米国の原子力規制委員会(NRC)は、2015年7月22日に、クラスCを超える低レベル放射性廃棄物(以下「GTCC廃棄物」という)1 の処分について、NRCの運営事務局長(EDO)がNRC委員に対して、テキサス州に許認可権限を与えるという提案の承認を求めた2015年7月17日付の文書を公表した。テキサス州では、ウェイスト・コントロール・スペシャリスト(WCS)社が、連邦政府に処分責任があるGTCC廃棄物等について、GTCC廃棄物等を低レベル放射性廃棄物処分場で処分することを禁止しているテキサス行政法(TAC)の修正を州当局に求めており 、このため、テキサス州はNRCに対して、GTCC廃棄物、GTCC類似廃棄物及び超ウラン核種を含む放射性廃棄物(以下「TRU廃棄物」という)2 の処分に対する法的権限の明確化を求めていた。
今回公表された2015年7月17日付の文書によれば、1985年低レベル放射性廃棄物政策修正法では、GTCC廃棄物はNRCの許可を受けた施設で処分すべきことを規定しており、さらに、NRCは1989年に、低レベル放射性廃棄物処分場において処分を行うという提案がNRCにより承認されなければ、GTCC廃棄物は地層処分しなければならないとする連邦規則を定めている。しかし、1985年低レベル放射性廃棄物政策修正法においては、協定州3など にGTCC廃棄物の処分場に対する許認可権限があるのか、あるいはNRCのみが権限を有するのかについては不明確である。このため、NRC委員はNRCスタッフに対して、GTCC廃棄物の処分を歴史的な観点から整理するよう指示していた。
今回公表された2015年7月17日付の文書は、上記のNRC委員からの指示及びテキサス州からの明確化の要求に答えるために作成されたものである。本文書では、以下の3つのオプションが検討対象とされた。
- オプション1: WCS社によるGTCC廃棄物の受け入れ及び処分に対して、NRCが許認可を発給し、規制する。また、現在はTRU廃棄物の処分には適用されないNRCの連邦規則10 CFR Part 61「放射性廃棄物の陸地処分のための許認可要件」を、TRU廃棄物の処分にも適用できるように改正を図る。
- オプション2:NRCは、テキサス州がGTCC廃棄物の処分に対して許認可を発給し、規制を行うのを認める。また、現在はTRU廃棄物の処分には適用されない連邦規則10 CFR Part 61を、TRU廃棄物の処分にも適用できるように改正を図る。
- オプション3:特段の対応を行わない。
NRCスタッフは、これらの3つのオプションについての検討を行った結果、オプション2(テキサス州が許認可権限を持つ)を採用する提案を承認するよう、NRC委員に求めるとしている。オプション2を支持する理由としては、GTCC廃棄物とTRU廃棄物の処分についての共通的な規制要件を定めることができること、GTCC廃棄物処分の許認可権限を州に認めるオプションを維持するというこれまでのNRCの見解との一貫性を確保できること、テキサス州は既にWCSテキサス処分場の許可・規制を行っているために規制の効率上は望ましいことなどを挙げている。今後、NRC委員の本文書に対応して出される指示に基づいて、NRCはテキサス州に対する回答を作成する予定としている。
なお、米国では、GTCC廃棄物の処分責任は連邦政府にあるとされており、この責任の履行のため、エネルギー省(DOE)は2005年に、GTCC廃棄物の処分に関する環境影響評価書(EIS)の準備を行うことについての事前通知を行っており 、また、2007年には、GTCC廃棄物の処分オプションに関する環境影響評価を実施することを公表していた 。さらに、2011年には、GTCC廃棄物の処分オプションに関するドラフト環境影響評価書(DEIS)を公表し、処分方策を含む望ましい管理方策は最終環境影響評価書(FEIS)において提示することを示していた 。しかし、DOEの主要な環境影響評価のスケジュールに関する2015年7月15日付の情報によれば、未だにFEISの作成に向けたスケジュールは確定していない。ただし、2015年7月17日付けの文書においてNRCは、DOEが2015年内にステークホルダーの意見等を反映し、望ましい管理方策を示したFEISを出すことが見込まれるとしている。
【出典】
- 原子力規制委員会(NRC)、運営事務局長(EDO)からNRC委員への文書、「クラスCを超える低レベル放射性廃棄物の処分に関連する過去及び現状の課題」、全文書掲載ページ、2015年7月22日
http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1516/ML15162A849.html - 原子力規制委員会(NRC)、運営事務局長(EDO)からNRC委員への文書、「クラスCを超える低レベル放射性廃棄物の処分に関連する過去及び現状の課題」、2015年7月17日
http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1516/ML15162A807.pdf - 原子力規制委員会(NRC)文書(2015年7月17日文書への添付1)、「クラスCを超える低レベル放射性廃棄物の処分についての規定と規制の歴史」
http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1516/ML15162A816.pdf - 原子力規制委員会(NRC)文書(2015年7月17日文書への添付2)、「クラスCを超える低レベル放射性廃棄物の処分に関連する技術的な検討と処分における課題の定性的な検討」(2015年5月)
http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1516/ML15162A821.pdf - 原子力規制委員会(NRC)文書(2015年7月17日文書への添付3)、「商業利用で発生する超ウラン核種を含む放射性廃棄物(TRU廃棄物)処分についての規定と規制の歴史」
http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1516/ML15162A828.pdf - エネルギー省(DOE)、「主要な環境影響評価のスケジュール」、2015年7月15日更新
http://energy.gov/sites/prod/files/2015/07/f24/KeyEISSchedule_July2015.pdf
【2015年8月20日追記】
