欧州委員会(European Commission)は、2003年4月30日に、「使用済燃料と放射性廃棄物の管理に関するEURATOM指令」(案)(以下「放射性廃棄物管理指令案」という」)を欧州議会(European Parliament)および閣僚理事会(The Council of the European Union)に提出した。 放射性廃棄物管理指令案は、加盟国における使用済燃料および放射性廃棄物管理を最良の方法で実施することを目的としており、処分場開発に関する具体的な年限も示されている。今後、欧州議会での諮問を受けた後、閣僚理事会で「特定多数決」1 方式により最終的に採決される予定である。
放射性廃棄物管理指令案は、欧州原子力共同体(EURATOM)条約の31条および32条に基づいて作成されたもので、2003年1月30日に欧州委員会で採択された後、3月26日に欧州経済社会委員会による見解を受けた上で欧州議会と閣僚理事会に提出された。なお、廃止措置を含む原子力施設の安全確保の指令案も同時に提案されている。今回提出された放射性廃棄物管理指令案の提案書は、指令案の策定に当たっての背景やその目的が「説明メモランダム」として記述されているほか、全10条からなる指令案本体および付属文書から構成されている。以下においては、その背景や目的と共に、指令案のハイライトをまとめる。
放射性廃棄物管理指令案の背景と目的
今回提出された放射性廃棄物管理指令案の提案書の「説明メモランダム」では、2000年11月の欧州委員会グリーンペーパー「エネルギー供給の安定性に対する欧州の戦略に向けて」において示された、放射性廃棄物管理に対する受入可能な解決策を探すことが原子力オプションに影響を及ぼす重要な関心事との指摘を引用している。また、現在の欧州連合(EU)加盟国だけでなく、新規加盟の候補となっている国をも視野に入れた放射性廃棄物管理の必要性を指摘している。EUでは旧東欧諸国等の加盟が2004年以降予定されており、これらの国ではかつて行われていた旧ソ連への使用済燃料返還が中止され、使用済燃料管理が大きな問題となっている。
特に、加盟国における高レベル放射性廃棄物管理に関しては、管理オプションとして地層処分が最も適しているという国際的なコンセンサスがあるものの、各加盟国が行っているサイト選定が遅延していること、中間貯蔵されている廃棄物の量が増加していることなどを挙げている。さらに、2001年9月11日の同時多発テロ後においては、中間貯蔵施設の脆弱性も懸念される事項であると指摘している。
EU加盟国は、放射性廃棄物の長期管理に対する適切な戦略を確立させるとともに、詳細なプログラムを準備する必要性、特に放射性廃棄物の処分のための処分場開発に焦点を置く必要性が指摘されている。加盟国はそれぞれが独自の管理を行わなければならないが、高いレベルの原子力安全と環境保護を保証するために、特に加盟国同士の連携が求められている。複数の国によるアプローチは、原子力開発利用が小規模または全くない国に対してはメリットがあるとしているが、何れの加盟国も廃棄物の輸入を義務づけられるものではないとしている。
放射性廃棄物管理指令案のハイライト
放射性廃棄物管理指令案は第1条に「目的と範囲」、第3条に「放射性廃棄物および使用済燃料の管理に対する一般的な要求事項」が定められている。放射性廃棄物処分計画に関する具体的な規定は、指令案の第4条に定められている。まず、各加盟国は長期的な管理を含めた「放射性廃棄物管理計画」を作成しなければならない。そして、処分に対する適切な代替案がなく、利用できる状態でない場合には、加盟国は計画のなかに以下の内容を盛り込まなければならない(第4条)。
- 遅くとも2008年までに放射性廃棄物処分サイトの開発の許認可の発給を行うこと。(高レベルおよび長寿命廃棄物処分場の場合は地下での更なる期間をかけての詳細調査の条件付許可とすることができる)
- 高レベル放射性廃棄物に関しては、2018年までに処分場の操業に対する許認可の発給を行うこと。
- 短寿命の低中レベル放射性廃棄物に関しては、2013年までに処分場の操業に対する許認可の発給を行うこと。
また第4条では、他の既存のEU法(特に輸送許可などを規定した「EU加盟国間における放射性廃棄物の輸送と共同体への輸出入の監督および管理に関する指令92/3/EURATOM」等)を遵守する限りにおいて、放射性廃棄物の輸出をすることが出来ると定められている。
この他に、第5条では研究開発について加盟国での協力体制の規定がされている他、第7条ではEUへの報告書の提出義務の規定として、加盟国は第8条に定める期日(2004年5月)の一年後とその後3年毎に欧州委員会に対して放射性廃棄物管理の状況を説明した報告書を作成しなければならないことが定められている。 第8条では、この指令に基づく各国の法制化期限の案として2004年5月が示されている。
なお、欧州経済社会委員会から示された意見書では原則として委員会の放射性廃棄物管理指令案を支持しているが、処分場開発のスケジュールについてはより柔軟なものとすべきであり、各国の個別事情に適応すべきとの勧告が行われている。
【EU法についての解説】
EUの法令は、一次法(条約等)と二次法(規則、指令、勧告等)、および判例法の3つに分類される。今回の指令は二次法に分類されるもので、目的の達成について各国に対する拘束力を持つが、その実施形式、実施方式は、各国に委ねられる性質を持つ。
立法過程に関し、立法権は閣僚理事会に属し、欧州議会は、通常の国家の国会とは異なり非常に限られた立法権しか有していない。欧州議会の立法過程に関する役割は、以下の5つに分類されており、今回の指令に関しては②が適用される。この場合、閣僚理事会による決定は、欧州議会の諮問内容には拘束されない。
- 共同決定手続・・・閣僚理事会と議会による共同決定手続
- 諮問手続・・・閣僚理事会が採決する前に欧州議会が意見を提出する手続
- 協力手続・・・欧州議会が案に対して修正を加えることが出来る手続
- 同意手続・・・閣僚理事会が全会一致で採択する法令に対する欧州議会の同意を要する手続
- 法令の発案権・・・法案を発案する権利(極めて限定される)
【出典】
- Proposal for a Council Directive(EURATOM) on the management of spent nuclear fuel and radioactive waste http://europa.eu.int/eur-lex/en/com/pdf/2003/com2003_0032en01.pdf
- EUのウェブサイト http://europa.eu.int/scadplus/leg/en/cig/g4000q.htm http://www.europa.eu.int/eur-lex/en/about/pap/index.html http://europa.eu.int/prelex/detail_dossier_real.cfm?CL=en&DosID=182452
- 欧州原子力共同体(EURATOM)条約抜粋 http://europa.eu.int/comm/environment/radprot/legislation/extracts.pdf
- 特定多数決方式とは、閣僚理事会の立法手続で使用されるものである。採択には、各国に割り当てられた合計票数87票のうち、62票の賛成票が必要となる。意思決定方法には、問題の重要度に応じてこの他に、単純多数決、全会一致方式がある。放射線防護に関連する安全規定については特定多数決方式によるべきことが欧州原子力共同体(EURATOM)条約の第31条に規定されている。 [↩]
(post by 原環センター , last modified: 2010-07-09 )