諸外国での高レベル放射性廃棄物処分

Learn from foreign experiences in HLW management

ユーザ用ツール

サイト用ツール


hlw:ch:chap3
HLW:CH:chap3

スイス スイスにおける高レベル放射性廃棄物処分

スイスにおける高レベル放射性廃棄物処分

全体構成(章別)


3. 処分事業の実施体制と資金確保

3.1 実施体制

ポイント

  • スイスにおける高レベル放射性廃棄物の処分に係る行政機関は、連邦評議会、環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)、UVEKが所轄する連邦エネルギー庁(BFE)、及び連邦原子力安全検査局(ENSI)です。高レベル放射性廃棄物の処分場に関する事業許可は、UVEK が発給します。BFE はサイト選定手続きの監督責任を負っています。ENSI は放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)に対し、原子力安全及び放射線防護の観点から直接的な規制・監督を行い、処分の安全性確保のための指針を策定しています。NAGRA は、電力会社及び連邦政府などの共同出資によって設立されています。

実施体制の枠組み

スイスの処分実施体制
スイスの処分実施体制

スイスにおける処分に係る実施体制は、右図のようになります。処分に関わる連邦の行政機関には、連邦評議会、環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)と同省所轄の行政機関である連邦エネルギー庁(BFE)、連邦原子力安全検査局(ENSI)があります。ENSIは、前身の監督機関の原子力施設安全本部(HSK)がBFEから独立し、2009年1月に発足しました。

高レベル放射性廃棄物の処分場の建設及び操業許可については、UVEK が発給します。UVEKは、エネルギーや環境に関する連邦省であり、UVEK の所轄する行政機関であるBFEはサイト選定手続きの監督・責任官庁です。ENSIは、原子力安全と放射線防護の観点から直接的な規制・監督を行い、また、放射性廃棄物処分の安全確保のための指針を策定しています。

放射性廃棄物管理ワーキンググループ(AGNEB)は連邦評議会及びUVEKに代わり、廃棄物管理に関する専門家の見解などをまとめる役割を果たしています。連邦評議会、UVEK、ENSIの諮問機関として、処分場諮問委員会、地層処分場専門家グループ(EGT)、原子力安全委員会(KNS)があります。

処分場諮問委員会、地層処分場専門家グループ(EGT)、原子力安全委員会(KNS)は、それぞれ連邦評議会、UVEK、ENSIに対する諮問機関として放射性廃棄物処分に対するレビューなどを行う役割を担っています。放射性廃棄物管理ワーキンググループ(AGNEB)は、連邦評議会及びUVEKに代わり、廃棄物管理に関する専門家の見解などをまとめる役割を果たしています。


実施主体

1959年の旧原子力法は、原子力施設の所有者に、操業許可が取り消された原子力施設におけるすべての危険物の除去を義務づけていました。また医療・産業・研究分野から発生する廃棄物については連邦政府が責任を有しています。この責務を果たすために、スイスの電力会社と連邦政府は、1972年に放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)を設立しました。2005年2月に施行された原子力法でも、放射性廃棄物処分の責任は発生者が負うことが規定されています。


安全規則 …処分の安全性確保のための指針

処分場の閉鎖後に適用される防護基準
防護基準1 将来の変遷のうち、発生確率が高いと分類されたものについては、放射性核種の放出による個人線量が年間0.1mSvを上回ってはならない。
防護基準2 将来の変遷のうち、発生確率が低いと分類されたものについては、放射線による追加的な健康リスクが年間100万分の1を上回ってはならない。

source: ENSI-G03「地層処分場の設計原則とセーフティケースに関する要件」

原子力安全に関する規制機関である連邦原子力安全検査局(ENSI)は、2009年4月に、処分の安全性についてENSI-G03「地層処分場の設計原則とセーフティケースに関する要件」という指針を定めています。この指針では、地層処分場においては、将来の世代に過大な負担や義務を負わせることなく、放射性廃棄物から放出される放射線から人間及び環境が長期的に保護される方法で、放射性廃棄物を処分しなければならないという防護目標が設定されています。そして、右の表の2つの定量的な防護基準が設定されており、安全評価においてこの防護基準が100万年までの期間にわたって遵守されなければならないとされています。

[7] セーフティケース
ENSI-G03「地層処分場の設計原則とセーフティケースに関する要件」では、セーフティケースとは、地層処分場の長期的な挙動とその放射線学的影響に関する安全評価に依拠した、閉鎖後の地層処分場の長期安全性に関する総合的な評価のことと定義されています。

また、地層処分場のセーフティケース[7]については、概要承認及び建設、操業、閉鎖の許可手続の各段階において、許可申請者が地層処分場の操業段階、閉鎖後段階のそれぞれに対応するセーフティケースを提出することが求められています。


