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フランスで放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が地層処分プロジェクトのコスト評価を更新

フランスの放射性廃棄物管理機関(ANDRA)は、2025年5月12日付プレスリリースにおいて、地層処分プロジェクトのコスト評価を更新し、コスト評価報告書を産業・エネルギー担当大臣に提出したことを公表した。フランス政府は、規制機関である原子力安全・放射性防護機関(ASNR)並びに原子力事業者であるフランス電力(EDF)、Orano社、原子力・代替エネルギー庁(CEA)の見解を取り入れた上で、2025年末までにコストの目標額を定める省令を制定することとなる。本省令は、原子力事業者に、廃棄物管理のために積み立てるべき引当金の基準を提供する。また、ANDRAは、フランス政府に提出したコスト評価報告書を、2025年5月15日に自身のウェブサイトにて公表している。

■コスト評価の枠組み

フランスでは、地層処分プロジェクトのコスト評価の更新を、処分施設の「設置許可時」、原位置試験によって処分施設の安全性の立証等を行うパイロット産業フェーズに限定した「操業許可時」、「パイロット産業フェーズ終了時」並びに「定期安全レビュー時」(原則10年毎)に行うことが環境法典に定められている1

フランスには、地層処分事業に係る基金をANDRA内に設置するという制度はあるものの、現在、実際の基金の運用はされておらず、原子力事業者は地層処分場の建設・操業等のコストを賄うために引当金を内部留保している2 。現在の引当金は、ANDRAが2014年10月にフランス政府に提出したコスト評価に関する報告書に基づいて、当時の規制機関である原子力安全機関(ASN)並びに原子力事業者の同報告書に対する見解を反映して制定された2016年1月15日付の省令で示された目標額である250億ユーロ(約3兆9,500億円3 )に準拠して計上されている

なお、ANDRAが2014年10月にフランス政府に提出した報告書では、処分場の設計・建設から閉鎖までのコスト総額を344億ユーロ(約5兆4,400億円)と評価していた。

■コスト評価の結果

今回公表されたANDRAのコスト評価では、5万6,000本規模のガラス固化体等4 の地層処分プロジェクトのコストについて、プロジェクトの期間が150年以上と非常に長く、不確定要素が多いため、処分場の建設・操業等におけるコスト抑制のための技術的最適化、課税基準、研究開発について複数の仮定を設定し、幅を持たせた評価額を示している(表1)。処分施設の設計・建設、操業、閉鎖までの総コストは、261億ユーロから375億ユーロ(約4兆1,200億円から約5兆6,400億円)と評価されている。

これらの評価額は、2016年1月15日付の省令における目標額である250億ユーロを上回り、ANDRAが2014年10月にフランス政府に提出した評価額である344億ユーロに近い額となっている5

今回のコスト評価における仮定のうち、ANDRAが実施してきたコスト抑制のための技術的最適化については、ANDRAが2023年1月にフランス政府に提出した設置許可申請書で示された設計と同等の安全とセキュリティの水準を満たす技術的最適化の構成として、以下の3構成が設定され、それぞれの技術的最適化の構成を適用した場合のコストが評価されている。これら3構成では、技術的最適化(代替材料の選択、処分孔や処分坑道の延長、坑道ライニングの厚さ削減など)の性質に応じて、数量や単価を調整してコストを算出している。なお、これらの技術的最適化を採用する場合は、地層処分施設の設計を変更することになるため、追加の調査と許認可プロセスが必要となると指摘している。

  • 構成1:技術的に最も成熟しており、実現可能性が高いと判断された最適化を統合した構成。例:坑道ライニングの厚さを5%削減。
  • 構成2:構成1に、プロジェクトの予定スケジュールにおいて将来的に実現可能と判断された最適化を追加した構成。例:坑道ライニングの厚さを10%削減。
  • 構成3:設置許可申請書の提出後に特定されたすべての最適化を含む構成。現段階では技術的に未成熟であり、実現可能性が立証されていないものも含まれる。例:坑道ライニングの厚さを20%削減。

また、地層処分プロジェクトのコストには、ANDRAが支払う税金として、固定資産税の他に原子力基本施設に関連する税が含まれているが、この税率が未定のため、複数の仮定を設定して評価を行っている。

なお、ANDRAは、処分施設の設計・建設、操業、閉鎖までの総コストに加え、「初期建設時のリスク対策費と偶発事象をカバーするための費用」(5億~19億ユーロ)と閉鎖後モニタリングに関する費用(300年間で6億ユーロ、または500年間で9億ユーロ)を見積っており、これらを処分施設の設計・建設、操業、閉鎖までの総コストに加算すると、272億ユーロから403億ユーロとなる。

