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《スイス》NAGRAが地層処分場のサイト選定プロセス第2段階での絞り込み結果を公表

「第3段階に向けたサイト提案」 (NAGRA、技術報告書14-01「地質学的候補エリアの安全性の比較及び第3段階において検討対象とするサイトの提案」、2014年12月より)

「第3段階に向けたサイト提案」
(NAGRA、技術報告書14-01「地質学的候補エリアの安全性の比較及び第3段階において検討対象とするサイトの提案」、2014年12月より)

スイスの処分実施主体である放射性廃棄物管理共同組合(Nationale Genossenschaft für die Lagerung radioaktiver Abfälle, NAGRA)は、2015年1月30日に、特別計画「地層処分場」(以下「特別計画」という)に基づくサイト選定第2段階における地質学的候補エリアの絞り込みの結果として、「チューリッヒ北東部」及び「ジュラ東部」の2つを提案したことを公表した。NAGRAは、絞り込んだ2つの地質学的候補エリアについて、高レベル放射性廃棄物、低中レベル放射性廃棄物のいずれの処分場にも適しているとしている。今回のNAGRAによる提案については、今後、連邦原子力安全検査局(Eidgenössisches Nuklearsicherheitsinspektorat, ENSI)等による審査を経た上で、連邦評議会1 が承認することにより、サイト選定第3段階に進む候補として確定することとなっている。確定時期は2017年半ばと見込まれている

「サイト地域の安全性比較結果」 (NAGRA、パンフレット「地層処分場の地質学的候補エリア---第3段階に向けたNAGRA提案」、2015年1月より)

「サイト地域の安全性比較結果」
(NAGRA、パンフレット「地層処分場の地質学的候補エリア—第3段階に向けたNAGRA提案」、2015年1月より)

現在行われているサイト選定第2段階では、サイト選定第1段階で選定された高レベル放射性廃棄物の3つ、低中レベル放射性廃棄物の6つの地質学的候補エリアの中から、高レベル放射性廃棄物用、低中レベル放射性廃棄物用のそれぞれの地層処分場について、2カ所以上の候補を提案することが目標となっている。この目標に向けてNAGRAは、科学的・技術的な基準に基づいて、安全性の観点からサイト(地下施設及び付属する地上施設の設置区域を含む)を比較する作業を進めていた。具体的には、「天然バリアの有効性」「天然バリアの長期安定性」「天然バリアの探査可能性・評価可能性」「建設上の適性」の4つの評価項目を設けて、その下に複数の指標を設定し、これらを「最適」(右図中の濃緑色)、「適格である」(薄緑色)、「条件付きで適格である」(黄色)、「あまり適格ではない」(桃色)の4段階で評価した。なお、NAGRAは、今回の地質学的候補エリアの絞り込みにおいて、社会・政治的な基準は考慮していないとしている。

今回、NAGRAが提案したチューリッヒ北東部、ジュラ東部は、高レベル放射性廃棄物処分場、低中レベル放射性廃棄物処分場のいずれについても、上記の4つの評価項目及び指標のすべてに対して「最適」または「適格である」との評価がされている。NAGRAは、これら2つの地質学的候補エリアでは、不透水性の岩盤であるオパリナス粘土が適切な深度にあり、氷河等による侵食の影響を受けず長期に安定して存在しているため、放射性廃棄物を安全に閉じ込めることができると結論付けている。高レベル放射性廃棄物処分場の地質学的候補エリアとして検討していた北部レゲレンについては、「建設上の適性」が「あまり適格ではない」と評価しており、第3段階で検討する優先候補とせず、予備候補として留保することを提案している。

今後は連邦原子力安全検査局(ENSI)が2016年を目途に、NAGRAが取りまとめた選定根拠に関する報告書を審査することとなる。チューリッヒ北東部及びジュラ東部がサイト選定第3段階に進む候補として確定するまでの間、NAGRAは2つの地域を対象に地表からの三次元弾性波探査を実施する予定である。なお、ボーリング調査は、サイト選定第3段階(2017年半ば以降)で実施することになっている。NAGRAは、ボーリング調査の実施候補区域として、チューリッヒ北東部の7カ所、ジュラ東部の8カ所を示しており、最終的には各地域とも4カ所程度でボーリング調査を実施する計画である。NAGRAは、サイト選定第3段階において最終的な候補サイトを提案できるようになる時期を2020年頃としており、2027年頃には処分サイトが確定する見込みである。

【出典】

 

【2015年4月20日追記】

スイスの放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)は、2015年4月16日の記者会見において、絞り込んだ2つの地質学的候補エリアで実施する三次元弾性波探査及びボーリング調査のスケジュールを公表した。

NAGRAは、地質学的候補エリア及びその周辺において、三次元弾性波探査を実施する予定である。地質学的候補エリア「ジュラ東部」については、地権者から探査の了承を2015年7月~8月に得た上で、2015年10月には探査を開始するとしている。「ジュラ東部」での三次元弾性波探査は約3カ月を予定している。その後、2016年1月から地質学的候補エリア「チューリッヒ北東部」で三次元弾性波探査を開始し、3週間程度で終了するとしている。

