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《カナダ》使用済燃料処分場のサイト選定の状況-イグナス・タウンシップ議会がサイト選定プロセスへの参加を継続することを正式に表明

カナダにおける使用済燃料処分の実施主体である核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が進めている地層処分場のサイト選定は、サイト選定プロセスの第3段階の予備的評価を終了し、現在はオンタリオ州北部のワビグーン・レイク・オジブウェイ・ネーション(WLON)-イグナスエリアと同州南部のソーギン・オジブウェイ・ネーション(SON)-サウスブルースエリアに絞り込まれている。このうちWLON-イグナスエリアの自治体であるイグナス・タウンシップの議会は、2024年7月10日に、NWMOのサイト選定プロセスにおいて、処分場を受け入れる「意欲(Willingness)のある地域」として継続して参加することを決議した。これは、NWMOが、地層処分プロジェクトの実施には、自治体や地域の住民、先住民が協力し、十分な情報を得た上で意欲のある受け入れ地域でのみ進められるとしており、自治体として正式にサイト選定プロセスへの参加の意欲を示す必要があることによるものである。

■カナダにおける地層処分サイト選定プロセス

NWMOは、2010年に地層処分場のサイトを選定するための9つの段階で構成されるプロセスを開始した。これは、NWMOが地層処分プロジェクト関する情報を求める自治体や地域を公募するものであり、2012年までに22の地域が関心を表明した。このうち11の地域が予備的評価を実施する第3段階に進み、机上調査、フィールド調査を経て、2020年にオンタリオ州北部のWLON-イグナスエリアと同州南部にあるSON-サウスブルースエリアの2つのエリアがサイト選定プロセスに残っている。NWMOは、2024年内には地層処分場のサイトとして好ましい地域を1カ所選定することとしている  。

■イグナス・タウンシップにおける取り組みと決議

イグナス・タウンシップは、2010年8月26日にNWMOの地層処分プロジェクトへの関心表明を行い、初期スクリーニングを経て2011年11月に第3段階へ進み、2017年からはボーリング調査等のフィールド調査を実施していた。これらの調査の結果として、2022年6月にNWMOは、WLON-イグナスエリアのレヴェルサイト(図1)に処分場を建設できる技術的な見通しがあるとした技術報告書「安全性への信頼」を取りまとめた

図1  WLON-イグナスエリアの「レヴェル・サイト」の位置 (核燃料廃棄物管理機関(NWMO)、「安全性への信頼-レヴェル・サイト NWMO-TR-2022-14」より引用)

図1  WLON-イグナスエリアの「レヴェルサイト」の位置 (核燃料廃棄物管理機関(NWMO)、「安全性への信頼-レヴェルサイト NWMO-TR-2022-14」より引用)

また、2024年3月には、イグナス・タウンシップとNWMOがサイト受け入れに向けた協定を締結することが議会で承認されている 。

イグナス・タウンシップは、自治体としてNWMOに対して正式にサイト選定プロセスへの参加の意欲を示すことに関する住民の意向を反映するため、住民の考えを幅広く吸い上げ、最終的には住民による投票を行うこととした。そのためには、住民が十分な情報を得て、意見を述べる場が必要であるとして、意見集約等を行うための関与活動の実施を外部組織(With Chéla社:WCI)に委託した。

WCIは、2023年11月から2024年4月までの間、ソーシャルイベント、個別訪問、電話やEメール、Webサイトなどさまざまなアプローチで住民との関与活動を行った。これらの活動の後、2024年4月26日から30日の間で住民による投票(オンライン投票または直接投票)を実施し、関与活動における住民の意見等を含めた報告書「イグナス意欲(Willingness)に関する調査最終報告書」として取りまとめた。投票結果は以下のとおりであり、有権者1,035名中62%の640名が投票し、そのうち77%の495名がサイト選定プロセスの継続に賛成している(図2)。

図2 イグナス・タウンシップにおける地層処分場の受け入れの可否に関する住民投票の結果(WCI最終報告書を元に作成)

図2 イグナス・タウンシップにおける地層処分場の受け入れの可否に関する住民投票の結果(WCI最終報告書を元に作成)

一方、イグナス・タウンシップ議会は、住民の意向を議会に提案するためにサイト選定プロセスへの参加の「意欲(Willingness)に関する特別委員会」(以下「特別委員会」)を設置した。特別委員会は、WCIが取りまとめた報告書を検討し、議会に対して以下を提言した。

