Learn from foreign experiences in HLW management

《フランス》放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が放射性物質及び放射性廃棄物の国家インベントリレポートの2023年版を公表

図1 核燃料サイクルにおける放射性廃棄物の発生(ANDRA、2023年版インベントリレポートより)

図1 核燃料サイクルにおける放射性廃棄物の発生(ANDRA、2023年版インベントリレポートより)

フランスの放射性廃棄物管理機関(ANDRA)は2023年12月12日に、「放射性物質及び放射性廃棄物の国家インベントリレポート」(以下「インベントリレポート」という)の2023年版を公表した1。フランスは、原子力発電に必要となるウランを外国から輸入しているが、ウランの精錬・転換、濃縮、核燃料の製造、原子力発電から発生する使用済燃料の再処理までの一連の核燃料サイクル施設を国内に保有している(図1参照)。これらの施設から様々な放射性廃棄物が発生するが、再処理から得られる回収ウランや将来の高速炉サイクルでの活用が見込まれる減損ウラン(劣化ウラン)があり、それらの資源としての活用方法を検討する必要もある。

インベントリレポートは、「放射性物質及び放射性廃棄物の管理に関する国家計画」(PNGMDR)の策定のための基礎資料として、また、放射性廃棄物等に関する透明性を確保するために作成されており、各種の放射性廃棄物並びに使用済燃料やウラン等の放射性物質の貯蔵量や貯蔵サイトが示されている。フランス政府及びANDRAは、各々のウェブサイトでインベントリレポートに用いられたデータを公開し、第三者が利用できるようにしている。

■フランスにおける放射性廃棄物の貯蔵状況

インベントリレポートは、最終的に処分する必要がある高レベルから極低レベルまでの全てのカテゴリの放射性廃棄物のインベントリとして、廃棄物の発生要因によるグループごとの貯蔵量と貯蔵サイト、並びに核燃料サイクルに関わる燃料や各種のウラン等の放射性物質のカテゴリと使用状況(未照射、炉内装荷中、使用済等)ごとの貯蔵量と貯蔵サイトをまとめたものである。今回の2023年版のインベントリレポートでは、2021年末時点において貯蔵されている放射性廃棄物を対象としている。図1に示したように、核燃料サイクル施設の種類によって発生する放射性廃棄物のカテゴリの発生比率は異なるものの、フランス全体における放射性廃棄物の貯蔵量は表1のようになっている。

表1 フランスにおける放射性廃棄物の貯蔵量
カテゴリ 2021年末貯蔵量(m3 2020年末からの増減(m3
高レベル放射性廃棄物 4,320 +130
長寿命中レベル放射性廃棄物 39,500 -3,400
長寿命低レベル放射性廃棄物 103,000 +9,200
短寿命低中レベル放射性廃棄物 91,000 +300
極低レベル放射性廃棄物 203,000 +29,000
未分類 304 +9
合計 約441,000 約+35,000
※貯蔵量は、処分場に搬出される際の「一次パッケージ」での体積である。貯蔵量には、ANDRAが運営管理する処分場に処分された廃棄物の量は含まれていない。

これらのカテゴリのうち、「短寿命低中レベル放射性廃棄物」と「極低レベル放射性廃棄物」については、ANDRAが操業している処分場において処分が進められているが、全ての放射性廃棄物のカテゴリにおいて、新たに廃棄物が発生しているため、貯蔵量は増加している。カテゴリ別の貯蔵量の増減には、廃棄物に含まれる放射性核種の半減期と処分時期を検討することによる、カテゴリの区分の見直しも反映されている。カテゴリの区分の見直しの例として、地層処分の対象である「長寿命中レベル放射性廃棄物」から浅地中処分が検討されている「長寿命低レベル放射性廃棄物」に再区分されているものがある2

