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《フランス》国家評価委員会(CNE)が第19回評価報告書を公表

フランスの技術的諮問機関である「放射性物質及び放射性廃棄物の管理研究・調査に関する国家評価委員会(CNE)」1 は、第19回評価報告書を議会科学技術選択評価委員会(OPECST)に提出し、2025年9月にCNEのウェブサイトで公表した。CNEは、中長期的な放射性廃棄物管理計画の前提となる、原子力利用及び核燃料サイクルに関する政策や計画の評価を視野に入れつつ、そこから発生する広範な放射性廃棄物等の管理に関する取組や調査研究等の進捗状況について、毎年評価を行い、それを報告書に取りまとめてきた。なお、前回の第18回報告書は2024年11月に公表されている

CNEは第19回評価報告書において、原子力利用の促進政策並びに2025年3月開催の原子力政策評議会(CPN、大統領が議長を務める閣僚会議)で示された、現在の地政学的状況におけるウランの供給確保や燃料サイクルのバックエンド施設の更新に関する方針を受け、ウランの供給や燃料サイクルのクローズド化のための高速炉開発、使用済燃料再処理施設の更新、並びに燃料サイクルより発生する高レベル及び長寿命中レベル放射性廃棄物の地層処分等について評価を行っている。第19回評価報告書の構成と主な内容は以下の通りである。

第1章 天然ウランの供給(天然ウランの需給バランス、地政学的影響等)

第2章 工場(使用済燃料再処理施設等)

第3章 ナトリウム冷却高速中性子炉:依存に対する保険(海外からの供給に依存しない、燃料サイクルのクローズド化に向けた取り組み等)

第4章 原子力分野における人材育成と採用(研修制度等)

第5章 除染と解体(原子力・代替エネルギー庁(CEA)の研究施設の廃止措置に伴う除染と解体)

第6章 長寿命低レベル放射性廃棄物(候補サイトに処分可能な廃棄物の制限等)

第7章 CIGÉO(高レベル及び長寿命中レベル放射性廃棄物の地層処分)

第8章 小型モジュール炉(SMR):導入に対する認識と準備(サイト選定へのステークホルダの関与等)

CNEは、各章の内容に関して、主に以下のような勧告や意見を示している。

■天然ウランの供給について

CNEは、世界的な原子力発電の開発予測を考慮し、2050年までに天然ウランの需要は少なくとも2倍になると推定するとともに、既存の資源量から見て、市場が開放されたままであれば、今世紀末までは需要を賄うことに問題はないと述べている。

一方で、CNEは、地政学的リスクが予測困難な状況下における、ウランの供給の持続的な確保について疑問を呈している。フランスの現在のエネルギーミックスの方針では、原子力発電が大きな割合を占めているため、ウランの供給は戦略的に重要な問題であるとし、地政学的リスクは、フランスの原子力産業が天然ウランに依存しない状態を最終的に達成するための措置を正当化するものと指摘している。

■燃料サイクル・プラントについて

フランスでは、燃料サイクルのクローズド化のため、使用済燃料の再処理により得られたプルトニウムを新たに原子炉の燃料として用いることを繰り返す「マルチリサイクル」が検討されている。この中で、将来的な「高速中性子炉によるマルチリサイクル」の導入までの中期的な措置として、使用済MOX燃料の再処理から得られるプルトニウムを軽水炉で使用するという「軽水炉によるマルチリサイクル」が検討されている。CNEは、燃料サイクルのクローズド化には、「軽水炉によるマルチリサイクル」を伴うか否かを問わず、燃料サイクルのバックエンドの施設において新たなプロセスの導入が必要となることを指摘している。

CNEは、「マルチリサイクル」の導入のため、現在の研究段階において、Pumasプロセス2 が有望であることを指摘している。CNEは、このプロセスは、使用済燃料(UNE)の再処理において、現行のPurexプロセス3 よりも性能が優れており、さらに、「軽水炉によるマルチリサイクル」や、将来的には「高速中性子炉によるマルチリサイクル」における、プルトニウムを豊富に含む使用済燃料の効率的な再処理も可能にするものと指摘している。

