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《フランス》国家評価委員会(CNE)が第18回評価報告書を公表

フランスの技術的諮問機関である「放射性物質及び放射性廃棄物の管理研究・調査に関する国家評価委員会(CNE)」1 は、第18回評価報告書を議会科学技術選択評価委員会(OPECST)に提出し、2024年11月20日にCNEのウェブサイトで公表した。CNEは、中長期的な放射性廃棄物管理計画の前提となる、原子力利用及び核燃料サイクルに関する計画の評価を視野に入れつつ、そこから発生する広範な放射性廃棄物等の管理に関する取組や調査研究等の進捗状況について、毎年評価を行い、それを報告書に取りまとめてきた。なお、前回の第17回報告書は2023年10月に公表されている

CNEは第18回評価報告書において、「核燃料の完全なリサイクル、エネルギー主権への重要な貢献」との副題を示し、核燃料サイクルの完全クローズド化を達成するために満たすべき条件を検討している。これは、新規発電炉の建設や小型モジュール炉プロジェクトへの支援等の原子力利用の促進政策並びに2024年2月の原子力政策評議会(CPN、大統領が議長を務める閣僚会議)での核燃料サイクルの完全クローズド化を目指した使用済燃料の再処理方針の確認等の状況を受けたものであり、具体的には、発電炉の増強とその燃料として用いられるウランやプルトニウム等の放射性物質の供給、核燃料サイクルに関係するプラントへの影響並びに核燃料サイクルより発生する高レベル及び長寿命中レベル放射性廃棄物の地層処分等について評価を行っている。第18回評価報告書の構成と主な内容は以下の通りである。

第1章 原子力の復興(高出力発電炉の増強、小型モジュール炉プロジェクト等)

第2章 放射性物質の適切な利用(ウラン、プルトニウム利用等)

第3章 燃料サイクル・プラントへの影響(燃料製造工場、再処理工場等)

第4章 高レベル及び長寿命中レベル放射性廃棄物(フランスにおける地層処分)

第5章 地層処分、国際的リファレンス・ソリューション(他国の地層処分のレビュー)

CNEは、各章の内容に関して、主に以下のような勧告や意見を示している。

■原子力の復興について

現在、フランスでは、既存の原子炉の運転延長や、EPR2(改良型欧州加圧水型炉)の新規建設を進めている。CNEは、原子力発電の設備容量の目標をできるだけ早期に設定し、その目標を達成するための原子力発電の開発シミュレーション(原子炉の種類と数、建設スケジュール、運用期間、燃料サイクルプラント、発生する廃棄物の量と種類)を更新することを勧告し、特に、原子炉の炉型の移行時に注意を払うべきとしている。

原子力政策評議会(CPN)は2024年2月の会合において、核燃料サイクルの完全クローズド化を目指した使用済燃料の再処理方針を確認した。これに関してCNEは、核燃料サイクルの完全なクローズド化を可能にする唯一の選択肢は高出力の高速中性子炉であることを強調している。また、CNEは、ナトリウム冷却高速炉は高速中性子炉の中で最も成熟した技術であるが、現在具体的なプロジェクトが存在しないため、技術喪失の可能性について細心の注意を払う必要があると指摘している。

小型モジュール炉に関してCNEは、国の支援をごく限られたプロジェクトに集中させるべきであると勧告し、多数のプロジェクトの中から、国家エネルギー戦略との関連性や、現実的な成熟度を考慮して選定すべきと指摘している。

■放射性物質の利用について

CNEは、使用済燃料の再処理について、再利用可能な放射性物質であるウランとプルトニウムを回収する可能性を提供するものであり、資源の活用を拡大することはエネルギー主権の確保につながるとしている。また、これらの放射性物質に利点がないことが証明されない限り、放射性廃棄物と見なすことを検討すべきではないと勧告している。

CNEは、天然ウランの供給リスクについて、短期的なリスクは限定的であるが、長期的には世界の原子力発電所の増加による資源消費の加速と、地政学的緊張により、特定の地域からの資源供給が失われる可能性を指摘している。これに関連し、CNEは、高速中性子炉の導入を今世紀末まで遅らせることは、ウラン価格関連の検討のみに基づき、ウランの入手可能性に関するリスクを無視したものであるため、十分な根拠がないとの考えを示している。