■原子力利用シナリオと放射性廃棄物の発生予測

2023年版のインベントリレポートにおいてANDRAは、政府の要請により、6基のEPR2(改良型欧州加圧水型炉)の配備や、既存の原子炉の運転期間を50年間から60年間に延長することによるインベントリへの影響を分析するため、下記の4つの原子力利用シナリオを設定し、放射性廃棄物の発生予測を示している。いずれのシナリオでも、2020年4月策定の「多年度エネルギー計画」(PPE)に基づき、2027年から2035年の間に12基の運転中のPWR(加圧型軽水炉)が停止し、電力構成における原子力の比率が50%まで削減される想定となっており、2023年6月の法律による原子力比率削減の撤廃は反映されていない。また、上記の12基のPWRを除く原子炉の運転期間は60年間とされている。

  • シナリオ1:運転中のPWRのリプレースを、最初は2035年からEPR2で、その後21世紀後半を目途に高速中性子炉(FR)で行う。現在の原子力発電所で発生するMOX燃料を含む全ての使用済燃料、FRの原型炉フェニックスと実証炉スーパーフェニックスで発生した使用済燃料等を再処理する。
  • シナリオ2:運転中のPWRのリプレースをEPR2で行う。ウラン燃料を原子力発電所で使用後に1回再処理してMOX燃料として使用する。
  • シナリオ3:運転中のPWRのリプレースをEPR2で行う。ウラン燃料を原子力発電所で使用後に1回再処理してMOX燃料として使用するが、2040年に再処理を中止しそれ以降は再処理を行わない。
  • シナリオ4:運転中のPWRのリプレースを行わない。ウラン燃料を原子力発電所で使用後に1回再処理してMOX燃料として使用するが、2040年に再処理を中止し、それ以降は再処理を行わない。
図2 原子力利用シナリオと放射性廃棄物の発生予測

図2 原子力利用シナリオと放射性廃棄物の発生予測

シナリオごとの放射性廃棄物発生量3 の見通しを図2に示す。使用済燃料の全量再処理方針を採用しないシナリオ2、3及び4では、使用済燃料及び未照射のMOX燃料の直接処分及び分離プルトニウムを処分する必要が生じる。また、シナリオ2、3及び4では高速炉を導入しない結果として、ウラン濃縮プロセスで副産物として生じる劣化ウランを長寿命低レベル放射性廃棄物として約300,000m3処分する必要が生じることになる。また、地層処分の対象となる高レベル放射性廃棄物と長寿命中レベル放射性廃棄物の合計量は、シナリオ1が最も少なく、シナリオ2がこれに次ぎ、シナリオ3と4が最も多くなっている。

なお、ANDRAが設定した上記4つの原子力利用シナリオは、2020年4月策定の「多年度エネルギー計画」(PPE)に基づいたものであるが、このPPEでの電力構成中の原子力比率の削減方針が2023年6月の法律により撤廃されたことや、エマニュエル・マクロン大統領が2022年2月に打ち出した原子力政策での小型モジュール炉・革新炉の研究開発方針と整合するものではない。「放射性物質及び放射性廃棄物の管理研究・調査に関する国家評価委員会(CNE)」は、2023年10月に公表した評価報告書において、新たな原子力政策に合わせてPPEを改定する必要性を指摘しており、ANDRAも今後、新たなPPEに基づく原子力利用シナリオによる放射性廃棄物の発生予測を行う必要があるものと考えられる。

【出典】

  1. 前回の2018年版インベントリレポートは2018年7月13日に公表されている []
  2. 「長寿命中レベル放射性廃棄物」から「長寿命低レベル放射性廃棄物」に再区分されているものの例としては、一部のビチューメン(アスファルト)固化体がある。 []
  3. 2021年末に認可された原子力施設の廃止措置の終了時までに発生する廃棄物量。処分場に搬出される際の「一次パッケージ」での体積であり、処分時に付加される容器の体積は含まれない。 []

(post by eto.jiro , last modified: 2024-04-30 )