の間で協議が行われ、2023年6月に合意文書の公表に至ったことを受けて、裁決手続きによる公式のヒアリング実施の申立ては取り下げられた。 []
  3. 2023年6月27日付のプレスリリースでは、「TRU廃棄物処分場」の部分は「地層処分場(geologic repository)」と書かれていたが、将来における柔軟性確保のため、2023年8月に公表された許可更新案では「地層」の文字が削除されている。 []

カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)1 は、2023年7月10日のプレスリリースにおいて、天然資源大臣から要請を受けて検討していた「放射性廃棄物に関する包括的戦略」(Integrated Strategy for Radioactive Waste: ISRW)を取りまとめた報告書を天然資源大臣に提出したことを明らかにした。今回の包括的戦略は、長期管理の戦略が未策定となっている放射性廃棄物に注目して、それらの発生者及び所有者(以下「事業者」という)、先住民、カナダ国民との約2年間の対話活動を通じて開発されたものである。

NWMOは包括的戦略の報告書において、原子力発電所や研究施設等から発生し、浅地中処分は適さないと考えられる中レベル放射性廃棄物等については、当該廃棄物の事業者から資金拠出を受け、NWMOが地層処分場のサイト選定と処分場建設を行うとした内容を含む提案を連邦政府に提示した。NWMOはプレスリリースにおいて、包括的戦略の2年間にわたる開発作業に貢献したカナダ国民と先住民への感謝を表明するとともに、包括的戦略に関する提案に対する連邦政府の反応を待つとしている。

■経緯:カナダにおける放射性廃棄物の政策見直しと包括的戦略の策定

カナダ天然資源省は2020年11月に放射性廃棄物政策の見直し(modernize)に着手し、この一環としてNWMOに対し、以下の要素を含む放射性廃棄物の長期管理に関する包括的戦略の開発に向けた対話を主導するよう要請していた

  • 現在と将来における放射性廃棄物インベントリという観点から、カナダにおける現在の放射性廃棄物管理の状況の説明。なお、小型モジュール炉(SMR)を導入した場合に発生する廃棄物や、廃棄物の特性、場所及び所有権を考慮する。
  • カナダの放射性廃棄物の長期管理や処分方策における現行の計画と進捗のアップデート、及び対処しなければならないギャップ。
  • 現在及び将来の放射性廃棄物インベントリに対応するための概念的なアプローチ。これには、様々なタイプの放射性廃棄物の長期管理や処分のための技術オプション、及びカナダにおける放射性廃棄物の長期管理施設のそれぞれに関するオプションを含む。
  • 廃棄物の長期管理施設の計画、統合、設置及び操業に関する考慮事項。

当時の放射性廃棄物政策の枠組みでは、事業者が個別に廃棄物管理計画(長期を含む)を開発するよう求めていたが、2023年に策定された新たな『放射性廃棄物管理及び廃止措置に関するカナダの政策』では、事業者に公開性と透明性がある形で放射性廃棄物管理プロジェクトを開発するよう求めるとともに、廃棄物管理のアプローチとインフラを国レベルで最適化するような長期管理方策の開発と立案に向けて相互協力を求めるものに変わっている。

今回取りまとめられた包括的戦略に関する提案では、既存の原子力施設のライフサイクルを通じて発生する廃棄物のうち、約84%については既に長期的な処分計画があり、処分計画が未策定である残りの14%は低レベル放射性廃棄物(約294,000m3)、2%は中レベル放射性廃棄物(約51,000m3)であると推定している。また、使用済みのコバルト60密封線源等のように特に放射線が強く、廃棄物の取り扱いにおいて放射線遮へいを必要とする廃棄物が約10m3程度あることを明らかにしている2 。なお、将来導入される可能性がある小型モジュール炉(SMR)から発生する放射性廃棄物の量は考慮していない。

■処分計画が未策定の放射性廃棄物に関する提案

NWMOは、諸外国での検討例から抽出した5つの処分技術オプション3 に、貯蔵を継続するオプション(Rolling stewardship)を加えた6つのオプションについて、処分計画が未策定の放射性廃棄物に対する適用性とコストを分析した。また、それらの分析結果をステークホルダーや先住民と共有しつつ、カナダ国民の見方を反映させることにより、処分計画が未策定である放射性廃棄物の長期管理に向けた推奨アプローチをカナダ政府に提案している。

~処分計画が未策定である放射性廃棄物の長期管理に向けた推奨アプローチ~

1. 中レベル放射性廃棄物、及び使用済密封線源は、核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が地層処分場で処分する

具体的には以下のようなアプローチとなる。

  • NWMOは、カナダで地層処分を主導する組織として、中レベル放射性廃棄物及び使用済密封線源等の地層処分場のサイト選定と建設を行う。このための費用は、当該廃棄物の事業者から資金拠出を受ける。
  • NWMOは処分場サイト選定プロセスを定める詳細な計画を策定する。この計画には、カナダ国民や先住民の関与(engagement)のあり方とそのための資金確保策を含める。また、他の原子力施設のサイト選定プロセスから得られた経験と学習を考慮する。このサイト選定プロセスは、現在NWMOが進めている使用済燃料の処分計画4 からは切り離して行う。
  • NWMOが策定する計画では、地層処分場のサイト選定に適用される技術的・社会的な受け入れ要件を決定するプロセスのアウトラインを提示する。
  • 同計画には、処分場のサイト選定及び建設のスケジュールを含める。
  • 上述したサイト選定プロセスの検討には12~18カ月を要する見込みである。この検討が完了したタイミングで改めて、NWMOは天然資源省にサイト選定アプローチに関する報告を行う考えである。

2. 低レベル放射性廃棄物は、当該廃棄物の事業者が実施主体となって、複数の浅地中処分施設で処分する。

具体的には以下のようなアプローチとなる。

  • 長期的な処分計画が未策定の低レベル放射性廃棄物については、それらを所有する各事業者が、国際的なベストプラクティスと合致した形で、浅地中処分施設を立地・建設する。当該事業者は、廃棄物の特性、量、既存の中間貯蔵施設との近接性、地域社会の受容性、及び技術的事項を考慮する。
  • 処分施設の数と廃棄物の輸送距離をバランスの取れたものとするために、複数の廃棄物発生者が共有する施設や地域の集中型処分施設を建設するオプションについても検討する。集中型処分施設は、スケールメリットが期待できるほか、小規模な事業者が処分施設を公平に利用できるようになるというメリットを創出できる可能性がある。このような施設は、州単位あるいは複数州の共同で運用される場合も考えられる。
  • より詳細な実施計画を策定する必要性が残っている。当該事業者は、『放射性廃棄物管理及び廃止措置に関するカナダの政策』に沿った早期の継続的な関与(engagement)を通じて、開かれた透明性のある方法で計画策定を進める。

■更なる検討の必要性

NWMOは、天然資源大臣に提出した報告書において、今回の「放射性廃棄物に関する包括的戦略(ISRW)」の取りまとめは、カナダにおける放射性廃棄物管理の新たな時代の始まりを意味するものであり、廃棄物処分に関する次のステップを示すものであると述べている。一方で、処分計画が未策定である放射性廃棄物の長期管理に向けた推奨アプローチの提案でも示されているように、中レベル放射性廃棄物の地層処分場のサイト選定プロセスの検討のほか、州単位あるいは複数州の共同で運用される浅地中処分の立地計画に関する詳細検討の必要性を指摘している。

