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《スイス》NAGRAが放射性廃棄物管理プログラム及び研究開発計画を提出

スイスの処分実施主体である放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)は、2016年12月20日に、『放射性廃棄物管理プログラム2016』及び本プログラムに沿って実施される研究開発計画書を連邦エネルギー庁(BFE)に提出したことを公表した。放射性廃棄物管理プログラムは、スイスの4カ所の原子力発電所にある5基の原子炉の運転、廃止措置、並びにそれらから発生する放射性廃棄物の貯蔵、処分の計画を示したものであり、2005年施行の原子力法及び原子力令に基づいて、5年毎に更新することになっている。放射性廃棄物管理ブログラム2016によると、医療・産業・研究等から発生してNAGRAが処分することになっている放射性廃棄物を含め、最終的に地層処分する放射性廃棄物の総量は、最大で約9万2千m3となると推定している。

 

表:放射性廃棄物管理プログラム2016における放射性廃棄物発生量の推定

 

放射性廃棄物の分類と廃棄物量(廃棄体の体積m

放射性廃棄物の発生

高レベル放射性廃棄物(HAA)

アルファ廃棄物
(ATA)

低中レベル放射性廃棄物
(SMA)

合計

使用済燃料(BE) 8,995 8,995
英国、フランスに委託した再処理に伴って返還される廃棄物(WA) 398 414 812
炉内構造物等(BA) 31,271 31,271
原子炉の運転廃棄物(RA) 1,811 1,811
原子炉の廃止措置廃棄物(SA) 24 27,366 27,390
医療、産業及び研究分野の廃棄物(MIF) 8 634 19,010 19,652
使用済燃料及びガラス固化体の廃棄体製造施設から発生する廃棄物(BEVA) 2,302 2,302

合計

9,402 1,072 81,760 92,234

*:わが国のTRU廃棄物に相当

 

○処分場サイト選定のスケジュール

スイスでは、NAGRAが特別計画「地層処分場」(以下「特別計画」という)に基づき、3段階からなるサイト選定プロセスを実施しており、現在、サイト選定第2段階にある。放射性廃棄物管理プログラム2016においてNAGRAは、公衆参加や各段階での審査手続、許認可手続の所要時間に不確定要素が多いことなどから、処分サイトの決定と概要承認手続きの終了を2031年としている。また、低中レベル放射性廃棄物用地層処分場の操業開始を2050年、高レベル放射性廃棄物用地層処分場の操業開始を2060年としている。

スイスにおける地層処分場サイト選定スケジュール

○処分費用見積り

NAGRAは放射性廃棄物管理プログラム2016において、原子力発電事業者の団体であるスイスニュークリアが2016年12月に提出した原子力発電所の廃止措置及び放射性廃棄物の処分に関する費用見積りに基づいて、処分及び廃止措置の費用を示している。低中レベル放射性廃棄物処分、高レベル放射性廃棄物処分、廃止措置の費用見積りはそれぞれ以下の表のとおりである。

表:放射性廃棄物管理プログラムにおいて示された費用の見積り

項目

費用(1スイスフラン=105円で換算)

低中レベル放射性廃棄物処分 44億2,400万スイスフラン(約4,645億円)
高レベル放射性廃棄物処分 76億9,400万スイスフラン(約8,079億円)
原子力発電所の廃止措置* 34億600万スイスフラン(約3,576億円)

*:原子力発電所の廃止措置は電力会社が実施する。

○研究開発計画書

NAGRAは『放射性廃棄物管理プログラム2016』と合わせて取りまとめた研究開発計画書において、今後5~10年に実施する研究を以下の図のような6つのテーマに分けて示している。これらのテーマの間では相互にデータや情報を交換しながら取り組みが進められる。NAGRAは研究開発の基本戦略について、今後、サイト選定第3段階で地質学的候補エリアが確定した際に見直しが必要になるとの認識を示している。

放射性廃棄物処分についてNAGRAが実施する基礎研究テーマ

【出典】

 

【2018年5月29日追記】

スイスの連邦エネルギー庁(BFE)は2018年5月24日、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)が2016年12月にBFEへ提出した『放射性廃棄物管理プログラム2016』に対する、BFE、連邦原子力安全検査局(ENSI)、原子力安全委員会(KNS)1 の見解書を公表した。BFEとENSIは審査の結果、NAGRAの放射性廃棄物管理プログラムが、原子力法及び原子力令で規定された要件を満たしていると評価し、次回の2021年の放射性廃棄物管理プログラムの更新に向けて、連邦評議会2 が決定すべき事項を勧告している。

2021年の放射性廃棄物管理プログラムに向けた各機関の勧告内容

BFEは今回の見解書で、放射性廃棄物管理プログラムと費用見積りとを同時に審査することが効率的であったとして、連邦評議会に対し、次回の2021年の放射性廃棄物管理プログラムの更新においても、NAGRAが費用見積りに関する報告書を同時に提出するよう決定すべきであると勧告している。また、NAGRAや原子力発電事業者に対して、今後も処分場に関する情報の長期保存や、放射性廃棄物処分に関する情報公開の取組を継続すべきとする見解を示している。

