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《スイス》NAGRAが地層処分場プロジェクトの概要承認申請書を公表

スイスの処分実施主体である放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)は、2025年6月19日に、地層処分場プロジェクトに関する最初の許認可手続きとなる「概要承認」について、申請書及び付属文書を公表した。NAGRAは、放射性廃棄物の地層処分事業を100年プロジェクトとしており、規制当局による専門的な審査だけではなく、広範な社会的議論が必要となるため、申請の根拠となる文書を公表して、議論を促進したいとの考えを示している。

スイスでは、原子力発電所や地層処分場などの原子力施設を建設、運転・操業しようとする者は、連邦評議会1 から概要承認という許可を得る必要がある。概要承認は、スイスで特徴的な建設許可申請の前に実施される許認可手続きであり、立地場所、施設の目的及びプロジェクトの基本事項などを定めるものである。

NAGRAは、2022年に提案した地質学的候補エリア「北部レゲレン」について、原子力令の規定に従い、2024年11月に以下の2件の概要承認申請書及び付属文書を連邦エネルギー庁(BFE)に提出したが、これらの文書は公表されていなかった。

  1. 「北部レゲレン」において、高レベル放射性廃棄物と低中レベル放射性廃棄物を1カ所で処分する地層処分場を建設するとともに、地層処分場の地上施設をチューリッヒ州のハーバーシュタールに建設するための申請
  2. ハーバーシュタールから西へ約20kmに位置する現在操業中のヴュレンリンゲン放射性廃棄物集中中間貯蔵施設(ZZL)の敷地において、キャニスタ封入施設を増設して操業するための申請
処分場_キャニスタ封入施設.png

処分場候補エリア「北部レゲレン」とハーバーシュタールの地上施設設置区域及びキャニスタ封入施設の予定地

NAGRAの概要承認申請以降、連邦政府は、概要承認申請書が法令に従って提出されたかどうかを確認し、追加情報を要求した。具体的には連邦原子力安全検査局(ENSI)は、処分場が満杯になった場合の処分場の安全性に及ぼす影響(線量、熱やガスがバリアの健全性に与える影響)に関する追加説明を求めた。また、連邦環境庁(BAFU)は、環境影響評価本調査第1ステージ報告書及び第2ステージの仕様書に対して、熱水資源の安全確保に関する追加情報を求めた。NAGRAは、こうした追加情報の要求を踏まえて、追加書類を提出し、今回の公表に至った。

■NAGRAが概要承認申請書及び付属文書として提出した文書の構成

今回、NAGRAは154の文書を公表した。以下にその構成を示す。

1.地層処分場及び地上施設に係る申請書及び付属文書(申請文書、主要参照報告書等)

文書の種類 文書名(その他参照報告書については文書数)
申請書
  • 申請書(1件)、追加書類の申請書(2件)
申請文書
  • 安全報告書(操業段階と閉鎖後段階)
  • サイト選定の根拠に関する報告書
  • 核セキュリティ報告書
  • 環境影響評価本調査第1ステージ報告書
    (第2ステージの仕様書も含む)
  • 地域開発計画適合性報告書
  • 統合モニタリング概念報告書
  • 閉鎖概念報告書
  • 地上施設廃止措置概念報告書
主要参照報告書
  • 閉鎖後安全報告書(セーフティケース)
  • 処分場施設概念・操業概念報告書
  • スイス北部の地質環境情報の統合化報告書
  • 回収可能性概念報告書
  • サイト選定第3段階におけるサイトの安全技術面の比較についての評価対象の定義
  • 地層処分場における内部影響に関する一般的な安全上の考慮事項
  • サイト選定第3段階における安全技術面の比較のための定性的評価報告書
その他参照報告書 117件

 

2.キャニスタ封入施設に係る申請書及び付属文書(申請文書、参照報告書等)

文書の種類 文書名(参照報告書については文書数)
申請書
  • 申請書(1件)、追加書類の申請書(2件)
申請文書
  • 安全報告書(操業段階)
  • 核セキュリティ報告書
  • 環境影響評価本調査第1ステージ報告書
    (第2ステージの仕様書も含む)
  • 地域開発計画適合性報告書
  • 廃止措置概念報告書
参照報告書 11件

■概要承認申請までの主な経緯

NAGRAは特別計画「地層処分場」に基づき、3段階でのサイト選定を実施している。2008年開始のサイト選定第1段階では、スイス全土から地質学的な観点で絞り込みを行い、高レベル放射性廃棄物用処分場について6カ所、低中レベル放射性廃棄物処分場について3カ所まで絞り込まれた。2011年に開始されたサイト選定第2段階では、NAGRAの提案に対する規制機関の見解が考慮され、高レベル放射性廃棄物用処分場と低中レベル放射性廃棄物用処分場の地質学的候補エリアとして「ジュラ東部」、「チューリッヒ北東部」、「北部レゲレン」まで絞り込まれた。

2018年にはサイト選定第3段階が開始された。NAGRAはボーリング調査を実施し、サイトの比較を行った。ボーリング調査の結果を踏まえ、NAGRAは2022年10月に地層処分場の地下施設を設置するサイトとして地質学的候補エリア「北部レゲレン」を選定するとともに、地層処分場の地上施設をハーバーシュタールに建設し、キャニスタ封入施設をヴュレンリンゲン放射性廃棄物集中中間貯蔵施設(ZZL)の敷地に増設する提案を行った

■今後の予定

概要承認申請書及び付属文書について、連邦原子力安全検査局(ENSI)の審査が開始された。ENSIの審査においては、原子力安全委員会(KNS)2 が2027年までに見解を公表する見込みである。

2029年には連邦評議会が概要承認を発給するかどうかを決定する見込みである。この連邦評議会による概要承認の発給の決定については、連邦議会3 の承認も必要とされている。なお、連邦議会の承認から100日以内に5万人の署名が集まれば、連邦議会の承認の是非を問う国民投票が実施される可能性がある。NAGRAは、国民投票が実施されたとしても、2031年頃には地層処分場のサイトが確定すると考えている。低中レベル放射性廃棄物処分場は2050年、高レベル放射性廃棄物処分場は2060年の操業開始が見込まれている。

 

【出典】

  1. 日本の内閣に相当 []
  2. KNSは、ENSI、環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)、連邦評議会に対して安全性に関する重要な問題について助言する。 []
  3. 日本の国会に相当 []

(post by yamamoto.keita , last modified: 2025-06-27 )