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《スイス》規制機関ENSIが地質学的候補エリア「北部レゲレン」をサイト選定第3段階での検討対象とすべきとの見解を表明

連邦原子力安全検査局(Eidgenössisches Nuklearsicherheitsinspektorat, ENSI)は2016年12月14日、処分実施主体である放射性廃棄物管理共同組合(Nationale Genossenschaft für die Lagerung radioaktiver Abfälle, NAGRA)に対し、地層処分場のサイト選定第3段階において検討する地質学的候補エリアに「北部レゲレン」を含めるべきとの見解を表明した。

NAGRAは、2016年8月に、地層処分場の技術的実現可能性に関するサイトの評価基準に関して、最大深度に係る補足文書をENSIに提出しており、最大深度700mより深いオパリナス粘土層での処分場の建設は極めて困難であり、建設・操業に関する安全面で不利になるなどの考え方を示した。オパリナス粘土層の多くが700m以深に分布している「北部レゲレン」については、予備候補として留保する提案を行っていた。

これに対してENSIは今回、北部スイスの地質学的データが十分とは言えない中で、NAGRAが示したオパリナス粘土層の安定性と堅牢性に関する想定は現在の科学技術的知見に照らして過度に保守的であると判断し、処分場建設上の適性の点で、北部レゲレンが明らかに不利であると判断できないとする見解を表明した。ENSIは今後、サイト選定第3段階において検討対象とする地質学的候補エリアを「チューリッヒ北東部」「ジュラ東部」「北部レゲレン」の3つとすべきとした審査報告書を2017年春に取りまとめる予定である。

今回のENSIの見解表明を受けてNAGRAは、ENSIの勧告を受け入れる意向を示している。NAGRAはすでに2016年2月の段階で、ENSIによる審査の結果により、北部レゲレンが予備候補ではなく優先候補とされた場合のスケジュールの遅延を避けるため、北部レゲレンにおけるサイト選定第3段階の探査を想定した準備作業(探査計画策定、三次元弾性波探査及びボーリング候補地点の検討等)に着手していることを公表している。NAGRAは、北部レゲレンにおいて、他の2つの優先候補と同様、2016年秋から三次元弾性波探査を実施しており、2017年春にはボーリング調査に向けた許認可申請も予定している。

○スイスにおけるサイト選定の現状

「第3段階に向けたサイト提案」 (NAGRA、技術報告書14-01「地質学的候補エリアの安全性の比較及び第3段階において検討対象とするサイトの提案」、2014年12月より)

「第3段階に向けたサイト提案」
(NAGRA、技術報告書14-01「地質学的候補エリアの安全性の比較及び第3段階において検討対象とするサイトの提案」、2014年12月より)

現在行われているサイト選定第2段階では、サイト選定第1段階で選定された高レベル放射性廃棄物の3つ、低中レベル放射性廃棄物の6つの地質学的候補エリアの中から、高レベル放射性廃棄物用、低中レベル放射性廃棄物用のそれぞれの地層処分場について、2カ所以上の候補を提案することが目標となっている。

高レベル放射性廃棄物の地層処分場について、当初の地質学的候補エリアは「ジュラ東部」「北部レゲレン」「チューリッヒ北東部」である。NAGRAは、2014年12月に取りまとめた技術報告書において、岩盤強度及び変形特性を考慮した上での建設上の適性の観点からの最大深度を地下700mと設定し、これに基づいて、オパリナス粘土層の多くが700mより深いところに分布している「北部レゲレン」をサイト選定第3段階で検討する優先候補とせず、予備候補として留保する提案を行っていた。

NAGRAの提案に対し、連邦原子力安全検査局(ENSI)の依頼に基づく外部専門家によるレビューにおいて、NAGRAが提出した岩盤力学的な基本情報や想定条件、設計基準等が不十分かつロバストではないと指摘しており、2015年11月にENSIは、「建設上の適性の観点から見た最大深度(岩盤強度及び変形特性を考慮して)」を用いた評価を可能とするため、NAGRAに補足情報の提出を求めていた。

NAGRAは2016年8月に地層処分場の技術的実現可能性に関するサイトの評価基準に関して、最大深度に係る補足文書をENSIに提出し、地質学的候補エリアの地質工学的条件について、構造地質学的な履歴や処分深度に応じた変化を踏まえて評価するとともに、処分場の人工バリア及び天然バリアに及ぼす影響を長期安全性の観点から評価することにより、高レベル放射性廃棄物用の地層処分場の最大深度を地下700mとする根拠を明らかにしていた。NAGRAは、北部レゲレンを地層処分場とすることについて、「チューリッヒ北東部」及び「ジュラ東部」と比較して明らかに適性が劣ると評価していた

