HLW:FI:chap2
フィンランドにおける高レベル放射性廃棄物処分
- 全体構成(章別)
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2. 地層処分計画と技術開発
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3. 実施体制と資金確保
目次
2. 地層処分計画と技術開発
2.1 処分計画
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フィンランドでは、オルキルオトの地下約400~500mの結晶質岩中に使用済燃料を直接処分する計画です。使用済燃料を銅製容器と鋳鉄製容器の2重構造のキャニスタに封入して処分します。処分場の操業開始目標が2020年代に設定されています。ポシヴァ社は2016年12月に処分場の建設を開始しました。
地層処分対象の放射性廃棄物
フィンランドで地層処分の対象となる高レベル放射性廃棄物は、原子力発電所から発生する使用済燃料です。使用済燃料は、外側が銅製の容器、内側が鋳鉄製の容器という2重構造の容器(キャニスタ)に封入して処分されます。外側の銅製容器が腐食に耐える役割を、内側の鋳鉄製容器が荷重に耐える役割を各々担っています。
キャニスタは3通りのサイズを考えています。これは、原子炉形式によって異なるサイズの使用済燃料が発生するためです。右下の図に示したのは、左がロヴィーサ原子力発電所のロシア型加圧水型原子炉(VVER)から発生する使用済燃料用、中央と右がオルキルオト原子力発電所の沸騰水型原子炉(BWR)と建設中の欧州加圧水型原子炉(EPR)から発生する使用済燃料をそれぞれ封入するキャニスタです。
使用済燃料の燃焼度に応じ、BWR用及びVVER用は12体、EPR用は最大で4体の集合体を収納する設計を検討しています。使用済燃料をキャニスタに封入する施設は、処分場の地上施設として建設する計画です。
処分場の概要(処分概念)
処分実施主体であるポシヴァ社が検討している処分概念は、隣国のスウェーデンの処分実施主体SKB社が開発したKBS-3概念を採用しています。使用済燃料に含まれる放射性核種を、使用済燃料自身、キャニスタ、緩衝材(ベントナイト)、埋め戻し材、地層からなる多重バリアシステムにより長期にわたって隔離する方法です。キャニスタの定置の方法としては、地下の処分坑道の床面に掘削した処分孔に一本ずつ定置する「処分孔縦置き方式」が考えられています。キャニスタの周囲には緩衝材(ベントナイト)を充填する計画です。
最終処分地は、エウラヨキ自治体のオルキルオトです。ポシヴァ社は、使用済燃料を最大6,500トン(オルキルオト1~3号機とロヴィーサ1,2号機の合計5基の原子炉で50~60年間運転する場合に発生する量)の受け入れに対応可能な処分場を、地下約400~450mの深さに設置する計画です。
ポシヴァ社の計画では処分場の規模は、処分坑道の延長距離が42kmで、処分エリアの面積は2~3km2です(5,500トン処分の場合。建設許可申請で設定している6,500トン処分の場合の坑道距離と面積情報は未出)。
処分場の建設予定地の地質構造
オルキルオトはフィンランド南西部のサタクンタ地域の南部に位置しています。サタクンタ地域の基盤岩は先カンブリア紀のフェノスカンジア盾状地における約8億年間(19億年前~12億年前)の地質履歴を有しています。最も古い基盤岩は古原生代にあたる19~18億年前のスヴェコフェニアン造山運動によって変形と変成を受けた表成の変成堆積岩と変成火成岩から構成されています。その後、約16億年前の中原生代の非造山期に大きな貫入性のラパキビ花崗岩がこの地域の中心部に出現しました。このマグマ活動期以降はサタクンタ堆積岩が堆積し、さらに、これらの堆積岩やそれ以前の古い岩石は約12億年前にカンラン石輝緑岩の岩脈や岩床による貫入を受けています。
オルキルオトにおける基盤岩は、主に19~18億年前のミグマタイト質の雲母片麻岩等の結晶質岩です。
処分事業の実施計画
高レベル放射性廃棄物の最終処分地は、2001年にエウラヨキ自治体のオルキルオトに決定しています。実施主体のポシヴァ社が最終処分を実施するためには、原子力法に基づき、処分施設の建設許可、操業許可を順次取得しなければなりません。
ポシヴァ社は、2012年12月に処分場の建設許可申請書を政府に提出しました。同時に、ポシヴァ社は規制機関である放射線・原子力安全センター(STUK)に、処分の長期安全性の順守を立証する「セーフティケース」と呼ばれる文書を提出しています。STUK はセーフティケースを含む建設許可申請関連文書の評価を行い、2015年2月に、キャニスタ封入施設及び地層処分場を安全に建設することが可能であると結論づけた審査意見書を雇用経済省に提出しました。その後、雇用経済省が建設許可の発給に向けて検討を行い、2015年11月にフィンランド政府はポシヴァ社に処分場の建設許可を発給しました。その後、STUKによる処分場建設の準備状況の確認を経て、ポシヴァ社は2016年12月に処分場の建設を開始しています。
政府は1983年に策定した政策文書(2003年に一部修正)において、処分開始目標を2020年と設定しています。これは、使用済燃料を原子炉から取り出してから40年後に処分するという方針によるものです。ポシヴァ社は、このスケジュールに沿って処分事業の実施計画を進めており、2020年代は最終処分場の操業を開始する予定としています。
新規に原子力発電所建設を計画しているフェノヴォイマ社は、使用済燃料処分に関して、エウラヨキ自治体、及び発電所を立地予定のピュハヨキ自治体の2つの自治体から処分場サイトを選ぶことを計画しています。
2.2 研究開発・技術開発
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実施主体のポシヴァ社は国内外の研究機関、大学、コンサルタント会社等の外部機関に委託して処分技術や安全評価等に関する研究を進めています。また、スウェーデン等の国際協力による研究開発も進めています。国内の主要な研究機関はフィンランド技術研究センター(VTT)です。