また、CNEは、必要に応じて現在の使用済燃料再処理工場の操業期間を延長し、Pumasプロセスの工業的認定に向けて、必要な手段を講じるよう業界に推奨している。

■ナトリウム冷却高速中性子炉について

CNEは、フランスのナトリウム冷却高速中性子炉は、高い技術的成熟度を有しており、フランスが外部からの天然ウランの供給から完全に独立することを最も迅速に実現できる技術であると指摘している。

また、CNEは、将来の高速中性子炉の設計と建設は産業プロジェクトであるため、その責任は産業関係者に委ねられるべきとし、プロジェクトは、性能、コスト、納期、インターフェースを総合的に管理するために、設計管理を効果的に指揮する強力なプロジェクトオーナーによって推進される必要があると指摘している。さらに、CNEは、ナトリウム冷却高速中性子炉のコストに関する研究を強化し、同種の小型炉の研究から得られたものも含め、考えられるあらゆるコスト削減策の有用性を評価することを推奨している。

■原子力分野における人材育成と採用について

CNEは、地域レベルでの新しい原子力関連の研修の実施の支援に関し、原子力に関連する職業の研修が、全ての資格レベルを網羅する必要性を強調している。また、技術者の研修については、雇用地域に近い場所で研修を行うことが不可欠であると指摘している。さらに、CNEは、これらの研修が原子力分野の認定資格の取得まで続けられることの必要性を強調している。

また、CNEは、これらの原子力分野の研修に加え、原子力分野の大手発注者が、新しい原子力発電所等の建設・保守に関わる原子力分野以外の技術職の教育課程も支援することを推奨している。

■除染と解体について

原子力・代替エネルギー省(CEA)は、実験用原子炉、研究所、廃棄物貯蔵施設、廃棄物・廃液処理施設など、特性が大きく異なる多数の研究施設(2024 年末時点で 33 施設)の除染および解体を行う必要に迫られている。

CNEは、CEA の短・中期的な除染・解体戦略は全体的に適切であるが、施設の完全な解体の予定スケジュールを示す長期的計画によって補完されるべきと勧告している。

また、CNEは、除染・解体プログラムを支援する持続的な研究開発について、施設および廃棄物の特性評価の改善、廃棄物量の最小化、大量な物量の中に存在する特異的な濃度箇所の検出、ならびに有機廃棄物の処理に関する技術の研究開発の強化を推奨している。

■長寿命低レベル放射性廃棄物について

フランスで「長寿命低レベル放射性廃棄物」と呼ばれている廃棄物区分は、地表でのトレンチやピットへの処分、並びに地層処分が適当でないとされた廃棄物であるが、これまで別の区分とされていた廃棄物が新たに長寿命低レベル放射性廃棄物として区分されることもある。このため、以下のように多様な廃棄物が含まれており、性状の幅広さから、管理方策の策定が途上となっている。

  • 鉱石の採掘及び旧工業用地の修復から生じるラジウム含有廃棄物
  • 初期の原子力発電所の解体から生じる黒鉛廃棄物
  • ウラン精鉱の精製錬及びUF4の製造時に生じる廃棄物
  • ビチューメン(アスファルト)固化廃棄物
  • 雑廃棄物と密封線源

Andraは現在、オーブ県のヴァンドゥーブル・スーレーヌコミューン共同体4 で処分サイトに関するプロジェクトを進めており、2015年には進捗状況に関する中間報告書を公表している 。このサイトには厚さ60~70 mの粘土層が地表付近に分布しており、この粘土層内での処分が検討されている。

CNEは、ヴァンドゥーブル・スーレーヌコミューン共同体のサイトが、粘土層に強く保持される放射性核種を含むラジウム含有廃棄物の処分に適している可能性を指摘し、このサイトに関する調査の継続を推奨している。