フランスでは、使用済燃料の再処理により得られたプルトニウムを新たに原子炉の燃料として用いることを繰り返す「マルチリサイクル」が検討されている。この中で、将来的な高速中性子炉によるマルチリサイクルの導入までの中期的な措置として、使用済MOX燃料の再処理から得られるプルトニウムを軽水炉で使用するという「軽水炉によるマルチリサイクル」が検討されている。CNEは、軽水炉によるマルチリサイクルのための「MOX MR」と呼ばれる燃料の製造には、使用済MOX燃料の再処理によるプルトニウムの他に、核分裂性のプルトニウム同位体を補うため、使用済ウラン燃料の再処理によるプルトニウムが必要であること、「MOX MR」燃料を使用する原子炉の増加は、ウラン燃料を使用する原子炉の減少と、使用済ウラン燃料の再処理に由来するプルトニウムの供給の減少をもたらすため、「軽水炉によるマルチリサイクル」の継続には制限が存在することを指摘している。CNEは、遅くとも「MOX MR」燃料の製造が不可能になる頃には、高速中性子炉でのマルチリサイクルが可能になるよう研究開発作業を行い、その時点で適切な核分裂性を有するプルトニウムの十分なストックが確保されるようにすることを勧告している。

■燃料サイクル・プラントについて

CNEは、使用済燃料の再処理プラントについて、軽水炉によるマルチリサイクルのためにプラントを更新する際に、将来の高速中性子炉によるマルチリサイクルの実施に利用可能な設備を優先すべきであるとし、研究開発を強化し、具体化することを勧告している。また、燃料製造プラントについても、高速中性子炉のニーズを考慮した研究の実施を勧告している。

■フランスにおける地層処分について

放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が2023年1月に政府に提出した地層処分場(Cigéo)の設置許可申請書に関して、CNEは、Cigéoの実現可能性と安全性を立証するためにANDRAが実施し、公表した研究の科学的、技術的根拠を分析することが任務である。CNEは、分析結果の報告書の作成に3年程度かかると見積もっており、2025年末に公表する予定としている。

地層処分場の設置許可申請書には、処分対象となる廃棄物に関し、基準インベントリと予備インベントリが記述されている。地層処分場の設計には基準インベントリが用いられており、予備インベントリは、新しい廃棄物管理方法の実施やエネルギー政策の変更に関連する不確実性を考慮したものである。これに関してCNEは、地層処分される廃棄物のインベントリを変更する場合には新たに安全性と設計に関する調査や、地元との協議が必要になることを指摘し、処分場の設置許可を発給する政令においては、処分される廃棄物のインベントリを基準インベントリのままとすることを勧告している。また、CNEは、処分場の設置許可を発給する政令においては、廃棄物中の放射能インベントリについても言及することが有益であると指摘している。

地層処分場の設置許可が発給されると、本格的な操業の前の「パイロット産業フェーズ」において、施設の建設と原位置試験を通じた地層処分施設の安全性と可逆性の実証が行われる。このフェーズの評価を経て、地層処分の継続条件を定める法律が制定された後、本格的な操業の許可が発給可能となる。CNEは、パイロット産業フェーズの成功の基準を地層処分場の設置許可が発行される前に設定すべきこと、パイロット産業フェーズの評価期間中に処分を中断しないようにすべきこと等を勧告している。

フランスにおける地層処分では、長寿命中レベル放射性廃棄物として処分されるビチューメン(アスファルト)固化体の反応性が安全上の課題となっており、ANDRA、原子力・代替エネルギー庁(CEA)、EDF社、Orano社により2020年10月より5年間の予定で研究開発プログラムが実施されている。CNEは、この研究開発プログラムの関係者に対し、遅滞なく成功させるために十分な資源を投入すること等を勧告している。

地層処分プロジェクトと並行して行われる研究活動については、CNEはこれを支援するとし、この期間を通じて技術革新が必要な分野を特定・支援し、また、地層処分に関連するあらゆる分野の科学的・技術的専門知識を長期的に維持するために、重要な研究開発活動を実施することが不可欠であると指摘している。さらに、CNEは、長期にわたる真の研究開発能力は、それに関連するツールとともに、事業者の信頼性に寄与することを強調している。

■他国での地層処分について

CNEは、フィンランド、スウェーデン、カナダ、スイス、ベルギー、スペイン、英国、米国の高レベル及び中レベル放射性廃棄物の管理戦略についてレビューを実施し、地層処分は、情報を入手したすべての国において望ましい解決策であるとし、この戦略の実施状況を以下のように分析している。

  • フィンランドとスウェーデンは、地層処分施設の建設を認可しており、フィンランドの施設の建設はかなり進んでいる。
  • カナダとスイスはともに候補地選定手続きを進めており、ベルギーは選定手続きを策定中である。
  • それ以外の国々は、意図的に待つことを選択したためか、政治的、制度的、法的なさまざまな阻害要因のためか、あまり進展していない。

 

【出典】

  1. CNEは2006年放射性廃棄物等管理計画法により設置されており、議会科学技術選択評価委員会(OPECST)、科学アカデミー、人文・社会科学アカデミーの推薦を受けた12名の専門家で構成されている。うち3名は外国の専門家を起用しており、現在はスウェーデン、ベルギー、スペインの専門家が任命されている。委員の任期は6年である。 []

(post by eto.jiro , last modified: 2024-11-27 )