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《スイス》サイト選定第3段階におけるボーリング調査が終了

スイスの処分実施主体である放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)は、地層処分場の地質学的候補エリアである「ジュラ東部」、「チューリッヒ北東部」、「北部レゲレン」において、2019年からボーリング調査キャンペーンを開始し 、複数地点において地下深くの岩石サンプル(ボーリングコア)の採取などを行っている。NAGRA2022311日に、現在進めている9地点目の調査の完了をもってボーリング調査キャンペーンを終了し、地層処分場の立地に最も適した処分場サイトの選定作業に着手する意向を明らかにした。

NAGRAは、処分場サイトの提案を2022年秋に行う計画であり、高レベル放射性廃棄物と低中レベル放射性廃棄物のそれぞれの処分場を別々の地質学的候補エリアに合計2カ所建設する「セパレートパターン」、または、両処分場を1カ所の地質学的候補エリアに建設する「コンバインドパターン」のいずれかを選択する予定である

■ボーリング調査の概要

「サイト選定第2段階で確定した地質学的候補エリア」(NAGRAウェブサイト」(2018年11月22日)及びNAGRAファクトシート「ボーリング地点の説明及びボーリング調査の目的」を元に原環センターが加工・作成)

ボーリング調査では、最大2,000mの深度までボーリング孔を掘削し、処分場の母岩となるオパリナス粘土層の厚さや透水性、オパリナス粘土層の上に分布する石灰岩層の拡がりなどの調査が実施されている。スイスの原子力法に基づき、地下に影響を及ぼす地球科学的調査には、環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)の許可を取得する必要がある。右図(マップ)に示すように、NAGRAは処分場サイトの提案を行う上で必要となる地質データを取得するため、実際に調査している9地点を大幅に超える数の候補地点を対象としたボーリング調査の許可を取得していた 1  。今回NAGRAは、9地点目のボーリング調査のデータを得ることにより、3つの地質学的候補エリア全てが地層処分場に適していることを確認するとともに、今後の作業である「サイト間の比較」を行うために使用するデータを取得できるとの考えを示している。

2019年から2022年にかけて掘削されたボーリング孔の総延長は10,000mを超え、約6,000m分のボーリングコアが採取された。NAGRA2019年から開始した地下調査に2.4億スイスフラン(約293億円、1スイスフラン=122円換算)を投じており、このうち9地点のボーリング調査の費用は1.7億スイスフラン(約207億円)である。

ボーリング孔の掘削作業の期間は1地点当たり69ヶ月であり、この期間に市民・ステークホルダーに対する情報提供のため、各掘削現場に情報公開コーナーが設置され、現地見学会も開催された。9地点の合計で約3,500名が掘削現場を訪れている。

■スイスにおけるサイト選定プロセスの進捗

NAGRAは特別計画「地層処分場」に基づき、2008年から3段階のサイト選定プロセスを実施している。公募方式ではなく、地質学的な条件から6つの地質学的候補エリアが選定され、2018年にサイト選定第2段階の結果として3つの地質学的候補エリア「ジュラ東部」、「チューリッヒ北東部」、「北部レゲレン」に絞り込まれた 。現在進行中のサイト選定第3段階でNAGRAは、関係する地域との間で、地上施設の設置場所、交付金・補償金などの地域開発関連、安全性の問題等に関する具体的な交渉を進めつつ、ボーリング調査を実施してサイトの比較を行い、最終的な処分場サイトを提案することになっている。

NAGRAの従来の活動は「調査フェーズ」であったが、今後、地層処分場の許認可申請と処分実施に向けたフェーズに変化していく。NAGRAは2024年には、地層処分場プロジェクトに関する最初の許認可手続きとなる「概要承認」の申請を行う予定である。連邦評議会(わが国の内閣に相当)から概要承認の発給を受けた後、処分場サイトと母岩に関する詳細な調査(わが国の精密調査に相当)を行うための地下特性調査施設の建設を2035年に開始する計画である

【出典】

  1. NAGRAは、許可を取得した全ての地点でボーリング調査を実施するのではなく、先行したボーリング調査で得られた結果に基づいて、残りの地点でのボーリング調査の実施必要性を個別に判断していく予定であった。 []

(post by yamamoto.keita , last modified: 2024-02-13 )