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《カナダ》核燃料廃棄物管理機関(NWMO)による放射性廃棄物の長期管理に関する包括的戦略の取りまとめ

カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)1 は、2023年7月10日のプレスリリースにおいて、天然資源大臣から要請を受けて検討していた「放射性廃棄物に関する包括的戦略」(Integrated Strategy for Radioactive Waste: ISRW)を取りまとめた報告書を天然資源大臣に提出したことを明らかにした。今回の包括的戦略は、長期管理の戦略が未策定となっている放射性廃棄物に注目して、それらの発生者及び所有者(以下「事業者」という)、先住民、カナダ国民との約2年間の対話活動を通じて開発されたものである。

NWMOは包括的戦略の報告書において、原子力発電所や研究施設等から発生し、浅地中処分は適さないと考えられる中レベル放射性廃棄物等については、当該廃棄物の事業者から資金拠出を受け、NWMOが地層処分場のサイト選定と処分場建設を行うとした内容を含む提案を連邦政府に提示した。NWMOはプレスリリースにおいて、包括的戦略の2年間にわたる開発作業に貢献したカナダ国民と先住民への感謝を表明するとともに、包括的戦略に関する提案に対する連邦政府の反応を待つとしている。

■経緯:カナダにおける放射性廃棄物の政策見直しと包括的戦略の策定

カナダ天然資源省は2020年11月に放射性廃棄物政策の見直し(modernize)に着手し、この一環としてNWMOに対し、以下の要素を含む放射性廃棄物の長期管理に関する包括的戦略の開発に向けた対話を主導するよう要請していた

  • 現在と将来における放射性廃棄物インベントリという観点から、カナダにおける現在の放射性廃棄物管理の状況の説明。なお、小型モジュール炉(SMR)を導入した場合に発生する廃棄物や、廃棄物の特性、場所及び所有権を考慮する。
  • カナダの放射性廃棄物の長期管理や処分方策における現行の計画と進捗のアップデート、及び対処しなければならないギャップ。
  • 現在及び将来の放射性廃棄物インベントリに対応するための概念的なアプローチ。これには、様々なタイプの放射性廃棄物の長期管理や処分のための技術オプション、及びカナダにおける放射性廃棄物の長期管理施設のそれぞれに関するオプションを含む。
  • 廃棄物の長期管理施設の計画、統合、設置及び操業に関する考慮事項。

当時の放射性廃棄物政策の枠組みでは、事業者が個別に廃棄物管理計画(長期を含む)を開発するよう求めていたが、2023年に策定された新たな『放射性廃棄物管理及び廃止措置に関するカナダの政策』では、事業者に公開性と透明性がある形で放射性廃棄物管理プロジェクトを開発するよう求めるとともに、廃棄物管理のアプローチとインフラを国レベルで最適化するような長期管理方策の開発と立案に向けて相互協力を求めるものに変わっている。

今回取りまとめられた包括的戦略に関する提案では、既存の原子力施設のライフサイクルを通じて発生する廃棄物のうち、約84%については既に長期的な処分計画があり、処分計画が未策定である残りの14%は低レベル放射性廃棄物(約294,000m3)、2%は中レベル放射性廃棄物(約51,000m3)であると推定している。また、使用済みのコバルト60密封線源等のように特に放射線が強く、廃棄物の取り扱いにおいて放射線遮へいを必要とする廃棄物が約10m3程度あることを明らかにしている2 。なお、将来導入される可能性がある小型モジュール炉(SMR)から発生する放射性廃棄物の量は考慮していない。

■処分計画が未策定の放射性廃棄物に関する提案

NWMOは、諸外国での検討例から抽出した5つの処分技術オプション3 に、貯蔵を継続するオプション(Rolling stewardship)を加えた6つのオプションについて、処分計画が未策定の放射性廃棄物に対する適用性とコストを分析した。また、それらの分析結果をステークホルダーや先住民と共有しつつ、カナダ国民の見方を反映させることにより、処分計画が未策定である放射性廃棄物の長期管理に向けた推奨アプローチをカナダ政府に提案している。

~処分計画が未策定である放射性廃棄物の長期管理に向けた推奨アプローチ~
1. 中レベル放射性廃棄物、及び使用済密封線源は、核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が地層処分場で処分する具体的には以下のようなアプローチとなる。

  • NWMOは、カナダで地層処分を主導する組織として、中レベル放射性廃棄物及び使用済密封線源等の地層処分場のサイト選定と建設を行う。このための費用は、当該廃棄物の事業者から資金拠出を受ける。
  • NWMOは処分場サイト選定プロセスを定める詳細な計画を策定する。この計画には、カナダ国民や先住民の関与(engagement)のあり方とそのための資金確保策を含める。また、他の原子力施設のサイト選定プロセスから得られた経験と学習を考慮する。このサイト選定プロセスは、現在NWMOが進めている使用済燃料の処分計画4 からは切り離して行う。
  • NWMOが策定する計画では、地層処分場のサイト選定に適用される技術的・社会的な受け入れ要件を決定するプロセスのアウトラインを提示する。
  • 同計画には、処分場のサイト選定及び建設のスケジュールを含める。
  • 上述したサイト選定プロセスの検討には12~18カ月を要する見込みである。この検討が完了したタイミングで改めて、NWMOは天然資源省にサイト選定アプローチに関する報告を行う考えである。

