Learn from foreign experiences in HLW management

欧州委員会が使用済燃料及び放射性廃棄物の管理に関する指令案を公表

欧州委員会(EC ― 欧州連合(EU)の執行機関)は、2010年11月3日付で「使用済燃料及び放射性廃棄物の管理に関する指令1 案」を公表した。指令案の策定を伝えたEUのプレスリリースによれば、指令案は、EU加盟国に対して最終処分場をいつ、どこで、どのように建設・操業するのかを示した国家計画の策定を要求するものであり、また指令により、国際的に承認された安全基準がEU内で法的拘束力を有するようになるものとされている。

同プレスリリースによると、今回公表された指令案は、EU内で法的拘束力を有する実施可能な枠組みを構築することで、使用済燃料及び放射性廃棄物の最終処分に至るあらゆる段階において全てのEU加盟国に、国際原子力機関(IAEA)が構築している安全基準を適用させるようにするものである2 。プレスリリースには、指令案の主旨として次の5点が示されている。

  • EU加盟国は、指令採択の4年以内に国家計画を策定する。この計画には、最終処分場の建設・操業計画、処分の実施のための段階や活動の詳細を含めた建設の具体的スケジュール、費用見積り及び資金確保制度を含む。
  • EU加盟国は、国家計画を欧州委員会(EC)に送付する。ECは計画の修正を要求することができる。
  • EUの2国間または多国間で、それらの国内にある処分場を使用することに関して合意することができる。
    EU域外への最終処分のための放射性廃棄物の輸出は許可されない。
  • EU加盟国は公衆に対して情報提供を行わなければならず、また、公衆が放射性廃棄物管理に関する意思決定に参加できるようにすべきである。
  • 国際原子力機関(IAEA)が策定した安全基準に法的拘束力を付与する。処分場の建設に許可を発給し、個別の処分場の安全解析を審査する独立した規制機関を設置すべきことを定めた規定にも法的拘束力が付与される。

指令案が規定している国家計画の内容は以下の通りである。なお、指令案と併せて公表された解説文書によれば、今回の指令案は処分場のサイト選定や処分場の建設・操業開始の年限を定めるものではないとされている。

  • 将来見込みも含めた、使用済燃料及び放射性廃棄物のインベントリ
  • 放射性廃棄物の発生から処分に至るまでの計画と技術的対応策
  • 処分場の閉鎖後段階の計画(制度的管理の終了後の期間及びそれ以降の知識の保存方法も含む)
  • 使用済燃料及び放射性廃棄物の管理のために必要となる研究・開発
  • 処分の実施のための主要段階、明確なスケジュール及び責任分担
  • 処分の実施への進捗を管理するための主要業績評価指標
  • 処分プログラムの実現のための費用見積り及び見積りの根拠と仮定
  • 処分プログラムの実現のための資金確保の枠組み

指令案は、前文に続いて、指令の目的や適用範囲、一般原則、セーフティケース等に関する19の条文で構成されている(セーフティケースに関する規定については、下の「参考①」を参照)。

本指令案は、欧州原子力共同体(EURATOM)条約3 の規定に従い、欧州議会等の意見を得ながら、EU理事会(閣僚理事会 ― 閣僚級代表で構成されるEUの決定機関)で審議される。EU理事会での審議の結果、一定の賛成票が得られた場合に指令は採択されることになる4

参考①:指令案におけるセーフティケースに関する規定

今回公表された指令案の第8条は、セーフティケースについて次の通り規定している。

  1. セーフティケース及びそれをサポートする安全評価は、施設または行為の許可申請の一部として提出するものとする。それらは施設または行為の進捗に応じて、必要に応じて改訂する。セーフティケース及び安全評価の範囲と詳細さは、操業の複雑さ及び施設または行為に関連する危険性の程度に対応したものとする。
  2. セーフティケース及びそれをサポートする安全評価は、施設のサイト選定、設計、建設、操業及び廃止措置、または処分施設の閉鎖を対象とするものとする。セーフティケースによって安全評価に適用する基準を特定するものとする。閉鎖後の長期安全性は、特に、できる限りの範囲にわたって、どのようにして受動的方法により安全を確保するかという観点から取り扱うものとする。
  3. 施設のセーフティケースは、サイト、施設の設計、管理の手法及び規制による管理における、あらゆる安全性に関する観点を取り扱うものとする。セーフティケース及びそれをサポートする安全評価は、防護のレベルを示すものとし、また安全要件が遵守されることを、権限を有する監督機関及びその他の関係する組織に対して立証するものとする。
  4. セーフティケース及びそれをサポートする安全評価は、権限を有する監督機関に提出し、承認を得るものとする。

参考②:EUにおける使用済燃料及び放射性廃棄物の管理に関する法制度の構築に向けた経緯

今回の指令の策定に向けた動きは、欧州原子力共同体(EURATOM)条約の第31条及び第32条の規定に依拠して進められている。それによれば、指令案は欧州委員会(EC)が策定し、欧州議会等の意見も踏まえ、欧州連合(EU)理事会(閣僚理事会)が指令を採択することとされている。

EUの執行機関であるECには、任務遂行の上で独立性が付与されており、EUの共通利益のために行動することを義務づけられているため、加盟国政府の意向に左右されてはならないとされている。他方、EU理事会は、EUの主たる意思決定機関であり、全ての理事会の会議には、加盟国から閣僚級代表が1名出席する。どの閣僚が出席するかは、会議の議題によって決定される。

EUでは、ECを中心として放射性廃棄物管理などに関してEU内での法的拘束力を有する制度の構築に向けた取り組みが進められており、2003年4月にはECが指令案を提出したが、これに対する2004年6月のEU理事会決定では、原子力施設の安全に対する各国の責任が強調され、指令案は採択されなかった。このEU理事会の決定では、作業部会を設置して検討を継続することが決定され、この作業部会における検討内容を踏まえ、EU理事会は原子力安全及び使用済燃料・放射性廃棄物管理に関する行動計画の策定に向けた協議プロセスを、ECなどとともに進めてきた。

EU理事会は2007年5月に、原子力安全及び使用済燃料・放射性廃棄物管理に関する決定を採択した。この決定により、原子力安全規制機関等の代表により構成される高官レベルグループが設置され、EU全体での原子力安全、放射性廃棄物管理及び廃止措置に関する取り組みの強化が図られてきた

その後、高官レベルグループは「欧州原子力安全規制者グループ(ENSREG)」と改称され、2009年6月には同グループの検討結果なども踏まえ、EU理事会により原子力安全に関する指令が採択された。今回の「使用済燃料及び放射性廃棄物の管理に関する指令案」も、ENSREGの活動の成果を踏まえて策定されたものである。

【出典】

  1. 指令は、規則及び勧告とともに、EUの法体系の中で「二次法」を構成するものである。指令が発効すると、EU加盟国は指令の規定を国の法制度に反映させなければならない。「一次法」は、EUの基本条約により構成される。 []
  2. 具体的には、指令案の前文において、IAEA安全基準シリーズNo.SF-1「基本安全原則」を遵守しなければならないとされている。 []
  3. EURATOM条約の規定の下、EUには放射線防護の法的権限が与えられている。なお、27のEU加盟国の内、14カ国に原子力発電所がある。 []
  4. EUの基本条約に基づき、EU理事会における議決は案件に応じて、単純多数決、加重票を用いた「特定多数決」、もしくは全会一致のいずれかの方法によって行われなければならない。EURATOM条約の第31条及び第32条の規定によれば、本案件は特定多数決方式により議決される。 []

(post by y-nishimura , last modified: 2013-07-03 )