また、今回行われた包括的戦略の検討では、カナダ原子力研究所(CNL)5 が計画している「チョークリバー研究所(CRL)における浅地中処分施設プロジェクト」のように、処分計画が存在する低・中レベル放射性廃棄物については、包括的戦略で扱う範囲に含まれているが、処分計画が未策定の廃棄物の長期管理に向けた推奨アプローチの提案で想定している範囲からは除かれている。

今後は、ISRWに関する提案を受けた天然資源省の対応が注目される。

【出典】


  1. 核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、核燃料廃棄物処分に基づき、電力会社3社とカナダ原子力公社(AECL)が共同して2002年に設立された非営利法人であり、カナダにおける使用済燃料処分の実施主体である。 []
  2. カナダは、医療や産業で使用されるコバルト60(Co-60)ガンマ線源の主要生産国であり、日本を含む外国に輸出している。放射能が減衰した使用済みとなった密封線源は、生産国に返送されている。カナダではこれらをnon-fuel HLW(核燃料以外の高レベル放射性廃棄物)という呼称で区分している。 []
  3. 浅地中処分施設のオプションとして、①工学的閉じ込めマウンド(Engineered containment mound)、②コンクリートボールト(Concrete vault)、③浅い地下の岩盤空洞(Shallow rock cavern)を取り上げている。地層処分施設のオプションとしては、④地層処分(Deep geological repository)、⑤超深孔処分(Deep borehole)を取り上げている。 []
  4. 核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、「適応性のある段階的管理(APM)」と呼ばれる概念に基づく使用済燃料処分場のサイト選定プロセスを2010年から開始しており、1カ所の好ましいサイトを2024年秋に選定することを目指している。 []
  5. カナダ原子力研究所(CNL)は、カナダ原子力公社(AECL)のCANDU炉開発部門が2011年に売却された後に残された原子力研究等の業務を継承した民間企業であり、AECLとの長期契約に基づき、AECLが所有する放射性廃棄物の管理を実施している。 []

英国の放射性廃棄物処分の実施主体であるニュークリアウェイストサービス(NWS)は、2023年6月28日付けのプレスリリースにおいて、地層処分施設(GDF)の立地可能性を検討している4つの調査エリアに対して、サイト評価に着手したことを明らかにした。サイト評価では、安全とセキュリティ、コミュニティ、環境、工学的成立性、輸送、支払いに見合った価値(Value for Money)などの指標に基づいた評価が行われる1 。NWSは、今回のサイト評価の開始にあわせて、英国における地層処分施設(GDF)の計画とサイト選定プロセスの進捗や今後の予定をまとめた冊子「GDFレポート2023」を公表。NWSは、調査エリアごとにNWS及び地元自治体等をメンバーとして設立された「GDFコミュニティパートナーシップ」2 での協力関係(engagement)を継続していく意向を表明しつつ、新たなコミュニティにもサイト選定プロセスへの門戸を開いていることを強調している。本記事では、サイト評価対象となる調査エリアの状況について、これまでにNWSが公表した文書を元に紹介するとともに、サイト評価作業の今後の予定について示す。

■サイト評価対象の調査エリアについて

図1 英国イングランドにおけるサイト選定プロセスに関心のある地域

図1 英国イングランドにおけるサイト選定プロセスに関心のある地域

英国では2020年12月から地層処分施設(GDF)の新たなサイト選定プロセスが開始され 、GDFの受け入れ可能性を検討したい地元の発意により、これまでにイングランド北西部のカンバーランド市に3カ所、イングランド東部のリンカンシャー州イーストリンジー市に1カ所の計4カ所の調査エリアが特定されている(図1参照)。これらの調査エリアは選挙区を最小単位として設定されている。

カンバーランド市は2023年4月の自治体再編によって誕生した新しい自治体であり、以前のカンブリア州を構成していた6自治体のうち、旧コープランド市、旧アラデール市を含む3つの自治体が合併したものである。カンブリア州を構成していた他の3自治体も合併して新たな自治体となっており、上層自治体であったカンブリア州は消滅している。

カンバーランド市の3カ所の調査エリアはいずれも自治体再編以前に特定されており、ミッドコープランド 、サウスコープランド 、アラデール と呼称されている。ミッドコープランド調査エリア内にはセラフィールド再処理施設、サウスコープランド調査エリア内には低レベル放射性廃棄物処分場(LLWR)3があり、アラデール調査エリア内4には低レベル放射性金属の処理施設がある。カンバーランド市の大部分は、湖水地方として知られている英国最大の国立公園が広がっており、観光業が盛んな地域でもある。なお、自然保護や遺産保護の観点から国立公園の範囲は調査エリアから除外されている。

リンカンシャー州では、同州東部の北海に面したイーストリンジー市にあるテッドルソープ・ガスターミナルの跡地での地層処分施設の立地可能性を検討している 。このガスターミナルでは、約100kmを超える沖合にある海上掘削基地と海底パイプラインで結び、日産約400万m3の天然ガスを生産していたが、2018年8月に生産を終了した。テッドルソープ調査エリアで設立されたGDFコミュニティパートナーシップは、放射性廃棄物を処分する地下部分を沖合の領海内(約22km)の海底下に建設する計画を前提としており、陸地に放射性廃棄物を処分しない方針である。

■今後の予定

NWSは「GDFレポート2023」において、サイト評価の作業は数年にわたって続くとして、特定の目標年を示していない。当面のサイト評価の作業にあたっては、既存の地質学的文献として、NWSが新たに購入した地震データを含める計画となっている。また、ミッドコープランドとサウスコープランドで設立されたGDFコミュニティパートナーシップは、サイト評価の初期において、GDFの地下施設部分を沖合海底下に設置する可能性を追求する意向であることから、NWSは2022年8月にコープランド沖で船舶を用いた物理探査 で取得したデータを2023年内に公表し、サイト評価で用いる予定である。

また同レポートでは、サイト調査の次フェーズについて、NWSは、2つのサイトが地下深部のボーリング調査を含む詳細なサイト特性調査に進むと想定している。NWSは、サイト評価の作業と並行して、将来的にサイト特性調査を実施する上で必要となる環境許可や、2008年計画法に基づく開発同意令(DCO) の申請に向けた準備も進める予定である。

 

