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英国政府が地層処分施設(GDF)に関する国家政策声明書(NPS)を英国議会に提出

英国政府は2019年7月4日、イングランド1 における地層処分社会基盤(Geological Disposal Infrastructure)に関する国家政策声明書(National Policy Statement, NPS2 )を英国議会に提出した。NPSは、2014年の白書『地層処分の実施-高レベル放射性廃棄物等の長期管理に向けた枠組み』(以下「2014年白書」という)において、地層処分施設(GDF)のサイト選定プロセスの初期活動の主要目標の一つとして、英国政府が策定を進めていたものである。イングランドにおいては、地層処分施設(GDF)の候補サイトを評価するために行われるボーリング調査、その後のGDFの建設に先がけ、計画審査庁からの勧告を受けた担当大臣による開発同意令(Development Consent Order ,DCO)が必要である。国家政策声明書(NPS)は、開発同意令(DCO)の発給審査の基礎文書となるものであり、2018年12月から新たに始まったサイト選定プロセスにおいて、地域における地層処分社会基盤に関する開発合意の認可に関する法的な枠組みを提供するものとなる

英国政府は、2018年1月にNPS案を公表し、約3か月にわたる公衆協議を実施するとともに、英国議会下院のエネルギー・産業戦略委員会にNPS案に関する審議を付託していた。今回、英国政府は、公衆協議で得られた見解やエネルギー・産業戦略委員会の審議結果を踏まえてNPSを最終化し、英国議会の承認を求めている3

地域社会との協働プロセス
(出典:BEIS, 政策文書「地層処分の実施-地域社会との協働:放射性廃棄物の長期管理」(2018)の図を一部修正)

英国では2018年12月より、地層処分事業の実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM社)4 による地層処分施設(GDF)の新たなサイト選定プロセスが開始されている。RWM社は、今後約5年間でGDF設置の潜在的な適合性を確認する「調査エリア」を特定し、その後、調査エリア内から候補サイトを特定するために、地上からのボーリング調査を実施する予定である。

国家政策声明書(NPS)の内容

英国における国家政策声明書(NPS)とは、「2008年計画法」(2015年3月改正)により設定された、エネルギー、運輸、水資源及び廃棄物に関する「国家的に重要な社会基盤プロジェクト」(NSIP)について、当該施設の開発や建設に関する国の政策文書であると同時に、事業者が作成する開発同意申請書のガイダンス的な役割を持つものであり、事業の方針や背景情報、当該施設の必要性や当該施設に関する評価原則などを示す必要がある。地層処分社会基盤に関するNPSでは、英国政府の地層処分方針、地層処分施設(GDF)等の開発や建設の必要性、NPSの策定に当たって行う必要がある持続可能性評価(AoS)及び生息環境規制評価(HRA)に関する原則などを示している。

今回提出されたNPSは、以下の5つの章で構成されている。

第1章「イントロダクション」

ボーリング調査と地層処分施設(GDF)の定義、対象地域がイングランドのみであること、ボーリング調査とGDF開発の計画申請の審査において検討すべき事項、持続可能性評価(AoS)及び生息環境規制評価(HRA)の概要5 に加え、NPSの目的を述べている。

  • 英国政府の地層処分方針を実行すること
  • GDF等の社会基盤の必要性を示すこと
  • 明確かつ透明性のある計画及び開発におけるサイト固有ではない包括的な影響や一般的なサイト選定での検討事項を示すことにより、長期的にセキュリティ及び安全性があり、持続可能なボーリング調査とGDFの開発を可能とするとともに、開発申請者のためのガイドにもなること
  • 開発同意令(DCO)の発給審査の基礎文書となること
  • 地域計画当局による影響評価報告書の作成を支援すること

第2章「英国政府の高レベル放射性廃棄物等の管理方針」

英国政府の管理方針、地層処分、処分対象廃棄物の概要に加えて、処分実施戦略におけるポイントを述べている。

  • 2014年白書 に代わる政策文書である『地層処分の実施-地域社会との協働:放射性廃棄物の長期管理』(以下「2018年政策文書」という)では、実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM社)のみに、地域社会との協働プロセスを適用するとしているが、本NPSはボーリング調査とGDFの開発を希望する全ての者に適用される。
  • ボーリング調査とGDFの開発の際には、担当大臣による開発同意令(DCO)、イングランドの環境規制機関(EA)による環境許可、原子力規制局(ONR)による原子力サイト許可が必要となる。各規制当局は段階的な規制アプローチに基づき、GDFの開発計画・建設・操業・閉鎖の各段階において、相互に適切に関与するものの、規制が重複しないような体制を構築する。

第3章「地層処分施設の必要性」

技術・倫理・法律等の各観点から、高レベル放射性廃棄物等の管理方針として、他の管理方法を説明するとともに、地層処分が適切である理由が説明され、英国政府が公衆協議等を経て地層処分方針の採用を決定し、NPSの策定に至ったことを示している。

第4章「評価原則」

GDF等による環境・経済・地域への影響を評価するための主な原則として、設計・環境・健康・安全・セキュリティについての評価原則を述べている。

第5章「影響」

大気・騒音・生態系と自然保護・気候変動・文化遺産・社会経済・人口・洪水・湾岸侵食・健康・景観・土地利用・交通・水質等の主要な影響についての評価方法、マイナス影響を回避・緩和・補償するための措置等について述べている。

【出典】

 

【2019年10月18日追記】

英国政府は、2019年10月17日に、イングランドにおける地層処分社会基盤(Geological Disposal Infrastructure)に関する国家政策声明書(National Policy Statement, NPS)が制定されたことを公表した。これは、NPSの承認を求めて、最終案を2019年7月4日に英国議会に提出していたことを受けたものである。また、英国政府は、NPSの制定の要件として実施していた、生息環境規制評価(HRA)及び持続可能性評価(AoS)の報告書も公表した。

国家政策声明書(NPS)について英国政府は、英国において高レベル放射性廃棄物等の安全管理に地層処分施設が必要であることを示すとともに、計画審査庁やビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の大臣がイングランドにおける地層処分社会基盤の開発同意令(DCO)の発給審査及び発給決定を行うための基礎文書になるとしている。

 

【出典】

  1. 英国では、地方自治政府(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド)のうち、イングランド以外は地方自治政府に放射性廃棄物管理の権限が委譲されており、イングランド以外で地層処分施設を計画する場合は各地方自治政府が定める許可制度が適用される。 []
  2. このNPSは、イングランドにおける特定サイトではなく一般的なサイトを対象として作成されている。 []
  3. 2008年計画法(2015年3月改正)では、21会期日以内にNPSが可決または、「NPSを進めるべきではない」との決議をしていない状態で会期が終了した場合、NPSが制定されるとしている。 []
  4. 原子力廃止措置機関(NDA)の完全子会社。 []
  5. 英国政府は、国家政策声明書(NPS)の制定後、持続可能性評価(AoS)及び生息環境規制評価(HRA)の最終版を発行するとしている。 []

(post by f-yamada , last modified: 2019-10-18 )