ロシアにおける放射性廃棄物管理の実施主体である国営企業ノオラオ社(NO RAO)は、2022年11月15日のプレスリリースで、高レベル放射性廃棄物等の処分が計画されているシベリア中央部のクラスノヤルスク地方エニセイスキーにおいて、地下研究所の一部となる立坑の坑口構築工事を開始したことを公表した。坑口構築工事では、地上から約5mの深さまで掘削し、直径約6mの鉄筋コンクリート製の支保リングを設置する。その後、立坑を550mまで掘削する予定である。
地下研究所が設置される地域の地下150m以深には、ニジュネカンスキー地塊(Nizhnekansky rock massif)と呼ばれる岩盤1 が広がっている。ノオラオ社は2018年から、ジェレズノゴルスク市から6kmの距離にあるエニセイスキーサイトの地下研究所建設地において、送電線敷設や電力供給システムなどの地上のインフラ工事を行っていた 。ノオラオ社は、2024年までに地下にアクセスする立坑3本と立坑に接続する水平坑道を建設し(図1)、その後、実規模の技術実証試験を行う予定である。
■ロシアにおける地層処分計画
ロシアでは2011年に「放射性廃棄物管理法」が制定され、同法において高レベル放射性固体廃棄物と長寿命中レベル放射性固体廃棄物を地層処分することが定められた2 。また、同法に基づき、安全で経済的な放射性廃棄物管理を実施する国家事業者として、2012年にノオラオ社が設立された。
高レベル放射性廃棄物処分場のサイト選定は1990年代に開始されており、
鉱業化学コンビナート(MCC)3 が所在するクラスノヤルスク州ジェレズノゴルスク市に近いニジュネカンスキー地塊を対象として20の潜在的なサイトで調査を実施し、その中から5か所、さらに2か所に絞り込みが行われ、2008年に処分候補地としてエニセイスキーサイトが選定されていた。2012年には、法律に基づく地元での公聴会を経て、処分場全体のうち先行的に建設を行う施設としての地下研究所の建設が承認され、処分の実現可能性の調査を目的として建設が進められている。
ノオラオ社はニジュネカンスキー地塊の深度450mから550mの領域内が地層処分に適していると考えている。地層処分場の概念として、深さ450mと525mの2層の水平坑道を鉛直方向で接続する約75mの処分孔において、ガラス固化された発熱性の高レベル放射性廃棄物を縦方向に多段積みで定置する処分概念を検討している(図2,図3)。
ノオラオ社は、地下研究所での試験結果に基づいて、地下研究所を拡張して最終処分施設とする可能性を2030年以降に判断する。また、ノオラオ社によれば、地下研究所に放射性廃棄物を持ち込むことはないとしている。処分の長期安全性を確認し、公衆協議を経て、処分施設の操業許可を取得した後になって初めて処分場に放射性廃棄物が持ち込まれる。
【出典】
- ノオラオ社プレスリリース、2022年11月15日(ロシア語)
https://www.norao.ru/press/news/4862/ - ノオラオ社の地下研究所プロジェクト・ウェブサイト(ロシア語)
https://www.nkmlab.ru - ニジュネカンスキー地塊における地下研究所(ノオラオ社ウェブサイト)(ロシア語)
https://www.norao.ru/about/underground/ - Yu.D. Polyakov, et al., Setting up a safe deep repository for long-lived HLW and ILW in Russia: Current state of the works (2013)
https://inis.iaea.org/collection/NCLCollectionStore/_Public/46/027/46027340.pdf - Ignin, V., URF program in the Russian Federation, URF meeting 2021. 02.23
https://www.ifnec.org/ifnec/upload/docs/application/pdf/2021-02/urf_program_in_the_russian_federation_-_v.igin_-_norao.pdf
- ニジュネカンスキー地塊(Nizhnekansky rock massif)は32~26億年前の始生代に形成された片麻岩や原生代のドレライトの岩脈などから構成されており、シベリア中央部の地下に約3,500km2にわたって分布している。 [↩]
- ロシアでは処分方法に関連させて放射性廃棄物を6つのクラスに分類している。クラス1は発熱性高レベル放射性固体廃棄物、クラス2は高レベル放射性固体廃棄物と長寿命中レベル放射性廃棄物に分類され、いずれも地層処分が適切であるとされている。クラス3は100mの深さまでの浅地中処分施設への処分相当の低中レベル放射性固体廃棄物、クラス4は地表レベルの浅地中処分施設への処分相当の低レベル放射性固体廃棄物及び極低レベル放射性固体廃棄物に分類される。クラス5は低中レベル放射性液体廃棄物、クラス6は探鉱や精錬等で発生する廃棄物に分類されている。エニセイスキーで計画されている地層処分場では、クラス1と2の放射性廃棄物の処分が検討されている。 [↩]
- MCCではロシア各地の原子力発電所で発生した使用済燃料の貯蔵事業を行っており、今後使用済燃料の再処理工場の稼働も2020年代の開始を予定している。過去には軍事用プルトニウムの生産も行われていた。 [↩]
(post by t-yoshida , last modified: 2023-10-11 )