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スウェーデン議会(国会)は2020年6月10日に、政府が提出してした法改正パッケージ案「原子力活動に関する国の責任の明確化」(Ett förtydligat statligt ansvar för visa kärntekniska verksamheter)を可決した。法改正パッケージの可決にともなって、2020年11月1日に発効する改正原子力活動法においては、原子力活動の安全に関する責任を果たすことができる者がいない場合、その責任が国に移管される旨が規定された。また、使用済燃料や放射性廃棄物の地層処分場の閉鎖は、政府の許可が必要な許認可プロセスの一つとして位置づけられた。さらに、地層処分場が閉鎖された後は、政府が定める機関が必要な対応を行う旨が規定された。

■法改正の背景

スウェーデン政府(環境省)は、2017年に原子力活動調査委員会を設置し、法制度の見直しを進めていた。当時、スウェーデンの原子力発電事業者は、経済的理由から2020年までに原子炉4基を早期に運転終了する計画を公表しており、政府は、閉鎖された原子力施設の廃止措置や放射性廃棄物の処分を安全に行う責任と、それらの活動に要する資金確保の責任とを区別して明確化する必要があると考えていた。また、スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB社)が2011年3月に提出した使用済燃料処分場の立地・建設許可申請書等の審査が進むなか、政府は、地層処分場の「段階的な許認可」(step-wise licensing)手続きを法律において規定する必要性を認識していた。

2019年4月に原子力活動調査委員会は、調査報告書(SOU 2019:16)の中で、スウェーデンが締約国となっている原子力安全条約や放射性廃棄物等安全条約の義務を履行するため、原子力活動に係わる国の副次的責任(subsidiary responsibility)を明示的に国内法に反映するとともに、国の究極的な責任(ultimate responsibility)として、地層処分場の閉鎖後の責任を国に移管する規定を設けるよう提案した。原子力活動調査委員会は、現行の原子力活動法の規定内容は維持するものの、制定から35年の間に30回以上の改正を行った法律を刷新すべきものとして、法律を全面改正するよう提案していた。この提案を受けた環境省は、大幅な法改正を伴わない法改正パッケージ案を検討し、2020年4月16日に国会に提出していた。今回成立した法改正パッケージは、原子力活動法の他、環境法典及び原子力活動に伴って発生する残余生成物の取り扱いのための資金確保措置に関する法律(資金確保法)の一部を改正するものである。

今回の法改正により、SKB社の使用済燃料処分場の立地・建設許可申請書等に関して、環境法典に基づく審理を実施していた土地・環境裁判所が2018年1月に政府に宛てた審査意見書で指摘した「処分場の閉鎖後における責任の所在を予め明確にする必要性」への対応が整ったことになる。使用済燃料処分場の建設予定地があるエストハンマル自治体は、同自治体が最終的な責任を負うことに対して反対していた。

今回の法改正を受けてSKB社は2020年6月11日付けのプレスリリースにおいて、使用済燃料処分場と短寿命の放射性廃棄物処分場(SFR)が立地するエストハンマル自治体にとって、これらの処分場の閉鎖後の責任の所在を明確にすることは重要な問題であったと指摘するとともに、SKB社にとって、処分場の責任を国に移管するために必要な条件が今後整備されることが明確になったことを歓迎するとしたコメントを公表している。

【出典】

カナダの使用済燃料処分場のサイト選定プロセスに参画している2地域のうち、サウスブルース自治体で、処分場が立地する場合の将来ビジョン(まちづくり計画)を考える地域ビジョン・ワークショップが2019年12月から2020年2月にかけて計9回開催され、合計で144名の住民が参加した。サウスブルース自治体は、オンタリオ州南部に位置しており、人口は約5,600人である。サウスブルース自治体の地域連絡委員会は2020年5月27日に、地域ビジョン・ワークショップでの議論をまとめた報告書案をウェブサイトで公表し、ワークショップの参加者に限らず、広く住民からの意見を募集している。意見募集の期間は2020年6月30日までとなっている。

■サウスブルース自治体での地域ビジョン・ワークショップ

今回の地域ビジョン・ワークショップは、カナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)の使用済燃料処分場プロジェクトに対して、サウスブルース自治体住民がどのように思っているのかを住民間で共有する機会をつくり出し、住民の考えや期待を探ることを目的として開催された。ワークショップの企画・運営のため、外部コンサルタント会社2社、サウスブルース自治体とNWMOの各代表で構成される合同チームが組織された。全9回のワークショップへ各回の参加者は10~30名であり、最初の2回を自治体議会と行政職員を対象に試験的に開催した後、続く6回を住民参加のワークショップ、最後の1回が若年層(中学生及び高校生)を対象としたワークショップとしている。ワークショップ参加者は、以下の3つの話題について少数のグループに分かれて議論した。

  1. NWMOの使用済燃料処分場プロジェクトが重視すべきこと、目標とすべきこと
  2. 同プロジェクトについて不安に思うこと、知りたいこと
  3. サイト選定プロセス第4段階において、技術的安全性と地域社会の福祉面の評価を目的として建設が予定されている「専門技術センター」のデザインや活動についての意見

地域ビジョン・ワークショップの報告書案では、サウスブルース自治体の住民参加者は、地域の住民と環境の安全・セキュリティ確保が大前提であるという認識のもと、サウスブルース自治体が優先すべき最重要事項として、使用済燃料処分場プロジェクトの全体を良く知り、地域にとってのメリットとデメリットを理解することが不可欠であると考えていることを明らかにしている。その上で、サウスブルース自治体の福祉と係わる将来ビジョンづくりの取組において、住民が重視する事項として寄せられた様々な意見について、①地域のインフラ、②人(人口変動や住民にとっての魅力)、③文化、④地域経済、⑤自然環境の5つの観点で整理している。参加者が表明した意見が正しいか、誤っているかといった区別はせず、どのような意見も貴重なものであるとして記録している。

■サウスブルース自治体でのサイト選定プロセスの経緯

カナダの使用済燃料処分の実施主体である核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、2010年から9つの段階で構成されるサイト選定プロセスを開始している。サウスブルース自治体は、オンタリオ州南部のブルース郡に属する自治体であり、ブルース郡のキンカーディン自治体には、ブルースパワー社が運転するブルース原子力発電所がある。サウスブルース自治体を含むブルース郡内の5自治体は、2012年前半にNWMOに対して「知識を深めることの関心表明」を順次行っていた。これら5自治体でサイト選定プロセス第3段階第1フェーズの机上調査が行われ、その結果から2014年12月にNWMOが3自治体を除外した 

NWMOは2019年5月に、サウスブルース自治体とヒューロン=キンロス・タウンシップにおいて、サイト選定第3段階第2フェーズのフィールド調査の実施に向けて、土地所有者の許可を得るために「土地アクセスプロセス」を公表した 。サウスブルース自治体内でのティーズウォーター・コミュニティ北西の土地の複数の所有者との合意に達したことを受けて、NWMOは2020年1月にヒューロン=キンロス・タウンシップを除外している 。NWMOは、2020年後半からサウスブルース自治体でボーリング調査を開始する予定である。

現在、カナダの使用済燃料処分場サイト選定プロセスは、オンタリオ州北部のイグナス・タウンシップと同州南部のサウスブルース自治体の2つに絞り込まれている。NWMOは、サイト選定における検討事項として、安全性を確保するための基準に加えて、地元自治体と地域の長期的な福祉の向上に関する要素を組み込んでいる。NWMOは、1カ所の好ましいサイトを2023年に特定する計画である 

《参考》カナダにおける核燃料廃棄物処分場のサイト選定プロセス

カナダにおける核燃料廃棄物処分場のサイト選定プロセス

【参考出典】『連携して進む:カナダの使用済燃料の地層処分場選定プロセス』(NWMO, 2010年)

 

【出典】

原子力規制委員会(NRC)は、2020年5月8日付けの連邦官報において、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社がテキサス州アンドリュース郡で計画している使用済燃料等の中間貯蔵施設について、建設・操業・廃止措置等に係るドラフト環境影響評価書(DEIS)に対するパブリックコメントの募集を開始することを告示した。NRCは、2020年5月6日付けのニュースリリースにおいて、DEISを公表するとともに、DEISに対するパブリックコメントの募集及びパブリックミーティングを開催することを公表していた。先に公表されたDEISにおいては、ISP社が計画している使用済燃料等の貯蔵による環境への影響は小さいとして、許認可発給を勧告するとしたNRCスタッフの評価が示されている。NRCスタッフは、パブリックコメントのレビューを行った上で、2021年5月までに、最終環境影響評価書(FEIS)を発行する予定としている。