2. 低レベル放射性廃棄物は、当該廃棄物の事業者が実施主体となって、複数の浅地中処分施設で処分する。

具体的には以下のようなアプローチとなる。

  • 長期的な処分計画が未策定の低レベル放射性廃棄物については、それらを所有する各事業者が、国際的なベストプラクティスと合致した形で、浅地中処分施設を立地・建設する。当該事業者は、廃棄物の特性、量、既存の中間貯蔵施設との近接性、地域社会の受容性、及び技術的事項を考慮する。
  • 処分施設の数と廃棄物の輸送距離をバランスの取れたものとするために、複数の廃棄物発生者が共有する施設や地域の集中型処分施設を建設するオプションについても検討する。集中型処分施設は、スケールメリットが期待できるほか、小規模な事業者が処分施設を公平に利用できるようになるというメリットを創出できる可能性がある。このような施設は、州単位あるいは複数州の共同で運用される場合も考えられる。
  • より詳細な実施計画を策定する必要性が残っている。当該事業者は、『放射性廃棄物管理及び廃止措置に関するカナダの政策』に沿った早期の継続的な関与(engagement)を通じて、開かれた透明性のある方法で計画策定を進める。

■更なる検討の必要性

NWMOは、天然資源大臣に提出した報告書において、今回の「放射性廃棄物に関する包括的戦略(ISRW)」の取りまとめは、カナダにおける放射性廃棄物管理の新たな時代の始まりを意味するものであり、廃棄物処分に関する次のステップを示すものであると述べている。一方で、処分計画が未策定である放射性廃棄物の長期管理に向けた推奨アプローチの提案でも示されているように、中レベル放射性廃棄物の地層処分場のサイト選定プロセスの検討のほか、州単位あるいは複数州の共同で運用される浅地中処分の立地計画に関する詳細検討の必要性を指摘している。

また、今回行われた包括的戦略の検討では、カナダ原子力研究所(CNL)5 が計画している「チョークリバー研究所(CRL)における浅地中処分施設プロジェクト」のように、処分計画が存在する低・中レベル放射性廃棄物については、包括的戦略で扱う範囲に含まれているが、処分計画が未策定の廃棄物の長期管理に向けた推奨アプローチの提案で想定している範囲からは除かれている。

今後は、ISRWに関する提案を受けた天然資源省の対応が注目される。

【出典】

【2023年10月10日追記】

カナダ天然資源省は2023年10月5日に、核燃料廃棄物管理機関(NWMO)から2023年6月末に提出を受けていた「放射性廃棄物に関する包括的戦略」(Integrated Strategy for Radioactive Waste: ISRW)を承認した。今回の包括的戦略は、カナダ政府が2023年に策定した新たな『放射性廃棄物管理及び廃止措置に関するカナダの政策』で示した原則を実行に移すための次のステップと位置づけられている。

天然資源大臣からの包括的戦略に関する声明においては、処分計画が未策定である放射性廃棄物の長期管理に向けた全体アプローチとして、①中レベル放射性廃棄物及び核燃料以外の高レベル放射性廃棄物はNWMOが地層処分場で処分すること、②低レベル放射性廃棄物は当該廃棄物の発生者と所有者(以下「事業者」という)が実施主体となって複数の浅地中処分施設で処分することの2つの基本的な提案に言及している。

今後、関連する放射性廃棄物の事業者は、カナダ政府の監督の下、今回の包括的戦略に基づく形で放射性廃棄物管理計画の策定と実施を進めることになる。天然資源大臣は、将来における包括的戦略の更新の必要性について、放射性廃棄物計画の進捗と科学技術の進展を反映したものとなるように、2028年までに新たな包括的戦略の取りまとめに向けて事業者が協力して取り組むようにとの考え方を示した。

NWMOは、今回の包括的戦略の承認を受けて公表したプレスリリースにおいて、次のステップとして中レベル放射性廃棄物及び核燃料以外の高レベル放射性廃棄物の地層処分場について、同意に基づくサイト選定プロセス(consent-based siting process)の計画策定を開始する意向を明らかにしている。

【出典】

  1. 核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、核燃料廃棄物処分に基づき、電力会社3社とカナダ原子力公社(AECL)が共同して2002年に設立された非営利法人であり、カナダにおける使用済燃料処分の実施主体である。 []
  2. カナダは、医療や産業で使用されるコバルト60(Co-60)ガンマ線源の主要生産国であり、日本を含む外国に輸出している。放射能が減衰した使用済みとなった密封線源は、生産国に返送されている。カナダではこれらをnon-fuel HLW(核燃料以外の高レベル放射性廃棄物)という呼称で区分している。 []
  3. 浅地中処分施設のオプションとして、①工学的閉じ込めマウンド(Engineered containment mound)、②コンクリートボールト(Concrete vault)、③浅い地下の岩盤空洞(Shallow rock cavern)を取り上げている。地層処分施設のオプションとしては、④地層処分(Deep geological repository)、⑤超深孔処分(Deep borehole)を取り上げている。 []
  4. 核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、「適応性のある段階的管理(APM)」と呼ばれる概念に基づく使用済燃料処分場のサイト選定プロセスを2010年から開始しており、1カ所の好ましいサイトを2024年秋に選定することを目指している。 []
  5. カナダ原子力研究所(CNL)は、カナダ原子力公社(AECL)のCANDU炉開発部門が2011年に売却された後に残された原子力研究等の業務を継承した民間企業であり、AECLとの長期契約に基づき、AECLが所有する放射性廃棄物の管理を実施している。 []

(post by nunome.reiko , last modified: 2023-10-11 )