ドイツの連邦環境・自然保護・建設・原子炉安全省(BMUB)は、2016年12月21日に、2013年7月に制定された「発熱性放射性廃棄物の最終処分場のサイト選定に関する法律」(以下「サイト選定法」という) を改正する法案(以下「改正法案」という)が同日に閣議決定されたことを公表した。サイト選定法の改正法案は、高レベル放射性廃棄物処分委員会(以下「処分委員会」という)が、2016年7月5日に提出した最終報告書で示した勧告 を反映したものであり、サイト選定法を全面改正する内容となっている。
サイト選定法の改正法案では、ドイツ全土から3段階のサイト選定手続き (下表参照)により候補サイトを絞り込むこと、公衆参加の枠組みとして、連邦、地域横断、地域の各レベルで委員会や合議体を設けてサイト選定手続きへの関与を図ること が具体的に規定されている。また、処分委員会の最終報告書で提示していたサイト選定における除外基準と最低要件、地質学的な評価基準といった技術的な要件も条文に組み込まれている(下記参照)。なお、処分委員会は、高レベル放射性廃棄物処分の安全要件もサイト選定法で規定することを求めていたが、今回の改正法案では処分の安全要件に関しては、別途政令で定めるとしている。
BMUBのウェブサイトによれば、サイト選定法の改正法案の議会審議は2017年第1四半期に終える見込みであり、その後、連邦官報公示の翌日に発効することになる。今後、今回の改正法案によって改正されたサイト選定法が発効した後に、実際のサイト選定手続きが開始される。なお、今回の改正法案では、2031年までに最終的な処分場サイトを決定するとしているサイト選定法での当初のスケジュール については変更していない。
■サイト選定における地球科学的な除外基準と最低要件
処分委員会が最終報告書で提示していたサイト選定における除外基準と最低要件は、サイト選定手続きの各段階において適用されることになっており 、除外基準に該当する、あるいは最低要件を満たさない地域やサイトは手続きから除外されることになる。処分委員会の最終報告書で示された除外基準及び最低要件には、以下の事項が含まれている。
〇地球科学的な除外基準
- 一定以上の広域的な隆起が予想される
- 活断層が存在する
- 現在または過去の鉱山活動の影響が存在する
- 一定以上の地震活動が予想される
- 過去の火山活動が存在する、または将来予想される
- 年代の新しい地下水が存在する
〇地球科学的な最低要件
- 岩盤の透水係数が10-10m/s以下
- 閉じ込め機能を果たす岩盤領域1 の厚みが100m以上
- 閉じ込め機能を果たす岩盤領域の深度が300m以深
- 閉じ込め機能を果たす岩盤領域の広がりが処分場建設に可能な面積を有している
- 閉じ込め機能を果たす岩盤領域の健全性が100万年にわたり維持されることが疑問視されていない
段階 |
各段階での取り組み |
段階の終了 |
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第1段階 |
ドイツ全土を対象にサイト選定プロセスを開始。地質学的な除外基準及び最低要件に基づき、対象外となる地域を除外。地質学的な評価基準及び項目を限定した予備的安全評価(第1次予備的安全評価)に基づき、主に連邦地球科学・天然資源研究所(BGR)や州の地質調査所が保有する既存のデータを元に地域間の比較を実施し、サイト区域と地上探査の対象サイト地域を選定。 |
連邦放射性廃棄物機関(BGE)の提案に基づき、サイト区域と地上探査の対象サイト地域を連邦法によって決定。 |
第2段階 |
地上からの探査を実施。地質学的な除外基準、最低要件、評価基準及び第1段階より範囲を拡大した予備的安全評価(第2次予備的安全評価)に基づき、サイト間の比較を実施し、地下探査の対象サイトを選定。 |
BGEの提案に基づき、地下探査の対象サイトを連邦法によって決定。 |
第3段階 |
地下探査などの処分の安全性の観点からの詳細な調査を実施。包括的な予備的安全評価を実施し可能な限り安全性の高いサイトの特定に向け、サイトの比較を実施し、処分場サイトを選定。 |
連邦放射性廃棄物処分安全庁(BfE)の提案に基づき、処分場サイトを連邦法によって確定。 |
【出典】
- 連邦環境・自然保護・建設・原子炉安全省(BMUB)ウェブサイト、2016年12月21日、
