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《ドイツ》サイト選定手続き第1段階の中間報告書が公表 -地質学的な基準・要件を満たす「サイト区域」を選定-

ドイツでは、「高レベル放射性廃棄物の最終処分場のサイト選定に関する法律」(以下「サイト選定法」という)に基づき、処分実施主体である連邦放射性廃棄物機関(BGE)が2017年9月からサイト選定手続きを進めている。現在は、その第1段階である「地上探査の対象サイト地域の選定」の途上にある。BGEは2020年9月28日、サイト選定法に規定されている基準のうち、地下の地質条件に関する基準をドイツ全土に適用した結果を取りまとめた『サイト選定手続き第1段階の中間報告書』を連邦放射性廃棄物処分安全庁(BASE)に提出した。BGEは、今回の中間報告書は最終処分やサイト選定というドイツ社会の問題に対する公衆の関心を高めることに役立ち、公衆がサイト選定の初期段階から公式に関与するための基礎になるとしている。

ドイツ全土の母岩別のサイト区域の分布

◆サイト区域の選定

サイト選定法では、サイト選定に適用する4種類の基準・要件を定めている。サイト選定手続き第1段階の中間報告では、既存の地質学的データである地球科学的な基準・要件のみを適用することになっている。

①地球科学的な除外基準

  • 一定以上の広域的な隆起が予想されないこと
  • 活断層が存在しないこと
  • 現在または過去の鉱山活動の影響が存在しないこと
  • 一定以上の地震活動が予想されないこと
  • 過去の火山活動が存在しない、または将来予想されないこと
  • 年代の新しい地下水が存在しないこと

②地球科学的な最低要件

  • 岩盤の透水係数が10-10m/s以下
  • 閉じ込め機能を果たす岩盤領域1 の厚みが100m以上
  • 閉じ込め機能を果たす岩盤領域の深度が300m以上
  • 閉じ込め機能を果たす岩盤領域の広がりが処分場建設に可能な面積を有している
  • 閉じ込め機能を果たす岩盤領域の健全性が100万年にわたり維持されることが疑問視されていない

③地球科学的な評価基準(11項目)

  1. 閉じ込め機能を果たす岩盤領域内での地下水の流動に伴う放射性物質の移行の評価に使用する基準
  2. 岩体構成の評価基準
  3. 空間的な特性調査可能性の評価基準
  4. 好ましい状況の長期安定性に関する評価基準
  5. 好ましい岩盤力学的な特性に関する評価基準
  6. 地下水流動経路形成傾向に関する評価基準
  7. 気体の生成の評価基準
  8. 温度への耐性の評価基準
  9. 閉じ込め機能を果たす岩盤領域内での放射性核種の保持能力の評価基準
  10. 地下水化学的な状況の評価基準
  11. 被覆岩による閉じ込め機能を果たす岩盤領域の保護に関する評価基準

④地域計画面に関する評価基準(11項目)

  1. 住宅地域からの距離、飲料用地下水源や自然保護地域の有無など11項目
  2. ※④の評価基準は、今回の『サイト選定手続き第1段階の中間報告書』でのサイト区域の抽出では適用されていない。

連邦放射性廃棄物機関(BGE)は、ドイツ国内で処分場の母岩候補とされる岩種(岩塩、粘土岩及び結晶質岩)を対象に、連邦や各州の地質調査所などが保有する全国の地質学的データを収集した。BGEは、これらのデータをもとに、上記の①地球科学的な除外基準と②地球科学的な最低要件を適用して不適格となる区域を除外して、全国から181区域を抽出し、さらに、③地球科学的な評価基準を適用した結果として、今回の『サイト選定手続き第1段階の中間報告書』において90区域に絞り込んでいる。BGEは、③地球科学的な評価基準11項目のうち、その多くで文献から得た岩種別(岩塩、粘土岩、結晶質岩)の一般データを使用しており、区域固有のデータが利用できる項目は岩塩・粘土岩の場合3~4項目、結晶質岩の場合2項目であったとしている。

『サイト選定手続き第1段階の中間報告書』において、BGEが最終処分に好適な可能性が高いと判断している90区域は、ドイツ全土の約54%にあたる約194,000km2、州単位で見た場合には、南西部のザールラント州を除いた全ての州に分布している。抽出された各サイト区域の面積は、地下の母岩候補の岩種を反映して、6 km2(岩塩ドーム)から約63,000 km2(粘土岩)まで異なっている。

