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《スイス》連邦エネルギー庁が地層処分場が与える経済影響に関する中間調査結果を公表

今回の中間報告で調査の対象となった「サイト地域」(BFE、特別計画「地層処分場」第2段階におけるサイトの比較のための社会・経済・環境影響に関する調査 第1部(中間報告書)、2012年7月より)

スイスの連邦エネルギー庁(BFE)は、2012年7月2日付のプレスリリースにおいて、放射性廃棄物の地層処分場が立地する地域に与える経済影響に関する第1回目の中間報告書を公表した。BFEは、特別計画「地層処分場」(以下「特別計画」という)に基づいたサイト選定プロセスを主導しており、2011年12月に確定した6カ所の地質学的候補エリア を包含する形で設定されている右図の「サイト地域」1 を対象にして、処分場立地によって生じる経済影響、環境影響、社会影響の調査を実施している。今回の中間報告書は、このうち経済影響の中間調査結果を取りまとめたものであり、今後本格化することになる「サイト地域」における地域参加プロセスでの検討材料としてBFEが準備することとなっている。 今回の経済影響の調査では、地下特性調査施設の建設から地層処分場の閉鎖に至るまでの期間を94年間と仮定し、この期間に生じうるプラスとマイナスの効果・影響の双方を、6つの観点― ①地元経済、②雇用、③観光業、④農業、⑤税収、⑥交付金―について分析している。BFEのプレスリリースでは、経済影響の調査結果として、調査対象のいずれの「サイト地域」においても、経済影響は小さいとしている。 なお、BEFのプレスリリースによると、BFEは、今後行われる地域参加プロセスの中での検討を踏まえ、今回の経済影響に関する中間報告書を改訂する予定としている。また、BFEは、環境影響と社会影響に関する調査を、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)が地質学的候補エリアごとに少なくとも1カ所の地上施設の設置区域を指定した後で開始する考えを示しており、社会・経済・環境影響に関する調査(ドイツ語ではSÖWと略される)の最終報告書を、2013年の夏に提出する予定としている。

同プレスリリースにおいてBFEは、今回の経済影響に関する中間報告書での6つの観点の調査結果を以下のように要約して示している。

  1. 地元経済

地層処分場の建設・操業費の一部が「サイト地域」に流入することで地元に生じる影響の度合いは、もともとの経済規模が大きければ小さくなり、建設業比率が高ければ大きくなる。年間平均で見た地元経済の規模は、高レベル放射性廃棄物の地層処分場の場合は1,500~1,630万スイスフラン(日本円で12.9~14億円、1スイスフラン=86円で換算、以下同じ)であり、同じ場所で低・中レベル放射性廃棄物も処分する場合には1,870~2,030万スイスフラン(16.1~17.5億円)と試算している。

  1. 雇用

高レベル放射性廃棄物の地層処分場の場合の雇用創出効果は109~120名であり、同じ場所で低・中レベル放射性廃棄物も処分する場合には139~153名と試算している。

  1. 観光業

地層処分場の視察者による増収が期待できる一方で、自然を求める観光客の減少も見込まれるため、地元が有する観光資源によって影響度は異なる。観光業の年間売上額は、10~540万スイスフラン(860万~4.6億円)の減収と試算している。

  1. 農業

地層処分場による農業における減収額は、一年当たり10~60万スイスフラン(860万~約5,200万円)と試算している。

  1. 税収

高レベル放射性廃棄物の地層処分場の建設期間における税収増は、年間33~46万スイスフラン(2,800~4,000万円)であり、同じ場所で低・中レベル放射性廃棄物も処分する場合には年間45~67万スイスフラン(3,900~5,800万円)と試算している。なお、法人税収の減少から、操業期間については建設期間に比べて税収増の効果は薄れる見込みである。

  1. 交付金

特別計画によれば、国としての課題の解決に貢献している自治体などが受け取るべき交付金の額については、法的根拠は定められておらず、第3段階で交付金に関する検討が行われ、概要承認が発給されてはじめて、処分義務者によって支払われるとされている。BFEのプレスリリースによると、処分義務者である原子力発電事業者は、高レベル放射性廃棄物の地層処分場の交付金は5億スイスフラン(430億円)であり、同じ場所で低・中レベル放射性廃棄物も処分する場合の交付金は8億スイスフラン(約690億円)と見積っており、サイト地域によらず同額としている。

  1. 結論

地下特性調査施設の建設から地層処分場の閉鎖に至るまでの期間全体で、調査対象の各々のサイト地域において地層処分場がもたらす現在の地元経済、雇用、及び税収へのプラス及びマイナスの効果・影響はわずかである。

【出典】

  1. 特別計画「地層処分場」の「2.2.2 地質学的候補エリア、計画範囲及びサイト地域」及び「略語一覧、用語」によると、サイト地域は、候補エリア所在自治体(地質学的候補エリアが領域の一部あるいは全体にわたって含まれる自治体)と、区域内に計画範囲(建設される可能性のある地上施設の配置を考慮して、地質学的候補エリアの広がりによって確定される地理的領域)が全部または一部含まれる自治体で構成される。さらに理由があれば、別の自治体をサイト地域に加えることもできるとされている。 []

(post by yamamoto.keita , last modified: 2023-10-11 )