DEISでは、ISP社が2018年6月8日及び7月19日付けでNRCに提出した中間貯蔵施設の許認可申請書の改定2版(Revision 2)を踏まえて、プロジェクトの第1段階(Phase 1)として行われる5,000トンの使用済燃料等の貯蔵についての評価が行われている。ISP社は、全8段階で貯蔵プロジェクトを実施し、最終的には最大4万トンの使用済燃料等の貯蔵を行う計画である。NRCは、保守的な境界条件の下での解析(bounding analysis)を行うものとして、第2~8段階の実施を含む貯蔵プロジェクト全体についての評価も行っており、予測される環境影響は小さいとしている。

DEISは、500ページ近くに及ぶ文書となっており、2018年5月6日付けのNRCニュースリリースでは、DEIS本体のファイル、及び環境影響評価書(EIS)の読者ガイドへのリンクも掲載されている。読者ガイドでは、DEISの概要とともに、ISP社の中間貯蔵プロジェクトの概要、NRCの許認可審査手続きの概要などについても、図等を含めて示されている。

ISP社の集中中間貯蔵施設の建設予定サイト

DEISに対するパブリックコメントの募集は2020年9月4日までの期間1 で行われるものとされており、NRCは、パブリックコメントの募集と並行してパブリックミーティングやウェビナー(ウェブを活用したセミナー)も開催する予定としている。

ISP社の中間貯蔵施設については、テキサス州アンドリュース郡のウェイスト・コントロール・スペシャリスト(WCS)社の自社所有サイトで、WCSテキサス低レベル放射性廃棄物処分場に隣接する区画において、使用済燃料等の中間貯蔵施設の建設を計画するものである。WCS社は、2016年4月28日に、使用済燃料等の中間貯蔵施設の建設・操業に係る許認可申請書をNRCに提出していたが、WCS社の売却の動きなどもあり、WCS社とOrano USA社との合弁会社として設立されたISP社が、2018年6月8日に、中間貯蔵施設の許認可審査の再開をNRCに申請していた。WCS社サイトにおいては、エネルギー省(DOE)が環境影響評価を実施するなど、クラスCを超える(GTCC)低レベル放射性廃棄物(以下「GTCC廃棄物」という。)の処分に関する検討も行われており、NRCによるGTCC廃棄物処分の規制に係る検討が続けられている

【出典】

 

【2020年12月3日追記】

中間貯蔵パートナーズ(ISP)社がテキサス州アンドリュース郡で計画している使用済燃料等の中間貯蔵施設については、原子力規制委員会(NRC)が策定したドラフト環境影響評価書(DEIS)に対するパブリックコメントの募集が2020年11月3日まで実施された。コメント募集においては、施設の建設が計画されているテキサス州の知事に加え、隣接するニューメキシコ州の知事がそれぞれ、ISP社の中間貯蔵施設の建設・操業に反対するコメントを提出した。

テキサス州知事は、2020年11月3日付けで提出したコメントにおいて、NRCが策定したDEISは、テロリズムによるリスクを適切に評価していないこと、使用済燃料の地層処分場が建設されない場合には中間貯蔵施設で永久に貯蔵される可能性があるにも拘わらず評価を行っていないことを指摘するなど、DEISには不備があるとしている。特に、テロリズムについては、ISP社が建設を計画しているウェイスト・コントロール・スペシャリスト(WCS)社サイトが立地するテキサス州アンドリュース郡は世界最大の原油産出地域であるパーミアン盆地にあるため、テロリストの攻撃による被害が甚大であること、その影響の大きさもあってテロリストの主要な標的となり得ることなど、特異なリスクがあるため、DEISで示された一般的な評価では不適切であるとしている。

一方、隣接するニューメキシコ州の知事が2020年11月3日付けで提出したコメントにおいて、ISP社の中間貯蔵施設の建設が計画されているWCS社サイトはニューメキシコ州境から数百メートルに位置しており、ニューメキシコ州への影響が非常に大きいとした上で、中間貯蔵施設が事実上の恒久的な処分場となった場合の影響などの安全上の懸念がDEISでは適切に評価されていないこと、ISP社プロジェクトは大きな輸送リスクへの対応を資金提供なしにニューメキシコ州自治体に強いるものであること、ニューメキシコ州の経済に受容しがたいリスクがあることなどを指摘するなど、DEISは不適切であるとしている。

なお、NRCは、テキサス州知事に対しては2020年11月12日に、ニューメキシコ州知事に対しては2020年11月30日に、それぞれコメント受領を伝える書簡を送付し、最終環境影響評価書(FEIS)を準備する上で両知事のコメントを十分に配慮するとしている。

【出典】

 

【2021年7月30日追記】

米国の原子力規制委員会(NRC)は、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社がテキサス州アンドリュース郡で計画している使用済燃料等の中間貯蔵施設について、最終環境影響評価書(FEIS)を発行したことを2021年7月29日付けのニュースリリースで公表した。FEISでは、ISP社の中間貯蔵施設の建設・操業が環境に与える影響を評価した結果として、ISP社が提出した許認可申請書に係るNRCの安全審査の決定を条件として、ISP社の中間貯蔵施設の建設・操業に係る許認可の発給を勧告するとのNRCスタッフの結論が示されている。

ISP社の中間貯蔵施設の環境影響評価については、2020年5月にドラフト環境影響評価書(DEIS)がNRCから公表され、オンライン形式による4回のパブリックミーティングの開催を含め、パブリックコメントの募集が行われた。NRCは、FEISの策定に当って、約10,600人2 からパブリックコメントが提出され、それらを評価した。NRCは、FEISで示された許認可発給の勧告は、以下に基づくものと記している。

  1. 許認可申請書(ISP社の環境報告書及び補助文書、NRCの追加情報要求(RAI)に対する回答を含む)
  2. NRCスタッフと連邦・州・先住民族・地方組織との協議、及び一般公衆を含むその他のステークホルダーからの意見等
  3. NRCスタッフによる独立的な審査
  4. 本FEISで示されているNRCスタッフの評価

NRCの環境影響評価に係る連邦規則(10 CFR Part 51)では、NRCが環境保護庁(EPA)にFEISを提出し、EPAが連邦官報においてFEISの受領を告示してから30日間は、許認可の発給に係る決定を行うことはできないものと規定されている。NRCは、FEIS発行をISP社に伝える書簡の中で、許認可に係る決定は2021年9月末までに行う予定であることを伝えている。また、NRCは、許認可に係る決定を公表する際に、ISP社の許認可申請書の技術審査の詳細を示した最終安全性評価報告(FSER)を発行する。

【出典】


  1. NRCのパブリックコメントの募集期間は60日間とされることが多いが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を考慮して長期のコメント募集期間を設定するとして、120日間のコメント募集期間が設定されている。 []
  2. 文面が同一のものを集約したコメント数は約2,500件とされている。 []

ベルギーの放射性廃棄物管理の実施主体である放射性廃棄物・濃縮核分裂性物質管理機関(ONDRAF/NIRAS)は2020年4月15日に、高レベル放射性廃棄物及び長寿命の低中レベル放射性廃棄物の長期管理方法として地層処分を採用する方針を示した国家計画案とともに、地層処分に関する戦略的環境アセスメントレポート(以下「SEAレポート」という)を公表し、2020年6月13日までの予定で公衆からの意見聴取を開始した。

ONDRAF/NIRASとは、経済・エネルギー省の監督の下、ベルギー国内に存在するすべての放射性廃棄物を管理する役割を担う公的機関である。今回公表された国家計画案及びSEAレポートは、2006年2月13日付けの法律に基づいて作成されたものであり、作成された国家計画案とSEAレポートは、公衆からの意見聴取後に最終化して連邦政府に提出する予定である。なお、ベルギーでは、ONDRAF/NIRASが2011年9月に、高レベル放射性廃棄物及び長寿命の低中レベル放射性廃棄物の長期管理方針に関する国家計画とSEAレポートを連邦政府に提出し、国内の粘土層での地層処分を推奨するとの見解を示していたが、現在に至るまで国としての方針は決定していない状況であった。

今回公表された地層処分に関するSEAレポートにおいて、ONDRAF/NIRASは、高レベル放射性廃棄物及び長寿命の低中レベル放射性廃棄物の長期管理方法として地層処分を採用する理由を以下のように説明している。

