Learn from foreign experiences in HLW management

《スイス》ENSIが地球科学的調査を実施せずに予備的安全評価が可能と判断

スイスの連邦原子力安全検査局(Eidgenössisches Nuklearsicherheitsinspektorat, ENSI)は、2014年8月28日付プレスリリースにおいて、サイト選定の第2段階の作業項目である「予備的安全評価及びサイトの比較」を実施する上で、現時点で放射性廃棄物管理共同組合(Nationale Genossenschaft für die Lagerung radioaktiver Abfälle, NAGRA)が有している地質学的知見は必要な水準に達しているとの判断を示した。これは、NAGRAが2010年11月に地質学的知見の充足度について取りまとめた報告書1 をENSIに提出し、この報告書を審査したENSIが2011年3月にNAGRAに対して41項目の補足を要求する報告書2 を提出していたことに対応したものである。ENSIは、NAGRAからの説明を受けるために専門家が参加する会議を開催し、それに対する専門家からの肯定的な意見を得た上で、一部に最終的な判断を保留する項目があるものの、補足を要求した41項目について、NAGRAが有している地質学的知見がサイト選定の第2段階での予備的安全評価及びサイトの比較の実施に必要な水準に達していることを確認したとしている。

~専門家会議を通じた地質学的知見の検証~

2011年3月にENSIが地質学的知見に関する41項目の補足をNAGRAに要求した後、2011年6月に、地層処分場のサイト地域を含む州の機関である州安全ワーキンググループ(AG SiKa)3 及び州安全専門家グループ(KES)4 、ならびに連邦評議会5 設置の諮問機関である原子力安全委員会(KNS)6 は、NAGRAの地質学的知見の水準に対するENSIの判断を検証する機会を設ける必要性があるとの見解を示した。

こうした意見を受けてENSIは、2013年3月から2014年7月にかけて、スイスの連邦、州ならびに隣国ドイツからの専門家が参加する専門家会議(Fachsitzung)を計11回開催して、NAGRAの地質学的知見の水準に対するENSIの判断を検証した。NAGRAは、専門家会議の場で、ENSIが要求した地質学的知見に関する41項目の補足について、今後十分に調査を行えるだけの知識やノウハウを有していることを説明した。

ENSIが開催した専門家会議の参加組織は以下の通りである。

  • 州安全ワーキンググループ(AG SiKa)
  • 州安全専門家グループ(KES)
  • 連邦エネルギー庁(Bundesamt für Energie, BFE)
  • 連邦原子力安全検査局(ENSI)
  • 地層処分場専門家グループ(EGT)
  • 原子力安全委員会(KNS)
  • ドイツ連邦環境・自然保護・建設・原子炉安全省(Bundesministerium für Umwelt, Naturschutz, Bau und Reaktorsicherheit, BMUB)

専門家会議の最終会合において、地層処分場専門家グループ(EGT)7 、原子力安全委員会(KNS)、州安全ワーキンググループ(AG SiKa)、州安全専門家グループ(KES)は、地質学的知見の水準の判断に至る経過や、十分な地質学的知見を有するという専門家会議の結論について、肯定的な見解を示し、サイト選定の第1段階当時と比較して、NAGRAの地質学的知見の水準が顕著に向上したとの見解を示している。

専門家会議の結論を受け、連邦原子力安全検査局(ENSI)は、連邦エネルギー庁(BFE)に対して、NAGRAによる地質学的知見に関する41の補足項目についての審査結果を報告した。この報告においてENSIは、補足事項に関する地質学的知見の水準の検証作業は十分に慎重かつ遺漏なく行われたと述べている。

~「予備的安全評価及びサイトの比較」の実施に向けて~

連邦原子力安全検査局(ENSI)は2014年8月28日付プレスリリースにおいて、サイト選定の第2段階の実施に必要な水準に達しているとの判断を示したものの、先にENSIが補足を要求していた41項目のうち必要な水準を完全に満たしているのは10項目であり、その他31項目についてはサイト地域の提案が今後詳細に検討されるまでは最終判断を保留するとしている。また、ENSIはNAGRAに対し、サイト選定の第2段階での実施内容について報告書を作成するにあたっては、専門家会議での指摘事項や補足事項を考慮するよう要求している。

サイト選定の第1段階で選定された地質学的候補エリアについて、サイト選定の第2段階では7カ所の地上施設の設置区域が選定されており、今回の連邦原子力安全検査局(ENSI)の確認によって、予備的安全評価及び候補として検討されているサイトの比較に向けた環境が整っている。予備的安全評価とサイトの比較の実施後、2カ所以上の候補サイトが選定されるが、連邦エネルギー庁(BFE)は、NAGRAがBFEへ候補サイトを提案するのは2015年初頭となる見込みとしている。その後ENSIが2016年初頭にかけて、NAGRAの提案及び関連文書を詳細に審査し、見解を取りまとめる見込みである。

 

【出典】

 

  1. NAGRA、技術報告書10-01「特別計画第2段階における予備的安全評価のための地質学的知見の評価 補完的な地質学的調査の必要性の検討」、2010年10月、
    http://www.nagra.ch/data/documents/database/dokumente/%24default/Default%20Folder/Publikationen/NTBs%202001-2010/NTB%2010-01.pdf []
  2. ENSI、NAGRA技術報告書10-01「特別計画第2段階における予備的安全評価のための地質学的知見の評価」に対する見解(2011年3月)
    http://static.ensi.ch/1314197404/ensi_33_115.pdf []
  3. 州安全ワーキンググループ(Arbeitsgruppe Sicherheit Kantone, AG SiKa)は、一つまたは複数のサイト地域を含む州に対する安全性の評価を実施・調整する。 []
  4. 州安全専門家グループ(Kantonale Expertengruppe Sicherheit, KES)は、安全性に関する資料の評価において州を支援し、助言する。 []
  5. 日本の内閣に相当する。 []
  6. 原子力安全委員会(Eidgenössische Kommission für nukleare Sicherheit, KNS)は、ENSI、環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)、連邦評議会に対して安全性に関する重要な問題に関して助言する。 []
  7. 地層処分場専門家グループ(Expertengruppe Geologische Tiefenlagerung, EGT)は、地層処分場に関する地球科学的問題及び建設技術的な問題でENSIに助言する。 []

(post by yamamoto.keita , last modified: 2023-10-11 )