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《米国》テキサス州で高レベル放射性廃棄物の貯蔵等を禁止する州法が成立

米国テキサス州議会は、テキサス州内において使用済燃料を含む高レベル放射性廃棄物の処分または貯蔵を禁止する法案を2021年9月2日に可決し、2021年9月9日に州知事の署名を得てテキサス州法(H.B.7、以下「処分・貯蔵禁止法」という。)として成立した。テキサス州では、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社がテキサス州アンドリュース郡で使用済燃料等の集中中間貯蔵施設の建設・操業を計画しており、原子力規制委員会(NRC)で許認可審査が行われている。NRCは、ISP社の集中中間貯蔵施設の許認可審査について、2021年7月29日に最終環境影響評価書(FEIS)を公表しており、2021年9月末までに許認可に係る決定を行う予定としている 。NRCによる許認可については、NRCの環境影響評価に係る連邦規則(10 CFR Part 51)において、NRCが環境保護庁(EPA)にFEISを提出し、EPAが連邦官報においてFEISの受領を告示してから30日間は許認可の発給に係る決定を行うことはできないものと規定されており、このため、EPAがFEIS受領を連邦官報で告示した2021年8月13日から30日経過後にNRCは許認可の発給が可能となる。ただし、今回の処分・貯蔵禁止法(H.B.7)の成立により、NRCが中間貯蔵施設の建設・操業に係る許認可を発給した場合においても、州による環境関連の許可が得られなくなることから、実際の集中中間貯蔵施設の建設・操業は行えないこととなる。

今回成立した処分・貯蔵禁止法(H.B.7)は、テキサス州健康・安全法典(Health and Safety Code)第401章「放射性物質及び他の放射線源」に条文を追加して修正するものであり、以下のような内容の規定が置かれている1

第1条
1982年放射性廃棄物政策法(1987年修正)(NWPA)第2条で定義される「高レベル放射性廃棄物」と「使用済燃料」を含むものとして、健康・安全法典で「高レベル放射性廃棄物」を定義。

第2条
テキサス州環境品質委員会(TCEQ)は、運転中または過去に運転していた発電用原子炉及び研究炉に対するものを除き、NRCから高レベル放射性廃棄物の貯蔵に係る許認可発給を受けた施設の建設または操業について、連邦水質浄化法(CWA:Clean Water Act)の下での一般建設許可の発給または汚水関連の計画承認や許可発給を行ってはならない。

第3条
運転中または過去に運転していた発電用原子炉及び研究炉における貯蔵を除き、州間協定(コンパクト)に基づく放射性廃棄物処分施設の許認可保有者を含め、何人もテキサス州内において高レベル放射性廃棄物を処分または貯蔵してはならない。

第4条
第2条の規定は、本法施行後に提出される許可または許可変更の申請書に対してのみ適用される。

第6条
本法は、両院議員の3分の2以上の投票を得た場合には即時に発効する。それ以外の場合には、2021年12月5日に発効する。

処分・貯蔵禁止法(H.B.7)は、テキサス州議会上院では2021年9月1日に31対0(ゼロ)、下院では2021年9月2日に119対3の賛成多数で可決されたことから、2021年9月9日のテキサス州知事の署名により即時に有効となっている。

処分・貯蔵禁止法案は、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社が集中中間貯蔵施設の建設を計画しているアンドリュース郡を選挙区に持つランドグラフ・テキサス州下院議員によって提出された。ランドグラフ議員は、2021年9月3日付けのプレスリリースにおいて、特別会期で処分・貯蔵禁止法案を審議対象に指定した州知事に謝意を示した上で、低レベル放射性廃棄物施設は支持するものの、放射能がより強い高レベル放射性廃棄物の貯蔵への拡張には反対するというアンドリュース郡住民の意思を代表することが同議員の責務であることなどを表明している。テキサス州知事は、ISP社の集中中間貯蔵施設に係る環境影響評価のコメント募集において、施設の建設・操業に反対することを表明していた