  • 地層処分に代わる合理的な管理方法はない。
    安全確保や環境保護の観点から、高レベル放射性廃棄物及び長寿命の低中レベル放射性廃棄物を、最大で100万年程度の期間、人間や環境から隔離する必要がある。こうした廃棄物を地下深くに処分できるという国際的な合意がある。地層処分の方針を決めた各国においても、長期貯蔵を含む代替案を検討した上で、地層処分以外の方法は拒否されている。連邦原子力管理庁(FANC)も長期貯蔵を安全な管理方法として認めていない。
  • 国家計画の策定は、EU指令(2011年7月12日付け)において定められたベルギーの義務であり、これ以上先送りすべきではない。
    国家計画によって長期管理方法が決定されなければ、地層処分の実施やそのための研究が進捗しない。また、現在は一時的に使用済燃料が貯蔵1 されている原子力発電所等の立地地域の住民は、貯蔵期間が見通せないままとなる。
  • 国家計画を決定しないことで、環境へのマイナス影響が発生しうる。
    現行の一時的な貯蔵施設は、耐用期間を迎えた時点で別の施設にリプレースする必要がある。リプレースにはコストがかかるだけでなく、放射性廃棄物の移動が必要となるために、管理すべき廃棄物の量が増大する可能性がある。
  • 国家計画の決定を先送りしても、将来的により適切な国家計画を決定することはできない。
    高レベル放射性廃棄物及び長寿命の低中レベル放射性廃棄物の長期管理方法の政策決定に必要な知見は、ベルギーや世界中で蓄積されている。長寿命核種の分離・変換技術は、これらの放射性廃棄物に含まれる長寿命核種の量を低減する可能性はあるものの、産業レベルでの適用は困難である。

今回公表された国家計画案では、高レベル放射性廃棄物及び長寿命の低中レベル放射性廃棄物の国家計画の決定・実施プロセスとして、以下のような流れを規定している。

  • 長期管理方法の決定
  • 決定された長期管理方法を実施していくための意思決定プロセス、主要なマイルストーン、意思決定に関わる関係者の役割と責任の割当て
  • 決定された長期管理方法を実施する1カ所あるいは複数のサイトの決定

ONDRAF/NIRASは、高レベル放射性廃棄物及び長寿命の低中レベル放射性廃棄物の長期管理方法として地層処分が決定されれば、全ての関係者と協議するとともに、公衆との対話も行っていく考えを明らかにしている。

 

【出典】


  1. ベルギーでは、商用原子力発電所等から発生した使用済燃料は、再処理またはONDRAF/NIRASによる最終処分が実施されるまで、廃棄物発生責任者である事業者が安全に貯蔵する方針である。ただし、ベルギー政府は1998年に締結済みの再処理契約をキャンセルし、新たな再処理契約を結ばないことを決定している。 []

ドイツの放射性廃棄物処分の実施主体である連邦放射性廃棄物機関(BGE)は2020年3月27日、アッセⅡ研究鉱山からの放射性廃棄物回収計画を公表した。回収計画では、廃棄物の回収方法、新たに建設する中間貯蔵施設での貯蔵などを含む回収後の廃棄物の取り扱い、2033年に回収を開始するとしたスケジュールや費用見積りなどが示されている。BGEは今後、回収のための新たな施設建設に向けた土地取得を行うとともに、回収計画の詳細化などのために、規制機関や住民と対話を開始するとしている。

アッセⅡ研究鉱山では、放射性廃棄物処分に関する調査を目的として、1967年から1978年まで低中レベル放射性廃棄物が試験的に処分された。その後、地下水の流入などにより、岩塩から成る処分坑道の安定性が確保できなくなる可能性が示されたことから、2010年に処分された廃棄物を回収し、アッセⅡ研究鉱山を閉鎖することを決定していた

アッセⅡ研究鉱山からの放射性廃棄物の回収計画

アッセII研究鉱山では、深度511m、725m、750m付近に設けられている13の処分室に合計約4万7,000m3の放射性廃棄物が処分された(下図参照)。回収対象となる廃棄物量は、廃棄物周囲の汚染された岩塩屑などを含め最大約10万m3程度と見積られている。

BGEは、既存の鉱山の東側に、廃棄物の回収に用いる立坑(回収用立坑)を建設するとともに、地下に作業用の新たな坑道(回収用坑道)などを建設する計画である。

回収した廃棄物は地上に搬出して、新たに建設される廃棄物処理施設で特性評価した後、コンディショニングされる。その後、最終処分場が操業を開始するまで、廃棄物処理施設に併設される中間貯蔵施設で貯蔵される。この廃棄物処理施設及び中間貯蔵施設は、放射線防護の観点などから回収した廃棄物の移動距離を最小限にするため、アッセⅡ研究鉱山の地上施設の近辺に設置する計画である。

アッセII研究鉱山での回収用立坑や坑道の模式図

スケジュール及び費用

BGEは、2023年に回収用立坑等の建設を開始する予定である(下図参照)。また、廃棄物処理施設及び中間貯蔵施設については、詳細な設置場所を今後決定し、2033年までに操業可能とする計画である。さらに、これらの施設建設と並行して、制御不能な量の地下水流入などを想定した緊急時計画の策定も行われる。これらの廃棄物回収作業のための準備が整った後、2033年に回収を開始するとしている。なお、廃棄物回収作業の期間に関しては、具体的な終了時期は示されておらず、専門家の見積りとして数十年との期間が示されている。

アッセⅡ研究鉱山からの廃棄物回収のスケジュール

また、BGEは、2019年以降、2033年に廃棄物回収が開始されるまでの準備期間中にかかる費用の総額を約33.5億ユーロ(不確実幅±30%、約4,020億円、1ユーロ=120円で換算)と見積っている。内訳は、既存坑道の保全費用が9億ユーロ(約1,000億円)、回収用立坑の建設に2億ユーロ(約240億円)、その他地下施設の建設に5億ユーロ(約600億円)、地上の廃棄物処理施設の建設に4.5億ユーロ(約540億円)などとされている。

なお、アッセII研究鉱山から回収された放射性廃棄物の処分先に関しては、現在サイト選定法に基づく選定プロセスが進められている高レベル放射性廃棄物処分場とすることが検討されている

 

【出典】

カナダの使用済燃料処分の実施主体である核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、「適応性のある段階的管理」(APM詳細はこちら)の実施に関して、2020年から2024年までの5カ年の実施計画書をウェブサイトで公表した。NWMOは、毎年、今後5年間の行動計画をまとめた実施計画書を公表している。今回の実施計画書では、NWMOが1ヵ所の好ましいサイトの特定を予定している2023年以降のスケジュールが示されており、地層処分場の操業開始は2040年代前半となる見通しとなっている。なお、地層処分場のサイト選定プロセスは、2020年1月にオンタリオ州北部のイグナス・タウンシップと同州南部のサウスブルース自治体の2つに絞り込まれている 

2023年

  • 1カ所の好ましいサイトの特定
  • 輸送計画の枠組みの確定
  • 影響評価(impact assessment)におけるプロジェクトの説明文書の提出
  • サイト準備のための許可申請の提出

2024年

  • 詳細なサイト特性調査の開始
  • 影響評価調査結果の提出
  • 連邦政府の規制プロセスの開始
  • 専門技術センター建設開始の申請書の提出

2026年

  • 影響評価の承認(見込)
  • サイト準備のための許可の発給(見込)

2028年

  • 建設許可申請書の提出

2032年

  • 建設許可の発給(見込)

2033年

  • 設計と建設の開始

2040~2045年

  • 地層処分場の操業開始

■パートナーシップ構築への取り組み

NWMOは今後5年間の取り組みとして、従来設定していた7つの優先事項(工学技術、サイト評価、安全性、人材確保、許認可、パートナーシップ、輸送)を中心に活動計画を構成しているが、2019年版の実施計画書 で設定していた優先事項「公衆の関与」(engagement)は、今回の実施計画書では「パートナーシップ」に名称が変更された。

NWMOは、2018年に「先住民との和解の取り組みに関する宣言」(Reconciliation Statement)を制定しているほか、2019年にNWMOのマネジメントシステムにおいて、全てのNWMOスタッフが先住民の歴史や先住民の権利に関する国連宣言、条約などの教育等を受けることを義務づける「和解方針」(Reconciliation Policy)を定めた。この方針を反映して、NWMOは全ての優先事項の実施内容において、先住民族の知識と和解を反映させるとしている。

NWMOは今回の実施計画書において、地層処分場プロジェクトの実施に必要となる好意的かつ弾力性を備えたパートナーシップ(supportive and resilient partnership)を構築するために、プロジェクトに係わる自治体と協働するとし、以下の活動を行うとしている。