表1 ANDRAによる地層処分プロジェクトのコスト評価額(金額は2012年価格水準、単位:10億ユーロ)

費用の区分

税率等の仮定

技術的最適化

設置許可申請時の構成

構成1

構成2

構成3

初期建設費用

(2016年以降、設計から初期建設段階の終了まで)

税率が低い仮定

8.2

8

8

7.9

2016年省令における税率

8.5

8.4

8.3

8.2

税率が高い仮定

9.6

9.4

9.4

9.3

後続費用

(操業、保守、処分場の段階的開発、閉鎖)

税率が低い仮定

19.8

18.9

17.2

16.5

2016年省令における税率

21.3

20.4

18.6

18

税率が高い仮定

25.9

25

23.2

22.5

研究開発費

(地下研究所の操業と閉鎖、科学技術プログラムの継続)

費用が低い仮定

1.7

費用が高い仮定

2

処分施設の設計・建設、操業、閉鎖までの約150年間の合計額

29.837.5

28.736.4

26.934.6

26.133.9

初期建設時のリスク対策費と偶発事象をカバーするための費用

費用が低い仮定

0.5

費用が高い仮定

1.9

閉鎖後モニタリング費用

費用が低い仮定

0.6

費用が高い仮定

0.9

「初期建設時のリスク対策費と偶発事象をカバーするための費用」及び「閉鎖後モニタリング費用」を加算した額

30.940.3

29.839.2

2837.4

27.236.7

■コスト評価報告書の構成

今回ANDRAが公表した地層処分プロジェクトのコスト評価報告書は、全21巻、約800ページで構成された非常に詳細なものとなっている(表2)。

表2 ANDRAによるコスト評価報告書の構成

  • 書類 1 – 要約
  • 書類 2 – 算定された技術的構成の概要
  • 書類 3 – 費用算定の共通方法
  • 書類 4 – 原子力プロセスの投資コストの算定
  • 書類 5 – 地上施設の投資コストの算定
  • 書類 6 – 地上施設及び掘削土堆積場の投資コストの算定
  • 書類 7 – 地上-地下連絡構造及び地下施設の投資コストの算定
  • 書類 8 – 共通施設及び事前整備の投資コストの算定
  • 書類 9 – 外部ユーティリティ及びサイト外整備の投資コストの算定
  • 書類 10 – 斜坑を用いたキャスク搬送システムの投資コストの算定
  • 書類 11 – プロジェクト管理及び施工管理のコストの算定
  • 書類 12 – 操業コストの算定
  • 書類 13 – 運用状態の維持コストの算定
  • 書類 14 – 解体及び閉鎖コストの算定
  • 書類 15 – 保険スキームの算定
  • 書類 16 – 税金の算定
  • 書類 17 – 研究開発コストの算定
  • 書類 18 – 不確実性、リスク・機会、及び不測の事態に関する算定
  • 書類 19 – 閉鎖後のモニタリングコストの算定
  • 書類 20 – 支出のスケジュール
  • 書類 21 – さまざまな経済状況に基づく算定

【出典】

  1. 環境法典 規則の部 第D.542-94条 []
  2. 2006年放射性廃棄物等管理計画法は、ANDRAが地層処分のコストを評価してエネルギー担当大臣に提案すること、エネルギー担当大臣は原子力事業者と原子力安全機関(現 原子力安全・放射性防護機関)の意見を徴したうえで、これを公表することを規定している。また、併せて、地層処分場の建設段階以降に、建設・操業等に係るコストを賄うための基金をANDRA内に設置することを規定しており、原子力事業者に対して、同基金に将来的に拠出するため、コスト評価とその資金の確保(引当金の積立てと引当金を保証する排他的な資産としての割当)を要求している。さらに、原子力事業者によるコスト評価に対する資金確保及び管理状況の適切性等を評価する組織として、資金評価国家委員会(CNEF)の設置を規定している。 []
  3. 1ユーロを158円として計算 []
  4. 今回のコスト評価では、地層処分される廃棄物の容積を、処分容器を除く状態で高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)が約10,000m3、長寿命中レベル放射性廃棄物が約73,000m3と設定している。 []
  5. 今回のANDRAによるコスト評価は、2014年に行った評価と同様に2012年時点での経済状況に基づいたものであり、比較可能とされている。 []

(post by eto.jiro , last modified: 2025-05-26 )