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《フランス》会計検査院がバックエンドコストに関する評価報告書を公表

フランスの会計検査院(CDC)は2019年7月4日に、放射性廃棄物管理のコスト、エネルギー政策の変更によるバックエンドへの影響等に関する問題について、評価報告書を公表した。これは、これらの問題が長く公開討論会で扱われていなかったことから、2019年4月から2019年9月までの予定で開催されている2019~2021年を対象とした「放射性物質及び放射性廃棄物の管理に関する国家計画」(PNGMDR)に関する公開討論会に向け、情報資料として提示されたものである。

会計検査院は、以前から原子力産業のコスト評価報告書を取りまとめて公表しており、主な報告書として、2005年の「原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物管理に関する報告書」、2012年の「放射性廃棄物管理を含む原子力発電コストに関する報告書」があり、2014年には2012年の報告書を更新している

会計検査院は今回の評価報告書において、原子力政策を所管する環境連帯移行省や同省のエネルギー・気候総局(DGEC)、放射性廃棄物処分の実施主体である放射性廃棄物管理機関(ANDRA)等に対して、以下の10の提言を示している。

  1. DGEC及びANDRAは、2021年までに、貯蔵施設、処分場の容量と、放射性物質や放射性廃棄物の発生量とをより緊密に関連づけて廃棄物インベントリを補完すべきである。
  2. DGEC及びANDRAは、2020年までに、廃棄物インベントリでANDRAが想定している原子力・燃料サイクル政策に関する複数のシナリオについて、それぞれ地層処分場の建設コストを試算すべきである。
  3. DGEC及びANDRAは、2020年までに、2016年に試算された地層処分プロジェクトのコスト について、考えうるリスクや有利な状況の進展を現実的に考慮し、更新すべきである。
  4. 環境連帯移行省は、2019年中に、環境法典に基づき、再利用が想定されている放射性物質と処分が想定される放射性廃棄物との分類について、同省が変更する場合の方針を明確化すべきである。
  5. DGEC及び経済・財務省の国庫・経済政策総局は、2019年中に、放射性廃棄物管理に係る引当金及び見合資産の計上に関して、産業面での実際に即した観点を反映すべきである。
  6. ANDRAは、2020年までに、地層処分プロジェクトの実現に際して、特に使用済みのMOX燃料や使用済みのURE燃料1 を地層処分場に処分することになった場合など、エネルギー政策の変更による影響について、地層処分場の建設に向け、ANDRAが策定する放射性廃棄物の基準インベントリの更新が必要となるマイルストーンを明確化すべきである。
  7. DGECは、2019年に開催中のPNGMDRに関する公開討論会や、今後の多年度エネルギー計画(PPE)2 に関する公開討論会に際して、フロントエンドとバックエンドの関係性を明らかにして議論を行うべきである。
  8. DGECは、2019年に、廃棄物インベントリにおけるシナリオと、事業者が策定する燃料サイクルの影響に関する文書3 、多年度エネルギー計画(PPE)、PNGMDRにおけるシナリオとを整合させ、特に、これらの文書におけるレファレンスシナリオを1つに統一すべきである。
  9. 環境連帯移行省は、DGECと原子力安全機関(ASN)が多様な検討結果等を踏まえ、総合的な視点で計画を策定するために十分な期間を確保できるよう、初回の公開討論会の成果も踏まえ、PNGMDRの策定期間を2020年まで延長すべきである。
  10. 環境連帯移行省は、2019年中に、事業者が提出したデータや研究結果に関して、DGECが独自の分析や、原子力発電事業のコスト便益分析を実施する能力を強化すべきである。

今回の会計検査院のバックエンドコストに関する評価報告書の公表を受けて、ANDRAは2019年7月5日付けプレスリリースにおいて、地層処分プロジェクトの次回のコスト見直しに向けた取組を開始していることを表明するとともに、会計検査院に対して2019年6月17日付けで先行して提出していた意見書を公表した。ANDRAは、会計検査院が示した提言に関して、以下のような見解を示している。

  • 地層処分プロジェクトが段階的に進められていることの妥当性が会計検査院の評価報告書の中でも認められている。ANDRAは、この段階的な取組によって、同プロジェクトが今後の技術進展やエネルギー政策の変更にも適応可能であると考える。
  • 地層処分対象となる放射性廃棄物のインベントリに関して、ANDRAは、地層処分場の設置許可申請に向けて策定した基準インベントリの他に、放射性廃棄物管理方法の変更やエネルギー政策の進展に付随する不確実性を考慮に入れた予備インベントリも策定している4
  • 地層処分プロジェクトのコストに関しては、ANDRA及び電力会社等による試算が2014年以降実施されたが、当時は地層処分場の設計の初期段階にあり、不確実性が高かったため、試算結果には大きな幅があった。このため、最終的には2016年に、政府が今後の必要性に応じた見直しをすることを前提に、コストの目標額を定めた。地層処分プロジェクトは非常に長期にわたるものであり、前述したコスト試算の経緯も踏まえると、会計検査院が地層処分場のコストを正確に試算することは不可能であると指摘しているのは妥当である。
  • 地層処分プロジェクトのコストに関してANDRAは、すでに次回のコスト見直しに向けた取組を開始している。2014年からのコスト試算時と比較して、地層処分場の設計等が詳細化されており、また、地層処分場が予備インベントリに適応するためのコストも試算する予定である5
  • 会計検査院の提言10にあるとおり、放射性廃棄物の貯蔵、処理の状況や、燃料サイクルに関する総合的な視点を持つために、環境連帯移行省のエネルギー・気候総局(DGEC)が分析や専門的能力を強化することは重要である。

【出典】

  1. Uranium de retraitement ré-enrichi, PWR使用済燃料からの回収ウランの再濃縮による燃料 []
  2. 2015年8月に制定されたエネルギー転換法に基づき、フランス政府は、エネルギー供給保証、エネルギー効率、再生可能エネルギー利用促進、エネルギー価格の競争力維持等の観点から、連続する2期間(各5年)を対象としてPPEを策定する。 []
  3. 原子力安全機関(ASN)は2000年以降、フランス電力株式会社(EDF社)に対し、燃料サイクルに係わるOrano社等の事業者と共同で、燃料サイクルの実施状況とその原子力安全等への影響について検討した結果をまとめた “Impact cycle”文書を定期的に提出するよう要請している []
  4. 環境法典第D542-90条では、地層処分場の建設に向けた基準インベントリと、不確実性を考慮に入れた予備インベントリを策定することが規定されている。 []
  5. 環境法典第D542-94条では、長寿命中・高レベル放射性廃棄物の長期的な管理の実施に係るコストの評価は、定期的に更新され、特に、地層処分場の設置許可時、操業開始時、パイロット操業フェーズの終了時、定期安全レビュー時には必ず更新することが規定されている []

(post by eto.jiro , last modified: 2023-10-10 )