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英国政府が放射性廃棄物管理に関する白書を公表 - 地層処分場選定プロセスに関心を示す自治体の募集を開始

英国政府の環境・食糧・農村地域省(DEFRA)は、2008年6月12日にウェブサイトにおいて、放射性廃棄物管理に関する白書「放射性廃棄物の安全な管理-地層処分の実施に向けた枠組み」を公表した。同白書については、地層処分による高レベル放射性廃棄物等の長期管理に関する英国政府の枠組みを、中間貯蔵や研究開発も含めて示すことが目的とされている。

また、DEFRAが同日付で公表したプレスリリースによると、英国政府は白書で示された地層処分場選定プロセスの第一段階として予定している政府との協議に参加する将来の処分場の受け入れの可能性のある自治体の募集を同日より開始した。なお、この初期段階での協議への参加について、自治体には将来の処分場の受け入れに関する責任はない。

環境・食糧・農村地域省(DEFRA)のプレスリリースによると、公表された白書は、地層処分場の設計・実現に向けた技術的なプログラム、及びサイト選定において適用される手続きと基準を示すものとされている。また、地層処分場の計画と開発における4つの重要な柱として、実施主体である原子力廃止措置機関(NDA)、規制機関である保健安全執行部(HSE)・イングランドとウェールズの環境規制機関(EA)・民間原子力安全保障局(OCNS)、放射性廃棄物管理委員会(CoRWM)及び地元自治体とのパートナーシップが示されている。

また、公表された白書では、以下の点を含む地層処分の将来的な実施のための枠組みが規定されている。

  • 英国放射性廃棄物インベントリ(UKRWI)の作成・改訂、及び将来の地元自治体との議論の基礎としてのUKRWIの使用に関するアプローチ
  • 地層処分場開発における原子力廃止措置機関(NDA)の技術的アプローチ(段階的な事業実施アプローチ、及び実現を支援する進行中の研究開発の利用を含む)
  • 地層処分場の開発に対して信頼できる規制、監督及び管理を確実にするための調整
  • 地層処分プログラムの進展に伴う、関連する計画手続きの扱い
  • サイト選定手続きにおける「自治体」の定義
  • 公募及び自治体への情報提供のための手続き
  • 自発性によるアプローチを支援するためのパートナーシップ方式の利用法
  • 自発性及びパートナーシップアプローチの一環としての「関与のパッケージ」及び「自治体の利益のパッケージ」による妥当で価値のある金銭の使用
  • 地質環境に関する初期スクリーニングの基準、及び政府による同基準の適用法
  • 候補サイトの評価に関する修正された基準、及び同基準の適用法に関する今後の公衆協議についての詳細

なお、「関与のパッケージ」とは、パートナーシップ参加の費用を賄うための資金提供(主な資金提供者は英国政府)であり、具体的な事例として、広報活動費、パートナーシップに掛かる諸経費(人件費や管理費等)、サイト選定プロセスへの参加費等が挙げられている。また、「自治体の利益のパッケージ」とは、端的には地域振興策であるが、具体的な事例としては、地域への投資(トレーニングや教育等)、地域のサービス産業の事業拡大、公共サービス(インフラやレクリエーション設備等)の改善等が挙げられている。これらは、今後の協議の進展とともに地域社会、NDA及び政府の間で具体化されるべきとしている。

さらに白書では、地層処分場選定プロセスの段階を次のように規定している。

  • 第1段階:公募の開始、自治体からの関心表明の受け入れ(本段階は、自治体が将来の処分場の受け入れに関する責任を持たずに政府と心を開いて検討を行う段階と位置付けられている)
  • 第2段階:不適格な地域を判断するための初期スクリーニングの実施(不適格な場合は自治体にその旨が通知される:初期スクリーニングの基準は下表参照)
  • 第3段階:参加決定を行うための自治体での検討(検討後の自治体の参加決定は、この段階以降のサイト選定プロセスに公式の責任を有すると見なされる)
  • 第4段階:参加地域に関する机上調査の実施
  • 第5段階:好ましいサイトを特定するための残された候補地域での地表からの調査の実施(政府はこの調査の後に好ましい1つのサイトを決定して次の段階に移行する。この政府の決定の前まで、自治体には撤回の権利が保持される。)
  • 第6段階:サイトの適性を確認するための地下での調査の実施

なお、今回の白書は、2006年10月に英国政府が行った高レベル放射性廃棄物等の長期管理方針の決定に基づき、公衆協議等を経て策定されたものである。

一方、処分事業の実施主体である原子力廃止措置機関(NDA)は、2008年6月12日付のプレスリリースで、地層処分の研究開発戦略についての提案文書を公表し、意見募集を開始したことを明らかにした。また、NDAは同日付のプレスリリースで、英国の放射性廃棄物インベントリの最新版である2007年版を公表したことも明らかにした。

