原子力規制委員会(NRC)は、2020年5月8日付けの連邦官報において、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社がテキサス州アンドリュース郡で計画している使用済燃料等の中間貯蔵施設について 、建設・操業・廃止措置等に係るドラフト環境影響評価書(DEIS)に対するパブリックコメントの募集を開始することを告示した。NRCは、2020年5月6日付けのニュースリリースにおいて、DEISを公表するとともに、DEISに対するパブリックコメントの募集及びパブリックミーティングを開催することを公表していた。先に公表されたDEISにおいては、ISP社が計画している使用済燃料等の貯蔵による環境への影響は小さいとして、許認可発給を勧告するとしたNRCスタッフの評価が示されている。NRCスタッフは、パブリックコメントのレビューを行った上で、2021年5月までに、最終環境影響評価書(FEIS)を発行する予定としている。
DEISでは、ISP社が2018年6月8日及び7月19日付けでNRCに提出した中間貯蔵施設の許認可申請書の改定2版(Revision 2) を踏まえて、プロジェクトの第1段階(Phase 1)として行われる5,000トンの使用済燃料等の貯蔵についての評価が行われている。ISP社は、全8段階で貯蔵プロジェクトを実施し、最終的には最大4万トンの使用済燃料等の貯蔵を行う計画である。NRCは、保守的な境界条件の下での解析(bounding analysis)を行うものとして、第2~8段階の実施を含む貯蔵プロジェクト全体についての評価も行っており、予測される環境影響は小さいとしている。
DEISは、500ページ近くに及ぶ文書となっており、2018年5月6日付けのNRCニュースリリースでは、DEIS本体のファイル、及び環境影響評価書(EIS)の読者ガイドへのリンクも掲載されている。読者ガイドでは、DEISの概要とともに、ISP社の中間貯蔵プロジェクトの概要、NRCの許認可審査手続きの概要などについても、図等を含めて示されている。
DEISに対するパブリックコメントの募集は2020年9月4日までの期間1 で行われるものとされており、NRCは、パブリックコメントの募集と並行してパブリックミーティングやウェビナー(ウェブを活用したセミナー)も開催する予定としている。
ISP社の中間貯蔵施設については、テキサス州アンドリュース郡のウェースト・コントロール・スペシャリスト(WCS)社の自社所有サイトで、WCSテキサス低レベル放射性廃棄物処分場に隣接する区画において、使用済燃料等の中間貯蔵施設の建設を計画するものである。WCS社は、2016年4月28日に、使用済燃料等の中間貯蔵施設の建設・操業に係る許認可申請書をNRCに提出していたが 、WCS社の売却の動きなどもあり、WCS社とOrano USA社との合弁会社として設立されたISP社が、2018年6月8日に、中間貯蔵施設の許認可審査の再開をNRCに申請していた 。WCS社サイトにおいては、エネルギー省(DOE)が環境影響評価を実施するなど 、クラスCを超える(GTCC)低レベル放射性廃棄物(以下「GTCC廃棄物」という。)の処分に関する検討も行われており、NRCによるGTCC廃棄物処分の規制に係る検討が続けられている 。
【出典】
- 原子力規制委員会(NRC)、「中間貯蔵パートナーズ(ISP)社の集中中間貯蔵プロジェクト―ドラフト環境影響評価書;コメント募集」(連邦官報、2020年5月8日)
https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2020-05-08/pdf/2020-09795.pdf - 原子力規制委員会(NRC)、「ISP社の使用済燃料の集中中間貯蔵施設の許認可申請書に係る環境影響評価書―コメント募集のためのドラフト報告書」(2020年5月)
https://www.nrc.gov/docs/ML2012/ML20122A220.pdf - 原子力規制委員会(NRC)、「ISP社の集中中間貯蔵施設に係るドラフト環境影響評価書の概要」(2020年5月)
https://www.nrc.gov/docs/ML2012/ML20121A016.pdf - 原子力規制委員会(NRC)、2020年5月6日付けニュースリリース
https://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/news/2020/20-025.pdf - 原子力規制委員会(NRC)ウェブサイト、ISP社の集中中間貯蔵施設のページ(2020年5月8日更新)
https://www.nrc.gov/waste/spent-fuel-storage/cis/waste-control-specialist.html
【2020年12月3日追記】
中間貯蔵パートナーズ(ISP)社がテキサス州アンドリュース郡で計画している使用済燃料等の中間貯蔵施設については 、原子力規制委員会(NRC)が策定したドラフト環境影響評価書(DEIS)に対するパブリックコメントの募集が2020年11月3日まで実施された。コメント募集においては、施設の建設が計画されているテキサス州の知事に加え、隣接するニューメキシコ州の知事がそれぞれ、ISP社の中間貯蔵施設の建設・操業に反対するコメントを提出した。
テキサス州知事は、2020年11月3日付けで提出したコメントにおいて、NRCが策定したDEISは、テロリズムによるリスクを適切に評価していないこと、使用済燃料の地層処分場が建設されない場合には中間貯蔵施設で永久に貯蔵される可能性があるにも拘わらず評価を行っていないことを指摘するなど、DEISには不備があるとしている。特に、テロリズムについては、ISP社が建設を計画しているウェースト・コントロール・スペシャリスト(WCS)社サイトが立地するテキサス州アンドリュース郡は世界最大の原油産出地域であるパーミアン盆地にあるため、テロリストの攻撃による被害が甚大であること、その影響の大きさもあってテロリストの主要な標的となり得ることなど、特異なリスクがあるため、DEISで示された一般的な評価では不適切であるとしている。
一方、隣接するニューメキシコ州の知事が2020年11月3日付けで提出したコメントにおいて、ISP社の中間貯蔵施設の建設が計画されているWCS社サイトはニューメキシコ州境から数百メートルに位置しており、ニューメキシコ州への影響が非常に大きいとした上で、中間貯蔵施設が事実上の恒久的な処分場となった場合の影響などの安全上の懸念がDEISでは適切に評価されていないこと、ISP社プロジェクトは大きな輸送リスクへの対応を資金提供なしにニューメキシコ州自治体に強いるものであること、ニューメキシコ州の経済に受容しがたいリスクがあることなどを指摘するなど、DEISは不適切であるとしている。
なお、NRCは、テキサス州知事に対しては2020年11月12日に、ニューメキシコ州知事に対しては2020年11月30日に、それぞれコメント受領を伝える書簡を送付し、最終環境影響評価書(FEIS)を準備する上で両知事のコメントを十分に配慮するとしている。
【出典】
- テキサス州知事、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社中間貯蔵施設プロジェクトに対するコメント(2020年11月3日)
https://adamswebsearch2.nrc.gov/webSearch2/main.jsp?AccessionNumber=ML20309A385 - テキサス州知事プレスリリース(2020年11月5日)
https://gov.texas.gov/news/post/governor-abbott-sends-letter-opposing-storage-of-spent-nuclear-fuel-in-andrews-county - ニューメキシコ州知事、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社中間貯蔵施設プロジェクトに対するコメント(2020年11月3日)
https://adamswebsearch2.nrc.gov/webSearch2/main.jsp?AccessionNumber=ML20309B135 - 原子力規制委員会(NRC)、コメント受領を伝える書簡
- NRCのパブリックコメントの募集期間は60日間とされることが多いが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を考慮して長期のコメント募集期間を設定するとして、120日間のコメント募集期間が設定されている。 [↩]