米国のエネルギー省(DOE)は、2014年9月30日に、廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)に関する復旧計画を公表した。米国の軍事起源のTRU廃棄物の地層処分場であるWIPPは、DOEがニューメキシコ州カールスバッド近郊に設置・操業を行っていたが、2014年2月に発生した火災事故及び放射線事象 に対応するため、処分場の操業は停止され、今なお事故調査が進行中である。今回公表された復旧計画は、WIPPの操業を再開するための計画と位置づけられ、復旧戦略、スケジュール及び費用が示されており、この中で、WIPPの操業の再開は2016年第1四半期としている。
WIPPの復旧計画では、復旧戦略の重要な要素として以下の7項目が示されている。
1.安全性
安全性は最優先されるものであり、火災事故及び放射線事象の事故調査委員会(AIB)の事故調査報告書 で指摘された要改善事項を踏まえて安全文書を見直し、それらが実施された時点で操業を再開する。復旧は確実に進める。
2.規制遵守
施設の変更を伴う復旧活動については、規制当局であるニューメキシコ州環境省(NMED)及び環境保護庁(EPA)により確立された手続きに従う。
NMEDからは、火災事故及び放射線事象の後、地上施設の検査等の遵守に関する命令、放射線事象に関連した廃棄物の取扱等に関する規則の変更命令、一部の廃棄物パッケージの隔離計画策定命令 が出されており、復旧に向けた許可の変更とともに、NMEDの承認が必要となる。
また、DOEとEPAは、1995年に、「有害大気汚染物質の国家排出基準」(40 CFR Part 61)の遵守に係る覚書(MOU)を交わしているほか、復旧活動で処分場の長期的性能に影響するものは、現在進められている5年ごとの適合性再認定 に織り込まれることになる。
3.除染
除染はWIPP復旧計画の重要な要素となる。WIPPでは、第7処分室、排気坑道及び排気立坑の汚染が確認されているが、他の汚染箇所及び汚染濃度は今後確認が必要である。復旧計画では、技術的、コスト的、またはスケジュール的に困難な除染は行わず、クリーンな区域と汚染区域を分離する戦略が採られており、今後のWIPPの操業のあらゆる面に影響が生じる。
4.換気
地下施設での安全な操業のために換気能力の強化は重要となる。進行中のフィルター強化に続いて、補助的な換気システムを整備した上で、最終的には新排気立坑建設を含む新たな換気システムにより、以前のWIPPの換気能力を回復する。
5.鉱山安全性と地下施設の居住性
作業員の安全と健康を確保するため、放射線区域の確認・明示、機器の整備等を含め、鉱山安全性と地下施設内の居住性を改善する。
6.作業員の再訓練
復旧活動の費用対効率の最大化とWIPP作業チームの長期的任務達成のため、従来の作業員を最大限活用し、事故調査委員会(AIB)に指摘された問題点を含めて再訓練を行い、より複雑化するWIPPでの操業に対応する。
7.受入れ廃棄物の管理
放射線事象の原因となったロスアラモス国立研究所(LANL)からの廃棄物パッケージと同じストリームの硝酸塩を含む廃棄物パッケージは、WCSテキサス処分場で厳重に貯蔵されている。LANLを含むDOEの国立研究所からは、今後もTRU廃棄物が輸送されるが、同じ特性を持った廃棄物パッケージは無いことが確認されている。
なお、放射線事象に繋がった廃棄物パッケージの破損 の原因については、現在も確認作業中であり、事故調査委員会(AIB)の事故調査報告書(フェーズ2)は2014年の終わりに出されることが見込まれている。その後、DOEが技術評価チームでの検討を実施することにしており、復旧活動に影響するような新たな情報が得られた時点で復旧計画を変更することが予定されている。
復旧計画では、WIPPの操業を再開するための費用は約2億4,200万ドル(約237億円)と見積られている。さらに、WIPPを完全な操業状態まで回復するためには、新規の恒久的な換気システム及び排気立坑が必要であり、さらに約7,700~3億900万ドル(約75~303億円)が必要になるとしている。
【出典】
- エネルギー省(DOE)、「廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)復旧計画」(2014年9月30日)
http://energy.gov/sites/prod/files/2014/09/f18/WIPP%20Recovery%20Plan_09_30_2014_final_REV0.pdf - エネルギー省(DOE)カールスバッド・フィールド事務所(CBFO)ニュースリリース(2014年9月30日)