【出典】


  1. これらの指標は2020年に策定されたGDF候補サイトの評価指標を示す文書 において、GDFの立地において検討すべき「立地要因」として挙げられていた。 []
  2. 調査エリアのそれぞれにおいては、NWS及び地元自治体等をメンバーとして、地層処分施設の立地可能性を中長期的なスパンで検討していくグループである「GDFコミュニティパートナーシップ」が設立されており、英国政府から年間最大100万ポンド(1億6,600万円、1ポンド=166円)のコミュニティ投資資金(CIF)が提供されている。コミュニティ投資資金は、調査エリア内のモノやサービスを改善して、コミュニティの生活の質を高めようとする民間企業、公共団体及び第三セクターに対して給付されている。 []
  3. 低レベル放射性廃棄物処分場(LLWR)の敷地は、旧コープランド市で設立されたミッドコープランドGDFパートナーシップの調査エリアに含まれていたが、2023年4月の自治体再編後のカンバーランド市の選挙区の区割りの改定により、サウスコープランドGDFパートナーシップの調査エリアに変更となった。サウスコープランドGDFの当初の調査エリアは、旧コープランド市の南端部にあるギル・スコーア採石場と海岸の平原であった。現在のサウスコープランドの調査エリアは除外地域である湖水地方の国立公園を挟んで2カ所に分かれているが、いずれも同じ選挙区になっている。 []
  4. アラデールの調査エリアについては、当初13の選挙区にまたがる広範なエリアを特定していたが、コミュニティパートナーシップ内で調査エリアを絞り込んだうえで、コミュニティとの有意義な関係を築きたいという要望があり、自治体再編による選挙区の区割り改定も含めた調査エリアの再検討を行った。現在のアラデールの調査エリアは、8つの選挙区にまたがるものとして再設定されている。 []

米国のエネルギー省(DOE)は、2023年6月9日に、連邦政府による使用済燃料の中間貯蔵サイトの選定のための同意に基づくサイト選定に関して、関心を持つコミュニティと協働して取り組むための資金提供先となる全米13のコンソーシアムを決定したことを公表した。DOEは、2022年9月20日に、同意に基づくサイト選定、使用済燃料管理、及び中間貯蔵施設のサイト選定時の考慮事項について、さらなる学びに関心があるコミュニティに対する資金提供公募(FOA)を行うことを公表していた。今回の資金提供先の決定は、2023年4月25日に公表された「連邦使用済燃料集中中間貯蔵施設のための同意に基づくサイト選定プロセス」(以下「サイト選定プロセス文書」という。)の更新に続く動きであり、サイト選定プロセス文書で示されたコミュニティ参加をサポートするための各段階での様々な資金提供機会の一つと位置付けられる。

図1:同意に基づくサイト選定のコンソーシアム(チーム)

DOEは、本資金提供を通して、同意に基づくサイト選定のコンソーシアムとDOEが協働して、公正及び環境正義の原則を構築し、関与プロセスに織り込んでいく意向を示している。なお、DOEは、今回の資金提供について、連邦集中中間貯蔵施設の立地コミュニティの募集を意図しているものではないことを明示している。

■資金提供を受けるコンソーシアム

DOEからの資金提供先として、地域の大学や非営利法人、民間部門パートナーなどから構成された計13のコンソーシアムであり、地理的にも組織的にも多様なチームが選定されている(図1及び表1を参照)。提供される資金は、各コンソーシアムに約2百万ドル(約2億6,600万円、1ドル=133円で換算)である。

各コンソーシアムに提供された資金は、以下の3領域の活動を支援するために使用される

  • 使用済燃料管理に関する、包括的で有意義なコミュニティ・ステークホルダーの関与プロセスを組織化し、主導し、維持する。
  • 集中中間貯蔵施設のための同意に基づくサイト選定プロセスに対して、コミュニティ主導のフィードバックや効果的な協働(collaboration)を促進し、実現可能とするような公共価値(public value)、関心事及び目標を同定する。
  • 使用済燃料に関連するトピックについて、ステークホルダーやコミュニティ、専門家の間の相互学習を支援するような成果及び戦略を開発し、実践し、報告する。

図2:同意に基づくサイト選定のロードマップ

資金提供の規模は、13コンソーシアムの合計で26百万ドル(約34億6,000万円)である。当初は16百万ドル(約21億3,000万円)の予算で6~8件の選定が予定されていたが、2022年12月29日に成立した2023会計年度包括歳出法において、前年度の3倍近くとなる統合放射性廃棄物管理システム(IWMS)予算がDOEの要求通りに承認された1 ことを受けて、最大16件の選定が可能な26百万ドルの予算へと拡大することが2023年1月19日に公表されていた。

■同意に基づくサイト選定プロセス:3ステージでのアプローチ

DOEは「同意に基づくサイト選定プロセス」を3ステージのアプローチで進めていく計画である(図2参照)。現在は第1ステージの「計画立案及び能力開発」にある。資金提供公募(FOA)による資金提供先の決定によって、計画立案の作業は概ね完了しており、今後は13のコンソーシアムを通じた能力開発(Capacity Building)の作業が進められる。DOEは、今回選定した資金提供先と協力しつつ、相互学習を18~24ヶ月にわたって行う予定である。

 

表1:使用済燃料の中間貯蔵施設に関する同意に基づくサイト選定のコンソーシアム
資金提供先の主導主体 パートナー
米国原子力学会(ANS、IL) サウスカロライナ大学研究・教育財団(SC)、北アリゾナ大学(AZ)、ニューメキシコ大学(NM)、サウスカロライナ州立大学(SC)
アリゾナ州立大学(AZ)
ボイジー州立大学(ID) 全米先住民族エネルギー協会(NTEA、AZ)、コロラド州(CO)、アイダホ州(ID)、モンタナ州(MT)、アイダホ大学(ID)、ワイオミング大学(WY)、ミシガン大学(MI)
クレムゾン大学(SC) サウスカロライナ大学研究・教育財団(SC)
エネルギー自治体連合(ECA、DC) 州環境協議会(ECS、DC)、DOEの州・先住民族ワーキンググループ、全米司法長官協会(NAAG、DC)、全米州議会議員連盟(NCSL、DC)、全米知事協会(NGA、DC)
グッド・エナジー・コレクティブ(CA) ノートルダム大学(IN)
ホルテック・インターナショナル社(NJ) フロリダ大学、マクマホン・コミュニケーションズ(MA)、アジェンダ・グローバル(DC)、米国原子力学会(ANS、IL)、原子力エネルギー協会(NEI、DC)
キーストーン政策センター(CO) 社会環境研究所(SERI)、GDFWatch(英)、全米自治体協会(NARC、DC)
ミズーリ科学技術大学(MO) ミズーリ大学コロンビア校(MO)、イリノイ大学(IL)、マサチューセッツ工科大学(MIT、MA)、ネバダ大学(NV)、テイラー地球空間研究所(MO)、セントルイス大学(MO)
ノースカロライナ州立大学(NC) サンルイスオビスポ・北チュマシュ族(ytt、CA)、マザーズオブニュークリア(CA)、ディアブロキャニオン発電所-同意に基づく部族連合(CA)
レンセラー工科大学(NY) スケネクタディ財団(NY)、ストックブリッジ-マンシー・インディアンバンド(WI)
サウスウェスト研究所(SRI、TX) ディープ・アイソレーション(CA)、ウェストラ・コンサルティング(NE)、コミュニティ移行プラニング(MI)、プレーリーアイランド・インディアン政府(MN)
ヴァンダービルト大学(TN) ラトガーズ大学(NJ)、オレゴン州立大学(OR)
※( )内の2文字の英字は州の略号
AZ:アリゾナ、CA:カリフォルニア、CO:コロラド、DC:ワシントンDC、ID:アイダホ、IL:イリノイ、IN:インディアナ、MA:マサチューセッツ、MI:ミシガン、MN:ミネソタ、MO:ミズーリ、MT:モンタナ、NC:ノースカロライナ、NE:ネブラスカ、NJ:ニュージャージー、NM:ニューメキシコ、NV:ネバダ、NY:ニューヨーク、OR:オレゴン、SC:サウスカロライナ、TN:テネシー、WI:ウィスコンシン、WY:ワイオミング