また、今回公表のスケジュールでボーリング調査については、地質学的候補エリア「ジュラ東部」及び「チューリッヒ北東部」のそれぞれ7カ所から8カ所の地点について、2015年末までに調査の実施に必要な申請をNAGRAが行う予定としている。ボーリング調査などの地球科学的調査の実施に当たっては、原子力法による許可が必要となっており、具体的には、環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)が地質学的候補エリアでの地球科学的調査の許可を発給することとなる。実際の掘削作業は、NAGRAが提案した2つの地質学的候補エリアを連邦評議会が承認する2017年以降に開始するとしている。

【出典】

 

【2015年9月11日追記】

スイスにおける放射性廃棄物処分場のサイト選定手続を監督する連邦エネルギー庁(Bundesamt für Energie, BFE)は2015年9月9日、実施主体である放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)に対し、NAGRAが2015年1月に提案した第2段階における地質学的候補エリアの絞り込みの結果の根拠に関する報告書について、技術情報に不足があるとして、今後数カ月以内に追加資料を提出するよう指示したことを公表した。

BFEによる今回の指示は、NAGRAの報告書を審査中の連邦原子力安全検査局(Eidgenössisches Nuklearsicherheitsinspektorat, ENSI)の指摘に基づくものである。NAGRAは第2段階での地質学的候補エリアの絞り込み結果の提案において、処分に適した地層の最大深度が深いため、「建設上の適性」の面で不利であることを理由に、地質学的候補エリア「北部レゲレン」を第3段階において検討する優先候補とせず、予備候補として留保する提案を行っていた。これについてENSIは、NAGRAが提示した「建設上の適性」の項目に関する根拠データは不完全であり、審査を行うには不十分であることを指摘した。ENSIは指摘部分以外について審査を継続する。

BFEは、NAGRAに対する追加資料の提出指示に伴い、サイト選定のスケジュールが半年から1年遅延する見込みとしている。なお、BFEは、複雑な検証プロセスにおける科学技術的データの追加要求は何ら特別なことではなく、今後も同様の追加指示を出す可能性があるとしている。

【出典】

【2015年11月20日追記】

スイスの連邦原子力安全検査局(ENSI)は2015年11月9日、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)に対する要求書「特別計画『地層処分場』第2段階における指標『建設上の適性の観点から見た最大深度』に関する追加要求」を公表した。

現在、ENSIは、NAGRAが2015年1月に提案したサイト選定第2段階における地質学的候補エリアの絞り込みの結果の根拠に関する報告書を審査している。今回のENSIの要求書は、ENSIが2015年9月に建設上の適性に関する技術情報の不足を指摘したことに関して、ENSIの依頼に基づく外部専門家による2件のレビュー結果をまとめるとともに、レビュー結果に基づく具体的な追加要求事項を示したものである。(【2015年9月11日追記】参照)。

サイト選定第1段階における地質学的候補エリアの境界設定にあたり、NAGRAは安全性と技術的実現可能性に関する13の基準に対応する指標を複数設定した。このうちの1つの指標である「建設上の適性の観点から見た最大深度」に関しては、オパリナス粘土等の堆積岩層において処分空洞やシーリング構造物を十分な信頼性をもって建設可能な最大深度について、低中レベル放射性廃棄物処分場の場合は地下800mまで、高レベル放射性廃棄物処分場の場合は地下900mまでとすることを最低限の要件として提案を行っていた。

NAGRAは、サイト選定第2段階の絞り込み作業においても本指標を引き続き用いているが、指標の名称を「建設上の適性の観点から見た最大深度(岩盤強度及び変形特性を考慮して)」へと変更するとともに、スイス北部の地質学的候補エリアにおける最大深度を、低中レベル放射性廃棄物処分場の場合は地下600m、高レベル放射性廃棄物処分場の場合は地下700mまでとする「最適化要件」を設定し、この最適化要件に合わせて指標の評価基準を変更した。

しかし、外部専門家によるレビューにおいて、NAGRAが提出した岩盤力学的な基本情報や想定条件、設計基準等が不十分かつロバストではないとする指摘がされた。これを受けてENSIは、上記の指標「建設上の適性の観点から見た最大深度(岩盤強度及び変形特性を考慮して)」の最適化要件、並びに評価基準の妥当性を検証できないとする立場を取り、この指標に基づいて地質学的候補エリアの優劣を評価することは疑問の余地があるとしている。

