欧州委員会(EC ―欧州連合(EU)の執行機関)の2011年7月19日付のプレスリリースによると、同日、EU理事会(閣僚級代表で構成されるEUの決定機関)は「使用済燃料及び放射性廃棄物の責任ある安全な管理に関する、共同体(EURATOM)の枠組みを構築する理事会指令」を採択した。本指令は、EUがEU加盟国に対して、自国における使用済燃料及び放射性廃棄物の管理責任の履行を義務づける強固な枠組みを構築するためのものである。EU加盟国は、指令の規定内容を、発効後1 2年以内に国内法に反映しなければならず、さらに発効後4年以内に、国家計画、及び指令の実施状況に関してECに通知しなければならない2 。
ECのプレスリリースでは、指令の主な規定として以下を挙げている。
- EU加盟国は、2015年までに放射性廃棄物管理に関する国家計画を策定し、ECに通知する。ECは、詳細に調査し、計画の修正を要求できる。国家計画では、処分場建設のスケジュール、費用見積り、資金確保の枠組み等を示さなければならず、定期的に更新しなければならない。
- 国際原子力機関(IAEA)が策定している安全基準に法的拘束力を持たせる。
- 公衆及び従事者への情報提供が義務付けられ、公衆は意思決定過程への参加機会を与えられる。
- EU加盟国は、10年を超えない間隔で、国際ピアレビューを実施する。
- 複数のEU加盟国が共同で、それらの国内にある処分場を利用することに関して合意することができる。また、厳格な条件の下で、放射性廃棄物をEU域外国へ輸出することができる。
なお、放射性廃棄物を処分する目的でEU域外に当該廃棄物を輸出する場合には、輸出国はその旨をECに事前に通知するとともに、①輸出先の国が使用済燃料及び放射性廃棄物の管理を対象とした欧州原子力共同体(EURATOM)との協定を締結している、または「使用済燃料管理と放射性廃棄物管理の安全に関する条約」の締約国であるか、②輸出先の国が今回採択された指令と同等の高水準の安全の確保を目的とした放射性廃棄物処分に関する計画を有しているか、③輸出先の国における処分場が、輸送される放射性廃棄物に関して承認されているものであること、輸送に先立って操業していること、及びその輸出先の国の放射性廃棄物の管理及び処分の計画で規定された諸要件を遵守して運営されていること、を保証するための合理的な措置を講じる必要があるとしている。
EURATOM条約によると、放射線防護等の分野における指令等の草案はECが作成し、欧州議会の意見を得た上で、その採択の判断はEU理事会が行うことになっている。2010年11月にECは、今回採択された指令の草案を公表しており 、その後、EU理事会において採択可否の検討が進められ、「特定多数決」3 により採択された 。
【出典】
- 欧州委員会(EC)プレスリリース(2011年7月19日)
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/11/906&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en - EU理事会プレスリリース(2011年7月19日)http://www.consilium.europa.eu/uedocs/cms_data/docs/pressdata/en/trans/123937.pdf
- 使用済燃料及び放射性廃棄物の責任ある安全な管理に関する、共同体の枠組みを構築する理事会指令http://register.consilium.europa.eu/pdf/en/11/st12/st12142.en11.pdf
- 欧州原子力共同体(EURATOM)条約
http://eur-lex.europa.eu/en/treaties/dat/12006A/12006A.html - EU、EUを知るための12章 第2版
http://www.euinjapan.jp/common/fckeditor/editor/filemanager/browser/default/connectors/php/transfer.php?file=/uid000037_31326C6573736F6E5F4A505F7765622E706466
【2012年11月20日追記】
原子力発電所が所在する欧州17カ国4 の規制機関によって構成されている「西欧原子力規制当局連合」(WENRA)は、2012年11月19日付けのプレスリリースにおいて、「放射性廃棄物及び廃止措置に関するワーキンググループ」(WGWD)が「放射性廃棄物の処分施設の安全性に関するリファレンスレベル」についてのドラフト報告書を作成し、パブリックコメントを開始したことを公表した。
ドラフト報告書は、欧州連合(EU)の使用済燃料及び放射性廃棄物の管理に関する指令で示された安全目標に沿って、処分施設の安全性に関するリファレンスレベルの提示を目的としたものである。安全性に関するリファレンスレベルとは、EU加盟国の検討状況を評価するための要件とされており、リファレンスレベルを達成するための行動を実施する責任は、EU加盟国にあるとされている。
ドラフト報告書は、2013年4月30日までのパブリックコメントに付されおり、コメント数や重要性に基づいて、公聴会、ワークショップ等の開催の必要性をWGWDが判断するとされている。ワークショップ等が必要と判断された場合は、2013年の6月末または7月上旬に開催されることが計画されている。処分施設の安全性に関するリファレンスレベルについての最終報告書の取りまとめは、現在策定中の「放射性廃棄物及び使用済燃料の貯蔵の安全性に関するリファレンスレベル」、「廃止措置の安全性に関するリファレンスレベル」についての最終報告書の取りまとめ作業とあわせて進められるとされている。
【出典】
- 西欧原子力規制当局連合(WENRA)プレスリリース、2012年11月19日
http://www.wenra.org/archives/wgwd-draft-disposal-report-call-stakeholder-commen/ - WENRA「放射性廃棄物の処分施設の安全性に関するリファレンスレベル ドラフト報告書」(2012年10月16日)
http://www.wenra.org/media/filer_public/2012/11/19/v0_draft_disposal_report.pdf
- 本指令は、欧州連合官報への掲載後、20日目に発効すると規定されており、ECのプレスリリースでは、遅くとも2011年9月には指令が発効するとしている。 [↩]
- 欧州原子力共同体(EURATOM)条約の規定によると、ECが、EU加盟国が義務を履行していないと判断した場合、所見を提出させた上で、ECは当該加盟国に理由を付した意見書を提出する。当該加盟国が、ECが定めた期限内に意見書に従わない場合、ECは欧州司法裁判所に提訴することができる。 [↩]
- 「特定多数決」では、概ね人口に応じてEU加盟国に票が割り当てられ、27の加盟国の合計票数は345票になる。成立には少なくとも255票(73.9%)が必要であり、さらに、加盟国の過半数が賛成していること、賛成票がEU全人口の少なくとも62%を代表していること、という条件がある。 [↩]
- WENRAを構成する17カ国は、EU加盟国16カ国(ベルギー、ブルガリア、チェコ、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、イタリア、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、オランダ、英国)とスイスである。 [↩]
(post by y-nishimura , last modified: 2013-06-26 )