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《フランス》国家評価委員会(CNE)が第17回評価報告書を公表

フランスの技術的諮問機関である「放射性物質及び放射性廃棄物の管理研究・調査に関する国家評価委員会(CNE)」(( CNEは2006年放射性廃棄物等管理計画法により設置されており、議会科学技術選択評価委員会(OPECST)、科学アカデミー、人文・社会科学アカデミーの推薦を受けた12名の専門家で構成されている。うち3名は外国の専門家を起用しており、現在はスウェーデン、ベルギー、スペインの専門家が任命されている。委員の任期は6年である。 ))は、第17回評価報告書を議会科学技術選択評価委員会(OPECST)に提出し、2023年10月28日にCNEのウェブサイトで公表した。CNEは、中長期的な放射性廃棄物管理計画の前提となる原子力利用及び核燃料サイクルに関する計画を評価の視野に入れつつ、そこから発生する高レベルから極低レベルまでの広範な放射性廃棄物等の管理に関する取組や調査研究等の進捗状況について毎年評価を行い、それを報告書に取りまとめている。なお、前回の第16回報告書は2022年7月に公表されている

CNEの第17回評価報告書は、2022年から2026年までの5年間を対象とした「放射性物質及び放射性廃棄物の管理に関する国家計画」(PNGMDR)第5版の策定後、初めてのものとなる。また、フランス議会の議員で構成されるOPECSTからCNEに対し、小型モジュール炉(SMR)等の革新的原子炉の導入が放射性物質及び放射性廃廃棄物と核燃料サイクルに及ぼす影響を評価するよう要請があり、今回の報告書に調査結果を盛り込んでいる。第17回評価報告書の構成は以下の通りである。

  • 第1章 核物質、現在及び将来の原子炉用燃料、サイクルプラント
  • 第2章 廃棄物管理における現在の問題
  • 第3章 革新的な原子炉とその燃料
  • 第4章 小型モジュール炉の配備における国際問題
  • 第5章 PNGMDR第6版に向けて

CNEは、高レベル及び長寿命中レベル放射性廃棄物の処分の代替策に関して、「国際的な科学的合意に疑問を投げかける理由はなく、いかなる処分方策も地層処分に代わるものではない」と表明するとともに、「地層処分場は希少な資源であるため、地層処分における高レベル放射性廃棄物の量を削減するための道を開く可能性のある、あらゆる研究の実施が適切である」とする見解を述べている。

一方でCNEは、PNGMDR第5版は2020年4月策定の「多年度エネルギー計画」(PPE)で想定していたシナリオ((2020年4月策定の「多年度エネルギー計画」(PPE)では、2035年までに14基の原子炉(すでに停止したフェッセンハイム原子炉2基を含む)を停止し、電力生産に占める原子力発電の割合を50%に削減する目標を掲げていた。))をベースとしたものであり、ウクライナ侵攻後のフランスの原子力情勢の変化を受けて、現行の研究開発計画は既に時代遅れとなっていると指摘している。また、エネルギー市場の地政学的な変化や、経済の脱炭素化には様々な分野の電化が不可欠と考えられる中でのエネルギー主権の重要性に対する意識の高まりを受けて、新たなエネルギー政策、特に原子力発電政策の新しい目標について、2024年末までに改定が見込まれる新たなPPEにおいて定める必要があるとの考えを示した。

フランスでは、エマニュエル・マクロン大統領が2022年2月に打ち出した6基のEPR2(改良型欧州加圧水型炉)の建設、既存原発の運転期間延長、小型モジュール炉・革新炉の研究開発、核燃料サイクル産業の維持・強化を柱にした原子力政策が推し進められている。CNEは、PNGMDR第5版は新しい計画に道を譲らなければならず、PNGMDR第6版の準備を迅速に開始し、完了させることを推奨している。

本記事では、放射性廃棄物管理に関して、CNEが来るべきPNGMDR第6版に向けた推奨事項として取り上げているテーマのうち、放射性廃棄物の管理方針の検討が途上にある「長寿命低レベル放射性廃棄物」、並びに処分容量の飽和が予測される「極低レベル放射性廃棄物」に関する内容を紹介する。

■長寿命低レベル放射性廃棄物について

フランスで「長寿命低レベル放射性廃棄物」と呼ばれている廃棄物区分は、地表でのトレンチやピットへの処分、並びに地層処分が適当でないとされた廃棄物であるが、これまで別の区分とされていた廃棄物が新たに長寿命低レベル放射性廃棄物として区分されることもある。このため、以下のように多様な廃棄物が含まれており、性状の幅広さから、管理方策の策定が途上となっている。

  • 鉱石の採掘及び旧工業用地の修復から生じるラジウム含有廃棄物
  • 初期の原子力発電所の解体から生じる黒鉛廃棄物
  • ウラン精鉱の精製錬及びUF4の製造時に生じる廃棄物
  • ビチューメン(アスファルト)固化廃棄物
  • 雑廃棄物と密封線源

