ドイツでは、「高レベル放射性廃棄物の最終処分場のサイト選定に関する法律」(以下「サイト選定法」という)に基づいて、処分実施主体である連邦放射性廃棄物機関(BGE)が2017年9月から3段階からなるサイト選定手続きを進めている 。サイト選定法では、2031年を処分場サイト決定の目標とすることが規定されているが、第1段階の地上探査サイト地域の提案が2027年末となる見通しとなっている 。BGEは、2025年3月21日付けプレスリリースにおいて、2050年代に処分場サイトを決定するためのサイト選定スケジュール短縮案を示すとともに、短縮案の詳細を示した2025年1月30日付けの連邦政府に提出した報告書を公表した。
■サイト選定スケジュールの検討の経緯
サイト選定手続き等を定めているサイト選定法では、3段階からなるサイト選定手続きが規定されており、第1段階では地上探査サイト地域の選定、第2段階では地上探査の実施及び地下探査サイトの選定、第3段階では地下探査の実施及び処分場サイトの決定を行うことになっている(下表参照)。また、サイト選定法では、2031年を処分場サイト決定の目標としている。しかし、BGEは2022年12月に、第1段階の地上探査サイト地域の提案が2027年となる見通しを示すとともに、第2段階以降の所要期間の見積りを示していた 。この見積りでは、第2段階以降のシナリオにも依存するが、処分場サイトの決定はサイト選定法で目標とされた2031年から数十年遅れる可能性があることが示されていた。また、規制機関である連邦放射性廃棄物処分安全庁(BASE)が2024年に行った検討では、処分場サイトの決定は理想的な場合に2074年になることが示されていた。
表:ドイツにおける高レベル放射性廃棄物処分場のサイト選定手続き
段階 |
各段階での取り組み |
段階の終了 |
---|---|---|
第1段階 |
ドイツ全土を対象にサイト選定プロセスを開始。除外基準及び最低要件に基づき、対象外となる地域を除外。地質学的な評価基準及び項目を限定した予備的安全評価(第1次予備的安全評価)に基づき、主に連邦地球科学・天然資源研究所(BGR)や州の地質調査所が保有する既存のデータを元に地域間の比較を実施し、候補地域と地上探査の対象サイト地域を選定。 |
連邦放射性廃棄物機関(BGE)の提案に基づき、候補地域と地上探査の対象サイト地域を連邦法によって決定。 |
第2段階 |
地上からの探査を実施。地質学的な除外基準、最低要件、評価基準及び第1段階より範囲を拡大した予備的安全評価(第2次予備的安全評価)に基づき、サイト間の比較を実施し、地下探査の対象サイトを選定。 |
BGEの提案に基づき、地下探査の対象サイトを連邦法によって決定。 |
第3段階 |
地下探査などの処分の安全性の観点からの詳細な調査を実施。包括的な予備的安全評価を実施し可能な限り安全性の高いサイトの特定に向け、サイトの比較を実施し、処分場サイトを選定。 |
連邦放射性廃棄物処分安全庁(BfE)の提案に基づき、処分場サイトを連邦法によって確定。 |
■BGEによるスケジュール短縮の提案
今回、BGEが提案したサイト選定スケジュールの短縮のための方策は、以下のとおりである。
- BGEによる地上探査を行うサイト地域の提案からサイト地域確定までの時間の短縮
BGEが2027年末に予定している地上探査サイト地域の提案までの時間を活用し、以下についての準備を徹底することで、BGEの提案から地上探査サイト地域の確定までに必要な時間を短縮
・サイト地域提案後に行われる公衆参加の枠組みである地域会議 等の設置
・地上探査サイト地域の提案及び地上からの探査計画の規制機関によるレビューへの対応 - 地上からの探査のための土地利用のための手続きの簡素化
複数の州から探査のための許可を取得する必要があるが、これを連邦機関から統一された許可で探査を可能とする制度変更等を実施。 - サイト選定の第2段階及び第3段階の統合
次の2種類の地上からの探査でサイトを選定
・事前調査:2次元の弾性波探査やボーリング調査などを実施し、少なくとも3カ所の調査エリアを特定
・詳細調査:事前調査に基づき、3次元の弾性波探査やボーリング調査等を実施し、処分場サイトを選定