 

使用済燃料の中間貯蔵施設に関する同意に基づくサイト選定プロセス:第1ステージの活動概況

DOEは、2023年4月に公表したサイト選定プロセス文書において、第1ステージ「計画立案及び能力開発」の活動について、以下の表のように整理している。

ステージ1:計画立案及び能力開発

フェーズ1A:計画立案(Planning)
活動 活動内容 状況
連邦議会からの承認の取得 2021会計年度包括歳出法、2022会計年度包括歳出法、2023会計年度包括歳出法において、連邦議会はDOEに対して、連邦中間貯蔵施設の開発を進めるよう指示し、予算を計上した。 完了
公衆との関与(public engagement)及び情報提供・支援(Outreach)の開始 DOEは、2021年12月1日に「連邦中間貯蔵施設の立地に同意に基づくサイト選定プロセスを用いることについての情報要求(RFI)の告示」(連邦官報告示)を発行し、公衆との関与を開始した。RFIは、米国の使用済燃料を貯蔵する場所を特定するために同意に基づくサイト選定プロセスを使用することについての意見を求めた。また、DOEは、記者会見、ウェブ会議、一般から要請のあった様々な会合、議論、会議に参加した。この段階でDOEは、一般市民がどのようにDOEから情報を得たいと考えているか、また、一般市民や利害関係者がDOEにどのような情報を提供してほしいと考えているかについて、より深く知ろうと試みた。同意に基づくサイト選定プロセスの全期間を通じて、関与及び情報提供・支援は継続されるが、これらの活動は、フェーズによって変化するものとなる。 完了
公衆からの意見募集 2021年のRFIに対して、約225件の意見が提出された。RFIへの回答は、更新された同意に基づくサイト選定プロセスの文書の作成、関心のあるグループやコミュニティに対する資金提供の機会の検討、統合廃棄物管理システムの戦略など、次のステップに反映された。 完了
意見募集の集約・分析した報告書の作成 2021年のRFIへの回答は、2017年の同意に基づくサイト選定プロセス案へのコメントとともに分析され、「同意に基づくサイト選定―情報依頼(RFI)コメントの要約・分析」を2022年9月に公表した。 完了
更新されたサイト選定プロセスの公表 2017年以降の意見募集と連邦中間貯蔵に焦点を絞るとの連邦議会指示による政策変更を反映して、「連邦使用済燃料集中中間貯蔵施設のための同意に基づくサイト選定プロセス」を2023年4月25日に公表した。 完了
フェーズ1Bをサポートするための資金提供公募(FOA)の準備 2021年のRFIに応じた複数のコメントと事前のフィードバックでは、地域社会が自分たちの決めた条件でより多くを学び、教育できるような資源を提供する必要性が強調された。本フェーズでDOEは、フェーズ1Bで発行されるFOAを準備した。 完了

 

フェーズ1B:能力開発(Capacity Building)
活動 活動内容 状況
ロバストな公衆との関与及び情報提供・支援の実施 本フェーズでは、関与及び情報提供・支援が継続される。DOEは、FOA(後述)の発行と、同意に基づくサイト選定プロセスに関する認知度の向上に重点を置く。本フェーズのFOAは、関与と情報提供・支援に重点を置く。その他の活動は、一般的な認識を提供し、DOEがFOA受領者の活動における情報及び資源のニーズを分析するのを支援し、更なる関与の機会を提供するものである。 実施中
資金提供公募(FOA)の発行 DOEは、2022年9月に資金提供公募(FOA)を発行した。本FOAは、関心のあるコミュニティ、先住民族、政府関係者、学界のメンバー、非政府組織、産業界、一般市民に対して、これまでよりも包括的な関与を支援するための意味ある資源を提供することを目的としている。関与のテーマには、同意に基づくサイト選定プロセスへの追加的な意見、1つまたは複数の連邦集中中間貯蔵施設がコミュニティに果たし得る役割の検討、コミュニティ・ビジョンの構築、公衆の価値観や目標のマッピング、高レベル放射性廃棄物管理に関連するトピックなどが含まれる。 完了(応募期間は、当初の2022年12月19日から2023年1月31日に延長して終了。)
FOA申請の評価及び資金提供 FOAの選択基準に従って、選択された申請者に資金を提供する。 2023年6月9日に資金提供先を決定
資金提供先と協力して相互学習を実施する DOEは、資金提供先と協力して、注意深く話しを聞き、相互学習が可能となるようにする。詳細は、FOA規定及びFOA申請内容に従う。 FOAの実施期間(18~24ヶ月)
サイト選定プロセスの更新 本フェーズで得られた対話と情報をもとに、サイト選定プロセスの文書は更新される見込みである。サイト選定プロセスの文書は、その後のフェーズでも必要に応じて更新される予定である。 今後実施
フェーズ2のFOA及び活動の準備 本フェーズで得られた知見により、フェーズ2でのFOAを計画する。 今後実施
注)本表は2023年4月25日公表のサイト選定プロセス文書からの引用であるが、一部項目については、その後の進展を反映して改定している。

 

【出典】


  1. 使用済燃料管理に係るDOEの研究開発予算のうち、中間貯蔵プログラムを含む統合放射性廃棄物管理システム(IWMS)の予算は、2022会計年度包括歳出法(公法117-103)では18百万ドル(約23億9,000万円)であったが、2023会計年度包括歳出法(公法117-328)ではDOE要求通りの53百万ドル(約70億5,000万円)が承認された。 []
図1

図1:カテゴリーA廃棄物処分場の位置

ベルギーの連邦政府は、2023年4月23日付けの王令により、放射性廃棄物管理の実施主体である放射性廃棄物・濃縮核分裂性物質管理機関(ONDRAF/NIRAS)が申請していた短寿命・低中レベル放射性廃棄物処分場の建設と操業に関する許可を発給した。放射性廃棄物を受け入れる処分場としては、ベルギーで初めてのものとなる。本処分場はベルギー北東部のアントワープ州デッセル自治体の地表に設置され、国内の原子力発電所1 や研究所、医療施設などから発生する短寿命・低中レベル放射性廃棄物(カテゴリーA廃棄物と呼称される)を最大約70,500m3を受け入れる。

ONDRAF/NIRASは、短寿命・低中レベル放射性廃棄物処分場(以下「カテゴリーA廃棄物処分場」という。)の建設を2024年に開始する予定である。建設に4年を要し、その後95年間にわたって操業を継続する計画である。ONDRAF/NIRASは、2013年1月に原子力安全の規制行政機関である連邦原子力管理庁(FANC)に本処分場の建設と操業に関する許可申請書を提出していた

■処分場の構造と操業計画

図2

図2:カテゴリーA廃棄物処分場の構成(施設建設後のイメージ)



図3

図3:処分施設の内部 (実際には施設全体が化粧鋼板で覆われており、内部は見えない)



