HLW:UK:chap4
英国における高レベル放射性廃棄物処分
- 全体構成(章別)
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2. 地層処分計画と技術開発
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3. 実施体制と資金確保
目次
4. 処分地選定の進め方と地域振興
4.1 2014年白書に基づくサイト選定プロセスの状況
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英国政府は2014年7月、高レベル放射性廃棄物等の地層処分施設の設置に向けた新たなサイト選定プロセス等を示した白書『地層処分-高レベル放射性廃棄物等の長期管理に向けた枠組み』を公表しました。新たなサイト選定プロセスでは、大きく2つの期間に分けてサイト選定に関する活動を行っています。
新たなサイト選定プロセスの開始
英国政府は、公開協議で寄せたられた意見などを踏まえ、2014年7月に高レベル放射性廃棄物等の地層処分施設の設置に向けた新たなサイト選定プロセス等を示した白書『地層処分-高レベル放射性廃棄物等の長期管理に向けた枠組み』を公表しました。2014年7月の白書で英国政府が示した新たなサイト選定プロセスでは、サイト選定に関する活動の期間を大きく二つに分けています。
[第1期:初期活動]
2014年~ 2016年の約2年間は、英国政府及び実施主体の「初期活動」と位置づけており、この期間では地域社会(コミュニティ)に対し、地質、社会・経済的影響、地域社会への投資等の地層処分施設に関連する情報の提供を行うことにしています。地域社会が①地層処分に関する技術的事項、②実施主体と地域社会との協働事項の両方に関して明確かつ証拠に基づいた情報を得ることにより、より安心してサイト選定プロセスに参加できるようになると考えられています。初期活動の期間では、以下の3つの作業が実施されます。
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英国全土(スコットランドを除く)を対象とした地質学的スクリーニングの実施
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地域社会との協働プロセスの開発
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土地利用計画プロセスの開発
なお、英国全土を対象とした地質学的スクリーニングは、今後地域社会が地層処分施設の設置について検討する際に、必要な地質情報に容易にアクセスできるようにすることを目的として実施されるものです。地層処分施設の設置に「適格」または「不適格」なエリアの判定や絞り込みに使用するものではないと位置づけられています。
[第2期]
2016年以降の15~20 年間では、関心表明した地域社会と実施主体との正式な協議として、初期活動での成果に基づき、実施主体と地域社会の間で地質調査の実施などに関する正式な協議に入ることになっています。サイト選定プロセスからの撤退権については、地域社会が地層処分施設の設置についての住民の支持を調査・確認するまでは、いつでも撤退できるとしています。
2014年白書の発表以降の活動状況
①地質学的スクリーニングの実施
実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM社)は、2016年4月に地質学的スクリーニングのガイダンスを公表しました。このガイダンスにおいて、RWM社は地層処分施設の長期安全要件に関して考慮すべき5つの地質特性として、①岩種、②岩盤構造、③地下水、④自然プロセス、⑤資源に着目し、過去に英国で実施された採鉱活動に関する情報などに基づいて、スクリーニング作業を行います。RWM社は、スクリーニング作業で得られた情報に基づいて、各地域の地質特性と安全面がどのような関連性を持っているかについて示した簡略な説明文書を提示する予定です。今後、スクリーニングの結果を公表した上で、地域社会との正式な協議を開始する予定です。
②地域社会との協働プロセスの開発
英国政府は、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の代表を議長とした「地域社会の意思表示のための作業グループ(CRWG)」を設置し、2015年3月から地域社会との協働プロセスの開発に向けて、以下のような検討を行っています。
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地域社会に関する定義や意思表示に関するオプションの開発
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住民の支持を調査・確認(test)方法の策定に向けたプロセスの開発
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地域社会への投資
今後、CRWGは地域社会との協働プロセス案を策定し、公開協議を行う予定です。
③土地利用計画プロセスの開発
2015年3月に、地層処分施設(GDF)の条件などを規定した「2015年社会基盤計画(放射性廃棄物地層処分施設)令」が発効しました。この立法措置により、イングランドにおけるGDF開発プロジェクトは「国家的に重要な社会基盤プロジェクト(NSIP)」として位置づけられ、国家レベルで重要なインフラ整備に係る手続きなどを定めた「2008年計画法」に基づいた規制が適用されることになります。
また、GDF 開発プロジェクトの実施には、計画審査庁からの勧告を受けた担当大臣による開発同意令が必要となります。英国政府は、開発同意令の発給審査の基礎となる国家政策声明書(NPS)の策定を進めているところです。国家政策声明書には、持続可能性評価(AoS)と生息環境規制評価(HRA)の評価結果を含むことになっています。今後、英国政府は国家政策声明書を策定し、公開協議を行う予定です。
4.2 以前のサイト選定プロセスの経緯
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2008年6月の英国政府白書『放射性廃棄物の安全な管理-地層処分の実施に向けた枠組み』において、公募方式に基づく6段階から成るサイト選定プロセスや適用すべき基準を示しました。