研究機関
処分の実施主体であるポシヴァ社が、研究開発計画を作成し、実施しています。ポシヴァ社は小規模な管理、プロジェクト組織であり、その多くの研究開発業務を研究機関、大学、コンサルタント会社等の外部機関に委託しています。また、同様の処分概念を開発しているスウェーデンのほか、スイス、カナダ等と国際協力による研究開発も進めています。
ポシヴァ社を支援している主な研究機関としてフィンランド技術研究センター(VTT)があります。VTTは、雇用経済省の管轄下にあるフィンランドの総合研究所で、高レベル放射性廃棄物処分に関して規制行政機関が処分事業を管理・監督するために行う研究プログラムの研究支援も行っています。
研究計画
フィンランドでは、廃棄物管理責任者はその廃棄物管理計画(研究開発計画を含む)を3年毎に更新し、雇用経済省に提出することが義務付けられています。雇用経済省はこれらの計画書について、放射線・原子力安全センター(STUK)の見解書を得る必要があることが定められています。
2003年以降、廃棄物管理義務者であるTVO社とFPH社は、3年毎に使用済燃料と低中レベル放射性廃棄物の廃棄物管理の現状と研究開発を含む将来の廃棄物管理計画に関する報告書をポシヴァ社と共に作成しています。
地下特性調査施設
最終処分地に決定したオルキルオトの詳細なサイト特性調査のために、2004年6月からONKALOと呼ばれる地下特性調査施設の建設が開始されています。ONKALOでの調査は、わが国の処分地選定プロセスにおける精密調査に相当します。
ONKALOのアクセス坑道は2010年6月に処分深度まで掘削され、2014年7月現在、坑道の全長は約5km、深度は455mに達しました。ポシヴァ社はONKALOの建設作業と並行して、処分場の建設許可申請に必要な岩盤や地下水のデータを収集し、また、掘削がこれらの特性に及ぼす影響についての調査を行ってきました。処分場の建設開始後は、ONKALOは処分施設の一部として利用されますが、ONKALO でこれまで利用されてきた研究・実証用の坑道エリアでは、人工バリアの定置技術等の研究開発が今後も継続されます。
なお、ONKALO の建設以前には、オルキルオト原子力発電所の敷地内の地下に設置されている低中レベル放射性廃棄物処分場内に、専用の坑道を設けて小規模な試験が行われていました。
地層処分の実施に向けた取り組み
1980年代、当時の実施主体であったテオリスーデン・ヴォイマ社(TVO社)がサイト確定調査を行っており、1985年に安全評価の結果をまとめました。その後、TVO社は1992年に5カ所のサイトを対象とした安全評価(TVO-92)を取りまとめ、いずれのサイトにおいても処分場の建設が可能な適切な場所を特定することができると結論づけています。
実施主体として1995年に設立されたポシヴァ社は、TVO社が実施してきたサイト調査及び研究開発計画を引き継ぎました。ポシヴァ社は概略サイト特性調査等で3カ所に絞られたサイトに加え、ロヴィーサ原子力発電所のあるハーシュトホルメンでの処分の安全性に関する中間報告書を公表しています。
さらに1999年3月にポシヴァ社は、詳細サイト特性調査を行った4カ所に対し、使用済燃料の処分を行った場合の長期安全性に関する報告書『ハーシュトホルメン、キヴェッティ、オルキルオト、ロムヴァーラにおける使用済燃料処分の安全評価(TILA-99)』を発表しました。TILA-99では、地下約500mの結晶質岩の岩盤中に建設される処分場において、KBS-3の概念を用いて使用済燃料を処分するということを前提に安全評価を行っています。その中で、
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使用済燃料自身からキャニスタ、緩衝材、埋め戻し材の一部または全部を通過して地層へ至る放射性核種の移行
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移行した放射性核種の地下水による地層から生物圏への移行
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生物圏に移行した放射性核種による人の被ばく
という使用済燃料から人に至る経路においてさまざまなシナリオを設定し、モデルとデータに基づいて、コンピュータを用いたシミュレーションを行い、処分場閉鎖後の安全性など、処分場の性能を予測・評価しました。
シナリオとしては、通常考えられるもののほか、フィンランドの位置するスカンディナヴィア半島が、最終氷期に発達した氷床による荷重の影響により、後氷期の現在、地殻の上昇とそれに伴う断層運動等の地殻変動が生じる地域であるという特徴を踏まえたシナリオも想定されています。
1999年5月、実施主体のポシヴァ社はオルキルオトを最終処分地に選定して処分場建設計画を進めることとし、原子力法に基づく原則決定の申請を政府に行いました。
政府が原則決定を行うために必要な要件の一つは、安全性に関して放射線・原子力安全センター(STUK)が審査し、肯定的な見解を示すことです。
このため、STUK及び、STUKが編成した国際的な専門家からなる外部検証グループによる国際評価が行われました。その結果、政府が策定した一般安全規則に含まれる安全要件が満たされ、その段階のものとしては適切であるとするSTUKの見解書が提出されました。これにより、その後に提出された地元自治体の肯定的な見解書と併せて、オルキルオトが最終処分地に決定されました。
オルキルオトにおいては、2004年6月から地下特性調査施設(ONKALO)の建設が開始されています。ポシヴァ社はこの建設作業と並行して必要な研究開発や設計研究を実施しており、さらに詳細な地質環境データの取得が行われています。処分場の建設・操業許可申請においては、これらの研究成果に基づいて処分の安全性が評価されます。