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《スイス》連邦評議会が廃止措置・廃棄物管理基金令改正案を閣議決定

スイスの連邦評議会1 は2014年6月25日に、「廃止措置・廃棄物管理基金令」(以下「基金令」という)の改正案を閣議決定した。今回の改正は、将来の原子力発電所の廃止措置や放射性廃棄物管理に必要な費用を基金によって賄えなくなった場合、連邦が不足分を補填するようなリスクの低減を目的としたものであり、2015年から発効となる。基金令のうち、放射性廃棄物管理基金に関係する改正では、不測の事態に備えた予備費(コンティンジェンシー)として放射性廃棄物管理の費用見積に30%を上乗せするとともに、基金への拠出終了時期を原子力発電所の運転終了から廃止措置完了まで延長することにより、原子力発電事業者の費用負担を増加させている。他方、早期閉鎖する原子力発電事業者に対しては、拠出金負担総額の軽減措置を盛り込んでいる。

今回の改正のもう一つの背景となっているのは、スイスのエネルギー政策である「エネルギー戦略2050」により、2011年3月の東京電力(株)福島第一原子力発電所事故を受け、段階的脱原子力の取組を進めていることである。原子炉の運転期間に法的な制限は設けていないものの、新設やリプレースは認めない方針となっている。今回の改正案は、原子力発電事業者に対して拠出金軽減のインセンティブを与えることにより、原子炉の早期閉鎖を促すものとなっている。

 

廃止措置基金と放射性廃棄物管理基金

スイスでは、バックエンドに関連して廃止措置基金と放射性廃棄物管理基金の2つの基金が設置されている。両基金の目的は以下の通りであり、基金令は、これら2つの基金の設置・運営に関する詳細を規定している。

  •   廃止措置基金:原子力施設の廃止措置費用の資金確保・管理を目的とする。
  •   放射性廃棄物管理基金:原子力発電所の運転終了後の期間において、放射性廃棄物管理に係る費用の資金確保・管理を目的とする。2

放射性廃棄物管理基金及び廃止措置基金に関連する主な現行の規定と、今回の改正における変更点を下表で比較した。

放射性廃棄物管理基金及び廃止措置基金に関連する主な規定と変更

 

現行の基金令
(2014年末まで有効)

改正した基金令
(2015年1月1日発効)

対象となる費用

原子力発電所の運転終了後の期間において、運転にともなって発生した放射性廃棄物及び使用済燃料の管理に関する全ての費用及び原子力施設の廃止措置の際に生じる全ての費用

費用見積

5年毎に事業者の見積に基づき算定(第4条)

費用見積における想定運転期間

明示なし

原則50年(第4条)

拠出金負担者

原子力発電事業者(第6条)

基金への拠出期間

運転開始から運転終了まで(第7条)

運転開始から廃止措置終了まで(第7条)

拠出金の算定

・廃棄物管理費用
・廃止措置費用
・基金の管理費用
・運転期間想定:50年
・基金の投資利回り:5%
・物価上昇率:3%
を元に算定
(第8条)

・廃棄物管理費用に30%の予備費を上乗せした費用
・廃止措置費用に30%の予備費を上乗せした費用
・基金の管理費用
・運転期間想定:50年
・基金の投資利回り:3.5%
・物価上昇率:1.5%
を元に算定
(第8a条)

原子炉早期閉鎖(50年未満)に関する規定

なし

拠出額の分担計算において、50年運転後に閉鎖したものとみなして計算。早期閉鎖年数分の差額は、拠出済みと見なされる。
(第9c条)

2014年6月25日の連邦エネルギー庁(BFE)のプレスリリースによると、廃止措置基金、放射性廃棄物管理基金の両基金の管理委員会(以下「基金委員会」という)は、改正した基金令に基づく2015年以降の事業者拠出金の額を2014年末までに決定する予定である。

 

基金令の改正経緯

1.拠出金の増額の必要性

スイスでは5年に1度、原子力発電事業者が廃止措置及び放射性廃棄物管理に係る費用の見積りを作成し、これを元に基金委員会が、事業者が支払う拠出金の額を決定する。この見積りは、これまでに2001年、2006年、2011年に実施されているが、この間の見積額の増加傾向が著しいことに加え、両基金の運用実績も目標に到達していない。このため、廃止措置基金、放射性廃棄物管理基金は共に廃止措置・放射性廃棄物管理のために将来必要となる費用を賄えなくなるリスクが高まっている。また、万一、原子力発電事業者が基金への拠出義務を履行できない場合、連邦による不足分の補填が必要となる可能性がある。政府は、こうしたリスクの低減を今回の基金令改正の目的に挙げている。