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英国政府が処分場を建設するための好ましいサイトを選定するまでは、自治体がこのサイト選定プロセスから撤退する権利を行使できるとしています。
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英国政府白書の公表とともに、サイト選定が開始されましたが、2013年1月に、関心表明を行っていたカンブリア州西部の自治体がサイト選定プロセスからの撤退を表明しました。。
処分場サイト選定プロセス(見直し前)
英国におけるサイト選定プロセス英国におけるサイト選定プロセス(旧)
英国政府は2008年6月に白書『放射性廃棄物の安全な管理-地層処分の実施に向けた枠組み』を公表し、地層処分場のサイト選定の進め方や初期スクリーニング基準(第2段階で使用)を明確化して、サイト選定を開始しました。英国のサイト選定プロセスは、地元の“主体的参加”と“地域とのパートナーシップ”を重視した公募方式です。サイト選定作業は、処分実施主体ではなく、英国政府が直接実施することになっており、エネルギー・気候変動省(DECC)が担当です。
サイト選定は、右に示す6段階で進められますが、大きく前半(第1~3段階)と後半(第4~6段階)にわかれています。
○第1~第3段階:
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最初の3段階までは、自治体と政府が議論する期間です。このためには、自治体がサイト選定プロセスへの参加を確約しなくても、その関心を表明する(関心表明)だけで十分であるという姿勢です。関心表明後に明らかに不適格である場所を選別するための調査は、処分実施主体ではなく、英国地質調査所(BGS)が実施します。自治体は、その情報を得てからプロセスへの参加を検討し、プロセスへの参加意思を正式に決定することができます。
○第4~第6段階:
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後半の段階では、実施主体である原子力廃止措置機関(NDA)が調査を実施します。選定プロセスの開始時点では、各段階で実施される調査の内容は詳細には定められていません。少なくとも第4段階の前までに、地域立地パートナーシップが設立され、地元の意見を反映できる形で選定作業が進められることになっています。
このサイト選定プロセスでは、地下での調査及び建設が始まるまで(第5段階の終了まで)は、自治体が選定プロセスからの撤退権を行使できることを政府が保証しているのが特徴です。政府は各段階の終了期限は明確にしていません。逆に、これらの段階は関心表明を行った自治体がたどる段階を示した形となっており、選定を進める側のステップではないことも特徴です。
サイト選定の進捗…カンブリア州西部の自治体がプロセスから撤退
第1段階:自治体からの関心表明
英国政府は、2008年6月の白書公表とともに、サイト選定の第1段階として政府との協議の開始を希望する、将来処分場を受け入れる可能性のある自治体の募集を開始しました。これに対して、2008年7月には、ドリッグ村近郊にある低レベル放射性廃棄物処分場やセラフィールド酸化物燃料再処理工場(THORP)など多くの原子力施設が立地しているカンブリア州のコープランド市が、地層処分場選定に関する政府との協議への関心表明を提出しました。また、2008年12月にはカンブリア州が、さらに2009年2月には同州のアラデール市が関心表明を行いました。
第2段階での調査:カンブリア州西部のケース
カンブリア州西部の自治体について、2010年6月からはサイト選定プロセスの第2段階である初期スクリーニングが英国地質調査所(BGS)によって行われました。調査結果は、同年10月に公表されました。
初期スクリーニングは、地層処分場の地下施設の設置場所を特定することが目的ではなく、所定の除外基準(白書で事前に公表していた基準)に基づいて、明らかに不適格な区域を事前に明らかにすることであり、以降の段階での不要な作業を避けることが狙いです。
BGSは、調査対象をアラデール市とコープランド市の全域、及び沖合5kmまでとし、既存の文献情報をもとに、深度200~1,000mの範囲の地下条件と所定の除外基準を比較して除外区域を評価しました。除外された区域は右図のようになっています。
第3段階:2013年1月 カンブリア州議会が既に第4段階に進まないことを議決
[4]西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップは、パンフレットの配布やワークショップを開催して、地元住民の処分プロジェクトに関する知識・理解力の強化を図りました。約3年間にわたって世論調査や公衆やステークホルダーからの意見を求めるために公衆協議を行い、それらを反映した最終報告書を取りまとめました。このパートナーシップの活動については、chap6で紹介しています。
カンブリア州西部のケースでは、サイト選定プロセスの第3段階において、第4段階へ進むかどうかを検討しました。
3つの自治体(1州2市)は、各自治体がサイト選定プロセスへの参加是非を判断する際の助言組織として、2009年に「西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップ」を発足させました。この組織は、地元住民の参画を得て関与プログラムを進め、3つの自治体に対する自身の意見及び勧告・助言をまとめた最終報告書を2012年8月に取りまとめました[4]。
3つの自治体は、この最終報告書などを参考にして、第4段階に進むかどうかの決定を行うため、2013年1月30日にカンブリア州議会、コープランド市議会、アラデール市議会で各々が議会投票を行いました。議会投票の結果は、コープランド市議会が賛成多数(賛成6、反対1)で第4段階に進むことを決議し、アラデール市議会も賛成多数(賛成5、反対2)でしたが、カンブリア州議会は反対多数(賛成3、反対7)となりました。第4段階に進むためには2市1州の合意が必要との覚書を締結していたため、サイト選定プロセスから撤退することとなりました。