図4

図4:処分施設閉鎖時の断面図(廃棄体の受け入れ開始から約50年後に覆土が施工される計画である)



図5

図5:カテゴリーA廃棄物処分場のスケジュール

カテゴリーA廃棄物処分場は、ONDRAF/NIRASの子会社ベルゴプロセス社が操業する放射性廃棄物中間貯蔵施設の敷地に隣接して設置される。処分場の敷地は約25万m2であり、地表に2つの処分施設(建屋)が建設される(図2参照)。処分場建設の第1期では、処分区画となるコンクリート製モジュール20基を収容する処分施設が建設される。モジュール1基の大きさは、縦約25m、横約27m、高さ約11m、側壁の厚さは0.7mである。処分場建設の第2期ではモジュール14基を収容する処分施設が建設される。

現在、カテゴリーA廃棄物は200Lドラムに収納されて中間貯蔵されているが、これらをコンクリート製角形容器に4本ずつ収納し、モルタルを充填して「モノリス」2 と呼ばれる廃棄体とする。これを処分施設のモジュール内に積み上げて定置する(図3参照)。1つのモジュール内には約900個のモノリスが収容されるため、第1期の処分施設には約18,000個、第2期の処分施設には約12,600個のモノリスが定置されることとなる。

廃棄体の定置が長く継続するため、処分施設の外観デザインに特に配慮した設計となっており、側面と天井はレンガ風の装飾が施された化粧鋼板で覆われている。この化粧鋼板は、施設内への雨水浸入や風化を防止する役割も果たす。

廃棄物の受け入れ開始から約50年後には化粧鋼板を撤去し、止水や排水の機能を有する厚さ4mの様々な層で処分施設全体を覆土する(図4参照)。操業開始から約95年後までは検査坑道から処分場内部を目視確認し、操業開始から350年後までモニタリングプログラムによる監視を継続する計画である(図5参照)。

■カテゴリーA廃棄物処分場のサイト選定経緯

ベルギーでは1990年代に、潜在的なサイトの適格性を重視した処分地選定が行われたが、自治体や地域住民から拒否された経緯がある。ONDRAF/NIRASは、処分場サイト選定を進めるには、技術的側面だけではなく、社会的側面も考慮する住民参加型のアプローチを採用する必要性を認識し、原子力関連施設が立地するデッセル自治体とパートナーシップを1999年に締結し、STOLA(2005年にSTORAに改組)と呼ばれるパートナーシップのグループを設立した3 。2004年にSTOLAは、自治体内での処分場の実現見通しを検討した報告書を取りまとめ、処分場受入れの前提として以下の条件を提案し、デッセル自治体議会の承認を受けた。

  • 安全が確保され、環境・健康へのフォローアップ、技術面での進展を継続すること。
  • STOLAによって開発された地表または地層処分場概念オプションによること。
  • STOLAが目的を果たして終了した後も、地域社会の参加とコミュニケーションを図る恒久的なフォーラムが設立されること。
  • デッセル持続性基金の設立、環境計画への参加など、地域社会にプラスがあること。
  • 処分の最終段階まで、放射性廃棄物管理に対する透明性の確保、原子力に関する中核的拠点としての機能維持および雇用確保などが確約されること。

これを受けて、2006年の王令において、カテゴリーA廃棄物の長期管理に関する国家計画が定められ、この中でデッセル自治体内に処分場を設置する方針が決定された

ONDRAF/NIRASは、処分場の具体的な設計開発や調査を進めていく中で、STORAパートナーシップと協力してカテゴリーA廃棄物処分場の概念を検討し、今回建設・操業許可を取得した地表設置型の概念を開発した。本処分場概念では、①モジュール下部に点検通路を設置して目視検査を可能とする、②処分場全体を自然公園とするために自然と人工物との調和を図った施設デザインを採用する、③処分場全体を展望できるコミュニケーションセンターを建設し、住民への情報提供や観光事業へ活用するなどの工夫や配慮がなされている。

 

〈参考〉放射性廃棄物処分場プロジェクトが生み出す文化的価値

ベルギーのデッセル自治体に建設されるカテゴリーA放射性廃棄物処分場の周辺エリアは、森林遊歩道やサイクリングロードを備えた総合自然公園として整備する計画である。既に2022年には「タブロー」(テーブルを意味するエスペラント語)と呼ばれる情報・コミュニケーションセンターがオープンしており、パートナーシップの運営グループSTORAの活動拠点として、さらには近隣住民も利用可能な劇場ホールや会議室を備えた多目的施設としての活用が始まっている。ONDRAF/NIRASは、放射性廃棄物の貯蔵状況、廃棄物を閉じ込めるモノリス(廃棄体)の製造工程、それを処分場内のモジュールに定置して処分するまでの一連の工程を見学できる巡回コースを設ける計画である。

コンクリート製モジュールを地表(または浅い地中)に設置して廃棄体を収容し、覆土する浅地中処分概念は国内外で多くの実績があり、フランスのオーブ短寿命・低中レベル放射性廃棄物処分場や日本原燃(株)の低レベル放射性廃棄物埋設センター(青森県六ヶ所村)でも採用されているピット処分と同様である。ベルギーやフランスではコンクリートピットを地表に設置しており、覆土後には丘状の跡地となる。

放射性廃棄物の処分場という産業施設は、廃棄物を長期にわたって安全に管理することを第一目的として設計されるが、その上で綿密にデザインすることによって、立地コミュニティに機能的・文化的な付加価値を生み出す可能性があることが国際的にも注目されている4 。「隠すのではなく、見せる」ことによって安心感をもたらすとともに、放射性廃棄物が発生した理由から処分されるまでの物語が人々の記憶に残り、具体的な「感謝」の姿につながるという期待がある。

ベルギーで処分場の実現見通しが検討された2004年時点では、デッセル自治体のパートナーシップは、処分場跡地を約300年後まで利用できず、地元に何らの価値をもたらさないと考えていた。しかし、ONDRAF/NIRASはパートナーシップとの共働を通じて、情報・コミュニケーションセンターだけでなく、処分場の外観デザインに美しさや魅力を加味することで、地元が期待する社会的・経済的・文化的な価値の創出に成功している。こうした文化的な価値の見方は国によって異なり、万能な解決策は存在しないものの、多くの国で放射性廃棄物管理計画における地元との関係構築における国際的な共通課題の一つと認識されている。

 

【出典】


  1. ベルギーでは2023年5月現在、2か所に7基の原子力発電所があり、5基が運転中である。 []
  2. モノリスの大きさは縦横が約2m、高さは収納物の違いにより1.35mもしくは1.62m、壁の厚さは0.12mである。 []
  3. ONDRAF/NIRASとサイト選定に向けて協働するために設立されたパートナーシップには、デッセル自治体のSTOLAのほか、モル自治体との協議グループ(MONA)、フルール自治体と及びファルシネ自治体が参画したパートナーシップ(PaLoFF)がある。 []
  4. 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)では、放射性廃棄物管理施設の地元社会の便益に関する知見の共有に取り組んでおり、それらの活動成果の一つとして報告書「放射性廃棄物管理施設とその地域コミュニティ間での永続的関係の構築~デザインとプロセスを通じた価値の付加(2015年版)」が取りまとめられている。 []

