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英国政府が地層処分施設の新たなサイト選定プロセス等を示した白書を公表

英国政府のエネルギー・気候変動省(DECC)は、2014年7月24日に、高レベル放射性廃棄物等の地層処分施設の設置に向けた新たなサイト選定プロセス等を示した白書『地層処分の実施-高レベル放射性廃棄物等の長期管理に向けた枠組み』(以下「2014年白書」という)を公表した。新たなサイト選定プロセスにおいては、原子力廃止措置機関(NDA)の100%子会社である「放射性廃棄物管理会社」(RWM、2014年4月設立)が地層処分の実施主体と位置付けられており、今後2年間をかけて放射性廃棄物管理会社(RWM)が英国全土(スコットランドを除く)を対象とした地質学的スクリーニング 1を実施する計画である。なお、放射性廃棄物の長期管理の実施責任は、これまでと同様にNDAが有するとしている。

英国政府は、2008年に公表した白書『放射性廃棄物の安全な管理-地層処分の実施に向けた枠組み』(以下「2008年白書」という) において、地層処分施設のサイト選定プロセスを定め、これに対して関心表明する自治体を含む地域を公募した。再処理工場などがあるカンブリア州及び同州の2市が関心表明を行っていたが、2013年1月に、これらの地域が次段階となる机上調査に進まないことを決定したことを受け 、英国政府は、公募は継続するものの、サイト選定プロセスの改善策の検討に着手することとした。 2 2013年9月には、新たなサイト選定プロセスの提案を示す協議文書を公表し、約3カ月間の公開協議を通じて意見募集を行っていた。英国政府は、2014年白書公表時の英国議会への声明において、公開協議で寄せられた意見、カンブリア州でのサイト選定活動の失敗で得られた教訓を新たなサイト選定プロセスに反映させたとしている。

2014年白書では、地層処分施設のサイト選定プロセスを2つの期間―「英国政府及び実施主体による初期活動」と「関心を表明した地域と実施主体との正式な協議」―で構成している。それぞれの期間における活動概要を以下に示す。

 

○英国政府及び実施主体による初期活動:2年間(2014年~2016年)

2年間の初期活動において、英国政府及び実施主体は、自治体を含む地域に対して、地質、社会・経済的影響、地域への投資等の地層処分施設に関連する情報の提供を行う。英国政府は、技術的事項及び実施主体と地域との協働事項の両面に関して、地域が明確で、証拠に基づいた情報を得ることにより、より安心してサイト選定プロセスに参加することができると考えている。具体的に初期活動では、①英国全土(スコットランドを除いて、イングランド、ウェールズ、北アイルランド)を対象とした地質学的スクリーニングの実施、②「2008年計画法」(Planning Act 2008)の改正、③地域との協働プロセスの策定が実施される。それぞれの実施概要は以下のとおりである。

① 自治体を含む地域が地層処分施設の設置について検討を行う際に、安全面において重要な地質に関する情報をアクセス可能な形で提供するため、実施主体は、既存の地質情報を活用し、地層処分施設の一般的なセーフティケース要件に基づいた地質学的スクリーニング活動を行う。実施主体は、最初に地質学的スクリーニングの実施要領書案を策定し、独立したレビューパネルによる評価の後、確定した実施要領書を地質学的スクリーニングに適用する。

② 2008年計画法では、イングランド 3 における「国家的に重要な社会基盤プロジェクト」(NSIP)については、計画審査庁からの勧告を受けた担当大臣による開発同意令(DCO)が必要とされている。英国政府は、2008年計画法を改正し、地層処分施設をNSIPの一つと定義し、候補サイトを評価するために必要な地上からのボーリング調査もNSIPの定義に含める。英国政府は、2008年計画法に沿って、地層処分施設に関するDCO発給審査の基礎となる国家声明書(NPS) 4 を作成する。このNPSは、特定のサイトではなく一般的なサイトを対象として作成される。

③ 地層処分施設の設置に関心を示した自治体を含む地域と協働するプロセスを策定する。実施主体は地域が求める全ての情報を提供し、地域の見解や懸念を聞き、対応しなければならない。地域との協働プロセス策定のため、以下が実施される。

  •  英国政府が設置する「地域の代表のための作業グループ」の主導の下、地層処分施設の設置について住民の支持を調査・確認(test)する方法などの地域の代表プロセスの策定方法を決定する。ここでは地域との正式協議を開始する2016年以降での地域の代表の詳細プロセスを策定するのではなく、プロセスの策定方法が検討される。
  • 英国政府は、サイト選定プロセスに参加する地域への経済的なサポート 5 及び地層処分施設を設置する地域に対して、更に追加される経済的なサポートに関する情報(時期・方法について決定するプロセスを含む)の提供を行う。地層処分施設の建設・操業は数十億ポンドのプロジェクトであり、今後数十年にわたって数百の雇用を創出するなど、立地地域にとって大きな経済便益をもたらすものである。
  • 地域、実施主体、英国政府がサイト選定プロセスにおいて、独立した第三者機関から重要な技術的事項についてのアドバイスを受けられるようなメカニズムを策定する。

 

○関心を表明した地域と実施主体との正式な協議:15~20年間(2016年以降)