カンブリア州議会は、サイト選定プロセスの第4段階に進むことに反対した理由として、カンブリア州西部の地質学的な適性に対する懸念やサイト選定プロセスにおける撤退権が法律によって担保されていないことを挙げています。また、3つの自治体のサイト選定プロセスからの撤退を受けて、サイト選定を管轄するエネルギー・気候変動省(DECC)の大臣は、以下のような声明を公表しました。
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第4段階へ進むことに対して、カンブリア州議会は反対、コープランド市議会とアラデール市議会は賛成の決議をそれぞれ行った。州及び2市の事前の取り決めに基づき、賛成で一致しなかったことから、カンブリア州西部でのサイト選定プロセスは終了することになった。
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英国政府は地層処分施設のサイト選定を行うための最善の方法は、地元の自主性とパートナーシップによる取組に基づくアプローチであるとの見解を維持する。
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地層処分施設の建設を受け入れた自治体の社会的・経済的なサポートを行うため、英国政府は数億ポンド規模に相当する利益のパッケージを立地自治体に提供することを確約する。
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サイト選定プロセスに自治体が関心表明を行うように呼び掛けを継続するが、新たな推進策に着手するとともに、カンブリア州西部での経験を反映するための検討を行う。
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2008年の英国政府白書が規定している目標を引き続き英国政府は追及していく。地層処分施設のサイト選定に関して、大きな心配はしていない。
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今回のカンブリア州西部の経験では、サイト選定プロセスの改善策について検討するための良い機会であり、今後必要であれば変更を行うための再協議を実施する。
サイト選定プロセスの見直し
2013年1月にカンブリア州西部の自治体がサイト選定プロセスから撤退するとの決定を行いました。これ受けて2013年5月に英国政府は、現行のサイト選定プロセスを見直すべく「根拠に基づく情報提供の照会」(Call for Evidence[4]. 以下「情報提供の照会」という。)を行いました。情報提供の照会は、これまでのサイト選定プロセスに関する経験から教訓を見出すため、特にサイト選定プロセスに参画した者、関心を持って観察してきた者から見解を収集することがねらいです。
英国政府は、サイト選定プロセスについての改善点、自治体の自発的な参加を促すための手段について、以下のような質問を用意しました。
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白書に基づくサイト選定プロセスのどんな面をどのように改善できるか。
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サイト選定プロセスに自治体を引きつけるものは何であるか。
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サイト選定プロセスに参画する上で、どのような情報が自治体の助けとなるか。
情報提供の照会は約1カ月行われ、その結果、個人から99通、カンブリア州、カンブリア州アラデール市及びコープランド市などの自治体や企業などから86通の回答が得られました。これらの回答に基づいて、英国政府は2013年9月に協議文書『地層処分施設のためのサイト選定プロセスのレビュー』を公表しました。この文書は、公開協議(約3カ月間)の目的で用意されたものであり、地層処分の政策に関する背景情報、2008年の白書に基づくサイト選定プロセスの変更・改善案を説明し、これらの提案に関する具体的な質問を提示する形で公衆からの見解を求めました。
この協議文書のなかで英国政府は、地元の自発性及びパートナーシップに基づくアプローチは現行プロセスと同様に維持しつつ、自治体が十分に準備を整える前に、何らかの約束をせまられる状況に追い込まれないように配慮したいとの考えを示しました。公開協議では、個人及び地方自治体、関係機関などから719件の見解が寄せられました。
4.3 地域振興方策
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英国政府は、2014年7月の白書において、地層処分施設のサイト選定プロセスに関与する地域社会(コミュニティ)を支援するために、サイト選定プロセスの初期段階から地域社会への投資を利用可能にすると表明しました。
自治体への投資
英国政府は、2014年7月の白書『地層処分-高レベル放射性廃棄物等の長期管理に向けた枠組み』において、地層処分施設の建設及び操業が数十億ポンド(1ポンドは128 円)に相当するプロジェクトであるとしています。プロジェクト期間中は多くの雇用を生み出し、立地する自治体の経済及び広範な社会・経済の枠組みに貢献するとしています。また、副次的な効果として、産業面での利益、社会基盤への投資、現地の教育または学術資源への利益、現地のサービス業への利益、輸送インフラの強化も見込まれるとしています。
また、英国政府は地層処分施設のサイト選定プロセスに建設的に関与する地域社会を支援するために、サイト選定プロセスの初期段階においても、地域社会への投資を利用できるようにするとしています。サイト選定プロセスの初期段階においては、関与する地域社会1か所あたり最大で年間100万ポンド(1億2,800万円)が利用可能であるとしています。さらに、地層処分施設の立地に適格である可能性のあるサイトにおいて、サイト評価のために地下への侵入を伴うボーリング調査の段階まで進んだ地域社会に対しては、最大で年間250万ポンド(3億2,000万円)まで増額するとしています。
なお、これらの投資に関しては、開発事業者と地域社会で交わされる建設中の影響緩和を目的とする協定(1990年都市田園計画法に基づくものなど)に追加されるというものではなく、地域社会のサイト選定プロセスへの関与を促すために追加されるものです。