一方、CNEは、このサイトの粘土層は、移動性の高い放射性核種を保持する能力が低いため、ビチューメン(アスファルト)固化廃棄物、雑廃棄物、および大部分の黒鉛廃棄物の処分には適していないとし、適切なサイトの探索を継続する必要性を指摘している。

■地層処分について

CNEは、法令5 の定めに従い、Andraによって提出された地層処分場の設置許可申請書をレビューし、報告書を議会科学技術選択評価委員会(HCTISN)に提出することになっている。CNEは、今後数ヶ月以内に、このレビュー報告書を公表することを表明している。

CNEは、安全性と回収可能性の立証の基礎となる科学的・技術的基盤、設計要件、実現方法の分析と、パイロット産業フェーズや閉鎖戦略などの横断的課題の分析に焦点を当てた評価を行った。

また、CNEは、設置許可申請書を地層処分場の操業時の安全性と閉鎖後長期の安全性の側面から評価した。CNEは評価に関し、操業安全の側面については技術的な問題に限定し、閉鎖後長期安全の側面については、線量計算の基礎となる放射性核種のフラックス計算に限定しており、被ばく線量が防護目標に対して許容可能かを判断するのは、安全当局の権限であり、CNEの評価の範囲外であるとしている。

■小型モジュール炉の導入について

CNEは、小型モジュール炉(SMR)の導入に関するプロジェクトについて、立地選定プロセスにおいて、できるだけ早い段階で対話を開始する必要性を強調している。

また、CNEは、スタートアップ企業、原子炉の運転許可の保有者、電力を利用するデータセンター等の産業顧客の間で、ステークホルダとの対話における役割分担を明確にする必要があるとしている。対話の実施は、常に将来の原子炉の運転者が担当すべきであると強調しつつも、産業顧客が協議から離脱しないよう勧告している。この理由としてCNEは、産業顧客は事実上、原子力プロジェクトの当事者であり、その立場から、今後の議論に必然的に関与するためと説明している。

【出典】

  • CNEウェブサイト
    https://www.cne2.fr/
  • CNEウェブサイト、RAPPORT D’ÉVALUATION N°19
    https://www.cne2.fr/wp-content/uploads/2025/07/Rapport19-mai2025.pdf
  • 議会科学技術選択評価委員会(OPECST)ウェブサイト
    https://www.senat.fr/travaux-parlementaires/office-et-delegations/office-parlementaire-devaluation-des-choix-scientifiques-et-technologiques/detail-actualite/rapport-annuel-de-la-cne2-5481.html
  • 原子力政策評議会、第4回会議(2025年3月17日)
    https://www.elysee.fr/emmanuel-macron/2025/03/17/reunion-du-4eme-conseil-de-politique-nucleaire
  1. CNEは2006年放射性廃棄物等管理計画法により設置されており、議会科学技術選択評価委員会(OPECST)、科学アカデミー、人文・社会科学アカデミーの推薦を受けた12名の専門家で構成されている。うち3名は外国の専門家を起用しており、現在はスウェーデン、ベルギー、スペインの専門家が任命されている。委員の任期は6年である。 []
  2. plutonium uranium monoacid separation、使用済燃料を処理し、ウランとプルトニウムを抽出・リサイクルする工業プロセス、UとPuを分離するため、モノアミドを使用する。 []
  3. plutonium uranium refining by extraction、使用済燃料を処理し、ウランとプルトニウムを抽出・リサイクルする工業プロセス、UとPuを分離するため、トリブチルホスフェート(TBP)を使用する。 []
  4. コミューン共同体とは、農村地域及び準都市地域における広域行政組織であり、ヴァンドゥーブル・スーレーヌコミューン共同体は38のコミューン(市町村)で構成されている。 []
  5. 環境法典 法律の部 第L.542-10-1条 []

(post by eto.jiro , last modified: 2025-10-17 )