スイスの放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)は、2003年4月30日に「処分の実現可能性実証プロジェクト」報告書をウェブサイト上にて一般公開した。全部で3巻、約1,200ページから成る膨大なこの報告書は、2002年12月20日にNAGRAから連邦政府に提出されていたものである(当時の速報については こちらを参照)。
この報告書では、スイスにおいて使用済燃料、高レベル放射性廃棄物および長寿命中レベル放射性廃棄物を安全に管理することができる方法および立地可能サイトの存在が実証されている。この報告書の連邦安全当局による評価には、約2年ほどかかる見込みである。また、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)によって構成される国際専門家グループによるピア・レビューも受けることとなっている。
連邦エネルギー庁(BFE)によれば、今回の報告書に関する全ての資料、評価報告書および見解書は2005年に公開されることになっている。これにより、透明性が向上し、全ての利害関係者には懸念事項に対する意見を表明する機会が与えられる。その後、2006年に連邦評議会が、廃棄物管理のためのより詳細な方法を確定する予定である。
「処分の実現可能性実証プロジェクト」報告書を構成する3巻の報告書の内容は以下の通りである。
- 1.NAGRA技術レポート(NTB)02-03:立地の実証
- スイス国内において、安全工学上、処分場立地に適切な地質および水文地質学的な特性を持つサイトが1カ所以上存在するという実証報告書。
- 2.NTB02-02:技術的な実現可能性の実証
- 立地可能サイトにおいて処分施設を現在の技術レベルで実際に建設すること、また操業することが可能であるという実証報告書。
- 3.NTB02-05:安全性の実証
- 処分施設が連邦安全当局の定める長期安全性の要件(HSK-R-21)を満たすことができるという実証報告書。
これらの報告書は、NAGRAのウェブサイト以外にも、他の技術レポートと同様に、NAGRAに直接申し込むことで入手可能である。今回の公開により、利害関係者は地質学的調査、構造工学的概念および安全評価に基づいた情報を入手することができるとともに、報告書に対してコメントを行うことが可能となっている。
以上に加え、この報告書の発表に至る経緯や背景が述べられているプレスリリース資料がNAGRAのウェブサイト上で公表されている。
【出典】
- 放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)ウェブサイト 4月30日プレスリリースより http://www.nagra.ch/deutsch/aktuell/aktuell.htm
NAGRAプレスリリース資料
使用済燃料、高レベル放射性廃棄物、長寿命中レベル放射性廃棄物の「処分の実現可能性実証プロジェクト」報告書は、チュルヒャー・ヴァインラントにおけるオパリナス・クレイ・プロジェクトに基づいたものである。オパリナス・クレイとは地層処分施設を設置する岩盤(母岩)の名前である。プロジェクトの結果は、安全当局の設定する安全目標を遵守し、廃棄物の地層処分が基本的に実現可能であることを実証している。総合的な安全評価を含む実証は、地域および地方の地質学上の特性に関する高いレベルの知見に基づいている。また、地球科学的プロジェクトの集大成には、1980年代中頃から実施されてきたNAGRAによるスイス北部における調査やチュルヒャー・ヴァインラントにおける調査、並びにモン・テリ岩盤研究所における実験および研究の結果が含まれている。
「処分の実現可能性実証プロジェクト」報告書はサイト選定を意味するものではない。つまり、このプロジェクトは今までの調査の集大成に基づいていることから、スイスにおいて高レベル放射性廃棄物のための国内地層処分施設オプションがさらに追求される場合、NAGRAは母岩としてオパリナス・クレイ、調査地域としてチュルヒャー・ヴァインラントを最優先して検討するということである。母岩および調査地域の選択は、担当省庁との合意を得ながら長期の段階的評価手続により行われる。ドイツの「サイト選定手続委員会」(AkEnd)の専門家の評価によると、このように段階的な手続をとることは国際的に求められている要件を満たしているとのことである。
この段階的手続の枠組みのもと、NAGRAが各段階において作成した数多くの報告書の中で、堆積岩についても種々の代替オプションを示されている。例えばオパリナス・クレイでは「ジュラ山系南部裾野-ボズベルグ」と「レーゲルン北部」の両地域、またスイス中部の下部淡水モラッセ地域である。
スイス北部の結晶質岩における代替オプションの可能性については、既に1994年の報告書(クリスタリン(Kristallin)-Ⅰ安全評価報告書)において示されている。この報告書は、安全当局により評価が行われている最中である。
スイスは、高レベル放射性廃棄物の国内処分の他に、国際共同処分場での処分も採択可能な処分オプションとして考えている。このような解決策は、国内の処分オプションと同様に高い安全基準を満たしていなければならない。このオプションの適用可能性については、現在のところ明確にはなっていない。明確になるまでは、国内での地層処分施設の準備に向けた作業が行われなければならない。
スイス国内における地層処分施設についての決定は、2020年頃に下されることになっている。国内処分の場合、概要承認手続を経て立地場所が確定されることとなる。また、その場合、処分施設は2050年頃に操業を開始できるようにすべきである。
(post by 原環センター , last modified: 2023-10-10 )