  • 地域がサイト選定活動に完全に参加するために必要なリソースを確保し、地域の関心を反映させ、プロジェクトを進めながら福祉を段階的に向上させる。
  • 影響評価(impact assessment)の構成要素としての社会的影響とベースライン調査を完了させる。
  • 核燃料の最終的な輸送の計画を含む「適応性のある段階的管理」(APM)の進捗状況について、カナダの原子力立地地域に説明する。
  • 以下との関係構築を図り、維持する。
    • サイト選定プロセスへの参加を選択した関心のある地域、その地域の先住民及びその周辺地域
    • APM及びサイト選定プロセスの進捗状況を共有するための国、州及び地域レベルに設立された先住民組織
    • 地方自治体が重要と考える観点をより良く理解し、協力してAPMを実施していくために協力する自治体連合体(複数州にまたがる連合体)
    • 連邦、州、地方自治体
    • 非政府組織及び市民社会全般
  • 先住民の居住地域の文化や言語、慣習、取り組みは多様であることを認識しつつ、先住民の有識者を含む潜在的に影響を受ける先住民との協力を続ける。
  • NWMOが2019年に策定した先住民との「和解方針」を実際の活動に反映させる。
  • 処分場立地の受け入れ意欲の評価計画(willingness assessment plan)を作成し、それを使用し最終的なサイト選定の決定を通知する。
  • より具体的に「社会的受容(social acceptance)」及び「喜んで受け入れる(willing host)」という用語を定義し、それらをどのように立証できるかを理解するため、サイト選定プロセスに関与する自治体、地域、先住民と協働する。
  • カナダの計画について、若年層を含むカナダ国民とカナダ先住民との間の認識を高めるための取り組みを継続する。
  • カナダの計画の詳細を共有するため、わかりやすい展示やコミュニケーションツール、マルチメディアの開発を続け、Webサイトとソーシャルメディアプラットフォームを通じてオンラインでの関与を拡大する。

【出典】

原子力規制委員会(NRC)は、2020年3月20日付けの連邦官報において、ホルテック・インターナショナル社(以下「ホルテック社」という。)がニューメキシコ州で計画している使用済燃料等の中間貯蔵施設について、建設・操業・廃止措置等に係るドラフト環境影響評価書(DEIS)に対するパブリックコメントの募集を開始することを告示した。NRCは、2020年3月10日付けのニュースリリースにおいて、DEISを公表するとともに、DEISに対するパブリックコメントの募集及びパブリックミーティングの開催を行う予定を公表していた。DEISでは、ホルテック社が申請した使用済燃料等の貯蔵が環境に与える影響は小さいとして、許認可発給を勧告するNRCスタッフの評価が示されている。NRCスタッフは、パブリックコメントのレビューを行った上で、2021年3月までに最終環境影響評価書(FEIS)を策定する予定としている。

具体的にDEISでは、NRCがホルテック社から2017年3月31日に受領した中間貯蔵施設の許認可申請書等を踏まえて、プロジェクトの第1段階(Phase 1)として行われる500基の乾式貯蔵キャスクによる約8,680トンの使用済燃料等の貯蔵について評価が行われている。ホルテック社は、20段階に分けて貯蔵プロジェクトを実施し、最終的には10,000基の乾式貯蔵キャスクで約10万トンの使用済燃料等の貯蔵を行う計画である。NRCは、保守的な境界条件の下での解析(bounding analysis)を行うものとして、第2~20段階の実施を含む貯蔵プロジェクト全体についての評価も行っており、見込まれる環境影響は小さいとしている。また、DEISでは、内務省(DOI)土地管理局(BLM)による評価に基づいて、中間貯蔵施設への鉄道支線の建設及び運行に対して許認可発給を勧告するとのNRCの意見も示されている。

DEISは、500ページ近くに及ぶ文書となっており、NRCウェブサイトのホルテック社集中中間貯蔵施設のページでは、DEIS本体のファイルや連邦官報告示へのリンクとともに、環境影響評価書(EIS)の読者ガイドも公表されている。本読者ガイドでは、DEISの概要とともに、ホルテック社の中間貯蔵プロジェクトの概要、NRCの許認可審査手続きの概要などについても、図等を含めて示されている。

ホルテック社の集中中間貯蔵施設の建設予定サイト

なお、ホルテック社の中間貯蔵施設は、ニューメキシコ州南東部のエディ郡、リー郡、カールスバッド市及びホッブズ市の4自治体から構成されるエディ・リー・エナジー・アライアンス(ELEA)のサイトでの建設を計画するものであり、ニューメキシコ州環境省(NMED)も、NRCとの協定を締結して協力機関(cooperating agency)として位置付けられている。NMEDは、EISの策定において、水資源に関する問題でNRCスタッフと協力しているほか、DEISの草案段階でコメントも提出していた。NRCは、NMEDのコメントに対応した上でDEISを策定したとしている。

DEISに対するパブリックコメントの募集は2020年5月22日までの期間で行われるものとされ、NRCは、パブリックコメントの募集と並行してパブリックミーティングも開催する予定としている。

【出典】

 

【2021年4月2日追記】

米国のニューメキシコ州は、2021年3月29日に、ホルテック・インターナショナル社(以下「ホルテック社」という。)がニューメキシコ州で計画している使用済燃料の中間貯蔵施設 等の建設・操業に係る許認可審査手続の中止などを求めて、原子力規制委員会(NRC)などを提訴した。ニューメキシコ州司法長官の同日付けのプレスリリースにおいて、ニューメキシコ地区連邦地方裁判所に提出した訴状が公表された。ニューメキシコ州の訴訟は、ホルテック社が計画する中間貯蔵施設に加えて、中間貯蔵パートナーズ(ISP)社がテキサス州アンドリュース郡で計画している中間貯蔵施設についても、許認可審査手続の中止等を求めるものとなっている。

ニューメキシコ州の訴状では、以下の確認判決及び差止めの仮処分が請求されている。

  • NRCによる中間貯蔵施設の許認可発給について、1954年原子力法や1982年放射性廃棄物政策法(1987年修正)で規定された権限を越えるものであるとの確認判決
  • NRCによる中間貯蔵施設の許認可発給について、違法で資金提供なしに連邦義務を課すものであるとの確認判決
  • ホルテック社が中間貯蔵施設の建設を計画している土地について、石油・ガス、農業資源等の公共信託における権益を州が有していることの確認判決
  • ニューメキシコ州への回復不可能な損害を防止するため、中間貯蔵施設の許認可審査手続を差止める仮処分命令

ニューメキシコ州では、ホルテック社の中間貯蔵施設に係るドラフト環境影響評価書(DEIS)に対しても、ニューメキシコ州知事やニューメキシコ州環境省(NMED)などから反対するコメントが提出されており、今回の訴訟は、その一環の行動と見られる。2020年9月22日付けのニューメキシコ州知事のコメント文書では、中間貯蔵施設が事実上の恒久的な処分場となった場合の影響などの安全上の懸念がDEISでは適切に評価されていないこと、中間貯蔵施設建設は大きな輸送リスクへの対応等を資金提供なしにニューメキシコ州自治体に強いるものであること、石油・天然ガス資源等への影響を含めてニューメキシコ州の経済に受容しがたいリスクがあることなど、今般の訴状と同様の指摘が表明されていた。ニューメキシコ州知事は、隣接するテキサス州のISP社の中間貯蔵施設に係るDEISについても、同様のコメントを提出していた

なお、ホルテック社が計画する中間貯蔵施設の許認可審査については、2021年3月までに安全審査が完了する予定が示されていたが、NRCによる追加情報要求(RAI)に対するホルテック社の回答が不十分であるなどとして、スケジュールは遅延することが2021年3月25日付けのNRCの書簡で通知されている。NRCは、2021年4月に第2回のRAIを出す予定であるが、ホルテック社の回答が確認されるまでは改定スケジュールは発出しないことを表明している。

【出典】

 

【2021年7月7日追記】

原子力規制委員会(NRC)は2021年7月2日に、ホルテック・インターナショナル社(以下「ホルテック社」という。)宛に書簡を送付し、ホルテック社によるニューメキシコ州での使用済燃料の集中中間貯蔵施設 の建設・操業に係る許認可申請について、審査スケジュールを改定したことを通知した。NRCの書簡で示されたスケジュールによれば、これまで2021年7月と見込まれていた安全性・セキュリティ・環境の審査全体の完了は、2022年1月に先送りになる。

ホルテック社による集中中間貯蔵施設の建設・操業に係る許認可審査については、NRCによる追加情報要求(RAI)の発出及びホルテック社によるRAIへの対応、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によるドラフト環境影響評価(DEIS)に対するコメント募集期間の延長などにより、数次にわたってスケジュールが改定されてきた。下表は、NRCスタッフによる安全審査の完了となる最終安全評価書(FSER)の発行、及び環境審査の完了となる最終環境影響評価書(FEIS)の発行に係るスケジュールについて、許認可申請書の受理当時の当初スケジュールからの改定状況を示したものである。

決定/改定日 最終安全評価書
(FSER)
最終環境影響評価書
(FEIS)
備考

2018年2月28日

2020年7月

2020年7月

許認可申請書の受理決定時の当初想定

2019年7月1日

2021年3月

2021年3月

追加情報要求(RAI)の発行/回答状況を考慮して改定

2020年9月22日

2021年5月

2021年7月

感染症の影響によるコメント募集期間の延長などを受けて改定

2021年7月2日

2022年1月

2021年11月

今回、安全性関連の2巡目のRAIへの対応を考慮して改定

【出典】

 