3.2 処分費用の確保

ポイント

  • 廃棄物発生者である電力会社及び連邦政府は、処分実施主体の放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)の活動費用を負担しています。また、電力会社は原子力発電所の運転中に係る廃棄物管理に必要となる費用を賄うため、引当金を計上しており、原子力発電所の閉鎖後の廃棄物管理費用については、放射性廃棄物管理基金への拠出金を負担しています。

処分費用の負担者

スイスでは、放射性廃棄物の発生者が処分費用を負担しなければならないことが2005年2月に施行された原子力法で定められています。廃棄物発生者である電力会社及び連邦政府は、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)の放射性廃棄物管理に関する調査・研究活動などに必要な費用を負担しています。


処分費用の確保制度

スイスにおける資金確保の仕組み
スイスにおける資金確保の仕組み

スイスでの放射性廃棄物管理の資金確保では、引当金制度と拠出金制度が併用されています。

原子力発電所の運転中に係る放射性廃棄物管理費用については、2005年2月に施行された原子力法により、原子力発電所の所有者が引当金を計上することにより資金確保をしています。

原子力発電所の運転終了後の放射性廃棄物管理については、必要な費用を賄うために設立された放射性廃棄物管理基金に対して、電力会社が毎年拠出金を支払う義務を有しています。2000年3月に放射性廃棄物管理基金令が制定され、原子力発電所の閉鎖後の廃棄物管理活動全般に必要な費用を基金化する制度が確立しました。この政令は2007年12月に、原子力施設の廃止措置基金に関する政令と一本化され、廃止措置・廃棄物管理基金令となりました。放射性廃棄物管理のための基金の積立対象となるのは、原子力発電所の閉鎖後に必要となる以下の費用です。

  1. 廃棄物の輸送及び処分
  2. 使用済燃料の輸送及び処分
  3. 処分場の50年間の監視段階
  4. 処分場の設計、計画、計画管理、建設、操業、閉鎖及び監視
  5. 放射線防護措置及び作業被ばく防止措置
  6. 官庁による許認可及び監督
  7. 保険
  8. 管理費用

この基金は、連邦評議会が設立した管理委員会によって管理されており、この委員会が費用の想定額についての決定も行います。基金への払い込みは2001年末から始まっており、2015年末における放射性廃棄物管理基金の残高は約42.2億スイスフラン(約4,400億円)です。(1スイスフラン=105円として換算)

基金への拠出金および引当金は、5年に一度行われる放射性廃棄物の費用見積りに基づいて決定されます。最近では原子力発電事業者の団体であるスイスニュークリアが2016年に費用見積りを発表しました。今後、連邦原子力安全検査局(ENSI)と会計専門家による評価が行われます。2016年の費用見積もりは、2017年から2021年までの基金への拠出金と引当金の額を決める根拠となります。次回の費用見積りは2021年に実施される予定です。

放射性廃棄物の発生者が負う管理義務に基づいて、NAGRAの事業費用は、現在、廃棄物発生者の引当金によって賄われています。原子力発電所の運転終了後は、NAGRAの活動費用は「放射性廃棄物管理基金」からの払戻金で賄われることになります。


処分費用の見積もり

処分費用見積もり
処分費用見積もり
NAGRA NTB 16-01(2016)から作成

スイスの原子力発電事業者は、2016年時点において、①高レベル放射性廃棄物と低中レベル放射性廃棄物用の処分場をそれぞれ1カ所ずつ計2カ所に建設する場合、②それらを同じ場所に建設する場合―の費用見積もりを行っています。

①高レベル放射性廃棄物と低中レベル放射性廃棄物用の処分場をそれぞれ別の場所(計2カ所)に建設する場合、放射性廃棄物の処分費用の総額は約191.8億スイスフラン(約2兆140億円)になると見積っています。処分費用見積額の内訳は、再処理に係る費用が約27.6億スイスフラン(約2,900億円)、中間貯蔵に係る費用が約29億スイスフラン(約3,045億円)、輸送に係る費用が約14億スイスフラン(約1,470億円)、低中レベル放射性廃棄物用処分場の費用が約44.2億スイスフラン(約4,640億円)、高レベル放射性廃棄物用処分場の費用が約76.9億スイスフラン(約8,080億円)です。

②高レベル放射性廃棄物と低中レベル放射性廃棄物用の処分場を同じ場所に建設する場合については、処分費用の総額は約183.6億スイスフラン(約1兆9,280億円)と見積っています。その内訳は、再処理、中間貯蔵、輸送に係る費用については①の場合と同額となりますが、低中レベル放射性廃棄物用処分場の費用は約41.5 億スイスフラン(約4,360 億円)、高レベル放射性廃棄物用処分場の費用は約71.5億スイスフラン(約7,510 億円)となっています。(1スイスフラン=105円として換算)



備考:通貨換算には、日本銀行の基準外国為替相場及び裁定外国為替相場のレート(平成28年12月中において適用)を使用しています。

  • 1スイスフラン=105円として換算





全体構成
スイス
hlw/ch/chap3.txt · 最終更新: 2017/10/27 18:38 by 127.0.0.1