http://www.wipp.energy.gov/pr/2014/9_30_14_DOE_Releases_WIPP_Recovery_Plan.pdf
【2015年4月8日追記】
米国のエネルギー省(DOE)は、2015年3月26日に、1本の廃棄物ドラムが放射線事象の原因とする評価結果を示した「廃棄物隔離パイロットプラント技術評価チーム報告書」(2015年3月17日)を公表した。技術評価チームは、廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)で2014年2月14日に発生した放射線事象について、事象発生のメカニズム、化学反応を評価することを目的として、DOEの国立研究所に所属する6人の技術的専門家から構成されている。
技術評価チーム報告書の要旨では、サバンナリバー国立研究所(SRNL)が中心となり、SRNL、ローレンスリバモア国立研究所(LLNL)、オークリッジ国立研究所(ORNL)、パシフィックノースウェスト国立研究所(PNNL)及びサンディア国立研究所(SNL)の関連分野の専門家で技術評価チームを組織したこと、放射性物質の漏洩事象の理解のために過去のデータのレビュー、サンプルの採取・分析、研究所での試験、コンピュータ計算を行ったことが示されている。
技術評価チームの評価結果として、ロスアラモス国立研究所(LANL)から運び込まれた廃棄物ドラム番号68660について、化学的に不適合な内容物と廃棄物ドラム中の物質配置の物理的な条件との組合せにより、発熱化学反応が熱暴走を引き起こしたとしている。
技術評価チームの評価結果を導出する上での重要な判断内容として、以下の5項目が示されている。
- 廃棄物ドラム番号68660の内容物は、化学的に不適合である
- 廃棄物ドラム番号68660は、内部の化学反応の結果として破損しているが、化学反応によって熱、並びに、ドラムのベント及びシールを超えるようなガスが発生している。
- 廃棄物ドラム番号68660は、WIPPでの放射能汚染の発生源である。
- 熱暴走の開始は内部的なものであり、廃棄物ドラム番号68660の外部現象によるものではない。
- WIPPの第7パネルの第7処分室で観測された漏洩事象及び破損の発生における物質の移動は、熱及び圧力の影響によるものであり、漏洩は爆轟(デトネーション、detonation)によるものではない。
なお、技術評価チームの報告書の公表と同時に、報告書の概要をまとめたファクトシートも公表されており、事象及び技術評価チームの結論の概要、技術評価チームの目的・構成、評価方針・方法、評価の制約条件、結論及び5項目の重要な判断内容が示されている。また、放射線事象に係る「事故調査報告書(フェーズ2)」は、2015年4月中に公表する予定であることが示されている。
【出典】
- 「廃棄物隔離パイロットプラントで破損した廃棄物ドラムの原因に関する技術評価チームの報告書を公表」(2015年3月26日付け、ニュースフラッシュ)
http://energy.gov/em/articles/technical-assessment-team-report-cause-breached-drum-waste-isolation-pilot-plant - 「廃棄物隔離パイロットプラント技術評価チーム報告書」(2015年3月17日付け)
http://energy.gov/em/downloads/technical-assessment-team-report
http://energy.gov/sites/prod/files/2015/03/f20/MARCH%202015%20-%20FINAL%20TECHNICAL%20ASSESSMENT%20TEAM%20REPORT.pdf - 「技術評価チームによる廃棄物隔離パイロットプラントでの事象の調査」(2015年3月17日付け、ファクトシート)
http://energy.gov/em/downloads/technical-assessment-team-fact-sheet
http://energy.gov/sites/prod/files/2015/03/f20/TAT_Fact_sheet%2032615%20FINAL.pdf - 廃棄物隔離パイロットプラントの復旧に係る情報の掲載サイト
http://energy.gov/em/waste-isolation-pilot-plant-wipp-recovery
http://www.wipp.energy.gov/wipprecovery/recovery.html
【2015年8月4日追記】