英国の地層処分事業の実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM社)は、2020年2月18日に、イングランドにおける地層処分施設(GDF)の候補サイトの評価方法を示した文書(以下「サイト評価方法書」という)を公表した。また、同日に、土地利用制度等が異なるウェールズ向けのサイト評価方法書も公表した1 。サイト評価方法書は、地層処分施設の「立地要因」と各立地要因の「評価項目」を示したものであり、今後、地層処分施設のサイト選定プロセスが進むにつれて、それらがどのように組み合わされ、適用されていくのかを分かりやすく説明することを目的としている。
サイト評価方法書の公表に先立ちRWM社は、2018年12月及び2019年1月に、イングランドとウェールズにおいて公衆協議を実施していた 。RWM社は、公衆協議で90件の意見書で寄せられた約800件のコメントを反映して、サイト評価方法書の目的を明確化にし、表現をわかりやすく改めたほか、特に複数サイトの比較評価(comparative assessment)に関する説明を充実したとしている。

■地層処分施設の「立地要因」と「評価項目」

RWM社は、地層処分施設の立地において検討すべき「立地要因」として、①安全とセキュリティ、②コミュニティ、③環境、④工学的成立性、⑤輸送、⑥支払いに見合った価値(Value For Money)2 の6つを設定している。これらの立地要因について検討すべき内容を明確にするため、それぞれの立地要因ごとに2~7つに細分化した「評価項目」を設定している。

立地要因(Siting Factor) 評価項目(Evaluation consideration)
①安全とセキュリティ
(Safety and Security)
・サイト調査期間中の安全
・建設期間中の安全
・操業期間中の安全
・閉鎖後の安全
・マネジメント要件
・セキュリティ
・保障措置
②コミュニティ
(Community)
・コミュニティの福祉
・社会
・経済
・健康
・地元コミュニティのビジョン
③環境
(Environment)
・環境影響
・生息地と種の保護
④工学的成立性
(Engineering Feasibility)
・柔軟性
・調査可能性
・設計・建設可能性
・処分インベントリ
・持続可能な設計
・廃棄物の調整とパッケージ
・回収可能性
⑤輸送
(Transport)
・輸送の安全
・輸送のセキュリティ
・輸送への影響
⑥支払いに見合った価値
(Value For Money)
・ライフタイムのコストと価値
・廃棄物の処分スケジュール

■サイト選定プロセスの進行とサイト評価の関係

サイト選定の概略図サイト選定の概略図
(出典:RWM, 協議文書「サイト評価方法案」(2018)の図を一部修正)

RWM社は今後、英国政府の2018年12月の政策文書である『地層処分の実施-地域社会との協働:放射性廃棄物の長期管理』(以下「2018年政策文書」という)で示されたサイト選定プロセスに沿って、以下のように評価を進めていくとしている。

  • 今後、複数の地域社会(コミュニティ)がサイト選定プロセスに参加するタイミングは異なると予想しており、RWM社は、それぞれの地域社会の希望にあわせて参加できるように協力して作業を進めていく。
  •  初期対話(initial discussion)の期間:GDFの設置に関心を示す人々などとの初期対話の段階では、地質学的スクリーニング等の既存情報をもとに「安全性」に焦点をあてた評価を実施することになる見通しである。この段階では、容易に入手できる情報のみを評価に使用する。
  • ワーキンググループとの活動期間: RWM社、関心を示す人々の他、独立したグループ長とファシリテータを加えた準備組織「ワーキンググループ」が「調査エリア」(Search Area)を特定する段階では、調査エリアについて、当該地域の特性や特徴、また、地域の課題を理解するための情報を収集し、GDF設置の潜在的な適合性を評価する。この段階では、容易に入手できる情報のみを評価に使用する。
  • パートナーシップの活動期間:当該コミュニティにおける情報共有、地層処分・サイト選定プロセス・地域の便益に関する対話と理解を促進するためにコミュニティパートナーシップが設置された段階で、初めて調査エリアに関する新たな情報を収集するための調査が開始される。当初の「サイト調査」では、空中物理探査のような地上からの調査のみが行われる。
  • サイト調査からサイト特性調査への移行期間:現在のサイト選定プロセスでは、サイト調査終了後、ボーリング調査などを行う「サイト特性調査」が行われる。英国では、ボーリング調査を行う前に、2008年計画法に基づく開発同意令(DCO)と環境許可が必要となる。RWM社は、開発同意申請を行うため、サイト調査などで得られた情報を用いて評価を行う。この評価では、サイト評価方法書で提示された立地項目と評価項目に基づいた評価を行う予定である。また、この段階で複数のコミュニティがサイト選定プロセスに参加している場合、客観的な比較評価(comparative evaluation)が実施される可能性がある。

【出典】


  1. サイト評価方法書において地方自治制度や土地利用計画制度などの地方自治政府に権限が委譲されている事項に関しては、イングランドでの英国政府とウェールズ政府の制度が反映されたものとなっている。 []
  2. 支払い(Money)に対して最も価値の高いサービス(Value)を供給するという考え方 []

米国で2020年2月10日に、2021会計年度1 の大統領の予算教書が連邦議会に提出され、大統領府管理・予算局(OMB)のウェブサイトで公表された。使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物(以下「高レベル放射性廃棄物」という。)の管理についてトランプ政権は、ユッカマウンテン計画の膠着状態を打破して進展を図るため、代替の解決策(alternative solutions)を開発するためのプロセスを開始し、実行可能な方策の開発において州を関与させていくとの方針が示されている。

また、大統領の予算教書では、代替の解決策の開発と並行して、立地点(host)になる意思のある場所での展開可能なシステムに焦点を合わせた、高レベル放射性廃棄物のロバストな中間貯蔵プログラムの実施、貯蔵・輸送・処分のための代替技術の研究開発をサポートすることも示されている。予算教書の添付資料では、高レベル放射性廃棄物処分の項目において、「中間貯蔵及び放射性廃棄物基金監督(Interim Storage and Nuclear Waste Fund Oversight)」プログラムの予算として27,500千ドル(29億7,000万円、1ドル=108円で換算)が計上されている。同プログラムでは、中間貯蔵プログラムの開発及び実施のほか、ユッカマウンテンの維持や環境要件、セキュリティ関連の活動など1982年放射性廃棄物政策法で規定された管理義務を含め、放射性廃棄物基金の監督を行うことが示されている。

エネルギー省(DOE)のウェブサイトでは、2021会計年度の予算要求に関するプレスリリースが発出され、DOEの予算要求のファクトシートが公表されているが、高レベル放射性廃棄物の管理については言及されておらず、現状、予算要求の具体的な内容は不明である。

なお、DOEの高レベル放射性廃棄物処分に関連する活動について、2020会計年度の歳出法では、使用済燃料処分等(UNFD)研究開発プログラムとして62,500千ドル(67億5,000万円)、「統合放射性廃棄物管理システム」(IWMS)として25,000千ドル(27億円)を割り当てる歳出予算が計上されているが、これらの予算要求の詳細も不明である。

一方、原子力規制委員会(NRC)の予算要求資料では、2021会計年度の予算要求においては、ユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可申請書の審査活動のための予算は含まれていないことが示されている。

これまでユッカマウンテン計画については、トランプ大統領の2020年2月6日のTwitter投稿において、ユッカマウンテンに関するネバダ州の意見を聴いて尊重すること、政権は革新的なアプローチを探ることを確約することが示されていた。ユッカマウンテン計画に反対するネバダ州では、ユッカマウンテン関連の予算を要求しないことを評価する旨のプレスリリースをネバダ州知事が発出している。

【出典】

 

【2020年2月27日追記】

米国のエネルギー省(DOE)は2020年2月26日に、DOEのウェブサイトにおいて、2021会計年度2 の原子力等(第3巻パート2)の予算要求に係る詳細資料(以下「DOE予算要求資料」という。)を公表した。2021会計年度の予算要求については、2020年2月10日に大統領の予算教書が公表されたが、使用済燃料管理等に係るDOEの予算要求資料については、概要資料のみが公表されていた。DOE予算要求資料では、使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物(以下「高レベル放射性廃棄物」という。)の管理については、予算教書の添付資料で示されていた「中間貯蔵及び放射性廃棄物基金監督(Interim Storage and Nuclear Waste Fund Oversight)」プログラムの27,500千ドル(29億7,000万円、1ドル=108円で換算)のほか、「使用済燃料処分等(UNFD)研究開発プログラム」として60,000千ドル(64億8,000万円)が要求されている。

DOE予算要求資料では、新設する「中間貯蔵及び放射性廃棄物基金監督」プログラムの任務は、ロバストな中間貯蔵プログラムの構築と実施のほか、ユッカマウンテンの監督責任のサポート、放射性廃棄物基金の管理を継続することとしている。また、中間貯蔵の実施により以下のような便益が得られるとしている。