一方、ENSIは、次回2021年にNAGRAが取りまとめる放射性廃棄物管理プログラム及び研究開発計画3 の内容について、以下のように指摘している。

  • 高レベル放射性廃棄物と低中レベル放射性廃棄物の地層処分場を同じ場所に建設するケースを評価する場合に、それぞれの処分領域が相互にどのような影響を及ぼすかを評価すること
  • 地層処分場の長期安全性、操業の容易性、多額の費用を発生させない回収可能性の維持の観点から、処分場閉鎖の概念を複数提示し、それぞれについて長所・短所を説明すること
  • 地球科学的調査の各フェーズにおける要件を示すと共に、地下特性調査施設での調査終了後の処分場への転用に関して、いつ、どのような形で技術的に証明するのかを説明すること
  • NAGRAが考える現在未解決の問題点について、解決方法と解決期限とともにリストアップすること
  • 個々の研究開発相互の関連性や、地層処分場実現までのマイルストーンの説明のほか、サイト選定に関する意思決定を行う際に、どの研究で、どのような成果が得られている必要があるかを明確にすること
  • 使用済燃料及びガラス固化体の中間貯蔵施設に関して、貯蔵容量の増大に対応できる新しい概念を提示すること
  • 過去の研究計画に盛り込まれた各分野の研究プロジェクトや実験の成果を、失敗・中断したものも含めて盛り込むこと

連邦政府の原子力安全に関する諮問機関である原子力安全委員会(KNS)は、今回のENSIの審査結果を示した見解書について、十分に詳細な審査が行われており、包括的な記述が行われていると評価している。その上で、KNSは、今後の処分場サイト選定手続を円滑に進めるため、概要承認申請の具体的な内容や範囲について、関係機関が早期に示すように連邦評議会が指示すべきとの見解を表明している。

これらの審査結果を踏まえ、連邦評議会は2018年末までに、放射性廃棄物管理プログラムに対する最終的な承認及び次回2021年の放射性廃棄物管理プログラムに向けた指示について、判断を行う予定である。

 

【出典】

 

【2018年11月30日追記】

連邦評議会は2018年11月21日、原子力法・原子力令に基づいて放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)が2016年12月に連邦エネルギー庁(BFE)へ提出した「放射性廃棄物管理プログラム2016」を承認するとともに、連邦議会に報告した。また、2016年版プログラムを審査したBFE、連邦原子力安全検査局(ENSI)、原子力安全委員会(KNS)の見解を踏まえ、次回2021年の放射性廃棄物管理プログラムに向けたNAGRAに対する要求事項を提示した。具体的な要求事項としては、以下のような項目が含まれている。

  • 2016年版と同様に、2021年版及びそれ以降の放射性廃棄物管理プログラムでは、「放射性廃棄物処分のための研究開発及び実証(RD&D)計画」を同時に提出すること
  • 地層処分場のプロジェクト全体が技術・スケジュールの観点からどのように実施されていくのかを明確化し、個々の研究開発の相互の関連性や、地層処分場実現までのマイルストーンとサイト選定に関連する意思決定について説明すること。意思決定に関連して、研究開発の時期、理由、優先順位を示すこと。
  • 高レベル放射性廃棄物と低中レベル放射性廃棄物のそれぞれについて、パイロット施設4 でのモニタリング計画を具体的に提示すること。
  • 高レベル放射性廃棄物と低中レベル放射性廃棄物の地層処分場を同じ場所に建設する場合について、それぞれの処分領域の間での影響を回避するための方策、必要となる面積や安全技術上の対策を示すこと。
  • 概要承認申請に向けた事前準備として、処分場閉鎖の概念を複数提示し、検討・比較すること。
  • 地下特性調査施設での調査終了後の処分場への転用に関して、技術的な証明の時期、方法を説明すること。
  • 処分場設計の最適化に関して、可能な限り早期に、スイスの処分場に適用可能な具体的な知見獲得に向けた追加的な研究開発の必要性の有無を検討すること。
  • 使用済燃料及びガラス固化体の中間貯蔵施設に関して、貯蔵容量の増大に対応できる新しい概念を提示すること。

 

【出典】

  1. KNSは、ENSI、環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)、連邦評議会に対して安全性に関する重要な問題に関して助言する。 []
  2. 日本の内閣に相当 []
  3. 研究開発計画については、法令上の規定では官庁の審査は要求されていない。 []
  4. 原子力令第66条の規定により、パイロット施設では、少量の代表的な実廃棄物を定置して、廃棄物、埋め戻し材及び母岩の挙動などをモニタリングし、地層処分場の閉鎖決定のための根拠を得る。 []

(post by yamamoto.keita , last modified: 2024-02-13 )