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《英国》放射性物質の管理と廃止措置に関する政策文書を公表

英国政府は2024年5月16日に、「英国における放射性物質1 の管理と原子力施設の廃止措置に関する政策枠組み」(以下「政策文書」という。)を公表した。これまで英国では、イングランドにある「低レベル放射性廃棄物処分場(LLWR)」で処分できない放射性廃棄物は地層処分する方針であった。本政策文書では、すでに運転を終了した原子炉の廃止措置2 を早期に進められるようにするため、原子力廃止措置機関(NDA)3 に対して、廃止措置で発生する一部の中レベル放射性廃棄物4 について、安全である場合は浅地中処分することができるとの方針を示した。英国政府は、政策文書の公表時のプレスリリースにおいて、2050年代までに地層処分施設を準備する見通しはないとする一方で、10年以内に当該中レベル放射性廃棄物の浅地中処分施設が操業可能となることで、より迅速な廃止措置の作業が可能となり、廃棄物の貯蔵費用を約5億ポンド(940億円、1ポンド=188円で換算)節約できると指摘している。

■経緯:政策文書の策定

今回の政策文書は1995年に策定した「放射性廃棄物の管理政策レビュー」(Cmnd.2919)の更新版となるものであり、策定するに当たって英国政府は、2023年3月1日に協議文書を公表し、2023年5月24日まで意見募集を行った。協議文書では、放射性物質や放射性廃棄物の管理とともに、廃止措置の改善を推進することを目的として、これらに関する政策の一部を更新するため、「放射性固体廃棄物の管理」、「原子力施設の廃止措置」、「核物質と使用済燃料の管理」の3つに重点を置いた意見募集を行った。英国政府は意見募集の結果、市民や自治体、関係機関から約330件の回答を得ることができ、その多くが英国政府による提案を支持したと明記している。

■放射性物質の管理と廃止措置に関する政策文書の内容

今回策定された政策文書は、以下の通りの14章で構成されており、このうち第12章から第14章については、英国全体には適用されない政策(例えば、イングランドのみに適用する政策)について付録として掲載している。

第1章 イントロダクション
第2章 放射性物質とは
第3章 国際的なガイドライン、規制及び義務
第4章 英国における規制の枠組み:役割と責任
第5章 放射性物質に関する英国のアプローチ
第6章 放射線源の管理
第7章 放射性液体及び気体の排出管理
第8章 原子力部門と非原子力部門における放射性廃棄物の管理
第9章 原子力施設の廃止措置(Nuclear decommissioning)
第10章 放射性物質の輸出入
第11章 核物質及び使用済燃料の管理
第12章 付録1 地層処分実施のための英国政府のコミュニティとの連携方針
第13章 付録2 地層処分実施のためのウェールズ政府のコミュニティとの連携方針
第14章 付録3 放射線防護基準と放射性物質活動への適用

■放射性固体廃棄物の管理:中レベル放射性廃棄物の浅地中処分計画

英国では放射性固体廃棄物を「高レベル放射性廃棄物」「中レベル放射性廃棄物」「低レベル放射性廃棄物」の3つに分類している(図1参照)。

図1 英国の放射性廃棄物カテゴリー区分

1995年に策定した「放射性廃棄物の管理政策レビュー」(Cmnd.2919)では、低レベル放射性廃棄物を「浅地中処分」する方針並びに高レベル放射性廃棄物、中レベル放射性廃棄物及び長寿命かつ比較的有害性の高い低レベル放射性廃棄物を「地層処分」するという方針が示されていた。しかし、英国では、原子力施設の廃止措置や除染に伴い多くの中レベル放射性廃棄物(ILW)が発生する見込みであるため、地層処分対象となる廃棄物が多量に発生することとなる。

中レベル放射性廃棄物には、低レベル放射性廃棄物の性質や特性に近いものから、高レベル放射性廃棄物の地層処分と同等の隔離・閉じ込めを必要とするものまで多様に存在している。英国政府は、地層処分施設の処分能力を最大限に活用するため、NDAに対して、低レベル放射性廃棄物の性質や特性に近い中レベル放射性廃棄物の代替管理オプションの調査を依頼した。代替管理オプションの調査の結果、NDAが一部の有害性の低い中レベル放射性廃棄物を浅地中処分できるとの見解を示したことにより、今回の政策文書において一部の中レベル放射性廃棄物については、安全・環境保護基準(criteria)を満足することを前提として、浅地中処分をしてもよいとの方針が示されたものである。

今回の政策文書で、一部の中レベル放射性廃棄物を対象とした処分施設は、地表、または地下(地層処分の最小深度である200m以浅)に設置可能とし、既存の構造物を利用しても良いとしている。処分概念としては、英国の既存の処分施設である「低レベル放射性廃棄物処分場(LLWR)」と同様の概念を想定している(図2参照)。中レベル放射性廃棄物の浅地中処分のサイト選定に関しては、今後、NDAがサイト選定基準を策定し、サイト選定を進めるとしている。なお、政策文書とともに公表された協議文書への政府の回答では、一部の中レベル放射性廃棄物の浅地中処分施設での受入規模として、2040年までに最大21,000m3を想定していることが示されている。

図2 一部の中レベル放射性廃棄物のための浅地中処分概念

【出典】

  1. 政策文書で記している放射性物質(radioactive substances、放射能を持った物質)には、原料・材料等としての放射性物質(radioactive material)と放射性廃棄物(radioactive waste)が含まれ、核物質(Nuclear material)には主にウランやプルトニウムが含まれるとしている。 []
  2. 英国ではこれまでにGCR26基、AGR14基及びPWR1基の原子炉が導入されており、2024年6月現在、GCR26基及びAGR6基が廃止措置段階にある。 []
  3. NDAは、英国における17の原子力サイトの廃止措置・クリーンアップ、放射性廃棄物の安全な管理、使用済燃料の再処理等に責任を有する政府外公共機関(NDPB)である。 []
  4. 環境規制機関(EA)の浅地中処分施設に関する規制ガイダンス(3.4)では、浅地中処分施設での処分に適した放射性廃棄物として、「短寿命、または比較的放射能毒性の低い中レベル放射性廃棄物」を例として挙げており、化学毒性や生物学的有害性などの非放射線学的有害性は関連する施設の立地や設計作業において考慮される必要があるとしている。 []

(post by f-yamada , last modified: 2024-06-06 )