政府は、2023年4月28日、最終処分法に基づく「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」の改定を閣議決定した。基本方針の改定は8年ぶりであり、「国は、政府一丸となって、かつ、政府の責任で、最終処分に向けて取り組んでいく」という一文が盛り込まれた。処分場選定の第1段階である文献調査の受け入れを増やすため、関心を持つ自治体との協議の場を設けるなど、国の主体的な取り組みが強化される。

【出典】

米国エネルギー省(DOE)は、2023年4月25日に、2017年1月発行の「使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の集中貯蔵・処分施設のための同意に基づくサイト選定プロセス案」(以下「サイト選定プロセス案」という。) を更新した。新たなサイト選定プロセス文書は「連邦使用済燃料集中中間貯蔵施設のための同意に基づくサイト選定プロセス」と改題された。米国では、1950年代から始まった商業原子力発電にともなって90,000トンを超える使用済燃料が発生しており、原子力発電所のプールや乾式貯蔵キャスクによって貯蔵されている。この他に、海軍の原子力艦船や研究開発から約2,400トンの使用済燃料がある。DOEは、これら70カ所以上に分散して貯蔵されている使用済燃料の対策に注力する方針を鮮明にした。

今回の新たなサイト選定プロセス文書では、公衆の安全、環境の保護に向けた取組などの方向性の説明に重点が置かれている。DOEは、サイト選定プロセス文書の更新を紹介するニュース記事において、「同意に基づくサイト選定」は、コミュニティを中心に置いたアプローチであり、バイデン大統領による環境正義(environmental justice)の目標に沿って1 、不利な立場にあり重圧の押しかかるコミュニティへの健康と安全への影響を軽減するのに役立つとの考え方を示している。

■サイト選定プロセス文書更新の背景

今回のサイト選定のプロセス文書の更新に先立ってDOEは、連邦政府による使用済燃料の中間貯蔵に係るサイト選定のための同意に基づくサイト選定計画に関して、2021年12月1日に情報依頼書(RFI、Request For Information)を官連邦報において告示し、コメントや意見を広く募集していた。その後、DOEは2022年9月に、RFIに対して寄せられた225件のコメントの他、2017年1月のサイト選定プロセス案に対するコメントも集約して報告書「同意に基づくサイト選定―情報依頼(RFI)コメントの要約・分析」を取りまとめていた

更新されたサイト選定プロセス文書を掲載したページでは、①使用済燃料のための1つ、または、複数の連邦集中中間貯蔵施設を立地すること、②DOEの2017年1月のサイト選定プロセス案に基づいて新たなサイト選定プロセス文書が作成されていること、③サイト選定プロセスは、地域社会、先住民族、州、地方自治体、ステークホルダーからの情報により、引き続き更新されることが記されている。

DOEは、サイト選定プロセス文書に対する4つの重要な更新ポイントを次のように説明している。

  1. 現在は、連邦の集中中間貯蔵施設に焦点がある。
    新しいサイト選定のプロセス:DOEは、近い将来の行動として、商業用使用済燃料のための1つ、または、複数の連邦集中中間貯蔵施設の立地に焦点を当てる。
    従来のサイト選定のプロセス:高レベル放射性廃棄物の中間貯蔵施設に加えて、地層処分施設に対して、同意に基づくサイト選定プロセスを同時に適用することを想定していた。
    説明:中間貯蔵に焦点を当てることは、全米の原子炉サイトからの使用済燃料の取り出しを可能にし、地元での新しい雇用機会を促進するという連邦議会の指示に従っている。
    DOEは、この同意に基づくサイト選定アプローチから学んだ教訓を、集中中間貯蔵容量、処分場、並びに、使用済燃料・高レベル放射性廃棄物の輸送に必要なインフラ整備のための将来のサイト選定に適用する。
    また、DOEは、処分オプションのための研究開発を引き続きサポートする。
  2. 公平と環境正義の一層の重視
    新しいサイト選定のプロセス:十分な行政サービスを受けていない脆弱なコミュニティが標的になることを防止するため、すべてのコミュニティの公平な取扱と有意義な関与(involvement)を確保するため、追加的な手順が取られた。
    従来のサイト選定のプロセス:プロセスの各段階において、公平と環境正義に関する考慮事項がほとんど組み込まれていなかった。
    説明:2017年1月のサイト選定プロセス案には、公平と環境正義に関連する基準が含まれてはいたが、DOEは最近の一般からのコメントに対応して、これらの側面を強化した。
    また、使用済燃料の管理など、長期間にわたって発生する活動について、世代間の公平を考慮することの重要性を強調した。
  3. サイト固有の評価基準の策定において、ホストとなるコミュニティの役割を高めた
    新しいサイト選定のプロセス:関心のあるコミュニティは、施設の立地がコミュニティの目標と関心に合致することを確実にするため、プロセスの早い段階で追加のサイト固有の基準の作成に関与する機会を持つことを可能にした。
    従来のサイト選定のプロセス:DOEは最初に、サイト選定に関する考慮事項とスクリーニング基準を作成することとしていた。
    説明:ここでの考え方は、より優れたコミュニティ主導のプロセスへの包括的なアプローチに基づいている。個々のコミュニティは、施設の立地を決定する前に、地域の経済発展、労働市場、輸送、公共の安全インフラなどへの影響を評価できるようにした。
  4. コミュニティ参加をサポートするための資金提供の機会の拡大検討
    新しいサイト選定のプロセス:サイト選定プロセス文書では、重要な活動におけるコミュニティの関与と協力をサポートするため、実施段階を含め、サイト選定プロセスの各段階における資金提供の機会とその他の資源の使用について概説している。
    従来のサイト選定のプロセス:資源は、プロセスの1つのフェーズで可能な資金提供の機会に限定されていた。
    説明:追加の資金提供の機会は、プロセス全体を通じてコミュニティの関与とコラボレーションをサポートすることを目的としており、連邦政府の年間予算と歳出(Annual Budget and appropriations)の対象となる。
    本資金提供は、使用済燃料の受け入れを約束(commitment)するものではない。

また、DOEは、同意に基づくサイト選定プロセスは、コミュニティの要求などに対応できるよう、柔軟で適応性があることに触れた上で、次のステップとして、現在の資金提供の機会(上記ポイント4)、今後も継続していく情報提供やその他の活動を通じて、公衆との対話/関与のための機会を引き続き提供していくことを明らかにしている。

【出典】

 

【2023年5月10日追記】

米国では、エネルギー省(DOE)により、使用済燃料の集中中間貯蔵施設のための同意に基づくサイト選定プロセスが進められている一方で、テキサス州及びニューメキシコ州で民間による集中中間貯蔵施設の計画が進められている。ただし、両州での計画については、貯蔵等を禁止する州法が成立しており、実際の建設等は難しい状況となっている。

テキサス州アンドリュース郡で中間貯蔵パートナーズ(ISP)社が計画している使用済燃料等の集中中間貯蔵施設の建設・操業2 については、すでに、原子力規制委員会(NRC)が建設・操業に係る許認可を2021年9月13日に発給している。これを受けてテキサス州は、NRCが発給した許認可の取り消しを求める訴訟を2021年9月23日に起こしている

