Learn from foreign experiences in HLW management

《スイス》原子力発電事業者による2016年処分費用見積りに対する費用計算の審査と安全面の審査の結果が公表

スイスの放射性廃棄物管理基金と廃止措置基金の両基金の管理委員会(以下「基金委員会」という)と連邦原子力安全検査局(ENSI)は2017年12月21日に、原子力発電事業者が2016年12月に取りまとめた放射性廃棄物管理の費用見積りに対する審査結果を公表した。廃止措置・廃棄物管理基金令(以下「基金令」という)に基づいてENSIは、安全技術の観点から原子力発電事業者が行った費用見積りに対する審査を行っている。また、基金委員会は、原子力発電事業者が基金に拠出する金額を決定する上で必要となる将来費用の額を環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)に提案する役割を担っている。

■原子力発電所の廃止措置と運転終了後の放射性廃棄物管理に要する費用

スイスの地層処分場サイト選定プロセスでは、①高レベル放射性廃棄物と低中レベル放射性廃棄物用の処分場をそれぞれ1カ所ずつの計2カ所に建設するケースと、②両方の処分場を同じ場所に建設するとの2つのオプションが検討されている。原子力発電事業者は、サイト選定プロセスの結果として最終的にケース②となった場合には、処分費用の削減が期待できるとしており、ケース①と②の可能性を共に50%と仮定した場合の期待値を将来費用の額として設定するよう提案していた。

これに対し、基金委員会は、将来費用の資金確保を確実にする観点から、将来費用の金額を高めに設定するように、ケース①と②の可能性を60%、40%の確率で重みをつけて期待値を算出すべきとしている。さらに、基金委員会は、地層処分費用に関して、原子力発電事業者による見積りが楽観的であるとして、事業者が積算した基本コストの12.5%を一般予備費(ドイツ語でgenereller Sicherheitszuschlag)として加算すべきとしている。

上記のような見直しの結果、基金委員会は、原子力発電事業者が提案していた将来費用の額である 217億6,700万スイスフラン(約2兆5,000億円)に対して、約7.9%上回る 234億8,400万スイスフラン(約2兆7,000億円)を環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)に提案するとしている。

表:地層処分費用の見積り(単位:百万スイスフラン 1スイスフラン=115円で換算)
項目 原子力発電事業者の
見積額
基金委員会が提案する
将来費用の額
備考
(A)地層処分費用 11,303
(約1兆3,000億円)
12,693
(1兆4,600億円)
 
内訳      
(1)基本コスト 8,125
(約9,300億円)
8,229
(約9,500億円)

変動コストは、処分場立地ケースによって変動する部分のコストである。処分場立地ケースの確率配分は、原子力発電事業者と基金委員会で異なる。

(2)変動コスト 3,178
(約3,700億円)
3,435
(約3900億円)
(3)一般予備費
(計上せず)
1,029
(約1,200億円)

基金委員会は、基本コストの12.5%を設定

(B)中間貯蔵、輸送、輸送・貯蔵容器、再処理費用 7,058
(約8,100億円)
7,058
(約8,100億円)
 
(C)廃止措置費用 3,406
(約3,900億円)
3,733
(約4,300億円)
 
合計
(A)+(B)+(C)
21,767
(約2兆5,000億円)
23,484
(約2兆7,000億円)

基金委員会の提案額は、原子力発電事業者の見積りの約7.9%増

 

■ENSIによる安全技術の観点からの審査

連邦原子力安全検査局(ENSI)は、エンジニアリング会社等の外部専門家の協力を得て、原子力発電事業者が取りまとめた費用見積りを審査している。ENSIは、スイスニュークリアが費用算定に用いた技術、スケジュール、組織、操業に係る想定は、現行の基準規則類に適合しており、これまでの知見や最新の科学技術水準に見合うものであり、技術データに関しても品質基準を満たしていると評価し、費用算定の技術的根拠として妥当なものであると結論付けている。

その上でENSIは、放射性廃棄物管理に関して、次回2022年に行われる費用見積りにおける主要課題として、以下の3点を勧告している。

  • 高レベル放射性廃棄物と低中レベル放射性廃棄物を同じ場所に処分するケースを検討する場合について、処分場の地上施設の設計・操業の具体的な概念を示し、その概念に基づいた見積りを行うこと。
  • 高レベル放射性廃棄物用処分場の地上施設について、使用済燃料を受け入れから処分廃棄体を製造するまでの一連の作業手順を具体化すること。
  • 地上施設を構成する建屋間のインターフェースに着目したモデル解析を再度実施し、既に見つかっている不整合を是正し、不足点を補うこと。

■今後の予定

基金委員会は、環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)よる将来費用の決定を待って、2017年から2021年において原子力発電事業者が基金へ拠出する金額を決定することになる。基金委員会は、UVEKによる決定は2018年秋になるとの見通しを示している。