2年間の初期活動での成果に基づいて、実施主体は地層処分施設の設置に関心を持つ自治体を含む地域との間で地質調査の実施などに関して正式な協議に入る。サイト選定プロセスからの撤退権については、地域が処分施設の設置についての住民の支持を調査・確認(test)するまで、いつでも撤退できるとしている。一方、いかなる地域も他の地域のサイト選定プロセスへの参加を妨げることはできないとしている。また、実施主体が実施する地質調査の結果、当該サイトについて地層処分施設の設置の適合性を立証できる十分な情報が得られたと実施主体が判断した場合は、住民の支持の調査・確認(test)が行われる。住民の支持の調査・確認(test)の結果が肯定的な場合、実施主体は地層処分施設の設置のための許可申請が行うことができるが、否定的であった場合には、当該サイトにおける地層処分事業は打ち切られるとしている。

以下に、2014年白書と2008年白書におけるサイト選定プロセス等に関する主な相違点を示す。

表 2008年白書と2014年白書におけるサイト選定プロセス等の主な相違点

項目 2008年白書 2014年白書

サイト選定
プロセス

6段階で構成される段階的プロセスによってサイトを選定する

2段階で構成され、2年間の初期活動の後に地域との協働を通してサイトを選定する。

自治体を含む地域のサイト選定プロセスからの撤退権

サイト選定プロセスの第6段階である地下調査の前まで、意思決定機関である地域(州、市町村等)に撤退権が与えられている。

地域は処分施設の設置について住民の支持を調査・確認(test)する時点まではいつでも撤退が可能。

※いかなる自治体も他の地域のサイト選定プロセスへの参加を妨げることはできないとしている。

廃棄物の
回収可能性

処分施設の操業終了後も回収可能性を維持するかについては規制機関と地元地域が協議して決定する。

英国政府は操業段階において、処分施設に定置された廃棄物の回収を実施する説得力を伴う理由が存在する場合、廃棄物の回収を行うことができるとしている。

※地域における回収可能性の判断については、特に記載されていない。

実施主体

原子力廃止措置機関(NDA)

NDAの100%子会社である
放射性廃棄物管理会社(RWM)

事業規制

・1965年原子力施設法
・1990年都市田園計画法
・1993年放射性物質法

・1965年原子力施設法
・1990年都市田園計画法
・2010年環境許可規則
 (イングランド、ウェールズ)
・2008年計画法
 (イングランド)

【出典】

 

【2015年4月6日追記】

英国政府は、イングランドにおける地層処分施設(GDF)の開発を「国家的に重要な社会基盤プロジェクト(NSIP)」の一つと位置づける立法措置として、2015年3月26日に「2015年社会基盤計画(放射性廃棄物地層処分施設)令」を制定し、翌日に発効した 6 。この立法措置により、GDFの開発プロジェクトは、国家レベルで重要なインフラ整備に係る手続きなどを定めた「2008年計画法」に基づく規制が適用されることになり、プロジェクトの実施に先立ち、計画審査庁からの勧告を受けた担当大臣による開発同意令(Development Consent Order ,DCO)が必要となる。なお、GDFの候補サイトを評価するために実施するボーリング調査等もNSIPに該当するものとなっている。

2014年白書において、英国政府は、地層処分施設(GDF)に関する開発同意令(DCO)の発給審査の基礎となる国家声明書(National Policy Statement, NPS)を作成するとしており、このNPSは、特定のサイトではなく一般的なサイトを対象として作成されるとしている。

2015年社会基盤計画(放射性廃棄物地層処分施設)令においては、放射性廃棄物の処分を「回収を伴わない廃棄物の定置」と定義し、地層処分施設(GDF)は以下のような条件を満たす施設と規定している。

  • 施設の主要目的が放射性廃棄物の最終処分となること
  • 施設の一部が地表または海底下から少なくとも200mよりも深い位置に建設されること
  • 施設周辺の自然環境が工学的対策とともに、施設の一部から地上へと放射性核種が移行することを防ぐ機能を果たすこと

また、2015年社会基盤計画(放射性廃棄物地層処分施設)令では、地層処分施設(GDF)の開発について、主に以下のように規定されている。

  • 1つまたは複数のボーリングに関連した掘削・建設・建築作業
  • ボーリングは地表または海底下から少なくとも150mより深い位置にあること
  • ボーリングの主要目的が、地層処分施設(GDF)の建設・操業に適しているかを決定するための情報・データ・サンプルの入手となること
  • 地層処分施設(GDF)の建設
  • 地層処分施設(GDF)が建設される場合、施設はイングランド及びイングランド領海域内にあること

 

【出典】


  1. 地質学的スクリーニングは、地層処分施設の設置に「適している」または「不適格」なエリアの選定、サイト選定に使用されるものではなく、好ましい地質の分布を示した地図を作成することに主眼がある。[]
  2. 2014年白書において英国政府は、将来のある時点において新たなサイト選定プロセスが機能していないと判断される場合、再びサイト選定プロセスの見直しを行うとしている。[]
  3. 2014年白書ではイングランドの許認可制度が中心に示されており、ウェールズ政府、北アイルランド政府もそれぞれ独自の制度に基づいて開発に対する許認可を発給する。なお、スコットランド政府は地層処分を支持していないため、2014年白書の対象となっていない。[]
  4. 主に重要な社会基盤施設の開発を行う際の国の政策文書[]
  5. サイト選定プロセスに参加している地域には年間最高100万ポンド、さらにボーリング調査等が実施されている地域には年間最高250万ポンドが参加期間中に投資される。[]
  6. 英国では、各大臣に委任された権限を行使するための法的手段として、1946年に制定された委任立法法(Statutory Instruments Act 1946)に基づき、委任立法(Order等)が運用されており、この委任立法によって英国議会で制定される法律(Act)を改正することも可能とされている。[]

(post by f-yamada , last modified: 2018-02-04 )