  • 連邦政府による高レベル放射性廃棄物のより早期の受入れ
  • 分散した貯蔵サイトのサイト数の減少
  • システムへの柔軟性の付加
  • 大規模な放射性廃棄物管理の制度的・技術的インフラの短期的な開発、実証

「中間貯蔵及び放射性廃棄物基金監督」プログラムのうち、中間貯蔵のための準備についての初期の重要な実施事項としては、以下が示されている。

  • 統合的なプログラムプランの開発
  • 州、先住民族及び地方政府と他の関係省庁との協働(Working with)
  • 可能性あるサイトの同定プロセスの開始
  • 予備的な設計概念の開発
  • オプション分析と輸送計画に情報提供するため、高レベル放射性廃棄物の発生量に関する重要データの分析・アップデート、並びにインベントリに関する詳細情報の収集
  • 計画の実施及び規制環境の要求を支援するためのプロセス及び手順の実施
  • 大規模な輸送のために必要なシステム能力及びインフラ整備のための継続的な取組

また、ユッカマウンテンの監督責任のサポート、放射性廃棄物基金の管理に関しては、以下の実施項目が示されている。

  • 放射性廃棄物基金の投資ポートフォリオに係る適切な投資戦略の実施と慎重な管理
  • ユッカマウンテンサイトについて、DOE令(DOE Order 473.3A)に基づく物的防護要件、メンテナンスや環境要件の維持
  • 連携する連邦スタッフ等をサポート

なお、「中間貯蔵及び放射性廃棄物基金監督」プログラムの活動は、放射性廃棄物基金からの支出で賄うものとされている。

一方、DOEの高レベル放射性廃棄物処分関連の研究開発に係る予算に関しては、DOE原子力局(NE)の燃料サイクル研究開発プログラムの下の「使用済燃料処分等研究開発プログラム」(UNFD研究開発プログラム)において、処分方策に中立的な放射性廃棄物管理プログラムの開発や高レベル放射性廃棄物のインベントリを勘案したオプションを開発することに主な焦点を当てるとして、60,000千ドル(64億8,000万円)の予算が要求されている。なお、これまでのUNFD研究開発プログラムについては、2019年12月に連邦議会が可決した2020会計年度歳出法では62,500千ドル(67億5,000万円)が計上されたが、DOEの予算要求額は5,000千ドル(5億4,000万円)のみであった。

DOE予算要求資料では、UNFD研究開発プログラムにおいて2021会計年度に実施する活動のうち、直接的に処分に関連する事項としては以下が示されている。

  • 粘土質岩及び結晶質岩における処分に係る性能評価ツールとプロセスレベルのモデルの統合及び実施手法の評価。不確実性の定量化と感度解析の解析ソフトウェアを含む統合モデル化ツール
  • 岩塩における発熱性廃棄物の処分に係る科学的・工学的技術基盤の継続
  • 様々な地層で実施されている研究開発を活用するための国際的パートナーとの協力を含め、様々な廃棄物及び使用済燃料の廃棄体の代替処分オプション探求に関連した研究開発活動の継続
  • キャニスタの再パッケージの必要性を解消することができるよう兼用キャニスタの直接処分の技術的フィージビリティを評価
  • 新しい事故耐性燃料の貯蔵・輸送・処分性能特性の試験、評価

UNFD研究開発プログラムにおいては、高レベル放射性廃棄物の貯蔵・輸送・処分の代替技術・経路に関して、展開可能な解決策に焦点を当てて評価することに加え、短期の貯蔵の解決策に係るプログラムの決定を支援する技術的解析には更なる焦点を当てることも示されている。

なお、2020年度歳出法で25,000千ドル(27億円)が計上された「統合放射性廃棄物管理システム」(IWMS)については、廃止が提案されている。ただし、従来はIWNSに含まれていた中間貯蔵及び輸送計画に関する活動については、今回新設された「中間貯蔵及び放射性廃棄物基金監督」プログラムに移管されている。

DOEの環境管理局(EM)の予算要求書である第5巻「環境管理」において、米国で超ウラン核種を含む放射性廃棄物(TRU廃棄物)の地層処分場として操業中の廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)については、換気システムの建設が完了すると見込まれることなどから、2020会計年度歳出法より13,647千ドル(約14億7,000万円)少ない383,260千ドル(約414億円)が計上されている。

【出典】

 

【2020年3月4日追記】

米国の連邦議会上院のエネルギー・天然資源委員会は、2020年3月3日に、エネルギー省(DOE)の2021会計年度3 の予算要求に係る公聴会を開催した。公聴会には、エネルギー長官が証人として出席し、証言と質疑応答が行われた。エネルギー長官の証言では、2020年2月26日に公表されたDOE予算要求資料と同様の方針が示されたのみであったが、質疑応答の中でエネルギー長官は、最終処分場としてユッカマウンテンを追い求めることをしないとの発言があった。

エネルギー長官のユッカマウンテンに関する発言は、エネルギー・天然資源委員会の委員であるマスト議員(ネバダ州選出、民主党)からの質問に対する回答として示された。具体的にマスト議員は、現政権はユッカマウンテンにおける恒久処分への道をいまだに模索しているのかとの質問を行った。これに対してエネルギー長官は、ユッカマウンテンは1982年放射性廃棄物政策法(1987年修正)に基づく手続きで最終処分場として指定されているものの、ユッカマウンテン計画の予算をゼロとしているのも法律であること、この膠着状態は連邦議会やネバダ州における声に拠るところが大きいことから、ネバダ州の反対を押してユッカマウンテンを追い求めることは止めることを大統領が決定するに至ったことなどを回答した。その上でエネルギー長官は、連邦議会の記録に残る発言として、「現政権は、最終処分場としてユッカマウンテンを追い求めることはしない」と明言したものである。

さらなるマスト議員の質問に対してエネルギー長官は、仮にユッカマウンテン計画に係る予算を連邦議会が付けた場合にはその法律に従うが、現政権の意図はユッカマウンテンの代替方策を探すことであること、州やステークホルダーが発言権を持つようなプロセスを支持すること、その議論にはネバダ州の参画も考えていることなども表明している。

なお、連邦議会では、下院歳出委員会においても2020年2月27日にDOEの予算要求に係る公聴会が開催されており、エネルギー長官からは今回と同様の証言書が提出されている。また、上院歳出委員会では、2020年3月4日にDOE予算要求に係る公聴会の開催が予定されている。

【出典】

 

【2020年7月17日追記】

米国の連邦議会下院の歳出委員会は、2020年7月13日に開催した法案策定会合において、2021会計年度4 のエネルギー・水資源開発歳出法案(H.R.7613、以下「歳出法案」という。)を承認し、2020年7月15日付で下院本会議に提出した。2021会計年度の予算において、ユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可審査手続きの再開等のための予算については、エネルギー省(DOE)や原子力規制委員会(NRC)の予算要求資料でも要求されておらず、今回承認された歳出法案においても計上されていない。

歳出法案に付随する下院歳出委員会報告書(H.Rept.116-449、以下「委員会報告書」という。)では、「放射性廃棄物処分(Nuclear Waste Disposal)」プログラムとして、27,500千ドル(30億2,500万円、1ドル=110円で換算)が計上されている。これは、DOEの予算要求資料において「中間貯蔵及び放射性廃棄物基金監督(Interim Storage and Nuclear Waste Fund Oversight)」プログラムとして要求されていた予算額を全額認めるものであるが、放射性廃棄物基金からの支出で賄うのは放射性廃棄物基金監督に係る7,500千ドル(8億2,500万ドル)のみとしている5。また、委員会報告書では、中間貯蔵に係るDOEの提案は詳細さに欠けて一般的なものが多く失望しているとした上で、連邦政府による中間貯蔵施設のサイトを選定するための活動を、現行のDOEの法的権限の範囲で、同意に基づくアプローチを活用して進めることを指示している。

一方、DOEの高レベル放射性廃棄物処分関連の研究開発に係る予算については、「使用済燃料処分等(UNFD)」プログラムの一般的な研究開発活動を継続するための予算として62,500千ドル(68億7,500万円)が計上されているほか、「統合廃棄物管理貯蔵(IWMS、Integrated Waste Management Storage)の予算として25,000千ドル(27億5,000万円)が計上されており、これは2020会計年度の歳出法と同額の予算となっている。また、委員会報告書では、UNFDプログラムについて、輸送中の使用済燃料の挙動等の研究を継続することを指示するとともに、DOEの予算要求には含まれていなかったIWMSプログラムについては、廃止措置された原子力発電所等での準備活動の継続、輸送活動再開に係る評価や調整などを行うことが指示されている。