 

【出典】

【2018年4月20日追記】

スイスの環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)は2018年4月12日に、原子力発電所の廃止措置と運転終了後の放射性廃棄物管理に要する将来費用の見積額を245億8,100万スイスフラン(約2兆8,300億円、1スイスフラン=115円で換算)と決定したことを公表した。今回UVEKが決定した見積額は、放射性廃棄物管理基金と廃止措置基金の両基金の管理委員会(以下「基金委員会」という)がUVEKに提案した見積額よりも約11億スイスフラン(約1,300億円)多く、この費用の増加は以下の項目で見直しを加えたことによるものと説明している。

<地層処分費用>

  • 高レベル放射性廃棄物の処分場と低中レベル放射性廃棄物の処分場とを異なる場所に建設するケースで将来費用を決定したことによる費用増:
    スイスの地層処分場選定プロセスでは、①高レベル放射性廃棄物と低中レベル放射性廃棄物の処分場をそれぞれ1カ所ずつの計2カ所に建設する場合、②両方の処分場を同じ場所に建設する場合が検討されており、費用算定においても、これらの2つのケースのオプションが検討されている。②のケースでは、①のケースと比較して処分費用の削減が期待される。原子力発電事業者は、ケース①と②の可能性を50%、50%の確率で重みをつけて期待値を算出するよう提案していたが、基金委員会は、60%、40%の確率とするよう提案していた。一方、UVEKは、現在の処分場選定プロセスでは、②のケースの是非を決定できる段階には至っていないとして、①の2カ所に建設するケースで将来費用を決定した。これによりUVEKの決定は、基金委員会の提案と比較すると、約6億5,100万スイスフラン(約750億円)の増額となっている。
  • 地層処分場立地地域への交付金支払いの可能性を高く見積ることによる費用増:
    スイスでは、国としての課題解決への貢献に対する経済的措置として、処分場の立地地域に対して交付金を支払うとされている。廃棄物管理基金から支出される立地地域に対する交付金の支払いについては、法的根拠が存在しておらず、自由意思によって行われる関係者との交渉の結果として取り決められることから、原子力発電事業者と基金委員会は4億スイスフラン(約460億円)を確保するよう提案していたが、UVEKは将来費用を確実に確保する観点から8億スイスフラン(約920億円)を確保するように決定した。

<廃止措置費用>

  • 原子力発電所サイトを全て更地に回復することによる費用増:
    原子力発電事業者の見積りでは、廃止措置の完了後に汚染のない建屋の一部がサイトに残る「ブラウンフィールド」と呼ばれる条件で算出していたが、基金委員会は建屋をすべて解体して、サイトを更地にする「グリーンフィールド」の可能性も費用見積りに含めるべきとの見解から、グリーンフィールドの可能性を80%、ブラウンフィールドの可能性を20%とした場合の期待値を算出するよう提案していた。UVEKは、廃止措置・廃棄物管理基金令(以下「基金令」という)における廃止措置費用の定義に従い、全ての建屋を撤去する費用を確保するとして、グリーンフィールドの条件で将来費用を決定した。これによりUVEKの決定は、基金委員会提案と比較すると、約4,600万スイスフラン(約53億円)の増額となっている。

 

原子力発電事業者の見積額、基金委員会が提案した将来費用額、UVEKが決定した費用額を下表に示す。

表:廃棄物管理・廃止措置費用の見積り(単位:百万スイスフラン 1スイスフラン=115円で換算)

項目 原子力発電事業者の見積額 基金委員会が提案した将来費用額  UVEKが決定した将来費用額 
 地層処分費用  11,303
(約1兆3,000億円)
12,693
(約1兆4,600億円)
13,744
(約1兆5,800億円)
 中間貯蔵、輸送、輸送・貯蔵容器、再処理費用  7,058
(約8,100億円)
 7,058
(約8,100億円) 
 7,058
(約8,100億円) 
 廃止措置費用  3,406
(約3,900億円) 
 3,733
(約4,300億円) 
 3,779
(約4,300億円) 
 合計 21,767
(約2兆5,000億円)

23,484
(約2兆7,000億円)

24,581
(約2兆8,300億円)

 

今後の予定

基金委員会は、今回のUVEKの決定に先立つ2016年12月に、2017年から2021年の期間に原子力発電事業者が基金へ支払うべき拠出金の暫定額を決定している。現在、スイスでは、基金令の改正が予定されており、基金委員会は2017年から2021年の期間に原子力発電事業者が基金へ支払うべき拠出金の正式な額については、改正した基金令の発効後に決定するとしている。基金令の改正の閣議決定は2019年前半と見込まれている。

 

【出典】

(post by yamamoto.keita , last modified: 2023-10-10 )