  • WCIが取りまとめた報告書の全文を公開すること
  • イグナス・タウンシップの社会・経済的な成長を推進し、NWMOとの協定における社会・経済的な側面を注意深く監視し、向上させ強化するとともに、住民を積極的に関与させること
  • NWMOの地層処分場のサイト選定プロセスへの参加を継続し、意欲のある受け入れ地域として進むことを決議すること

■今後について

NWMOは、イグナス・タウンシップ議会の決議を受けて公表したプレスリリースにおいて、今後も、処分場の候補エリアの先住民居住地域であるWLON及びSON並びにサウスブルース自治体とも協力を続けていくことを明確にしている。なお、サウスブルース自治体では2024年10月28日に、地層処分場の受け入れ判断のプロセスとして住民投票を実施することになっている。

また、NWMOは、地層処分場の好ましい地域は処分場の受け入れに意欲のある地域であることに加え、選定したサイトが安全要件を満たし、使用済燃料の安全で社会的に受け入れられる輸送計画を策定できなければならないとしている。

【出典】

【2024年08月20日追記】

イグナス・タウンシップは2024年8月15日付のプレスリリースにおいて、使用済燃料処分の実施主体である核燃料廃棄物管理機関(NWMO)から財政的便益として150万カナダドル(1億6,350万円、1カナダドル=109円として換算)の資金を受領したことを明らかにした。イグナス・タウンシップとNWMOは2024年3月に、使用済燃料の処分場受け入れに向けた協定を締結しており、今回受領した資金は、この協定に基づいて支払われたものである。協定においてNWMOは、イグナス・タウンシップに対して財政的便益を図るとしており、以下について合意している。

  • 地層処分プロジェクトに関連する合理的に予見可能な影響(直接的または間接的かを問わない)の補償
  • 協定に基づく義務(職業能力の獲得のためのコミットメントを含む)を履行するためにイグナス・タウンシップが直接的または間接的に要したすべての費用の補償
  • 協定及び地層処分プロジェクトに関連して、NWMOがイグナス・タウンシップに支払うべきすべての金額の支払の完全かつ最終的な実現

また、協定では、財政的便益のための支払について、具体的な財政的便益の種類、支払時期、金額を定めており、今回の支払は、「マイルストーン支払(Milestone Payment)」のうち、イグナス・タウンシップがサイト選定プロセスへの継続参加の意欲を示すためのプロセスが完了した時点で支払われたものである。この後、ワビグーン・レイク・オジブウェイ・ネーション(WLON)-イグナスエリアが処分場の建設サイトとして選定された場合、さらに以下のマイルストーンの時点で財政的便益のための支払が行われることになっている。

マイルストーン支払 金額
カナダ影響評価局に対して初期プロジェクト説明書を提出した時点 400万カナダドル(4億3,600万円)
カナダ影響評価局に対して最終影響評価書を提出し、カナダ原子力安全委員会(CNSC)に対してサイト準備許可申請書を提出した時点 400万カナダドル(4億3,600万円)
CNSCが建設許可を発行した時点 600万カナダドル(6億5,400万円)
CNSCが操業許可を発行した時点 600万カナダドル(6億5,400万円)
NWMOが地層処分場における使用済燃料の定置を恒久的に停止し、イグナス・タウンシップに対して「恒久停止通知」を提出した時点 600万カナダドル(6億5,400万円)

【出典】

 

【2024年11月20日追記】

核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が提案している使用済燃料の地層処分場のサイト選定プロセスは、現在、2つの地域に絞り込まれている。このうち、オンタリオ州北部のワビグーン・レイク・オジブウェイ・ネーション(WLON)-イグナスエリアにおいて、地層処分場のサイト選定プロセスに意欲のある地域として継続して携わることに対して、先住民居住地域であるWLONが住民投票を行い、継続を決定したことを2024年11月18日付のプレスリリースで公表した。WLONは、今回の賛成票はプロジェクトの承認を意味するものではなく、安全性とサイトの適合性を判断するため、環境と技術に関する徹底的な評価を行う次の段階に進む意欲を示すものであるとしている。

この決定を受けて、イグナス・タウンシップは声明を公表し、WLONの決定に対して謝意を表明するとともに、今後もWLONと連携し、地域と人々の両方にとって良い成果をもたらすため、あらゆる段階で共に歩んでいくとしている。また、NWMOも自身のプレスリリースにおいて、WLONに対して謝意を表明している。

【出典】

(post by nunome.reiko , last modified: 2024-11-20 )