ENSIは、2014年12月にNAGRAが取りまとめた報告書と今回の補足文書とを合わせて、サイト選定第2段階の絞り込み結果について審査を継続しており、今回2016年12月に、オパリナス粘土等の堆積岩層においては、処分空洞やシーリング構造物を十分な信頼性をもって建設可能な深度は地下900mまでと考えられることから、処分場建設上の適性の点で、北部レゲレンが明確に不利であると判断できないとした見解を表明した。

ENSIは2017年春を目途に審査報告書を公表する予定であったが、サイト選定手続きを監督する連邦エネルギー庁(Bundesamt für Energie, BFE)はENSIと協議を行い、審査報告書の公表に先立ち、審査結果の概要を明らかするようENSIに依頼したとしている。

 

○今後の予定

今後、連邦原子力安全検査局(ENSI)による2017年春の審査報告書の公表の後、原子力安全委員会(KNS)1 と州委員会2 がENSIの審査結果に対する見解を表明する。なお、6つの地域会議もそれぞれ、NAGRAの絞り込み提案に対する見解(一部は暫定見解)を表明済みである。連邦エネルギー庁(BFE)はENSIの審査結果、KNSと州委員会の見解等を踏まえて、地質学的候補エリアの提案に関する成果報告書を作成する。2017年末には、成果報告書とENSIの審査結果、各種見解など資料一式が3カ月にわたって州、自治体、政党、関心のある住民、近隣諸国を対象とした意見聴取に付される。意見聴取の結果を踏まえ、2018年末に連邦評議会3 が地質学的候補エリアの提案を承認する予定となっている。

 

【出典】

【2017年4月20日追記】

スイスの連邦原子力安全検査局(Eidgenössisches Nuklearsicherheitsinspektorat、ENSI)は2017年4月18日に、「サイト選定第3段階で調査を継続するサイトの提案に関する安全技術審査報告書」を公表し、改めて「北部レゲレン」を検討対象にすべきとの見解を示した。

ENSIは2016年12月14日に、今回と同様な審査結果の概要をすでに公表しており、処分実施主体である放射性廃棄物管理共同組合(Nationale Genossenschaft für die Lagerung radioaktiver Abfälle、NAGRA)に対して、優先候補として提案されている地質学的候補エリア「チューリッヒ北東部」及び「ジュラ東部」に加えて「北部レゲレン」についても、サイト選定第3段階での検討対象とすべきとの見解を表明していた。その際ENSIは、2017年春に審査報告書を公開する予定を示していた。

なお、審査報告書と併せてENSIは、NAGRAの地質学的候補エリアの提案に対する専門的な検討を地層処分場専門家グループ(EGT)、スイス国土地理院(swisstopo)、環境コンサルタント会社など複数の専門家・専門組織に委託しており、これらの組織などが作成した20以上の報告書もENSIのウェブサイトで公表されている。

 

【出典】

【2017年7月4日追記】

スイスの原子力安全委員会(Eidgenössische Kommission für nukleare Sicherheit、KNS)は2017年7月3日に、連邦原子力安全検査局(Eidgenössisches Nuklearsicherheitsinspektorat、ENSI)が2017年4月18日に公表した「サイト選定第3段階で調査を継続するサイトの提案に関する安全技術審査報告書」に対する見解を公表した。ENSIの審査報告書に対する見解においてKNSは、ENSIによる審査は十分かつ妥当であるとしており、処分実施主体である放射性廃棄物管理共同組合(Nationale Genossenschaft für die Lagerung radioaktiver Abfälle, NAGRA)が優先候補として提案した地質学的候補エリア「チューリッヒ北東部」及び「ジュラ東部」に加え、予備候補として留保する提案を行っていた「北部レゲレン」をサイト選定第3段階での検討対象に含めるべきとするENSIの勧告を支持するとしている。

原子力安全委員会(KNS)は、原子力法に基づき連邦評議会(日本の内閣に相当)が設置している諮問組織であり、連邦原子力安全検査局(ENSI)、環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)、連邦評議会に対して原子力の安全性に関する重要な問題に関して助言を行う役割を担う。また、KNSは、特別計画「地層処分場」(以下「特別計画」という)で定められる3段階のサイト選定手続きの各段階において、ENSIの審査報告書等に対する見解書を作成するとされている。

 

【出典】

  1. 原子力安全委員会(Eidgenössische Kommission für nukleare Sicherheit, KNS)は、ENSI、環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)、連邦評議会に対して安全性に関する重要な問題に関して助言する。 []
  2. 州内に地質学的候補エリアが含まれる7つの州に、近接する地方バーゼル半州を加えた8つの州の代表が参加している。また、投票権は有さないが、BFE、ENSI、ドイツの連邦環境・自然保護・建設・原子炉安全省(BMUB)、及びドイツの3つの自治体の代表者も参加している。 []
  3. 日本の内閣に相当 []

(post by yamamoto.keita , last modified: 2023-10-10 )