フランス会計検査院(CDC)は2012年1月31日付プレスリリースにおいて、放射性廃棄物の長期管理を含む原子力発電事業の費用に関する報告書を首相に提出したことを公表し、同報告書をウェブで公開した。報告書は全ての放射性廃棄物に係る今後の長期管理費用の総額を284億ユーロと試算している。
首相は2011年5月17日付の会計検査院に対する書簡において、原子力発電事業に係る費用の検証を要請していた。同報告書は、会計検査院が同要請に基づき検証を行った結果を取りまとめたものであり、過去の原子力発電所の建設投資費用や現在の運転費用に加えて、廃止措置や放射性廃棄物管理等のために将来発生する費用についても検証されている。
報告書によれば、会計検査院は地層処分事業の費用を含む全ての放射性廃棄物の今後の長期管理費用の総額を284億ユーロと試算している1。但し、地層処分事業に係る費用の詳細は最終的に決定されていないため、この試算額は不確定であるとしている。また、地層処分事業の費用に関連する事項として、会計検査院は報告書において次のような評価結果を示している。
- 試算値の一部である地層処分事業の費用は2005年の見積額である165億ユーロに基づいているが、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)はこの見積額を2009年に見直し、360億ユーロに上方修正している。正式な見積額は省令によって2015年までに決定されるべきである。
- 使用済みの混合酸化物燃料(MOX)及び濃縮回収ウラン燃料(URE)については、現状では再処理が実施されていないため、フランス電力株式会社(EDF)はこれらの使用済燃料を高レベル及び長寿命中レベル放射性廃棄物と同様に地層処分対象の廃棄物であるとみなし、その長期管理のための引当金を計上している。この方法論自体は適切であるが、引当金が正確に計上されていることを証明する必要がある。また、これらの使用済燃料を直接処分するという仮定についても現実的に検討すべきである。
これらの評価結果を踏まえて、会計検査院は放射性廃棄物の長期管理について次の2つの提言を行っている。
- 地層処分事業の費用について、可及的速やかに新たな見積額を算定することが望ましい。算定にあたっては、地層処分場の安全性に関する見解を示すことができる唯一の機関である原子力安全機関(ASN)の決定を順守すべきである。
- 地層処分事業の費用に関する新たな見積額を決定する枠組みで、使用済みのMOX燃料及びURE燃料を直接処分した場合の費用についても試算されるべきである。これらの使用済燃料を直接処分するという仮定については、処分場の設計作業においても考慮されるべきである。
上記の会計検査院の報告を受けて、経済・財務・産業大臣付産業・エネルギー・デジタル経済担当大臣は2012年1月31日付のプレスリリースにおいて、地層処分事業の費用については2012年末までに費用の算定作業が終了する予定であることを示している。
【出典】
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会計検査院、2012年1月31日付プレスリリース
http://www.ccomptes.fr/fr/CC/documents/Communiques/Communique_rapport_thematique_filiere_electronucleaire.pdf -
会計検査院、原子力発電事業の費用に関する報告書
http://www.ccomptes.fr/fr/CC/documents/RPT/Rapport_thematique_filiere_electronucleaire.pdf -
会計検査院、原子力発電事業の費用に関する報告書(概要版)
http://www.ccomptes.fr/fr/CC/documents/Syntheses/Synthese_rapport_thematique_filiere_electronucleaire.pdf -
経済・財務・産業大臣付産業・エネルギー・デジタル経済担当大臣、2012年1月31日付プレスリリース
http://proxy-pubminefi.diffusion.finances.gouv.fr/pub/document/18/12170.pdf
- 地層処分に加えて、低・中レベル放射性廃棄物の浅地中処分、極低レベル放射性廃棄物の浅地中処分、長寿命低レベル放射性廃棄物の処分、更には未だに処理されていない歴史的廃棄物の処理・調整などに係る全ての放射性廃棄物の今後の長期管理費用としての試算 [↩]
(post by emori.minoru , last modified: 2023-10-11 )