除外基準として提案されるか 理由/説明及びコメント
天然資源
石炭 提案する 資源が100m以上の深さにある場合のみ深度に対する侵入のリスク
石油及びガス 提案する 深度に対する侵入のリスク
油頁岩 提案する 深度に対する侵入のリスク
工業鉱物(蒸発残留岩を除く) 提案しない 低い資源価値-深部での経済開発の可能性を制限
蒸発残留岩 提案しない 広域分布-除外を正当化するには不十分な資源損失及び侵入リスク
金属鉱石 一部の鉱石 深部(100m以上)で採鉱された場合のみ侵入のリスク
大規模岩石資源 提案しない 深部では開発されない
廃棄物の処分/ガス貯蔵 提案する 深度100m以上で確定または承認されている場合のみ
地熱エネルギー・浅部熱資源 提案しない 深部では開発されない
地熱エネルギー・深部岩体または地下水からの低品位熱抽出 提案しない 事前の一般的除外基準ではない-現在は開発の価値が推測のレベル
地下水
帯水層 提案する 地層処分施設の全体または一部が帯水層内にある場合
浅部透水性地層 提案する 地層処分施設の母岩の全体または一部が将来合理的に開発され得る透水性地層である
深部透水性含塩層 提案しない 地下水資源としての開発の可能性がない
開発可能な地下水周辺の地層 提案しない 母岩の量が廃棄物の長期隔離に適切である場合
特定の複雑な水文地質学的環境 提案する 深部カルスト地形及び温泉の原岩として知られている
地質学的安定性
地震及び断層 提案しない サイトに対する潜在的影響を後に評価
隆起及び侵食 提案しない 地層処分施設の深度と設計に対する影響及び極端な場合は後段でのサイト除外
その他の地質災害 提案しない プロセス後段でサイト固有のリスク評価が要求される
地質工学的問題
地圧及び工学的問題 提案しない 後段でサイトの詳細データ入手時に評価
その他の地下基準
特定の複雑な地質環境 提案しない この段階で除外する必要なし
その他の地質及び水文地質学的特性 提案しない 現場の地質科学的調査段階でのみ必要

【出典】

  • 環境・食糧・農村地域省(DEFRA)他、白書「放射性廃棄物の安全な管理-地層処分の実施に向けた枠組み」、2008年6月 http://www.defra.gov.uk/environment/radioactivity/mrws/pdf/white-paper-final.pdf
  • DEFRA、2008年6月12日付プレスリリース、 http://www.defra.gov.uk/news/2008/080612a.htm
  • 原子力廃止措置機関(NDA)、2008年6月12日付プレスリリース、 http://www.nda.gov.uk/news/researchstrategy.cfm
  • NDA、2008年6月12日付プレスリリース、 http://www.nda.gov.uk/news/inventory2007.cfm

【2008年8月7日追記】

原子力廃止措置機関(NDA)の2008年8月6日のプレスリリースによると、白書「放射性廃棄物の安全な管理-地層処分の実施に向けた枠組み」に従って、NDAは次の2件の協議文書を公表し、公衆協議を開始した。公衆の見解は、2008年11月30日まで受け付けられる。

  • 地層処分に向けた公衆・ステークホルダーの関与とコミュニケーションの枠組みに関する協議文書
  • 地層処分のための持続性評価及び環境評価の枠組みに関する協議文書

・原子力廃止措置機関(NDA)、2008年8月6日付プレスリリース、http://www.nda.gov.uk/news/consultation-gdf-aug08.cfm

【2009年7月24日追記】

原子力廃止措置機関(NDA)は、2009年7月21日、自身のウェブサイトにおいて次の2件の報告書を公表した。これらの報告書の協議文書については、2008年8月から11月まで公衆協議が行われていた(2008年8月7日付追記参照)。今回公表された報告書は、公衆協議で寄せられた意見を考慮し策定されたものである。

  • 地層処分-公衆・ステークホルダーの関与とコミュニケーションの戦略
  • 地層処分-持続性評価及び環境評価の戦略

「地層処分-公衆・ステークホルダーの関与とコミュニケーションの戦略」では、NDAの公衆・ステークホルダーの関与とコミュニケーションを進展させるためのアプローチや様々なステークホルダーを関与させるためのアプローチなどが示されている。また「地層処分-持続性評価及び環境評価の戦略に関する報告書」では、地層処分の実施のためのオプションを評価の中でどのように考慮するのか、NDAは評価の各段階においてどのようにステークホルダーと関わっていくのかなどが示されている。

【追記部出典】

  • 原子力廃止措置機関(NDA)ウェブサイト、http://www.nda.gov.uk/
  • http://www.nda.gov.uk/documents/upload/Geological-Disposal-A-Public-and-Stakeholder-Engagement-and-Communications-Strategy-July-2009.pdf
  • http://www.nda.gov.uk/documents/upload/Geological-Disposal-A-Strategy-for-Sustainability-Appraisal-and-Environmental-Assessment-July-2009.pdf

(post by 原環センター , last modified: 2010-07-29 )