外部専門家によるレビュー結果を踏まえ、ENSIは、今回の要求書においてNAGRAに対し、指標を用いて評価できるようにするために必要な補足事項を示した。

ENSIがNAGRAに求めた補足事項のうち、主要なものは以下の通りである。

  • NAGRAが地層処分概念に修正を加えた概念をいくつか提案していることについて、それらの修正した概念に基づく処分場の建設・操業及び長期安全性に及ぼす影響についての検討・評価結果を、各々の修正した概念の優劣を含めて記載した文書を作成すること。
  • 構造地質学的な履歴や処分深度に応じた変化を踏まえて、地質学的候補エリアの地質工学的条件を評価すること。
  • 処分場の建設段階及び操業段階における崩落などの事故シナリオについて示すとともに、こうした事故への対処方法を示すこと。
  • 処分場の範囲や深度に応じた坑道の支保についての概念や、坑道の支保に用いられる物質等が、処分場の人工バリア及び天然バリアに及ぼす影響を長期的安全性の観点から評価すること。

 

【出典】                                        

【2016年2月10日追記】

スイスの放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)は2016年2月8日のプレスリリースにおいて、地層処分場の地質学的候補エリアの「サイト地域」を持っているすべての州の機関として設置されている州安全ワーキンググループ(AG SiKa)2 及び州安全専門家グループ(KES)3 が、NAGRAのサイト選定プロセス第2段階での絞り込み結果を評価した報告書を提示したことを公表した。これら2つのグループは報告書の中で、地質学的候補エリアの北部レゲレンを第3段階における予備候補とするのではなく、引き続き調査対象として残すべきとの見解を示した。

NAGRAは2015年1月に地層処分場のサイト選定プロセス第2段階での絞り込み結果を公表し、6つの地質学的候補エリアのうち、ジュラ東部とチューリッヒ北東部の2エリアを優先候補として調査を継続し、北部レゲレンを高レベル放射性廃棄物処分に係る予備候補とし、ジュートランデン、ジュラ・ジュートフス、ヴェレンベルクを低中レベル放射性廃棄物処分に係る予備候補として留保することを提案していた。これに対して、AG SiKaとKESは、NAGRAが提案した2つの優先候補に北部レゲレンを加えた3エリアで調査を継続すべきとの意見を表明したことになる。一方、AG SiKa、KESは、NAGRAの提案のうち、以下の点について賛同している。

  • 全種類の放射性廃棄物について、処分場の母岩としての検討対象をオパリナス粘土に集中すること
  • ジュートランデン、ジュラ・ジュートフス、ヴェレンベルクの3カ所を第3段階において検討する優先候補ではなく、低レベル放射性廃棄物処分の予備候補として留保すること

北部レゲレンに関しては、NAGRAの提案を審査している連邦原子力安全検査局(ENSI)が技術情報の不足を指摘し、これを受けてサイト選定手続を監督する連邦エネルギー庁(BFE)がNAGRAに対し、2015年9月に、追加資料の提出を指示している。

NAGRAは2016年中頃までに追加資料をENSIに提出する予定である。ENSIは、技術情報が不足している部分以外の審査を継続しており、審査結果の取りまとめは2017年の春頃となる見込みとされている。

なお、ENSIによる審査の結果により、北部レゲレンが予備候補ではなく優先候補とされた場合でのスケジュールの遅延を避けるため、NAGRAはすでに、北部レゲレンにおける第3段階の探査を想定した準備作業(探査計画策定、三次元弾性波探査及びボーリング候補地点の検討等)に着手ずみである。

 

【出典】

 

【2016年4月20日追記】

連邦原子力安全検査局(ENSI)は2017年の春頃を目途に、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)によるサイト選定プロセス第2段階での絞り込み結果に対する審査を行っているが、NAGRAは、2016年4月14日に、ENSIの審査結果を待たずに、NAGRAがサイト選定プロセス第2段階での絞り込みの段階で予備候補とした地質学的候補エリア「北部レゲレン」において、2016年秋に三次元弾性波探査を実施することを公表した。

NAGRAが優先候補として提案していた地質学的候補エリア「ジュラ東部」と「チューリッヒ北東部」においては、三次元弾性波探査を実施しており、2016年2月に終了している。これら2つの地質学的候補エリアについて、今後のサイト選定プロセス第3段階で実施するボーリング調査については、原子力法に基づく地球科学的調査の許可申請を2016年夏に行う予定である。ボーリング調査は、それぞれの地質学的候補エリアについて8カ所で行うとしている。なお、北部レゲレンについても、三次元弾性波探査の終了後、ボーリング調査に必要となる許可申請を2016年末から2017年初頭に行うとしている。

【出典】

  1. 日本の内閣に相当 []
  2. 州安全ワーキンググループ(AG SiKa)は、1つまたは複数のサイト地域を含む州に対する安全性の評価に係る計画・調整を担う。 []
  3. 州安全専門家グループ(KES)は、安全性に関する資料の評価において州を支援し、助言する機関として特別計画「地層処分場」に設置が規定されており、州安全ワーキンググループ(AG SiKa)の支援を受けている。 []

(post by yamamoto.keita , last modified: 2024-02-13 )