また、超ウラン核種を含む放射性廃棄物(TRU廃棄物)の地層処分場として操業中の廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)については、DOEの予算要求額を40,000千ドル(44億円)上回る423,260千ドル(465億5,860万円)が計上されている。委員会報告書では、このうち10,000千ドル(11億円)は地域のインフラ整備費用として、歳出法案の施行後60日以内にその計画について連邦議会に報告するようDOEに指示している。

なお、下院歳出委員会の法案策定会合で共和党議員からは、ユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可申請書の審査手続の再開等のための予算が計上されていないことへの批判が示されたが、これらの予算を計上するような歳出法案の修正案は提出されなかった。

ネバダ州選出のタイタス下院議員からは、下院の歳出法案において、ユッカマウンテンプロジェクト再開に係る予算が計上されなかったことなどを歓迎するプレスリリースが発出されている。

【出典】

 

【2020年8月17日追記】

米国の連邦議会下院は、2020年7月31日の本会議において、2021会計年度6 の「国防、商務、司法、科学、エネルギー・水資源開発、金融財務・一般政府、労働、保健福祉、教育、運輸、住宅・都市開発の歳出法案」(H.R.7617、以下「統合歳出法案」という。)を、217対197で可決した。統合歳出法案は、「2021会計年度国防歳出法案」(H.R.7617)に、「エネルギー・水資源開発歳出法案」(H.R.7613)などを統合して、6つの歳出法案をまとめたものである。統合歳出法案における高レベル放射性廃棄物管理に係る予算については、2020年7月13日に下院歳出委員会で承認された内容から修正はなく、ユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可手続きの再開等のための予算は計上されていない。なお、統合歳出法案に付随するエネルギー・水資源開発分野の委員会報告書は、2020年7月13日に下院歳出委員会で承認されたもの(H.Rept.116-449)となっている。

統合歳出法案の下院本会議における審議においては、下院歳出委員会エネルギー・水資源開発小委員会及びエネルギー・商務委員会環境小委員会のそれぞれの少数党最上席議員であるシンプソン議員及びシムカス議員(いずれも共和党)らから、ユッカマウンテン許認可手続きの再開に係る予算計上が必要であるなどとする発言が行われたが、ユッカマウンテン許認可手続きの再開に係る修正案の本会議審議は行われなかった。シムカス議員の発言においては、ユッカマウンテン処分場の許認可審査の完結を引き続き支持することなどを表明するものとして、ユッカマウンテンの立地自治体であるネバダ州ナイ郡の決議も公式の記録として提出されている。

一方、ネバダ州選出の下院民主党議員の一部からは、ユッカマウンテン許認可手続きの再開のための予算が統合歳出法案に計上されなかったことを評価し、今後もネバダ州における処分場建設には反対を続けていくことなどを表明するプレスリリースが発出されている。

【出典】

 

【2020年10月2日追記】

米国の連邦議会は2020年9月30日に、2021会計年度(2020年10月1日~2021年9月30日)のうち、2020年10月1日から2020年12月11日までを対象とした継続歳出法案(H.R.8337)を可決し、継続歳出法案は2020年10月1日に大統領の署名を得て法律(Public Law No.116-159)として成立した。継続歳出法案(H.R.8337)は、連邦議会下院本会議では2020年9月22日に359対57で、連邦議会上院本会議では2020年9月30日に84対10で、それぞれ賛成多数で可決されていた。継続歳出法の成立により、米国での予算の空白が当面は回避されたことになる。

今回成立した2021会計年度の継続歳出法(Public Law No.116-159)は、2020年12月11日までの期間について、2020会計年度の予算を規定した歳出法 での予算と同じレベルでの歳出を認めるものである。高レベル放射性廃棄物処分に関連する予算を含むエネルギー・水資源分野については、2020会計年度の歳出法として、追加的包括歳出法案(Public Law No.116-94)が制定されていた。継続歳出法による予算は、原則として前年度予算と同率で比例配分され、特段の規定が無い限り、前年度で未計上の事業・プログラム等の実施は認められない。

なお、2021会計年度の継続歳出法(Public Law No.116-159)では、ユッカマウンテン処分場関連、軍事起源のTRU廃棄物の地層処分場である廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)関連、使用済燃料等の中間貯蔵施設関連を含め、放射性廃棄物の貯蔵・処分に関する特段の規定は無い。

【出典】

 

【2020年11月11日追記】

米国の連邦議会上院の歳出委員会は2020年11月10日に、2021会計年度のエネルギー・水資源歳出法案の原案(以下「歳出法案原案」という。)、及び法案に付随する説明文書(Explanatory Statement、以下「付随説明文書」という。)を公表した。歳出法案原案では、前年度の上院歳出法案(S.2470)と同様に、中間貯蔵施設のパイロットプログラムの実施等をエネルギー長官に命じる規定が置かれているが、ユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可審査手続きの再開等のための予算は計上されていない。なお、上院歳出委員会のプレスリリースでは、連邦議会下院との交渉が開始されるに当たり、下院歳出委員会の委員長等と超党派で相違点を解決するように協力したいとのメッセージが示されている。

今回公表された付随説明文書では、エネルギー省(DOE)の高レベル放射性廃棄物処分関連の活動について、燃料サイクル研究開発プログラムの下で、「放射性廃棄物処分(Nuclear Waste Disposal)」として、使用済燃料の集中中間貯蔵の計画を実施するための予算として27,500千ドル(30億2,500万円、1ドル=110円で換算)が計上されている。このうち、10,000千ドル(11億円)を上限とした予算において、エネルギー長官が現行の権限内で、使用済燃料の管理に係る民間事業者との契約などを締結するものとしている。また、「使用済燃料処分等(UNFD)プログラム」には、30,000千ドル(33億円)が計上されているが、「統合廃棄物管理システム(IWMS、Integrated Waste Management System)」の予算は計上されていない。

歳出法案原案に盛り込まれた中間貯蔵関連の条項では、2020会計年度の上院歳出法案(S.2470)と同様に、以下のような内容が規定されている。

集中中間貯蔵のパイロットプログラム(歳出法案原案、第306条)

  • 使用済燃料等を中間貯蔵するため、1つまたは複数の連邦政府の集中貯蔵施設の許認可取得、建設、操業のためのパイロットプログラムを実施することをエネルギー長官に許可
  • エネルギー長官は、歳出法案の施行後120日以内に、集中貯蔵施設の建設許可取得や輸送等の協力協定についてのプロポーザルを公募
  • 集中貯蔵施設の立地決定前に、立地サイト周辺等での公聴会の開催、地元州知事や地方政府等との同意協定の締結をエネルギー長官に義務付け
  • エネルギー長官は、上記プロポーザルの公募から120日以内に、推定費用、スケジュール等を含むパイロットプログラム計画を連邦議会に提出
  • 集中中間貯蔵のパイロットプログラム活動に係る資金の放射性廃棄物基金からの支出を許可

また、軍事起源のTRU廃棄物の地層処分場である廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)については、DOEの予算要求と同額の383,260千ドル(約421億5,860万円)が計上されている。

なお、ネバダ州選出の連邦議会の上院議員は、ユッカマウンテン処分場の許認可審査活動のための予算を計上しないように求め、上院歳出委員会エネルギー・水資源開発小委員会の委員長等に宛てて書簡を提出していた。

【出典】

 

【2021年11月22日追記】

米国の連邦議会資料室は2021年11月に、2020年10月1日から2021年9月30日までを対象としていた「2021会計年度包括歳出法」(Public Law No.116-260、以下「包括歳出法」という。)の公式ファイルを連邦議会資料室ウェブサイトで公表した。2021会計年度の歳出予算については、2020年12月21日に2021会計年度包括歳出法案(H.R.133)が連邦議会両院で可決され、2020年12月27日に大統領の署名を得て法律(Public Law No.116-260)として成立していたが、最終的な包括歳出法のファイルは公表されていなかった。包括歳出法で規定された2021会計年度の高レベル放射性廃棄物管理に係る予算額は、一部を除いて、2020年7月31日に下院本会議で可決された統合歳出法案(H.R.7617、以下「下院版歳出法案」という。)と同様のものとなっている。なお、ユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可手続きの再開等のための予算は計上されていない。

包括歳出法及び付随する説明文書(Explanatory Statement、以下「付随説明文書」という。)で規定された放射性廃棄物処分関連の予算は、下表のとおりとなっている。

 

予算項目

プログラム

サブプログラム
(サブプログラムがない場合は括弧内に概要説明)

2022会計年度歳出予算
(単位:千ドル)

財源

DOE

原子力(Nuclear Energy)

燃料サイクル研究開発
(Fuel Cycle Research and Development)

使用済燃料処分等研究開発(Used Nuclear Fuel Disposition R&D)

62,500
[約65億6,300万円]

一般

統合放射性廃棄物管理システム(IWMS)
(Integrated Waste Management System)