ANDRAは現在、オーブ県のヴァンドゥーブル・スーレーヌコミューン共同体((コミューン共同体とは、農村地域及び準都市地域における広域行政組織であり、ヴァンドゥーブル・スーレーヌコミューン共同体は38のコミューン(市町村)で構成されている。))で処分サイトに関するプロジェクトを進めており、2015年には進捗状況に関する中間報告書を公表している。CNEは、本サイトで全ての長寿命低レベル放射性廃棄物を処分できない可能性が高いと指摘すると同時に、処分対象が特定の種類に限定されたとしても、この種の廃棄物にとって最初となる処分サイトの適格性が認められれば、それだけでも大きな進歩となる点を強調している。また、CNEは、候補サイトに処分できる廃棄物とその受入れ基準を決定するための候補サイトの特性調査や、廃棄物の種類ごとの処分サイトの認定方法を明確にする必要性を指摘している。

■極低レベル放射性廃棄物について

ANDRAが操業するモルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(( 現在の名称は、Cires、Le Centre industriel de regroupement, d’entreposage et de stockage:分別・貯蔵・処分産業施設であるが、ここでは広く認知されている「モルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物処分場」の名称を用いた。 ))は、オーブ県ヴァンドゥーブル・スーレーヌコミューン共同体にあり、2003年から処分が行われている。当初は約30年間の操業が予定されていたが、想定よりも早いペースで極低レベル放射性廃棄物が発生しており、2029年には処分量が許可された処分容量(65万m3)に達する見込みとなっている。このため、ANDRAはオーブ県に、処分容量を30万m3に拡大し、操業期間を2044年まで延長するための環境許可申請を2023年4月に提出した。一方で、この容量拡大では、発生が予測される全ての極低レベル放射性廃棄物を収容できないため、新たな集中型処分場や発電所等の廃棄物発生場所の近傍での分散型処分場の設置、極低レベルの金属スクラップのリサイクルに向けた検討が進められている。従来は、極低レベル放射性廃棄物に区分されていた金属に関し、規制の適用除外(( フランスでは原子力活動に由来する物質が放射性核種によって汚染や放射化されたおそれのあるときは、あらゆる使用が禁止されている。また「放射性廃棄物とは、その後の利用が規定され、または検討されていない(中略)放射性物質である」と定義されていることから、原子力活動に由来する放射性物質は「その後の利用」が規定または検討されていない限り、上述の「使用禁止」により全て放射性廃棄物に区分されることとなる。また、原子力活動に由来する物質が放射性かどうかについては、原子力発電所等において、潜在的に放射化や汚染等により放射性廃棄物が発生する可能性のある区域(ZppDN)を設定することで区分している。このため、発電所の運転や廃止措置によりZppDNゾーンから発生する物質は、たとえ放射能が検出されなくても放射性廃棄物として管理される。このような状況から、フランスでは放射能の基準値を設けて放射性廃棄物としての規制から外す「クリアランス」(libération)は行われていない。一方で、廃止措置等に由来する極低レベルの放射性物質に対して、「その後の利用」を規定または検討することにより、原子力活動に由来する物質の使用禁止に関する規制の「適用除外」(dérogation)を個別に設定し、放射性物質や放射性廃棄物として管理する必要のない物質として活用することが検討されている。「低レベル放射性物質の活用の実施に関する2022年2月14日付デクレ(政令)第2022-174号」では、原子力活動に由来する物質の使用禁止に関する規制の「適用除外」を個別に審査・許可するための手続きや条件を定めている。 ))によるリサイクルを可能とする政令が2022年2月に発行されている。

CNEは、廃止措置中の原子炉の解体の遅れや稼働中の原子炉の運転期間の延長により、極低レベル放射性廃棄物の処分やリサイクルが必要となる時期について、大きな不確実性があると見ており、将来の原子炉の解体時の障害を避けるため、これらを極低レベル放射性廃棄物の管理シナリオ全体に統合する必要性を勧告している。また、CNEは、金属のリサイクルに関して、鉄鋼を溶融して放射性核種をスラグに分離することで除染された鉄鋼インゴットを生産する場合、主な課題は除染された鉄鋼の放射能レベルを確認することであるとし、適用除外を正当化する模範的な運営管理システムを確立することを視野に入れ、今後策定されるPNGMDR第6版において工業規模での放射線測定技術と方法を具体化する措置を含めるよう推奨している。

■CNEによるPNGMDR第6版に向けた結論

エネルギー主権の観点から、CNEはフランス議会に対し、フランス国内にあるウラン濃縮施設から副産物として発生する減損ウラン(U-235の割合が低くなったもの)、並びに再処理施設で回収されるウランを、プルトニウムと同様に戦略的エネルギー物質として再確認するよう勧告している。CNEは、フランスの核燃料サイクルのクローズ化に向けて前進するために、国土に貯蔵されている放射性物質の評価に関する研究を継続して加速することが戦略的に重要であると述べている。

CNEは、電力需要と電気料金の大幅な伸びを背景に、エネルギーの自立性を高めるという目標を受けて、放射性物質を可能な限り最大限に活用することの重要性が高まっているとの認識を示している。たとえ対応する資金需要が大きいとしても、核燃料サイクル施設の近代化または更新と、高速中性子炉部門の開発によるサイクルのクローズド化が国家政策の優先事項とならなければならないと述べている。

CNEは、廃棄物管理と同様に、放射性物質の活用をPNGMDR第6版の柱の1つとすることを勧告している。

【出典】

(post by eto.jiro , last modified: 2023-11-24 )