韓国国会は2025年2月27日に、高レベル放射性廃棄物管理特別法案を可決した。可決成立した「高レベル放射性廃棄物管理特別法」により、韓国で初めて、使用済燃料を含む高レベル放射性廃棄物の管理と処分の方針が法制化された。本特別法は、国会で成立後15日以内に公布され、公布から6カ月後に施行される。
本特別法では、高レベル放射性廃棄物の管理や、管理施設のサイトの調査・選定に必要な業務を行う独立の組織として、国務総理(首相)の下に、「高レベル放射性廃棄物管理委員会」を設立すること、高レベル放射性廃棄物の管理事業者は韓国原子力環境公団(KORAD)であることを定めるとともに、同一サイトに建設される予定である 高レベル放射性廃棄物の集中中間貯蔵施設と処分施設について、操業開始時期の目標をそれぞれ2050年と2060年に定めている。
高レベル放射性廃棄物管理特別法の策定の経緯
韓国では放射性廃棄物管理の方針を定める基本法として、放射性廃棄物管理法が2009年に施行されている。しかし、同法では使用済燃料を含む高レベル放射性廃棄物の管理と処分に関する方針が具体化されておらず、韓国政府の産業通商資源部(MOTIE)が2021年12月に公表した「第2次高レベル放射性廃棄物管理基本計画」 では、放射性廃棄物管理基本法の全面改正を検討するとともに、使用済燃料管理に関する特別法を制定する方針が示された。
韓国では現在、各原子力発電所サイトで使用済燃料を貯蔵しているが、2031年以降、各サイトの貯蔵容量が順次、飽和状態に達すると見込まれている。このため、使用済燃料の集中中間貯蔵施設や最終処分施設を可能な限り早期に設置するため、高レベル放射性廃棄物管理と処分、及び施設設置地域の支援の方針を法制化する必要があった。
韓国国会では2025年2月までに、高レベル放射性廃棄物管理に関する特別法案として、与野党の議員から計5件の法案が提出された。2025年2月27日の国会本会議で可決された「高レベル放射性廃棄物管理特別法案」は、国会小委員会で5つの法案の内容を集約、調整して1つの法案に取りまとめたものである。
高レベル放射性廃棄物管理特別法の概要
高レベル放射性廃棄物管理特別法の主な内容は以下の通りである。
- 高レベル放射性廃棄物管理委員会(第6条~第12条)
高レベル放射性廃棄物の管理、管理施設のサイトの調査・選定に必要な業務を行う独立の組織として、国務総理(首相)の下に、9名の委員で構成する「高レベル放射性廃棄物管理委員会」(以下「委員会」という)を設置する。委員は原子力や環境、放射線安全や放射性廃棄物管理の専門家で構成され、国会及び委員長が推薦し、大統領が任命する。委員会の活動期間は高レベル放射性廃棄物管理特別法の施行後5年間とし、政府は、この間に委員会を国家行政機関に改組するかを検討する。 - サイト選定における原子力安全委員会(規制機関)への諮問義務化(第16条)
委員会はサイト選定、建設・操業許可申請に際し、安全に係る事項について原子力安全委員会に諮問する。 - 高レベル放射性廃棄物管理施設の操業開始時期の目標設定(第17条)
委員会は、集中中間貯蔵施設を2050年、処分施設を2060年までに操業開始できるよう努力しなければならない。 - 高レベル放射性廃棄物管理管理基本計画の策定(第17条)
委員会は、高レベル放射性廃棄物を安全かつ体系的に管理するため、30年を計画期間とする「高レベル放射性廃棄物管理基本計画」を5年ごとに策定しなければならない。 - 高レベル放射性廃棄物管理施設のサイト選定(第20条~第23条)
- 委員会は、サイト適合性調査の概要、手続、方法、評価基準、地域住民からの意見聴取などを含むサイト選定計画を策定、実行する。
- 委員会は、基礎調査の候補サイト(複数)を選定し、申請があった自治体を対象に基礎調査を実施する。
- 委員会は、基礎調査結果を評価し、詳細なサイト適合性調査を行うサイトを選定し、調査を実施する。
- 委員会は、サイト適合性調査の結果を評価して高レベル放射性廃棄物管理施設の候補サイトを選定する。サイトは、住民投票によって最終決定される。
- 高レベル放射性廃棄物管理施設の誘致地域支援(第24条~第29条、第40条)
- 誘致地域支援を検討する組織として、国務総理の下に、20名以内の委員で構成する「管理施設誘致地域支援委員会」を設置する。
- 施設を誘致する地域に対し、特別支援金と高レベル放射性廃棄物の引受量に応じた給付金を支給し、自治体に特別会計を設置して地域支援に支出する。
- 管理基盤の構築(第30条~第35条)
委員会は、研究専用の地下研究所及び処分施設内に設置されるサイト特性調査のための地下研究所 を建設、運営する。また、技術開発や人材育成を行う。 - 原子力発電所サイト内貯蔵施設の設置及び地域支援(第36条、第37条)
- 原子力発電事業者がサイト内貯蔵施設を設置する場合は、事前に通知し、説明会や討論会を行い、住民の意見を聴取し、施設計画を策定して委員会の承認を受ける。
- サイト内貯蔵施設の貯蔵容量は、サイト内で建設・運転中の原子炉の運転期間中に発生が予測される量に限定する(サイト間での使用済燃料等の移動は行わない)。
- 委員会は、サイト内貯蔵施設の計画者及び自治体の首長と協議し、周辺住民に対する支援策を策定する。
- 高レベル放射性廃棄物管理事業者(第38条)
高レベル放射性廃棄物の管理事業者は、韓国原子力環境公団(KORAD)とする。また、KORADの業務のうち、高レベル放射性廃棄物管理に関するものについては、委員会の指導・監督を受ける。 - 業務の委託(第44条)
委員会は、サイトの適合性に関する基礎調査及び詳細調査等を、別途公布される大統領令により管理事業者(KORAD)に委託することができる。
【出典】
- 韓国国会法案情報システム「高レベル放射性廃棄物管理特別法案」
https://likms.assembly.go.kr/bill/billDetail.do?billId=PRC_O2J5N0T2G1Y7V1B9N3L6Y2R3X9R6Z0 - 韓国原子力環境公団(KORAD)2025年3月4日付けプレスリリース、「高レベル放射性廃棄物管理に関する特別法が制定」
https://www.korad.or.kr/korad/board/view.do?menu_idx=56&manage_idx=24&board_idx=1328699&viewPage=1&search_type=title%2Bcontent
(post by eto.jiro , last modified: 2025-03-07 )