米国の原子力規制委員会(NRC)は、2019年7月17日付けのニュースリリースにおいて、クラスCを超える(GTCC)低レベル放射性廃棄物及びエネルギー省(DOE)が管理するGTCC類似廃棄物(以下、GTCC低レベル放射性廃棄物とGTCC類似廃棄物とを合わせて「GTCC廃棄物等」という。)1 の処分に係る新たな規制のためのドラフト規制基盤(regulatory basis)について、パブリックコメントを募集することを公表した。GTCC廃棄物等の処分に係る規制基盤は、2015年12月22日付けのNRC委員会文書で策定が指示されたものであり 、GTCC廃棄物等が浅地中処分施設で処分可能であるか、可能な場合に規制変更が必要なのか、協定州2 による規制が認められるべきかなどについて評価・分析が行われている。ドラフト規制基盤に対するパブリックコメントの募集は、連邦官報の告示から60日間行われ、2019年8月27日にはテキサス州でパブリックミーティングを開催する予定も示されている。
規制基盤の策定を指示した2015年12月22日のNRC委員会文書では、規制基盤における分析の結果として、浅地中処分が適している可能性があると結論が得られた場合には、連邦規則(CFR)の改定案を策定することとされていたが、今回公表されたドラフト規制基盤では具体的な連邦規則案を含むものではなく、以下のような内容を示すものとなっている。
- 連邦規則改定により、どのように問題が解決し得るかの説明
- 規制問題に対応するためのいくつかのアプローチを同定し、連邦規則策定及びその他のアプローチの費用便益を評価
- 評価において使用された科学、政策、法律、技術的情報の提供
- 規制基盤のスコープや品質上の限界についての説明
- 規制基盤の技術的部分の策定過程でのステークホルダーとのやり取り、及びステークホルダーの見解についての議論
ドラフト規制基盤では、GTCC廃棄物等の危険性、連邦規則の改定やその他のオプションを評価した上でのNRCの結論として、以下の2点が示されている。
- ほとんどのGTCC廃棄物等(全体量の約80%)は、偶発的な人間侵入やサイト外での個人の確実な防護に係る変更など、追加的な管理や解析が行われれば、浅地中処分が適している可能性がある。
※GTCC廃棄物等の処分場の許認可申請に際しては以下が必要となる。- 偶発的な人間侵入に関するNRCの連邦規則の性能要件を満たしていることを示すサイト固有の人間侵入評価の提出
- GTCC廃棄物等の処分は、地表から5m以深とし、500年以上にわたって有効な侵入防止バリアの設置
- ほとんどのGTCC廃棄物等(潜在的に浅地中処分に適していると決定されたGTCC廃棄物等の量の約95%)は、NRCの連邦規則(10 CFR Part 150「協定州における規制の適用除外及び継続等」)の一部に変更が推奨されるものの、協定州によっても安全に規制し得る。
米国でGTCC廃棄物等は、連邦政府が処分責任を有し、DOEがNRCの許可を受けた施設で処分すべきことが「1985年低レベル放射性廃棄物政策修正法」で規定されている。NRCの連邦規則では、NRCが個別に承認した場合を除き、GTCC廃棄物等は地層処分しなければならないことが規定されており、テキサス州の規制当局が、GTCC廃棄物等の処分場に対する許認可権限が協定州にあるのかなど、法的権限の明確化をNRCに求めていた 。テキサス州では、GTCC廃棄物等を低レベル放射性廃棄物処分場で処分することを禁止しているテキサス州法の修正をウェイスト・コントロール・スペシャリスト(WCS)社が求めていた 。
一方、GTCC廃棄物等の処分責任を有するDOEは、GTCC廃棄物等の処分方策に係る最終環境影響評価書(FEIS)を2016年2月に公表し 、その後、2017年11月に連邦議会に提出した報告書では、推奨される処分方策として商業施設における陸地処分を主として考慮しているとの見解を示している 。さらに、2018年10月には、テキサス州のWCS社の低レベル放射性廃棄物処分場でのGTCC廃棄物等の処分に係る環境アセスメント(EA)も公表している 。NRCのドラフト規制基盤においても、DOEのFEISが参照されており、FEISで示されたGTCC廃棄物等が分析の対象とされている。
DOEが商業施設における陸地処分をGTCC廃棄物等の処分方策として推奨し、NRCで規制基盤の検討作業が進められる中、2019年4月26日にテキサス州知事は、州が許認可権限を持たない現状ではテキサス州のWCS社処分場におけるGTCC廃棄物等の処分には反対する主旨の書簡をエネルギー長官及びNRCの委員長に送付している。NRCの委員長から州知事に宛てた返書では、ドラフト規制基盤の公表後のプロセスでテキサス州や他のステークホルダーの見解表明の機会があること、2019年後半にテキサス州で規制基盤に関するパブリックミーティングを開催する予定であることなどが示されている。
なお、2015年12月25日付けのNRC委員会の指示文書では、NRCの連邦規則(10 CFR Part 61「放射性廃棄物の陸地処分のための許認可要件」)の改定作業の完了から6カ月以内にGTCC廃棄物等の処分のドラフト規制基盤を提出することとされていた。しかし、10 CFR Part 61の改定作業が長期化・遅延する中で、GTCC廃棄物等の規制基盤の策定は10 CFR Part 61の改定作業とは切り離して行うことが、2018年10月23日に指示されていた。
【出典】
- 原子力規制委員会(NRC)、2019年7月17日付けニュースリリース
https://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/news/2019/19-033.pdf - 原子力規制委員会(NRC)、「クラスCを超える(GTCC)廃棄物及びTRU廃棄物の処分:パブリックコメントのためのドラフト規制基盤」(2019年7月)
https://www.nrc.gov/docs/ML1905/ML19059A403.pdf - 原子力規制委員会(NRC)、2019年6月5日付けのテキサス州知事宛ての書簡
https://adamswebsearch2.nrc.gov/webSearch2/main.jsp?AccessionNumber=ML19129A300 - テキサス州知事、2019年4月26日付けのエネルギー長官及びNRC委員長宛ての書簡
https://adamswebsearch2.nrc.gov/webSearch2/main.jsp?AccessionNumber=ML19121A544 - 原子力規制委員会(NRC)、2018年10月23日付け運営事務局長(EDO)向け指示文書(SRM M181011)
https://adamswebsearch2.nrc.gov/webSearch2/main.jsp?AccessionNumber=ML18296A479
- 米国では、1985年低レベル放射性廃棄物政策修正法、原子力規制委員会(NRC)の連邦規則(10 CFR Part 61「放射性廃棄物の陸地処分のための許認可要件」)において、地下30mより浅い浅地中処分が可能な低レベル放射性廃棄物としてクラスA、B、Cの分類が定められている。GTCC廃棄物は、放射能濃度などがクラスCの制限値を超える低レベル放射性廃棄物であり、連邦規則に基づいて操業されている浅地中処分場での処分をNRCが承認しない場合、地層処分しなければならないこととなっている。 [↩]
- 原子力法及び1985年低レベル放射性廃棄物政策修正法の規定によれば、州はNRCと協定を締結し、低レベル放射性廃棄物の処分を規制する権限を得ることができる。 [↩]
(post by inagaki.yusuke , last modified: 2023-10-10 )