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《米国》放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB)が放射性廃棄物管理プログラムを進めるための6つの包括的な勧告を示す報告書を公表

米国の放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB)は2021年4月30日に、「米国の放射性廃棄物管理プログラムを進めるための6つの包括的な勧告」と題する報告書(以下「NWTRB報告書」という。)を公表した。今回のNWTRB報告書の目的は高いレベルでの提言をエネルギー省(DOE)に示すものであり、もし採用された場合、NWTRBは、地層処分を成功に導くための基礎を築くことを含め、米国における頑健で(robust)、安全、実効的な放射性廃棄物管理能力の形成をサポートすることを確信すると考えていると表明している。NWTRBは、1987年放射性廃棄物政策修正法に基づいて、エネルギー長官が行った高レベル放射性廃棄物処分に係る活動の技術的及び科学的有効性を評価するため、行政府に設置された独立の評価機関であり、今回のNWTRB報告書も連邦議会及びエネルギー長官に宛てられたものである。

NWTRB報告書の表紙

NWTRB報告書「米国の放射性廃棄物管理プログラムを進めるための6つの包括的な勧告」

NWTRB報告書の第1章から第3章では、報告書の目的・範囲、課題の規模、地層処分を巡るこれまでの取組、米国の使用済燃料管理プログラムにおける制約を示したうえで、第4章でNWTRBからの6つの包括的な勧告が示されている。

課題の規模(1.2節)については、軍事起源のDOE管理の高レベル放射性廃棄物のほか、将来的に13万トン以上まで増加が見込まれる民間からの使用済燃料など、米国における高レベル放射性廃棄物のインベントリが示され、ゼロカーボン電源である原子力発電の将来のためにも、地層処分の実現に向けた動きが急務との認識が示されている。また、地層処分の課題(第2章)については、地層処分は評価の時間枠が100万年に及ぶなど、他に類を見ない長期を対象とするため、処分場の性能評価にも不確実性が伴い、特に、将来の地質、環境、人間活動の変化が起こり得る中で、科学的・技術的課題は大きいことが指摘されている。このような科学的・技術的課題の克服は、ユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可申請書で立証されたように可能ではあるが、純粋に技術的な問題に加え、社会的、政治的な問題も大きな課題としてあることが指摘されている。

米国における高レベル放射性廃棄物管理プログラムにおける制約(第3章)については、廃棄物管理プログラムの推進のための国家的な計画の欠如に加え、組織的な複雑さが課題として挙げられている。米国では、原子力発電及び使用済燃料貯蔵は民間事業者の責任であるが、使用済燃料の輸送と処分は連邦政府であるDOEの責任とされている。前段の原子力発電の運転段階や貯蔵に係る活動は輸送や処分に影響することから、このような組織の複雑性は、放射性廃棄物管理システムに影響することが指摘されている。

NWTRB報告書では、処分事業が進んでいる国のプログラムを見ることで示唆が得られるとの認識が示されており、その勧告の多くは、他国や米国の廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)での進展事例の調査結果から得られたものであることが示されている。具体的には、処分場建設に向けて進んでいる国のプログラムには、以下の特性があると指摘している(「第4章 勧告」のBox 4-1)。

  • 独立の外部審査(external review)で得られる強固な科学・技術基盤
  • 新たな知見や公衆の意見に照らして適応・変更への意欲
  • 透明性・公開性を大きく強調
  • 安全性の立証、安全文化の構築、短期・長期安全や操業能力に対する公衆の信認の獲得を最重点化
  • 同意に基づく処分場サイトの選定プロセス(または、少なくとも公衆の関与)
  • サイトのスクリーニングに使用される明確なサイト適合性基準(site-suitability criteria)
  • 処分場候補サイトと同様の母岩における地下研究所での長期的研究プログラム

NWTRB報告書の第4章では、このような他国におけるプログラムとの交流や、過去のDOE向けの報告書などから、放射性廃棄物管理プログラムの構築をサポートするために現在実施可能なものとして、以下に示すような6つの包括的な勧告がまとめられている。