母岩別のサイト区域数及び総面積(†)
母岩 サイト区域数 サイト区域の総面積(km2
粘土岩 9 129,639
岩塩 74 30,450
結晶質岩 7 80,786
サイト区域合計 90 240,874

†:母岩が異なる深度に存在し、一つの区域が複数の母岩カテゴリに重複してカウントされる場合があるため、サイト区域の合計値は、BGEが最終処分に好適な可能性が高いと判断している90区域の合計面積約194,000km2と一致しない。

 

◆ゴアレーベンはサイト区域から除外

従来、処分場の候補サイトとして探査が行われていたゴアレーベン・サイト(岩塩ドーム)については、③地球科学的な評価基準のうち、「11.被覆岩による閉じ込め機能を果たす岩盤領域の保護に関する評価基準」を考慮した結果、今回の『サイト選定手続き第1段階の中間報告書』において抽出された90区域には残らず、以降の処分場選定手続きにおいては除外されることとなった。サイト選定法では、ゴアレーベン・サイトについて、他の区域・サイト等と同様に扱い、サイト区域などに含まれなかった時点でサイト選定手続きから除外されることを規定している。

◆今後の予定:公衆参加手続きの開始

サイト選定法に基づいて、サイト選定を監督し、公衆参加を推進する役割を担う連邦放射性廃棄物処分安全庁(BASE)は、連邦放射性廃棄物機関(BGE)が取りまとめた『サイト選定手続き第1段階の中間報告書』を受領した後、サイト区域の地域団体の代表者等からなる、地域横断の公衆参加枠組みである「サイト区域専門会議」を設置することになっている。このサイト区域専門会議の開催スケジュールについて、BASEは、2020年10月17日~18日に開催されるキックオフ会合の後、2021年前半に3回の会合を実施する予定である。BGEは、中間報告書がサイト区域専門会議の基礎になるとともに、公衆参加を推進するものになるとしている。

BGEは、サイト区域専門会議における議論の後、今回抽出した90区域を対象として、処分場システムの概念設計を含む予備的安全評価を行い、その結果に基づき、「地上からの探査を行うサイト地域」を複数選定することになっている。BGEが選定したサイト地域では、その地域毎に地域会議と呼ばれる合議体が組織される。サイト選定手続きの第1段階の目標である「地上からの探査を行うサイト地域」の確定は、連邦議会において連邦法を制定することによって行われる。

 

【出典】

【2021年9月22日追記】

ドイツの連邦環境・自然保護・原子炉安全省(BMU)は、2021年9月17日、高レベル放射性廃棄物の処分場の候補サイトとして1986年から2013年まで地下探査が行われていたゴアレーベン・サイト(岩塩ドーム)の廃止措置を連邦放射性廃棄物機関(BGE)に委託することを決定した。

BGEは2020年9月28日に、連邦放射性廃棄物処分安全庁(BASE)に提出したサイト選定第1段階の中間報告書において、最終処分に好適な可能性が高いと判断される90のサイト区域にゴアレーベン・サイトを含めず、サイト選定手続きから除外した。これを受けてBMUとBGEとは、ゴアレーベン・サイトの閉鎖の進め方について協議を行っていた。今後のスケジュールを含めて詳細は明らかにされていないが、BGEが閉鎖計画の策定を進め、ゴアレーベン・サイトは閉鎖され、岩塩の掘削ズリは地下に戻される予定である。

【出典】

【2024年12月03日追記】

ドイツの放射性廃棄物処分の実施主体である連邦放射性廃棄物機関(BGE)は2024年11月29日に、高レベル放射性廃棄物の処分場の候補サイトとして1986年から2013年まで地下探査が行われていたゴアレーベン・サイト(岩塩ドーム) の閉鎖作業を開始した。

ゴアレーベン・サイトの地下探査では、地下約840mにおいて総延長約7kmの水平坑道が掘削されていた。今後約3年間をかけて水平坑道の埋戻しが行われた後、立坑が埋め戻される。同サイトには掘削時に発生した岩塩の掘削ズリが約40万トン保管されており、閉鎖作業にはこの掘削ズリが用いられる。地上施設の解体撤去を含めた廃止措置の作業完了は2031年と見込まれている。

【出典】

  1. 人工バリアや地質工学的なバリアとともに、隔離期間に廃棄物の閉じ込めを保証する地質バリアの一部  []

(post by tokushima.hideyuki , last modified: 2024-12-03 )