http://www.bmub.bund.de/presse/pressemitteilungen/pm/artikel/hendricks-novelliertes-standortauswahlgesetz-schafft-grundlage-fuer-faires-und-legitimes-suchverfahren/?tx_ttnews%5BbackPid%5D=309 - 連邦環境・自然保護・建設・原子炉安全省(BMUB)ウェブサイト「特に高レベル放射性廃棄物を中心とする処分場選定:選定プロセス開始への道」
http://www.bmub.bund.de/themen/atomenergie-strahlenschutz/endlagerprojekte/umsetzungsschritte-des-standortauswahlverfahrens-im-ueberblick/ - 発熱性放射性廃棄物の最終処分場のサイト選定に関する法律(サイト選定法)
- 発熱性放射性廃棄物の最終処分場のサイト選定に関する法律その他法律改正のための法案、
http://www.bmub.bund.de/fileadmin/Daten_BMU/Download_PDF/Endlagerprojekte/standag_fortentwicklung_formulierungshilfe_bf.pdf
【2017年4月4日追記】
ドイツの連邦環境・自然保護・建設・原子炉安全省(BMUB)は、2017年3月31日に、「発熱性放射性廃棄物の最終処分場のサイト選定に関する法律」(以下「サイト選定法」という)を全面的に改正する法律(以下「改正法」という)が成立したことを公表した。改正法は、2017年3月23日に連邦議会で可決されており、3月31日に連邦参議院の同意を得たことにより成立した2 。
今回成立した改正法では、最終処分場のサイト決定の時期に関して、当初2013年7月に制定されたサイト選定法での「2031年までに決定する」という期限を定める条項が改正され、「2031年までの決定を目指す」という目標に変更された。また、2016年12月に閣議決定された改正法の法案では、別途政令で定めるとのみ規定されていた高レベル放射性廃棄物処分の安全要件に関して、改正法では以下の安全原則が示されるとともに、政令で安全要件を策定することなどが規定されている。
- 放射性物質及びその他有害物質を生物圏から確実に隔離し、最終処分に伴う放射性物質の放出による影響から、100万年にわたり確実に防護すること
- 国外における最終処分の人間と環境への影響が、国内で許容される影響を上回ることがないようにすること
- 処分場操業中及び閉鎖後500年間は、定置した放射性廃棄物の回収を可能とすること
- 処分場閉鎖後に人間の介入や維持作業を要しない処分場設計・操業を行うこと
改正法は、連邦官報に公示された翌日に発効するとされている。なお、改正法の発効により、2013年7月制定の現行のサイト選定法は廃止される。
【出典】
- 連邦環境・自然保護・建設・原子炉安全省(BMUB)ウェブサイト、2017年3月31日、
http://www.bmub.bund.de/pressemitteilung/hendricks-die-suche-nach-dem-sichersten-standort-fuer-den-atommuell-kann-beginnen/ - 発熱性放射性廃棄物の最終処分場のサイト選定に関する法律その他法律改正のための法案(2017年3月7日付法案)、
http://dip21.bundestag.de/dip21/btd/18/113/1811398.pdf - 連邦参議院議会文書 Drs.239/17
http://www.bundesrat.de/SharedDocs/drucksachen/2017/0201-0300/239-17.pdf?__blob=publicationFile&v=5 - 連邦参議院議会文書 Drs.239/17(Beschluss)
http://www.bundesrat.de/SharedDocs/drucksachen/2017/0201-0300/239-17(B).pdf?__blob=publicationFile&v=1
(post by tokushima.hideyuki , last modified: 2023-10-10 )