  1. 統合的な組織のアプローチを確保
    • DOE担当部局、国立研究所、及び契約者の間のより広い情報共有を促進
    • 協力の最適化、重複の最小化、効果の最大化のため、DOEの環境管理局(EM)、原子力局(NE)、その他の部局で実施されている研究開発プログラムの更なる統合強化
    • 原子力産業の事業者、キャスク製造会社、燃料製造者等と、より効果的な放射性廃棄物管理プログラムの開発・実施のための協働を模索
    • 放射性廃棄物管理に関わる様々な主体のコミュニケーションや関与の改善を促進するため、DOE主導の会議やワークショップを通じた革新的情報の共有方法の模索
  2. 必要なインフラと人的ニーズの予測
    • 今後10年にわたる物理的なインフラ、情報技術、及び人的ニーズに係る統合的計画の開発及び情報交換
    • 施設の老朽化(aging)の影響を想定する研究プログラムやインフラの継続的支援の形成・実施
    • バックエンド燃料サイクルに関連したプロセスやシステムの解析・シミュレーションのため、DOEの先端的・高性能なコンピュータ資源を活用する能力の構築・維持
    • 現在及び可能な範囲で過去の関連研究開発プログラムの情報を、長期間、オープンかつ効率的に取り出せるデータ管理システムのインフラ構築と実施
    • 技術訓練プログラム、より効果的な学部生奨学金・特別研究員・ポスドク研究員、地下研究所でのインターンシップ設立などを通して新しい世代に指導体制を拡張し、人員の高齢化に対応
  3. 仮説検証(Hypothesis Testing)も包含するよう研究パラダイムを拡張
    • 研究開発プログラムでの予期しない結果の可能性を想定し、すべての研究プログラムが方向性や焦点の変更の可能性に対応できるよう十分な準備を確保
    • 研究室から地下研究所での実規模原位置試験まで、複数のスケールでの実験的設計を活用して代替仮説を検証
    • 重要プロセスを捉えている既存モデルの能力を検証し、システム特性の推定を改善する新たな概念モデルの必要性を評価するため、新たな計測を継続してデータベースを構築する
    • 性能評価におけるモデルの有用性強化のため、既存及び新たな仮説の反復的な検証結果を活用
    • 地下プロセスの原位置調査やモデルの検証、さらには、国際共同作業を行うための研究者や学生に必要な機会を提供する、国内の地下研究所を1箇所以上設置する
  4. 放射性廃棄物管理プログラムの開発・管理に反復的で適応性のあるアプローチを適用
    • 放射性廃棄物管理プログラムの個々の構成要素の試験と、廃棄物管理システム全体の統合モデルの試験を、試験から得られた知見に基づいてそれぞれのアプローチを適応させることを念頭に、反復的に実施
    • 放射性廃棄物管理プログラムのあらゆる側面で予期しない事実に対応できるように構造化し、門戸を開き、常に以前の決定の再評価・再考への意欲
    • 放射性廃棄物管理プログラムの外部の独立の科学者・技術者、州・地方政府等、原子力発電事業者、関心を持つ公衆など、すべての影響を受けるステークホルダーからの意見やフィードバックを促し、奨励するためのメカニズムを進行中の評価の一部として確立
  5. 教訓を活かすための国際的コミュニティとの関与(engagement)を拡張
    • 世界的で重大な環境課題の中で、科学・技術の世界的協力の必要性を認識し、国際的コミュニティとの関与を拡張するため、現在のイニシアチブを強化・継続
    • 緊密な関係で得られる明確な有益性に鑑み、国際的プログラムへの積極的な関与を維持
    • 共同国際地下研究所活動への参加を継続・拡張。仮にDOEが米国内で地下研究所を開発した場合は、国際参加を奨励
    • 処分場開発の実証/建設承認段階の知見強化のため、これらの段階にある国との関与を強化
  6. 公開性、透明性及び関与を重視
    • 放射性廃棄物管理プログラムのあらゆる側面の計画・審査の早い段階で、公衆や他のステークホルダーに対する情報提供と関与
    • 意思決定の透明性とステークホルダーの有意義な参加へのサポートを提供
    • コミュニケーションの改善、自治体の視点のより良い理解、プログラムの無用な遅延回避のため、公衆への情報提供と公聴についての他国で得られた教訓を考慮
    • 許認可の要件ではないが、DOEは、廃棄物管理概念や多重バリアその他の安全性に寄与する特性に関する施設の明確な特性を、プロセスの早い段階で構築し、公表すべき。新たな情報・知見が得られた場合には、安全性概念は改定されることを明確に認め、伝達、確約することも必要
    • 曖昧さや解釈の幅を最小化するため、サイト選定の開始前にサイト適合性基準を開発し、プロセスの客観性と結果への公衆の信頼の確保を支援。サイト選定プロセスの途中で基準変更が必要な場合は、透明で有意義な参加プロセスが必要
    • 米国内で地下研究所が開発される場合、研究機能に加え、地下へのアクセス、安全概念や操業能力の背後にある科学・技術への信頼と信頼構築のために、広報や公衆との関与のために活用されるべき

なお、NWTRB報告書とは別の動きとして、米国原子力学会(ANS)、廃止措置プラント連合(DPC)、エネルギー自治体連合(ECA)、全米公益事業規制委員協会(NARUC)、原子力エネルギー協会(NEI)、放射性廃棄物戦略連合(NWSC)らが、2021年5月3日に、エネルギー長官宛の書簡を送付している。本書簡では、使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物に係る活動の中心となり、外部のステークホルダーとの関与、有意義な活動を行うものとして、エネルギー長官直属の専門機関を早急に設置することなどを要求している。

【出典】

(post by inagaki.yusuke , last modified: 2024-07-24 )