18,000
[18億9,000万円]

放射性廃棄物処分
(Nuclear Waste Disposal)

放射性廃棄物処分
(Nuclear Waste Disposal)

(中間貯蔵を含め、1982年放射性廃棄物政策法の目的遂行)

27,500
[約28億8,800万円]
※うち20,000は中間貯蔵、7,500はNWF監督等

20,000は一般、
7,500はNWF

国防環境クリーンアップ
(Defense Environmental Cleanup)

廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)

WIPP操業ほか
(換気システム等の設備更新を含む)

413,260
[約433億9,200万円]

一般

独立機関

原子力規制委員会(NRC)

高レベル放射性廃棄物処分

(高レベル放射性廃棄物処分場の許認可審査)

0

NWF

放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB)

活動費

(DOE研究開発活動の評価等)

3,600
[3億7,800万円]

NWF

NWF:放射性廃棄物基金、1ドル=105円で換算

統合放射性廃棄物管理システム(IWMS)及び廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)以外の具体的な予算額は、下院版歳出法案で計上されていた予算額と同一となっている。統合放射性廃棄物管理システム(IWMS)については、下院版歳出法案では25,000千ドル(26億2,500万円)が計上されていたが、2020年11月10日に公表された上院版歳出法案原案では予算は計上されていなかったが、包括歳出法で18,000千ドル(18億9,000万円)が計上された。また、廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)については、下院版歳出法案で10,000千ドル(10億5,000万円)が計上されていた地域のインフラ整備費用のための予算については、計上しないことが付随説明文書で示されている。

包括歳出法の付随説明文書では、高レベル放射性廃棄物管理に係るものとして、以下のような指示が示されている。

  • 使用済燃料処分等研究開発(UNFD)
    DOEは、輸送状態における使用済燃料の挙動、及び輸送中における使用済燃料の燃料棒の安全性改善の可能性について研究すること。
  • 統合放射性廃棄物管理システム(IWMS)
    DOEは、使用済燃料が残置されたサイトにおけるサイト準備活動を継続するとともに、地域輸送の再開について評価し、輸送に関する調整の取組みを実施すること。特に、都市部や先住民居留地に近いサイトからの使用済燃料の除去の計画を含めるよう努力すること。
  • 廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)
    包括歳出法の施行から90日以内に、WIPP関連の道路使用及びその活動により必要となる今後の金額について、連邦議会両院の歳出委員会に報告書を提出すること。報告書には、1992年から2020年におけるWIPP関連の道路使用を石油・ガス産業等の他の重負荷活動と比較したデータ、これまでの予算の使用状況、及び改善を計画している道路等の具体的な費用想定を含めること。

なお、中間貯蔵に係る活動を含む放射性廃棄物処分(Nuclear Waste Disposal)プログラムについては、付随説明文書では予算額が示されているのみで特段の指示等は示されていない。ただし、付随説明文書において、下院版歳出法案(H.R.7617)に付随する委員会報告書(H.Rept.116-449、以下「下院委員会報告書」という。)における記載は、特に矛盾しない限り付随説明文書と同等の効力を持つものとされている。ここで、放射性廃棄物処分(Nuclear Waste Disposal)プログラムについて下院委員会報告書では、DOEに対し、連邦政府による中間貯蔵施設のサイトを選定するための活動を、現行のDOEの法的権限の範囲で、同意に基づくアプローチを活用して進めることを指示していた。

なお、2021会計年度の歳出予算については、2021会計年度のうち2020年10月1日から2020年12月11日までを対象とした継続歳出法案(H.R.8337)が2020年10月1日に大統領の署名を得て法律(Public Law No.116-159)として成立した。しかし、継続予算の期限内に歳出法案は可決されず、2020年12月18日までを対象とした「さらなる継続歳出法(H.R.8900、Public Law No.116-215として成立)」、さらには2020年12月20日までを対象とした継続歳出法(H.J.Res.107、Public Law No.116-225として成立)、2020年12月21日までを対象とした継続歳出法(H.J.Res.110、Public Law No.116-226として成立)、及び2020年12月28日までを対象とした継続歳出法(H.R.1520、Public Law No.116-246として成立)と、5度にわたる継続歳出法が制定され、最終的に包括歳出法(Public Law No.116-260)が2020年12月27日に制定との経緯をたどっていた。

【出典】


  1. 米国における会計年度は、前年の10月1日から当年9月30日までの1年間となっており、今回対象となっている2021会計年度の予算は2020年10月1日からの1年間に対するものである。 []
  2. 米国における会計年度は、前年の10月1日から当年9月30日までの1年間となっており、今回対象となっている2021会計年度の予算は2020年10月1日からの1年間に対するものである。 []
  3. 米国における会計年度は、前年の10月1日から当年9月30日までの1年間となっており、今回対象となっている2021会計年度の予算は2020年10月1日からの1年間に対するものである。 []
  4. 米国における会計年度は、前年の10月1日から当年9月30日までの1年間となっており、今回対象となっている2021会計年度の予算は2020年10月1日からの1年間に対するものである。 []
  5. DOEの予算要求では、中間貯蔵施設関連を含めた27,500千ドル全体について、放射性廃棄物基金からの支出で賄うものとされていた。 []
  6. 米国における会計年度は、前年の10月1日から当年9月30日までの1年間となっており、今回対象となっている2021会計年度の予算は2020年10月1日からの1年間に対するものである。 []

カナダのオンタリオ・パワージェネレーション(OPG)社は、2020年1月31日に、同社が所有するブルース原子力発電所サイトでの建設を目指していた低・中レベル放射性廃棄物の地層処分場(DGR)プロジェクトに関して、今後、DGRプロジェクトの代替となる安全かつ恒久的な解決策を検討する意向を示すプレスリリースを公表した。これは、同日に、DGRの建設予定地のあるブルース半島に居住するソーギーン・オジブワネーション先住民1 により、DGRプロジェクトに対する賛否を問う投票が行われ、賛成170票、反対1,056票の結果となったことを受けたものである。OPG社は、先住民の意思を尊重するとともに、主要なステークホルダーの関与によるサイト選定プロセスの策定を進めていく考えを明らかにした。

OPG社は、オンタリオ州内に3ヶ所の原子力発電所(原子炉計20基)を所有しており、これらの原子力発電所で発生した低・中レベル放射性廃棄物の地層処分場の立地に関して、2004年に地元キンカーディン自治体との間で立地協定を締結していた。その後、OPG社は2011年4月に、DGRプロジェクトの環境影響評価書(EIS)、予備的安全評価書等を連邦政府の合同評価パネル(JRP)に提出し、2015年5月にJRPは、環境に重大な影響が及ぶ可能性は低いと結論していた。OPG社は、JRPによる審査過程で、2013年に開催された公聴会において、ソーギーン・オジブワネーション先住民の支持なくDGRを建設しないことを確約していた。なお、その後の手続きとしては、環境大臣による環境影響に関する決定を受けた上で、JRPがサイト準備・建設に関する許認可を発給するのみとなっていた。

OPG社は、新たなサイト選定プロセスは先住民や関心のある自治体の関与を含むものにするとの考えを表明するとともに、これまで構築してきた相互の尊重や協力、信頼関係を基礎として、ソーギーン・オジブワネーション先住民と対話を継続する意向を明らかにした。また、OPG社は、放射性廃棄物処分のための恒久的な解決策を検討しつつ、廃棄物の減容技術の開発、非汚染物質の再利用など、発生元において放射性廃棄物の発生量を最小化する取組を行っていくとしている。

【出典】

 

【2020年6月29日追記】

カナダ影響評価庁(Impact Assessment Agency of Canada, IAAC)は、2020年6月26日に、オンタリオ・パワージェネレーション(OPG)社が計画していた低・中レベル放射性廃棄物の地層処分場(DGR)の環境影響評価プロセスの終了を公告した。2020年1月31日に実施されたソーギーン・オジブワネーション先住民による投票結果を受けて、OPG社は2020年5月27日に、DGRプロジェクトの環境影響評価プロセスを公式に終了するよう求める書簡を環境大臣に提出していた。

OPG社は、環境大臣に提出した書簡において、環境影響評価書等の審査のために連邦政府が指名した合同評価パネルの4年間の活動に感謝するとともに、キンカーディン自治体及び隣接する自治体から受けた15年にわたる支援に対する感謝の意を明らかにした。また、OPG社は、同社が所有する原子力発電所から発生する放射性廃棄物の安全かつ恒久的な解決策の開発に引き続き取り組んでいくとしている。

【出典】


  1. ※ソーギーン・オジブワネーション先住民(SON)の居住地域は、ブルース原子力発電所サイトが立地しているブルース半島の大部分を占めている。先住民は特定の法的権利を有しており、その土地の占有者としての管理義務を果たすこととなっている。 []