アンドリュース郡理事会(commissioners court)では、NRCがアンドリュース郡及びテキサス州住民の意思を尊重し、同郡における集中中間貯蔵施設の許認可手続きを直ちに中止すること、アンドリュース郡判事及び理事会は使用済燃料等の集中中間貯蔵の立地を拒否することなどを、2021年7月30日に決議していた。アンドリュース郡の決議に対してNRCは、2021年8月27日付けの書簡において、決議書の送付に謝意を示した上で、ISP社の集中中間貯蔵施設がNRC規制要件に適合するかを判断する安全性評価報告(SER)を発行する予定であり、2021年9月に許認可発給に係る決定を行うことを伝えている。なお、アンドリュース郡理事会は、現在の州知事が就任した同日の2015年1月20日に、ウェイスト・コントロール・スペシャリスト(WCS)社が低レベル放射性廃棄物のWCS処分場に隣接して使用済燃料の集中中間貯蔵施設を建設する計画について、支持する決議を行っていた。また、WCS社は、地元の支持が得られることを前提として、NRCに建設・操業の許認可申請を行うことを表明していた。

米国における民間事業者による使用済燃料の集中中間貯蔵施設の建設に向けた事例としては、過去に民間燃料貯蔵(PFS)社によるユタ州スカルバレーにおける中間貯蔵施設の例がある。このPFS社によるスカルバレー中間貯蔵施設プロジェクトは、2006年2月にNRCの建設・操業に係る許認可を取得したが、ユタ州等による反対のなか、土地貸借契約や国有地での輸送について連邦内務省(DOI)の承認が得られなかったことなどから、NRCに建設許可の終了を要求するなど、計画は進まなかった。なお、PFS社によるスカルバレー中間貯蔵施設は、民間の原子力発電事業者が共同で中間貯蔵を行うものであったが、ISP社の集中中間貯蔵施設では、エネルギー省(DOE)が所有権を取得した使用済燃料を貯蔵することが想定されている。

中間貯蔵パートナーズ(ISP)社の集中中間貯蔵施設は、テキサス州アンドリュース郡のウェイスト・コントロール・スペシャリスト(WCS)社の自社所有サイトにおいて、WCSテキサス低レベル放射性廃棄物処分場に隣接する区画で建設を計画しているものである。WCS社は、2016年4月28日に、使用済燃料等の集中中間貯蔵施設の建設・操業に係る許認可申請書をNRCに提出していたが、WCS社の売却の動きなどもあり、WCS社とOrano USA社との合弁会社として設立されたISP社が、2018年6月8日に、集中中間貯蔵施設の許認可審査の再開をNRCに申請していた。WCS社サイトについては、エネルギー省(DOE)が環境影響評価を実施するなど、クラスCを超える(GTCC)低レベル放射性廃棄物(以下「GTCC廃棄物」という。)の処分に関する検討も行われており、NRCによるGTCC廃棄物処分の規制に係る検討が続けられている。なお、GTCC廃棄物は、今回成立した処分・貯蔵禁止法(H.B.7)の対象には含まれていない。

【出典】

 

【2021年9月16日追記】

米国の原子力規制委員会(NRC)は、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社がテキサス州アンドリュース郡で計画している使用済燃料等の集中中間貯蔵施設について、建設・操業に係る許認可を2021年9月13日に発給した。NRCは、ISP社の許認可申請書の審査に基づいて、許認可で承認される活動は公衆の健康と安全を脅かすことなく実施できること、これらの活動はNRC規則(10 CFR Part 72)を遵守して実施されることについて、2021年9月13日付けのISP社宛の許認可書送付書簡において、合理的な保証があるなどと判断したことが示されている。ただし、テキサス州法の処分・貯蔵禁止法(H.B.7)が成立していることなどにより、州による環境関連の許可が得られず、集中中間貯蔵施設の建設・操業については、実際には行えないことが見込まれる。

今回NRCが発給した許認可は、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社に対し、最大5,000トンの使用済燃料と231.3トンのクラスCを超える(GTCC)低レベル放射性廃棄物(以下「GTCC廃棄物」という。)を、40年間にわたって受領、保有、移転及び貯蔵することを許可するものである。ISP社は、その後の7段階で施設を拡張し、最大で40,000トンの使用済燃料を貯蔵する計画を示しているが、施設を拡張するごとにNRCによる安全審査と環境審査を受けて許認可変更を行うことが必要となる。

2021年9月13日付けのNRCのニュースリリースでは、許認可審査においては安全性とセキュリティの技術的審査、環境影響審査、及びNRCの原子力安全・許認可委員会(ASLB)による裁決手続が実施されており、環境審査では多数の一般公衆からの意見も評価したこと、裁決手続では地域や全国組織の申立人から提起された争点の解決が行われたことが示されている。NRCのウェブサイトでは、今回の許認可発給に係る以下の文書が公表されている。

