フランスの国家討論委員会(CNDP)1 は、2025年10月10日に自身のウェブサイトにおいて、政府が策定中の2027~2031年を対象とした「放射性物質及び放射性廃棄物の管理に関する国家計画」(PNGMDR)に関する公開討論会を2025年10月10日より開始するとし、その概要を公表した。PNGMDRは、フランスにおける全ての放射性物質と放射性廃棄物の管理の現状分析と管理方策の実現に向けた取組(研究開発を含む)を取りまとめたものである。公開討論会は2026年2月10日まで予定されており、現時点ではオンラインでのイベントを中心として準備が進められている。
PNGMDRは2006年の放射性廃棄物等管理計画法により、政府による3年ごとの策定・改定が義務付けられ、現在は政府のエネルギー計画の更新サイクルに合わせ、5年毎に改定されている。前回2022~2026年を対象としたPNGMDR2 からは、2017年の法改正3 を受けて、新たなPNGMDRの策定に先がけて、公開討論会が開催されることとなった。
今回の公開討論会は、2024年12月にエネルギー担当大臣が国家討論委員会(CNDP)に対し、PNGMDRに関する公開討論会の実施を付託したものである。国家討論委員会(CNDP)は2025年9月に、公開討論会を主導する特別委員会(CPDP)を設置し、以下のメンバーを任命した。
- ジュリー・デュモン(委員長):CNDPのヌーヴェル・アキテーヌ地域圏代表。20年以上の市民協議の経験を持ち、集合知と市民参加の専門家として、エネルギー、水、廃棄物、国土計画に関連するプロジェクトにその専門知識を提供している。
- マリー=セリーヌ・バステシ:地方自治体および住宅問題に関する専門家。
- アレクシス・ガイスラー=ロブラン:エンジニア、博士課程学生、核廃棄物管理に関連する民主主義問題の専門家。
- リュック・マルタン:CNDP保証人 、元公職者、エネルギー政策および市民協議の専門家。
- クレール・モラン:エネルギーに関するコンサルタント、講師、CNDP保証人。
- ヴェロニク・モレル:教師、作家、市民活動家、地方議員。
- ジョルジェット・ペジュー:持続可能開発及び地域計画に関する都市計画専門家。
■公開討論会の概要
国家討論委員会(CNDP)は、PNGMDRに関する公開討論会のための特設ウェブサイト(https://www.debatpublic.fr/gestion-matieres-et-dechets-radioactifs)を開設しており、同ウェブサイトでは、PNGMDRに関する情報の他、意見表明や質問を行えるプラットフォームが2025年10月10日より整備されている。また、オンラインでのセミナーや、放射性廃棄物管理の選択肢をめぐる対面での模擬裁判 4 の予定等が紹介されている。
いくつかの地域では、住民や議員などに向け、PNGMDRが地域に与える影響についてのワークショップが開催される予定である5 。また、大学内での議論や、抽選により選ばれた市民グループによる会合も予定されており、さらには自治体や学校内で自らPNGMDRに関する議論を行うためのツールも提供されている。
フランス政府によるPNGMDRに関する説明資料では、主な議論のテーマとして以下が示されている。
- 社会全体が放射性物質や放射性廃棄物の管理にもっと関心を持つようにするにはどうすればよいか?
- 原子力産業の復活を目指す新たなプロジェクトの中で、放射性物質や放射性廃棄物の管理について、レジリエントな計画を立てるにはどうすればよいか?
- ウランやプルトニウム等の放射性物質利用の見通しを評価する上で、技術的な解決策や地政学的な不確実性をどのように考慮すべきか?
- 金属以外の極低レベル放射性廃棄物の活用6 とリサイクルについて、どのように研究を継続すべきか?
- 多様性に富む長寿命低レベル放射性廃棄物に適した処分方法を、どのように定義すべきか?
- 地層処分施設「Cigéo」プロジェクトのパイロット産業フェーズ7 を、どのように成功させるべきか?
- 医療処置から生じる放射性廃棄物の管理をどのように確保するか?
また、PNGMDRに関する理解を深めるためのオンラインセミナーは、以下のテーマについて実施される。
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日程 |
テーマ |
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2025年10月13日 |
開催会議 |
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2025年10月21日 |
PNGMDRに対する政治・エネルギー政策の動向の影響 |
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2025年10月28日 |
極低レベル放射性廃棄物 |
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2025年11月4日 |
放射性物質と放射性廃棄物の区別並びにその影響 |
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2025年11月12日 |
コストと資金調達 |
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2025年11月18日 |
長寿命低レベル放射性廃棄物 |
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2025年11月25日 |
地層処分(Cigéo)プロジェクトとパイロット産業フェーズ |
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2025年12月9日 |
可逆性並びに地層処分に代わる手法に関する取り組み |
■今後の予定
CNDP は、2026年春にPNGMDRにおける様々な議論の結果や、市民等から寄せられた意見を報告書に取りまとめる予定である。
その後、環境当局(Autorité environnementale)及び原子力安全・放射線防護機関(ASNR)からの意見聴取等を経て、2026年12月にはPNGMDRが政府より公表される予定である。
【出典】
- 国家討論委員会(CNDP)ウェブサイト
https://www.debatpublic.fr/ - CNDP、PNGMDRに関する公開討論会ウェブサイト
https://www.debatpublic.fr/gestion-matieres-et-dechets-radioactifs - CNDP、PNGMDRに関するオンライン討論用ページ
https://participer-debat-pngmdr6.cndp.fr/ - フランス政府、2027~2031年を対象とした「放射性物質及び放射性廃棄物の管理に関する国家計画」(PNGMDR)の説明資料
https://www.debatpublic.fr/sites/default/files/2025-07/DMO-PNGMDR.pdf - エコロジー移行省、2022~2026年を対象とした「放射性物質及び放射性廃棄物の管理に関する国家計画」(PNGMDR)
https://www.ecologie.gouv.fr/sites/default/files/documents/PNGMDR_2022.pdf
- 国家討論委員会(CNDP)は、環境に多大な影響を及ぼす大規模公共事業や政策決定を行うにあたり、事業実施主体の付託を受けて公開討論会を開催する独立した行政委員会である。 [↩]
- 当初は2019~2021年を対象として策定が進められていたが、策定に時間を要したため、対象が2022~2026年に変更された。 [↩]
- 環境に重大な影響を及ぼす可能性のある意思決定に関する情報提供や公衆参加を確保するための手続き及び事業、計画等に係る環境影響評価に関する2017年4月25日のデクレ2017-626 [↩]
- 2025年12月11日開催予定、詳細は未定。 [↩]
- 2025年10月24日時点では、開催地域や時期は示されていない [↩]
- 原子力活動により放射性核種による汚染や放射化を受けた、もしくはその可能性がある物質の利用禁止に関する規制(公衆衛生法典、規則の部、第1333-2条等)からの適用除外を受けると、一定の制限を伴うものの、通常の物質としての活用(valorisation)が可能とされる。 [↩]
- パイロット産業フェーズ(Phipil) においては、特に原位置試験のプログラムを通じて、地層処分施設が確実に可逆性を備えるだけでなく、その安全性の明示を可能とすることが求められている。また、この期間では、すべての廃棄物パッケージが容易に取り出せる状態を確保する必要がある。パイロット産業フェーズには廃棄物パッケージの回収試験が含まれる。 [↩]
(post by eto.jiro , last modified: 2025-10-29 )