今回の基金令の改正では、将来的な費用増大を中心とした不確実な要素に対応するためとして、見積られた費用に対して30%の予備費3 を上乗せする内容である。あわせて、拠出期間を原子炉の廃止措置終了までに延長することにより、基金への積み立て不足の回避を図っている。廃止措置には15年から20年を要すると見込まれており、この期間相当分、拠出年数が増加することになる。原子力発電事業者としては、運転終了後は販売収入がなくなることから、30%の予備費とともに負担は大幅に増加することになる。

2. 原子炉の早期閉鎖に関する規定の追加(第9c条)

基金令の改正案は2013年8月に公表され、意見聴取に付された。連邦上下両院は、それぞれ2013年6月と9月に、基金への拠出に関連して、原子炉の早期閉鎖に対するインセンティブを与えるよう求める動議「古い原子炉の自主的な早期閉鎖促進」を採択した。これを受け、政府は2013年11月の意見聴取終了後に基金令改正案に対して、原子炉の早期閉鎖に関する規定(第9c条)を追加した。これにより、費用算定上の基準である50年より早期に閉鎖する原子炉は、閉鎖時点で50年分が拠出済みと見なされる。早期に閉鎖するほど、廃止措置・廃棄物管理基金の拠出負担総額が軽減できる仕組みである。なお、こうした低減措置が適用された場合には基金に払い込まれる拠出金が減少することになるが、30%の予備費の上乗せや拠出期間の延長等により、原子力発電事業者が払い込む拠出金の額を増額することで減少分の埋め合わせを図っている。

3. 基金令改正をめぐる事業者の反応

今回の閣議決定に先立ち、2013年8月から11月にかけて実施された基金令改正案に対する意見聴取手続きでは、原子力発電事業者各社から、30%にのぼる予備費の上乗せは「負担が大きすぎる」とする意見が寄せられていた。

このような意見があったものの、連邦評議会が2014年6月25日に閣議決定を行ったことから、各原子力発電事業者はプレスリリースを出し、予備費の上乗せは「不要である」「事実に即した根拠に基づかない、政治的な決定である」との見解を表明している。

 

【出典】

【2015年10月22日追記】

スイスの連邦評議会1 は2015年10月8日に、「廃止措置・廃棄物管理基金令」(以下「基金令」という)の改正案を閣議決定した。今回の改正案は、2015年1月1日に発効した基金令の改正に加えて、基金のガバナンス及び監督強化に係る改正が主となっており、2016年1月1日に発効する。

今回閣議決定された改正案の主な内容は、以下の通りである。

  • 政府機関の職員による基金委員会委員の兼任禁止
    基金委員会4 の独立性保持の観点から、環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)や連邦原子力安全検査局(ENSI)の職員による委員の兼任が禁止された(基金委員会傘下の小委員会を含む)(第21条第2bis項)。
  • 基金に対する監督強化
    環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)に対して、新たに基金の組織・運営についての規則を定める権限が与えられた(第29a条第2項a)。さらに、UVEKは、原子力発電事業者が負担する拠出金の算定において、枠組等に大きな変動が生じた場合、連邦財務省及び連邦経済・教育・研究省と合意の上で、算定根拠となる投資利回り、物価上昇率及び予備費の調整を行う役割を担う(第8a条第2項)。
  • 原子力発電事業者による費用見積報告書に係る手続きの明文化
    現行の基金令は、「廃止措置費用及び廃棄物管理費用の想定額は、5年毎に各原子力施設の所有者の申告に基づいて算出される」と規定しているのみであるが、今回の基金令の改正案では、現在既に運用されている費用算定の流れが明文化された。具体的には、事業者が原則5年毎に費用見積りの報告書を作成し(第4条第1項)、この報告書を連邦原子力安全検査局(ENSI)及び会計専門家が審査した上で(第4条第4項)、審査を経た報告書に基づいて、基金委員会が廃止措置費用、廃棄物管理費用の見積額の確定を環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)に申請する(第4条第5項)、という手続きが規定された。

今回の基金令の改正に基づいて、原子力発電事業者は廃止措置費用及び放射性廃棄物管理費用の見積りを実施し、2016年に公表する予定である。

 

【出典】

  1. 日本の内閣に相当 [] []
  2. 原子力発電所の運転中に係る放射性廃棄物管理費用は、原子力発電所の所有者が引当金を計上することにより確保している。 []
  3. この予備費が30%に設定された明確な算定根拠は示されていない。 []
  4. 廃止措置基金、廃棄物管理基金に対して、両基金を管理する1つの基金委員会が設置されており、費用の想定額や拠出金額を決定している。現在の基金委員会の委員でUVEKやENSIの職員による兼任はない。委員の名簿については以下を参照。https://www.admin.ch/ch/d/cf/ko/gremium_10223.html []

(post by yamamoto.keita , last modified: 2023-10-11 )