2007年3月6日、米国のエネルギー省(DOE)は、使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の管理と処分の強化を図るための立法の提案を、再び連邦議会に提出することをニュースリリースにおいて公表した。提案された法案は、2006年4月に提案された法案 と基本的に同じ内容である。エネルギー長官からは、この提案は、安定性、透明性及び予測可能性を保ちつつ、ユッカマウンテン処分場開発を進めるという政府の責務を反映したものであり、米国のエネルギー供給上重要なものであるとのコメントが示されている。なお、2006年4月に提案された法案は、上下両院ともに本会議に提出されないまま、連邦議会の会期が終了していた。
今回提案された法案では、昨年度提案の法案と同様に、ユッカマウンテン周辺の土地の確保、適切な予算確保、70,000MTHM(重金属換算)の処分容量制限の撤廃、原子力規制委員会(NRC)許認可手続の効率化及びインフラ施設設置活動などの条項が規定されている。2006年提案の法案との相違点は、資源保全・回収法(RCRA)の規制要件について規定した第6条において、明確化のための技術的な事項の修正が加えられたのみである。
エネルギー長官から連邦議会の上下両院の議長に宛てた書簡では、2006年4月のDOE提案に対しては議会内で異論もあったこと、異なったアプローチの法案も提出されている ことも認識しているとした上で、議論を継続し、連邦議会と協力して法案制定を図るために再度提案を行ったとの説明が示されている。また、この問題に関連した重要なポイントとして、米国のエネルギー安全保障のためには原子力発電の拡充が重要であり、そのためには処分場が必要であること、ユッカマウンテンは既に2002年に連邦議会と大統領によって決定されたサイトであること、原子力発電はエネルギー価格安定や温暖化ガス削減に貢献することなどを挙げている。また、放射性廃棄物政策法(NWPA)に基づいた原子力発電事業者との契約によりDOEは廃棄物引取義務があるが、その未履行による連邦政府の債務が70億ドルに達しようとしていることから、許認可と建設の迅速化は急務としている。
なお、DOEの発表に対し、ネバダ州選出のリード上院議員は同日、多数党院内総務としてユッカマウンテン処分場の建設は阻止するとのプレスリリースを発表した。さらに翌2007年3月7日には、「ユッカマウンテン処分場と戦うための法案」として、廃棄物発生箇所でDOEが廃棄物の所有権を取得して乾式貯蔵を続けるとの規定を放射性廃棄物政策法(NWPA)に追加する法案を提出している。リード議員は、2006年11月に実施された連邦議会中間選挙で上院でも民主党が多数党となったことにより、上院の実質的トップとなる多数党院内総務に就いている。
【出典】
- エネルギー省(DOE)ニュースリリース(2007年3月6日)
- エネルギー省(DOE)、両院議長宛の書簡
- リード上院議員プレスリリース(2007年3月6日、2007年3月7日)
(reid.senate.gov)
【2008年1月25日追記】
2008年1月24日、連邦議会の上院環境・公共事業委員会の少数党トップのインホフ議員らは、2008年放射性廃棄物政策修正法案を議会に提出したことをプレスリリースで公表した。この法案は、処分場の安全性の判断を二段階に分け、最初の段階の建設認可・操業許可は操業時の安全性を対象とし、300年間の回収可能性についての戦略・計画を許認可申請書で示すことを要求するものとなっている。また、次の段階の閉鎖許可では、閉鎖後の長期の安全性を対象として、環境保護庁(EPA)の放射線防護基準への適合性が条件とされる。法案には、許認可手続迅速化などDOE提案と同様の規定の一部も含まれている。
なお、ユッカマウンテン関連法案としては、2007年にドメニチ上院議員、アプトン上院議員らの法案も議会に提出されているが、いずれも実質的な審議は行われていない。
追記部出典
- 上院環境・公共事業委員会少数党プレスリリース(2008年1月25日)(epw.senate.gov/public/index.cfm?FuseAction=Minority.Blogs&ContentRecord_id=ad8730b1-802a-23ad-4c63-b7e38457f84f)
- 2008年放射性廃棄物政策法修正法案逐条解説
- 2008年放射性廃棄物政策法修正法案
【2008年7月3日追記】
2008年6月26日、連邦議会のドメニチ上院少数党院内総務と上院エネルギー・商務委員会の議員らは、「先進リサイクル技術の管理強化法案」(SMART法案)を提出した。2008年6月27日付の同委員会プレスリリースでは、法案の骨子が以下の通り示されている。
- DOEと民間とが費用を折半する許認可プログラムを実施し、使用済燃料リサイクル施設を最大2カ所開発
- 使用済燃料等の中間貯蔵施設の立地地域に対するインセンティブ・プログラムを設定
- 使用済燃料リサイクル及び貯蔵の長期契約を民間と締結できる権限をDOEに付与
- 放射性廃棄物基金(NWF)の一部の金銭を中間貯蔵に充てるための特別な基金を創設
中間貯蔵施設の立地地域に対するインセンティブとして法案で規定されている金額は以下の通りである。
- 法案の施行後180日以内に応募の地域に、毎年100万ドルを3年間に亘って提供(先着11地域まで)
- 施設設置を申請してDOEと契約締結した地域に、開発・操業の段階に応じて以下を提供(2地域まで)
- 契約締結時: 600万ドル
- ~操業開始:1,000万ドル/年
- 操業中 :1,500万ドル/年、または15,000ドル/トンで年間2,500万ドルを超えない金額の高い方
- 廃止措置時 :2,000万ドル
追記部出典
- 上院エネルギー・商務委員会少数党プレスリリース(2008年6月27日)(energy.senate.gov/public/index.cfm?FuseAction=PressReleases.Detail&PressRelease_id=a814fb5f-3c9e-49c7-b7ac-9419f4361710&Month=6&Year=2008ad8730b1-802a-23ad-4c63-b7e38457f84f)
- 先進リサイクル技術の管理強化法案(S.3215)
(post by 原環センター , last modified: 2023-10-10 )