米国のエネルギー省(DOE)は、2015年7月31日に、廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)の2014年9月30日付けの復旧計画について、2016年第1四半期(3月)までの操業再開が達成できないとして、操業再開スケジュールを見直しすることを公表した。操業再開スケジュールの遅延は、事故調査委員会(AIB)による指摘事項への対応、より厳格化されたDOEのサイト固有の文書化安全解析(Documented Safety Analysis, DSA)の基準を満足すること、暫定的な換気システムの製造等の調達・品質保証に係る契約者の監督に関する問題への対応など、復旧計画の策定時には想定されていなかった活動が必要になったためとしている。
DOEは現在、これらの問題に対応中であり、2015年秋には操業再開に向けたスケジュール及び費用の見直しが完了する見込みとしている。
【出典】
- エネルギー省(DOE)カールスバッド・フィールド事務所(CBFO)、「WIPP更新情報:WIPPの操業再開のスケジュール変更を公表」(2015年7月31日)
http://www.wipp.energy.gov/Special/WIPP%20Update%2007_31_15.pdf
【2016年6月3日追記】
米国のエネルギー省(DOE)カールスバッド・フィールド事務所(CBFO)は、2016年6月2日に、廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)での安全性解析報告書(Documented Safety Analysis, DSA)の対応を完了し、模擬廃棄物容器を用いたコールドによる操業(以下「コールド操業」という)について、2016年6月1日から8週間の予定で開始したことを公表した。WIPPは、火災事故及び放射線事象が2014年2月に発生 して以来、現在まで操業が停止されており、コールド操業は公式の操業準備審査(ORR)前において、作業員の習熟・装備類の検証を行うことが目的とされている。
今回のコールド操業の前提となっている安全性解析報告書(DSA)は、WIPPの管理・操業契約者により策定され、2016年4月29日に、DOEカールスバッド・フィールド事務所により承認されていた。DSAでは、火災や爆発、放射性物質漏出など7種類の事象を解析・評価した上で、安全要件の設定などが行われている。DSAの実施については、2016年5月29日に完了が確認されていた。
コールド操業は、机上演習、現場調査、綿密に計画された手順での実施作業など、段階的なアプローチで実施され、作業員が習熟するまで実施される。また、ランダムな中断や異常事態等への対応などの緊急時対応の訓練も実施される他、暫定的に設置された換気システムを含む機器・装備類の検証なども行われる。
コールド操業の完了後は、管理・操業契約者による自己評価の実施後、DOEカールスバッド・フィールド事務所と管理・操業契約者による公式の操業準備審査(ORR)が実施される。操業準備審査で確認された問題点への対応が完了し、ニューメキシコ州環境省(NMED)による規制審査、承認を得ることにより、管理・操業契約者によるWIPPにおける実際のTRU廃棄物の定置の再開をDOEが承認できることとなる。
【出典】
- エネルギー省(DOE)カールスバッド・フィールド事務所(CBFO)、廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)復旧情報のウェブサイト(2016年6月2日、「WIPP更新情報:安全性解析報告書(DSA)の実施完了とコールド操業の開始」掲載)
http://www.wipp.energy.gov/WIPPRecovery/recovery.html - 廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)安全性解析報告書(DSA)(改定5b版)
- エネルギー省(DOE)カールスバッド・フィールド事務所(CBFO)、廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)安全性解析報告書(DSA)承認の安全性評価報告(SER)
http://www.wipp.energy.gov/Special/SER_DSA_Rev_5.pdf - エネルギー省(DOE)カールスバッド・フィールド事務所(CBFO)、「WIPP更新情報:安全性解析報告書(DSA)の承認」(2016年5月3日)
http://www.wipp.energy.gov/Special/WIPP%20Update%205_3_16.pdf
(post by inagaki.yusuke , last modified: 2023-10-11 )