今般、NRCは、ニューメキシコ州リー郡のサイトでホルテック・インターナショナル社(以下「ホルテック社」という。)が計画している使用済燃料等の集中中間貯蔵施設について、建設・操業に係る許認可を2023年5月9日に発給した3 。NRCは、ホルテック社の許認可申請書の審査に基づいて、許認可で承認される活動は公衆の健康と安全を脅かすことなく実施できること、これらの活動はNRC規則(10 CFR Part 72)を遵守して実施されることについて、2023年5月9日付けのホルテック社宛の許認可書送付書簡において、合理的な保証があるなどと判断したことが示されている。

ただし、テキサス州の場合と同様に、ニューメキシコ州でも貯蔵等に関する州法(SB53)が成立していることにより、集中中間貯蔵施設の建設・操業については、実際には行えないことが見込まれる。

【出典】


  1. バイデン大統領は、2023年4月21日に、全ての国民のための環境正義の実現へ向けて各政府機関に取り組むよう指示する大統領令に署名した。 []
  2. ISP社は、テキサス州アンドリュースにおいて、プロジェクトの第1段階として5,000トン、最終的には全8段階で最大40,000トンの使用済燃料等の貯蔵を行う計画である。 []
  3. ホルテック社は、ニューメキシコ州リー郡において、プロジェクトの第1段階として約8,680トン、最終的には全20段階で約10万トンの使用済燃料等の貯蔵を行う計画である。 []

フランスの放射性廃棄物管理機関(ANDRA)は、2023年4月11日付けプレスリリースにおいて、フランス東部オーブ県に位置するモルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(Cires、Le Centre industriel de regroupement, d’entreposage et de stockage:分別・貯蔵・処分産業施設)1 の処分容量の拡大のための環境許可(autorisation environnementale)を2023年4月7日にオーブ県に申請したことを公表した。同処分場は2003年に操業を開始し、約30年間の操業が予定されていたが、当初の予定よりも早いペースで極低レベル放射性廃棄物が発生しており、2029年には処分される廃棄物の量が許可された処分容量(65 万m3)に達する見込みとなった。このため、処分容量を30 万m3拡大し、操業期間を2044年まで延長する計画である。

■モルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(Cires)の概要と処分容量の拡大

モルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(Cires)の処分トレンチの模式断面図

図1 モルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(Cires)の処分トレンチの模式断面図

2003年から2016年にかけてのモルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(Cires)の処分トレンチの容量拡大(ANDRA提供)

図2 2003年から2016年にかけてのモルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(Cires)の処分トレンチの容量拡大(ANDRA提供)

モルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(Cires)の3つの処分区画(ANDRA提供)

図3 モルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(Cires)の3つの処分区画(ANDRA提供)

モルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(Cires)は、地表付近の粘土層に掘削したトレンチ(溝)に廃棄物を処分する構造となっている(図1)。廃棄物の多くは、ドラム缶やフレコンバッグの形で埋設処分されるが、除染済みの使用済燃料輸送容器等の大型の廃棄物は、そのままの形で専用のトレンチに処分される。埋設が完了したトレンチは、雨水の浸入を防止するために覆土が施工される。

今回の処分容量の拡大の許可申請では、現在処分場として許可されている区画の面積を変更せずに、新たに掘削するトレンチを深くして、より高く廃棄物を積み上げることにより、処分容量を拡大する計画である。このようなトレンチの大容量化は以前から段階的に行われており、2007年から操業していたトレンチは1本当たり25,000 m3の処分容量であったが、2016年以降に操業しているトレンチは、同じ長さのトレンチで1本当たり34,000 m3の処分容量を備えている(図2)。

このようなトレンチ毎の処分容量の拡大により、現在処分場として許可されている3つの区画のうち2つ(図3のSection1と2)で許可されている処分容量にあたる65 万m3に対応可能とし、残る1つの未使用区画(図3のSection3)に30 万m3の処分容量を確保する計画である。

 

■処分容量拡大に関する許可申請と今後の予定

モルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(Cires)の容量拡大のプロジェクトは、Acaci (Augmentation de la CApacité du CIres)プロジェクトと名付けられており、環境法典の規定による環境アセスメントの対象となる。ANDRAは、Acaciプロジェクトに関する事前協議に関して国家討論委員会(CNDP)に付託を行い、CNDPが情報提供及び公衆参加を監督する2名の保証人(garants)を2020年12月に任命していた。その後、ANDRAは2021年より保証人のもとで住民との事前協議を進めてきた。

今回、ANDRAがAcaciプロジェクトに関する環境許可の申請をオーブ県に行ったことを受け2 、今後、以下のような工程で審査が行われる予定である。

  • 県の関係機関や環境当局(EA)等の国の関係機関による審査と意見の提出。
  • 意見聴取委員会による公衆及び地方の関係機関を対象とした公開ヒアリングの実施と意見の取りまとめ。
  • 意見聴取委員会により取りまとめられた意見、並びに県衛生・技術リスク評価委員会(Coderst)による審議の結果等を踏まえた、県地方長官(県における国の代表、県知事)による環境許可の決定。

ANDRAは環境許可が得られる時期を2025年頃と見込んでいる。

 

〈参考〉フランスでの極低レベル放射性廃棄物

モルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(Cires)に処分される廃棄物は、主に原子力発電所や燃料サイクル施設、研究所の運転・保守・廃止措置によって生じるものであり、放射能レベルは、一般的に100 Bq/g未満である。

フランスでは、包括的なクリアランス制度は導入されていない。原子力発電所等の原子力基本施設(INB)では、放射性物質で汚染または放射化された可能性があるゾーンを定めており、このゾーンから生じる廃棄物は全て放射性廃棄物として取り扱われる。このようなゾーニング方式は、放射性廃棄物の発生現場で取り扱い方法を容易に判別できるという長所を持つが、一方で極低レベル放射性廃棄物の発生量の増加につながるものである。

フランスでは今後、原子力発電所の廃止措置等により極低レベル放射性廃棄物の発生量が増加すると見込まれている。これに対応するため、今回のモルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(Cires)の処分容量拡大の他、新たな集中型の処分場の建設、廃止措置が行われる発電所周辺での分散型の処分場の建設、極低レベルの金属廃棄物の溶融と除染の後でのリサイクル等が検討されている。

 

【出典】

 


  1. モルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(Cires)は、処分場としての役割のほか、原子力発電以外の分野から発生した廃棄物を極低レベル放射性廃棄物や短寿命・低中レベル放射性廃棄物等に分別したり、処分先未定の廃棄物を一時的に貯蔵する役割を持った施設である。 []
  2. 今回の処分場の容量拡大に必要な環境許可の申請は、県に対して行われたが、これはモルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(Cires)が、同施設で管理される放射性廃棄物の総放射能量が小さいことから「環境保護指定施設」(ICPE)に分類されているためである。一方で、オーブ短寿命・低中レベル放射性廃棄物処分場(CSA)や現在設置許可を申請中の地層処分場(Cigéo)は、原子力発電所等と同じ「原子力基本施設」(INB)に分類されており、主に国に対して許認可の申請が行われる。 []

スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB社)は、2023年4月3日付けのプレスリリースにおいて、短寿命低中レベル放射性廃棄物処分場(SFR)の拡張部分の建設に関して、原子力活動法に基づく申請書を放射線安全機関(SSM)に提出したことを公表した。SKB社が操業するSFRは、ストックホルムの北120kmのエストハンマル自治体フォルスマルクにあり、国内4カ所の原子力発電所から発生した運転廃棄物を1988年から受け入れ、処分している。スウェーデンでは、国内3カ所の原子力発電所で6基の原子炉の廃止措置が進められている。SKB社は、これらの廃止措置に伴う放射性廃棄物の受け入れに対応するために、既存部分との合計で約180,000m3の処分容量を確保する計画である。

短寿命低中レベル放射性廃棄物処分場(SFR)の拡張計画(SKB社提供)

短寿命低中レベル放射性廃棄物処分場(SFR)の拡張計画(SKB社提供)

SFRはバルト海の浅い海岸部(水深は約5m)の地下60~140mの岩盤内に設置されており、1つのサイロと4つの処分坑道で構成されている(図下側の白色部分)。当初、処分容量63,000m3の処分場として建設され、1988年から原子力発電所の運転に伴って発生する廃樹脂、雑固体などの短寿命運転廃棄物と呼ばれる放射性廃棄物を処分しているほか、医療・研究・産業で発生した放射性廃棄物も受け入れて処分している。2021年末時点での処分量は約40,500m3である。

SFRの拡張部分(図左下の青色部分)は、既設部分よりやや深い地下120~150mの岩盤内に新たに6つの処分坑道を掘削することにより、117,000m3の処分容量を確保する。拡張部分は、主として廃止措置廃棄物の処分用区画であるが、運転廃棄物の一部も処分される計画である。また、SFRの既存部分でも、廃止措置廃棄物の一部が処分されることとなっている。

■SFR拡張計画の経緯と今後の予定

SKB社は2014年12月にSFR拡張計画に関する申請を行っており、2021年12月にスウェーデン政府による承認を受け、2022年12月に環境法典に基づく許可を取得していた。今後SKB社がSFR拡張部分の建設を開始するには、2014年12月の拡張許可申請時の安全評価書を更新した予備的安全評価書(PSAR)、建設フェーズにおける安全確保に関する報告書、処分場システムの説明書、及び廃止措置計画書について、放射線安全機関(SSM)の審査を受け、SSMから建設認可を受ける必要がある。

SKB社が2022年9月に公表した「放射性廃棄物の管理及び処分方法に関する研究開発実証プログラム2022」(RD&Dプログラム2022)によると、SFRの拡張部分の建設開始は2020年代半ば、操業開始は2030年頃となる計画である。

なお、SKB社はエストハンマル自治体のフォルスマルクの地下約500mに使用済燃料処分場を設置する計画である。SKB社の使用済燃料処分事業計画については、2022年1月にスウェーデン政府の承認を受けており、現在は事業許可の条件を設定するプロセスが継続している。SKB社は、先に実施することになるSFR拡張部分の建設で得られる経験を、使用済燃料処分場の建設に反映する考えである。

【出典】

  • スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB社)、2023年4月3日付けプレスリリース(スウェーデン語)
    https://skb.se/nyheter/ansokan-for-sfr-ar-nu-inlamnad-till-ssm/
  • SKB社、フォルスマルクの短寿命放射性廃棄物処分場の閉鎖後安全性、PSAR版、メインレポート(2023年3月)(英語)
    SKB TR-23-01
  • SKB社、放射性廃棄物の管理及び処分方法に関する研究開発実証プログラム2022(RD&Dプログラム2022)(2022年9月)〔英語:RD&D Programme 2022. Programme for research, development and demonstration of methods for the management and disposal of nuclear wasste〕
    SKB TR-22-11

フィンランド政府は2023年3月30日に、ロヴィーサ原子力発電所の敷地内に設置している低中レベル放射性廃棄物処分場について、操業期間延長と施設拡張計画を含む操業許可条件の変更を承認した。同発電所及び処分場を操業するフォルツム・パワー・アンド・ヒート社(以下「FPH社」という)は、1号機と2号機の運転期間を2050年まで延長するとともに1、低中レベル放射性廃棄物処分場の操業期間を従来の2055年から35年間延長して2090年とする申請を2022年3月に行っていた。FPH社の親会社であるフォルツム社によれば、今回の操業許可条件の変更は、フィンランドと欧州のカーボンニュートラルの目標達成を支援し、信頼性が高く、競争力があり、持続可能なエネルギーシステムの構築を目的としている。原子炉の運転期間延長についてはすでに、フィンランド政府が2023年2月16日に承認していた。

 

■ロヴィーサ低中レベル放射性廃棄物処分場の施設拡張計画

図:ロヴィーサ原子力発電所・低中レベル放射性廃棄物処分場イメージ図(出典:フォルツム社(Source: Fortum)灰色部分は既設、緑色の部分は今後拡張される処分空洞を示す。)

ロヴィーサ原子力発電所の低中レベル放射性廃棄物処分場は、発電所敷地内の地下110mの岩盤中に設けられており、1998年に操業が開始された。地下施設は、中レベル放射性廃棄物用の処分空洞が1つ、低レベル放射性廃棄物用の処分空洞が3つで構成されており、既設の4つの処分空洞の容量は約2万9千立方メートルである(右図参照)。低中レベル放射性廃棄物処分場では、これまで同発電所1号機と2号機(いずれもロシア型加圧式原子炉(VVER)であり、それぞれ1977年と1981年に営業運転を開始)の運転で発生した低中レベル放射性廃棄物が処分されてきた。

FPH社は、低中レベル放射性廃棄物処分場の操業期間延長とともに、運転期間を延長した原子炉と将来の廃止措置で発生する廃棄物のほか、国内の他施設で発生する放射性廃棄物も受け入れる計画を申請していた。今回の操業許可条件の変更の承認により、同発電所の運転及び廃止措置で生じる低中レベル放射性廃棄物については5万立方メートルまで、廃止措置で生じる極低レベル放射性廃棄物については5万立方メートルまで、同発電所外から受け入れる放射性廃棄物については2千立法メートルまでの処分計画が認められた2。廃止措置廃棄物を処分する処分空洞の拡張は2040年代後半頃となる計画であるが、処分場の拡張作業は安全規制機関の放射線・原子力安全センター(STUK)による安全確認を受けるまで実施できない。

フォルツム社は、研究炉の廃止措置を実施するフィンランド技術研究センター(VTT)との間で、放射性廃棄物の処理・貯蔵・処分に関する協力協定を締結している。今回の操業許可条件の変更によって、研究炉の廃止措置で発生した放射性廃棄物についても、ロヴィーサ原子力発電所の低中レベル放射性廃棄物処分場で処分される見込みである。

【出典】


  1. ロヴィーサ原子力発電所の運転が2050年まで継続する場合、1号機と2号機の運転期間はそれぞれ73年間と69年間となる。 []
  2. フォルツム社が許可で求めている処分量は、発電所プラントの改造などの特殊な状況に対応するために裕度を持たせており、また、廃止措置廃棄物の正確な特性や量は6年毎に提出することが規定されている廃止措置計画で更新されるとしている []