  • 許認可書(物質許認可、SNM-2515)
  • 許認可書の前文(Preamble)
  • 許認可送付書簡
  • 公開版の最終安全性評価報告書(FSER)
  • 技術仕様書(Technical Specifications)
  • 意思決定記録(ROD)2

許認可書(SNM-2515)本体では、初期貯蔵容量の集中中間貯蔵施設を建設するのに十分な資金が確保されるまで建設を開始してはならないこと、顧客が使用済燃料等の所有権を保持することなどを顧客との契約で規定すること、操業に必要な資金をエネルギー省(DOE)または他の使用済燃料所有者が責任を持つことを規定した契約を操業前に締結することなど、許認可条件が規定されている。また、NRCの連邦規則への適合に必要とされる技術仕様書も許認可の一部とされている。

NRCのニュースリリースでは、今回の許認可は、使用済燃料の集中中間貯蔵施設に対する2件目のものであり、最初の許認可は民間燃料貯蔵(Private Fuel Storage)社に2006年に発給されたものの、建設されなかったことも記載されている。また、NRCはニューメキシコ州リー郡における同様の施設に係るホルテック・インターナショナル社の許認可申請書の審査を行っており、2022年1月に許認可に係る決定を行う見込みも記載している。

中間貯蔵パートナーズ(ISP)社の集中中間貯蔵施設の建設・操業に係る許認可申請については、原子力安全・許認可委員会(ASLB)が主宰する裁判形式の裁決手続によるヒアリングの開催を要求して、シエラクラブ等の環境団体や地域の石油・ガス生産者/鉱業権者が争点を提出していた。ASLBが当初に1件のみ有効と認めた争点も、その後にISP社が指摘された欠陥を修正したことから無効とされ、すべての争点が否認された。ASLBに争点を否認された参加申立人らは、NRCの委員会に対する不服申立ても否認されたことから、訴訟を提起している。

なお、テキサス州のアボット知事は、個人のSNSアカウントにおける2021年9月14日の投稿において、西部テキサスの油田地帯における高レベル放射性廃棄物の廃棄(dump)について、それを阻止するための法律に署名したこと、テキサス州は米国の高レベル放射性廃棄物の廃棄場所(dumping ground)にはならないことを表明している。

【出典】

 

【2021年9月27日追記】

米国のテキサス州は2021年9月23日に、原子力規制委員会(NRC)が中間貯蔵パートナーズ(ISP)社に対して2021年9月13日に発給した使用済燃料等の集中中間貯蔵施設の建設・操業に係る許認可について、取り消しを求める訴状を第5巡回区連邦控訴裁判所に提出した。

テキサス州3 によるNRCへの訴状では、NRCが許認可を発給した命令(order)は不法(unlawful)であると認定して無効にすること、及び発給された許認可を取り消すことを求めているが、その理由など詳細は示されていない。なお、1954年原子力法第189条「公聴会及び司法審査」では、裁判形式の裁決手続による公聴会の対象となるNRCの委員会決定について、訴訟の対象となることを規定しており、テキサス州は連邦控訴裁判所規則の規則15に従って訴状を提出している。

【出典】

  1. 実際の処分・貯蔵禁止法(H.B.7)では、対象となる条項は健康・安全法典の条文番号で参照されるなどしているが、細部の省略も含めて概要の記述としている。
    なお、第5条では可分条項(規定の一部が無効とされても他の条項の有効性には影響がないとする規定)が置かれている。 []
  2. 意思決定記録(ROD:Record of Decision):米国では連邦政府機関が環境に影響を及ぼす可能性がある措置を実施する際には環境影響評価の実施が1969年国家環境政策法(NEPA)により規定されている。この場合、その最終的な決定内容については、検討した代替案や影響緩和策を含めて「意思決定記録」として連邦官報で告示することが必要とされている。 []
  3. 本訴訟の原告は、厳密にはテキサス州、テキサス州知事、テキサス州環境品質委員会(TCEQ)の3者となっているが、まとめて「テキサス州」と表記している。 []

(post by inagaki.yusuke , last modified: 2023-10-17 )