米国の原子力規制委員会(NRC)は、2015年8月13日に、クラスCを超える低レベル放射性廃棄物(以下、「GTCC廃棄物」という )の処分に向けた課題及び現在の規制環境について、NRCの委員に対する公開でのブリーフィングを開催した。ブリーフィングは、以下に示すように、外部関係者によるパネルと政府関係者によるパネルの2部構成で実施され、それぞれのパネルに対してNRCの委員による質疑が行われた。
パネル1:外部関係者 |
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原子力エネルギー協会(NEI) |
GTCC廃棄物の処分に対する産業界の見解 |
DWジェームズ・コンサルティング社 |
GTCC廃棄物を含む、原子力発電プラントから発生する低レベル放射性廃棄物 |
ウェイスト・コントロール・スペシャリスト(WCS)社 |
すべてのGTCC廃棄物の受入れに対する低レベル放射性廃棄物処分サイトの関心 |
エネルギー環境研究所(IEER) |
GTCC廃棄物の処分に対する公衆の関心の視点 |
パネル2:政府関係者 |
エネルギー省(DOE)環境管理局(EM) |
GTCC廃棄物の処分 |
テキサス州環境品質委員会(TCEQ) |
GTCC廃棄物の処分についてのテキサス州における検討 |
NRCスタッフ(核物質安全・保障措置局(NMSS)など) |
・歴史的な展望 |
なお、2015年8月18日に公開された議事録において、GTCC廃棄物の放射能濃度について、廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)で処分される超ウラン核種を含む放射性廃棄物(TRU廃棄物)と比較した場合、両者の放射性核種と放射能インベントリは似通っているが、原子力発電所など非軍事起源のGTCC廃棄物の放射能濃度は、セシウム-137を除いて、平均でTRU廃棄物の50倍強、最高で1,200倍以上になること、WIPPでの「遠隔ハンドリングが必要なTRU廃棄物」(RH廃棄物)の放射能濃度に匹敵することをNRCスタッフが説明したことが記されている。
【出典】
- 原子力規制委員会(NRC)、クラスCを超える低レベル放射性廃棄物に関するブリーフィング(公開)、2015年8月13日
- 原子力規制委員会(NRC)、委員会ミーティング資料の一覧(2015年)
http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/commission/tr/2015/ - 原子力規制委員会(NRC)、2015年に公表された委員会資料一覧
http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/commission/recent/2015/
【2015年12月25日追記】
米国の原子力規制委員会(NRC)は、2015年12月22日付けの運営事務局長(EDO)宛ての指示文書において、クラスCを超える低レベル放射性廃棄物(以下、「GTCC廃棄物」という )の処分に係る許認可権限をテキサス州に与える案 の検討に関して、テキサス州宛の回答案を作成することなどを指示した。この回答案においては、地層処分以外の方法によるGTCC廃棄物の処分の規制基盤(regulatory basis)を検討し、必要に応じて処分基準等を策定するとした上で、今後検討する規制基盤がテキサス州による規制権限の明確化に対する回答の根拠を与えるものであること、規制基盤の検討の過程で州からの意見を要請する旨を伝えることとされている。
本指示文書では、現在行われているNRCの連邦規則(10 CFR Part 61「放射性廃棄物の陸地処分のための許認可要件」)の改定作業の完了から6カ月以内に、浅地中処分など地層処分以外の方法によるGTCC廃棄物の処分に係る規制基盤を検討し、NRC委員に提出することをNRCスタッフに命じている。さらに、この規制基盤は、GTCC廃棄物が、協定州への権限委譲を禁ずる1954年原子力法第274条c.(4)の規定に該当する程度の危険性を持つ放射性廃棄物であるかどうかを分析するものとされ、分析の結果として浅地中処分が適している可能性があるとの結論に達した場合、NRCスタッフは、連邦規則10 CFR Part 61の下でGTCC廃棄物の処分を許可するための処分基準を含む規則改定案を策定すべきとしている。
さらに、本指示文書では、NRCスタッフが、規制基盤の策定過程で、テキサス州及び他の関心あるステークホルダーからの意見を聴くため、公開のワークショップを開催すべきことも指示している。なお、NRCの委員は、近い将来にGTCC廃棄物の処分を求める者に対しては、NRCの連邦規則10 CFR Part 61に規定されているケースバイケースの審査が引き続き可能であることを確認している。
また、本指示文書において、超ウラン核種を含む放射性廃棄物(TRU廃棄物)の処分についても、NRCの連邦規則10 CFR Part 61が適用されるべきとするNRCスタッフの提案を承認している。
【出典】
- 原子力規制委員会(NRC)、2015年12月22日付け運営事務局長(EDO)向け指示文書(SRM SECY-15-0094)
http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/commission/srm/2015/
http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1535/ML15356A623.pdf
- 米国では、1985年低レベル放射性廃棄物政策修正法、原子力規制委員会(NRC)の連邦規則(10 CFR Part 61「放射性廃棄物の陸地処分のための許認可要件」)において、地下30mより浅い浅地中処分が可能な低レベル放射性廃棄物としてクラスA、B、Cの分類が定められている。GTCC廃棄物は、放射能濃度などがクラスCの制限値を超える放射性廃棄物であり、連邦規則に基づいて操業されている浅地中処分に適さないものとされている。 [↩]
- 「TRU廃棄物」は、低レベル放射性廃棄物のカテゴリーには含まれないが、NRCは10 CFR Part 61において、TRU核種を含有していても一定の条件を満たす廃棄物については、低レベル放射性廃棄物の処分場において処分することを認めている。 [↩]
- 原子力法及び1985年低レベル放射性廃棄物政策修正法の規定に基づいて、州とNRCとが協定を締結することにより、州は低レベル放射性廃棄物の処分を規制する権限を得ることができる。 [↩]
(post by inagaki.yusuke , last modified: 2023-10-11 )