これらの方策を実施することにより、地上探査サイト地域が6カ所の場合には2046年まで、10カ所の場合には2052年までに、処分場サイトを決定することができると見積っている。ただし、これらの方策を実施するためには、サイト選定法の改正が必要であり、第1段階が終わる2027年末までの2年間に法改正のための基本作業を実施する必要があると指摘している。
■規制機関の反応
規制機関である連邦放射性廃棄物処分安全庁(BASE)は、2025年3月21日付けプレスリリースにおいて、BGEの提案の評価結果を含め、独自のサイト選定スケジュールの短縮案を連邦環境・自然保護・原子力安全・消費者保護省(BMUV)に提出したことを公表した。BASEの短縮案では以下などを示している。
- 第1段階終了時点での地上探査サイト地域を6カ所に絞る
- 鉱山法に基づく探査の許認可手続きの準備作業について、地上探査サイト地域の提案と同時または直後に行う
- 法改正により弾性波探査作業を季節を問わず年中実施可能とする(現在は環境影響を考慮して法律により冬季のみ実施可能)
- 法律で要求されている地下研究施設を建設するのではなく、最新の探査方法や掘削技術を用いて地下探査を実施する
- サイト選定第2段階と第3段階を統合する
- BGEの探査及び土地へのアクセス権取得を容易とする
これらの方策の実施により、BASEは、数年から数十年のスケジュールが短縮可能であり、2050年代の処分場サイト決定も現実的なものとなると結論している。しかし、効果を最大とするためには、早期に実施に移す必要があるとしている。また、BASEは、選定に関わる全てのプレーヤーにとって拘束力のある、マイルストーンを含むスケジュールを設定すべきであると指摘している。
■今後について
連邦環境・自然保護・原子力安全・消費者保護省(BMUV)は、BGE及びBASEからのサイト選定スケジュール短縮に関する報告書の提出を受け、今後、手続きを加速するための方法を同定し、実施するため、BGE及びBASEと議論を進めていくことを明らかにしている。
【出典】
- 連邦放射性廃棄物機関(BGE)、プレスリリース、2025年3月21日
https://www.bge.de/de/bge/presse/pressemitteilungen/pressemitteilung/news/2025/3/bge-macht-vorschlaege-zur-beschleunigung-der-endlagersuche/ - 連邦放射性廃棄物処分安全庁(BASE)、プレスリリース、2025年3月21日
https://www.base.bund.de/shareddocs/stellungnahmen/de/2025/base-beschleunigungspotentiale-endlagersuche.html - 連邦放射性廃棄物処分安全庁(BASE)、サイト選定手続きに関する分析支援、2024年7月
https://www.base.bund.de/shareddocs/downloads/de/fachinfo/fa/pasta_abschlussbericht.pdf?__blob=publicationFile&v=2 - 連邦放射性廃棄物機関(BGE)、サイト選定手続きのスケジュールの最適化の提案、2025年1月30日
https://www.bge.de/fileadmin/user_upload/Standortsuche/Wesentliche_Unterlagen/05_-_Meilensteine/20250130_Diskussionsvorschlag_Beschleunigung_Standortauswahlverfahren_barrierefrei.pdf - 連邦放射性廃棄物処分安全庁(BASE)、サイト選定手続きの加速可能性
https://www.base.bund.de/shareddocs/downloads/de/base/beschleunigung-standortauswahlverfahren.pdf?__blob=publicationFile&v=9 - 高レベル放射性廃棄物の最終処分場のサイト選定に関する法律(サイト選定法)
(post by tokushima.hideyuki , last modified: 2025-03-26 )